2010/4/21 13:31 《現在地》
“源平クズレ”と名付けられた、おそらくは逆河内だけでなく、千頭山全体で見ても有数の規模を誇る大規模な薙ぎ地形。
軌道はそこを、短い橋で乗り越えていた。 そして橋の先は、そのまま隧道になっていた。 そのことを、いま目撃して知った。
ここから見た時点で、橋が墜落しているのが分かった。
隧道も半ばまで埋もれていたが、こちらはなお黒い坑口をはっきりと見せていた。
弱気なことを言うようだが、坑口が一目見て分かるくらい完全に閉ざされていてくれれば、こんな葛藤をする必要はなかった。
もう、めちゃくちゃだ。
ここから見る限り、あの隧道に入るためには、
林道からロープを垂らして降りるしかないように思われる。
まあ仮にロープを持ち込んでいたとしても、よほど手慣れていなければ、
実際に下降してみようとは思わないのではないだろうか。
せめて、手前の橋が架かってくれてさえいれば、
此岸の方が斜面の傾斜は緩いので、何とかなった感じもする。
間違いなく今日で一番「入ってみたい」と思える隧道なんだが…。
低いのに、高嶺の花だな。
いつまでも眺めていても仕方がない。
とりあえず、先へ進もう。
まずはこの「源平クズレ」を通り抜けなければならないが、林道は意外にも完全に埋もれてしまうことなく、その乾いた路面を一部残していた。
これはやはり、この道が完全な廃道ではなく、年に一度くらいブルドーザーが入って、瓦礫の撤去を行っている事を思わせる。
この規模の薙ぎであれば、下にある林道を完全に埋め尽くすのに5年とかからないと思う。
現に、こうして見ている間も薙ぎは静止していなかった。
目の前といっても良い20mほど先の路面に、ちょうど拳大の石がひとつ、矢尻の速さで落ちてくるのを見てしまった。
音は、短い「どす」だった。
この一帯にいる限り、落石に対し安全な場所など無い。
その事は、路上のあらゆる場所に落ちている大小の石が証明している。
私に出来ることは、大規模な落石が起きていないタイミングを見て、速やかに核心部を通り過ぎることだけなのだ。
実はこの日までの山チャリ人生全部をあわせても、自分の30m以内でこうした自然の落石(仲間が落としたりしたものを除く)を目撃した回数は20回も無いと思うのに、今日はこの逆河内林道にいる30分間だけで、もう3度目なのである。少し長居をすれば、カウントはすぐ3桁にもなりそうだった。
なお、林道の幅が非常に広い(優に二車線分ある)ために、写真のスケール感が分かりづらいかも知れない。
地形図を見る限り、この薙ぎの先端は尾根に達しており、林道上にある高低差は優に400mを越える。東京タワーよりも高いところから崩れてきていることになる。
また林道下は、100m下方の逆河内谷底まで達しているようだ。
繰りかえすが、ここは空からいつ「死」がふってくるとも知れぬデンジャーゾーン。
それでもすぐに駆け抜けてしまえなかったのは、直前に落石を見てしまったため、いつ次の落石があるかと不安だったからだ。
1分ほど屈んで待機し、次弾が来ないようだったので、進んだ。
現在、
落石危険地帯
通過中!
ちょうど少し前にこの辺に落石が落ちてきたのだし、立ち止まらない方が良いに決まっているのだが、ついつい谷底の様子が見たくて、立ち止まってしまった。
素早い動きでカメラを構えて、さっと撮影。
液晶モニタもチェックしないで、すぐに横へと移動した。
とにかく写真を見ても分かるとおり、ものすごい現場である。
いくら森林鉄道が険しい地形に順応した鉄道だといっても、極限に近いと思える運行環境だ。
そこまでして、金でも銀でもダイヤモンドでもない「木」を運び出したかったのかと思ってしまうが、何も林鉄に限った話ではなく、この林道にしても同じような難工事だったに違いない。
ただ、林鉄の方が少し繊細なだけに、破壊された姿も、より心に訴えてくるものがあるようだ。
これはひどい!
デジカメの望遠機能を最大にして撮影した、橋桁の残骸。
遠目にも落橋しているのは見えていたが、それにしても無惨な姿。
橋桁は完全に橋台からずれ落ちていたが、谷底へ呑み込まれる寸前の所で両岸の崖に支えていた。
この状況では、仮に大いに奮起して隧道へたどり着き得たとしても、橋だけは無理だ。
もはや“落ちながら当る”ことくらいしか、出来なさそう(苦笑)。
なお、昭和35〜37年という林鉄としては最末期の架設とあって、シンプルで工業製品らしい I ビーム鋼桁橋のようである。
もう少し時代が前ならプレートガーダーになった所だろう。
その形は全体的にひどく歪んでいるが、特に上から叩かれたような曲がり方をしている。
いったいどのような崩壊が起きれば、こんなひどい壊れ方になるのだろうか…。
まったくもって、私の理解を超えている。
さらに横へ移動し、谷線を僅かに越えた。
しかしまだまだ頭上は安心できないので、移動しながらパシャパシャと撮影する。
この角度になると、これまで確認できなかった左岸側の橋台の状況が見えるようになった。
(赤い矢印の箇所はまた別。そこにあるものは、次の写真で紹介する)
この左岸の橋台は、昭和30年代の後半に建造されたものとは思えないほどに荒廃が進んでいた。
箱形をした橋台の内側には、本来充填されているべき土砂の姿が見えないのである。
底が抜けてしまっているのだろうか。
あらゆる人工物を叩きつぶそうとする“源平クズレ”の破壊が、この場にある全てを支配していた。
私以外の全てを。
矢印の位置にあるものが、非常に気になった。
ほとんど土砂に埋もれてしまっているのだが、なにかコンクリートの箱状のものがそこにあるのだ。
その形状は【2号隧道の北口】に酷似しているように思われ、現地では左岸側にも隧道が埋もれているのではないかという疑いを私に強く持たせた。
だが、改めてそれはないと考えている。
今回、写真を使って位置関係を十分にチェックし直したが、赤い破線で示した軌道跡(左岸橋台に続く)とこの怪しげなコンクリート物体は、単純に離れているだけでなく、高低差がかなりある。
したがって平面的な分岐から、その一方が隧道になっていたという可能性は低い。
正体が分からない以上、隧道の可能性を100%否定はできないが、本線の隧道坑口に付きものの「疏水溝」も見あたらないし、坑門ではあるまい。
それでは何なのかということについては、あの位置に降りて掘り返すことは難しいので、謎のままである。
路肩工の残骸だろうか…? 冷静に考えれば、自然の岩かも知れない…。
13:37 《現在地》
源平クズレの対岸に最初から見えていた、白い小さな建造物はこれだった。
1.5m四方ほどのごく小さな建物で、ネームプレートなどがないので正体を隠しているが、おそらくは雨量計だろうと思う。
下流に千頭ダムがあるので、逆河内でも測定が必要なはずなのだ。
そしてこの施設はまだ新しい。
現在も林道が生きている証拠だろう。
なお、左に電柱が立っているが、電柱につながる電線は見あたらない。太陽光発電なのか?
そして源平クズレでの最後の一枚は、これ。
隧道へ行くためには、この斜面を下っていく意外には無いだろう。
もっとも、消去法でここを選んだだけで、
実際に徒手空拳でそれが可能であるかは、不明。
色々やばいフラグを立てすぎているというか、
死ねる宿題を残しすぎている感じがするが、
この課題も帰路に回すことにする。
に、逃げたんじゃないんだからね…。
源平クズレの谷を越えた次の堀割。
浅い堀割の地下には、軌道の隧道が眠っているはずだが、いったいどんな状況になっているのか。
…あ! いま、大変なことに気付いてしまった!
これって…
さっきの死ねる坑口にアタックしなくても…
こっちの坑口が口を開けていたら、それでOKなんじゃね…?
…うわわわわ。 素晴らしいヒラメキだ!
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うわー、緊張するー!
隧道ちゃん…
タノムカラ…、口を開けて待っていてね……。
たのむよ…たのむよ…
ぶっちゃけ…俺、
さっきの坑口へ降りられる自信がないんだよ……。
あっはっは!
跡形も無し!!!
ずいぶん、スパルタ教育なんスね…。
そうですか、そうですか。
閉塞確定隧道というわけですか。
そんなものに命を懸けろと仰るわけですか…
あっはっは…。
乾いた笑いしか、でねぇ。
まあ、期待した私が馬鹿だったよ。
そもそも、こんなに軌道を糞にしたのは、ぜったい林道にも責任があるよな。
この、軌道の5倍はありそうな道幅。これだけの路面を作るために削った土砂を、普通に下へ捨てたと思う人挙手!
はい。良くできました。
そうですね。昭和40年代からは、そういうこと(残土処理と道路周辺緑化)にだいぶ行政がうるさくなったのですが、この工事が行われていた当時は、やりたい放題ですよ。
軌道跡を最も荒廃させたのは、林道工事に他ならないだろう。
まあ仕方ないけど。
どこもそうだったし、それで迷惑する人もなかったわけだし。
久々に、林道自体の遺構を楽しもう。
そうだよ。手厳しいことうを書いたけど、俺はこの林道が大好きだ。
明るくて険しくて、とても性に合っている。
今日はここに自転車がないのが、とても残念だ。
またいつか来ることがあったら、今度は自転車で走りたい。
そんな気持をエスカレートさせてくれたのが、このキロポスト。
はじめて見た思うんだが、なかなかカッコイイ。
現在地は、日向林道の起点より8.0km、終点より8.0kmの地点だ。
すなわち、中間地点ということだな。
残念ながら私とこの林道の付き合いは、あと1kmくらいの予定だけど…。
林道上の様子は、平穏である。
アップダウンもあまりなく、安定したペースで歩くことができる。
だが問題は、少し前から軌道跡を見失っていることだ。
小刻みな山線と谷線を繰りかえしており、特に谷線になったときには、右の写真のように見下ろして斜面を確かめているのだが、平場が目視できない状態が何度も続いている。
そんなに夢中で探しているわけではないので、おそらく見逃しているのだと思うが、いずれにせよ分かりにくく感じるほどに荒廃しているのであろう。
そしてもうひとつの原因として、軌道跡と林道との比高が増してきているのではないかと思う。
その理由までは、分からないが…。
先ほどまで、途切れ途切れながらもどうにかつかまえていた軌道の尻尾は、
いま、私の手からスルリと離れてしまった。
目標を目視できない状態でこの斜面をくだっていくことなど、自殺に等しく思われる。
何とかもう一度軌道跡を発見しないと…。
良くないことに、もうその終点は遠くないはずなのだ……。
13:51 《現在地》
林道に合流してから2.2km地点。
時間にしてちょうど1時間で、ここまで来た。
これまでで一番路肩がすっきりした尾根だ。
対岸の眺めを遮るものがほとんど無い。
! そうだ。
ここから下を覗き込めば、きっと軌道跡が見えるはず。
そう思って路肩へ近付こうとする私。
だが、そうやって数歩歩いたものの、結局私はここで路肩を覗くことをし忘れた。
なんでかって?
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最終攻略目標出現!!
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