主要地方道小出奥只見線 <シルバーライン> 第一回

公開日 2006.08.25
探索日 2006.08.24

 私が生涯に体験したい道10選

というものがあるとしたら、確実にあの塩那道路と共にランクインする道の一つ。
それがこの、“奥只見シルバーライン”こと、新潟県道50号小出奥只見線である。

 この道は、かつて日本最大の電源開発事業のために、国力をあげて開発された道である。
行く手にあるものはただ一つ、2006年時点での国内ダム総貯水量第一位の奥只見ダム(6億百万立方メートル)。
ダムを生み出し、管理するためだけに設けられた、開発道路。
それが、“奥只見シルバーライン”と後に愛称され、年間15万台が訪れる観光道路になる道の、始まりだった。

 道路の開通は、昭和32年。
国営の電源開発株式会社によって施工され、3年の年月と延180万人の労働力が投入された。
開通した全長22kmの資材運搬道路には、あわせて19本、合計延長18km余りの隧道が掘り抜かれ、他に類を見ないトンネル連続道路が出現したのである。
開通後にはすぐに奥只見ダムの本工事、さらに下流の大鳥ダムの工事が続き、やがて奥只見の電源開発は当初の目的を達することとなるのである。

 ダム完成後もその管理のみに利用されていた本路線が一般に開放されたのは、昭和44年に管理が電源開発から新潟県に譲渡されたことを契機とし、昭和46年に観光有料道路「奥只見シルバーライン」が盛大に開通したのである。
その後は、奥只見湖自体が強力な観光資源となったのに加え、尾瀬への最短ルートとして、また並行する国道のバイパスとしても機能し、春スキーから夏の避暑、秋の紅葉までと三季に亘り愛される、県下有数の観光道路となった。
昭和52年には無料開放されると共に県道へと昇格し、利用の幅をさらに広げつつ現在へと至る。

 多数の隧道をはじめとした資源開発道路らしい無骨さが、ある意味“ウリ”となっている本路線であるが、観光道路というのはあくまで仮の姿であり、本来は現役バリバリのダム管理道路である。
子羊の皮を被ったオオカミであり、その隧道主体の道路仕様は、一般道路の概念を突き崩しかねない。
この道の特異さを鮮明に感じさせるのが、全線にわたって布かれた二輪車進入禁止という規制である。
そして実は(後から知ったのだが)、歩行者も軽車両も禁止であり、ぶっちゃけ自動車専用道路なのである。
自専道という響きからは、高速性のある道路や幹線道路をイメージさせるが、この道路の二輪禁止の理由は別にある。
それは、規制を違反して走ってみると分かる(ような気がする)。 …が、もちろん走ればダメなので、山行がで疑似体験してください。

 え? お前は違反したのかって?
あくまでも、山行がはフィクションです。


日本道路特異点の一つ

その始まりの姿は既にして異様

 隧道好きならば名前くらいは聞いたことがあるかもしれないが、どこにあるのか分からない人も少なくないだろう。
 この奥只見シルバーラインや奥只見ダムというのは、新潟県の東の端で、福島県の西の端、越後山地の山奥にある。
文字通り福島県只見町の奥にあるのだが、只見川に連なる巨大ダム群と険しい地形がため、只見町中心部へ繋がる道は一切無い。
 奥・只見といいながら、只見町から来ることが出来ないというのは、この地の特異な険しさをよく現している。
 奥只見ダムへの陸路上のアプローチは新潟県魚沼市小出(こいで)から東進、湯之谷温泉よりシルバーラインにて達するより無く、他には福島県檜枝岐村から湖上遊覧船を経由するコースがあるのみだ。

 私は今回の調査において、そのリスクを少しでも減らすために、終点であり絶対の行き止まりとなる奥只見ダムに車を手配し、湯之谷入口からの登り片道調査を実施した。




 8月某平日午前6時15分。
私は遂に念願のシルバーライン攻略を目的として、その入口にあたる魚沼市湯之谷温泉近くの国道352号線上にあった。
2輪禁止というのを事前に知り、あまり人に見られて良くない調査になりそうだったので、平日の朝早い時間を狙って来た。
この辺りの事情もまた、塩那道路攻略前の変な緊張感を彷彿とさせた。

 写真は分岐地点の1kmほど手前の様子。
まだシルバーラインという、日本の道路特異点の入口を匂わせるものは何も存在せず、至って平凡な道路風景であった。




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 しかし、見通しの良い山村部の分岐にしては異例の早さで分岐の予告標識は現れ始めた。
最初の標識は、その400m手前であった。

 この段階で、左折の県道50号が特異道路である事を匂わせるものはまだ無い。
強いてあげるなら、国道の行く手が枝折(しおり)峠、左折県道の行方が枝折峠の先の檜枝岐(ひのえまた)となっている点にやや違和感を覚える。
これは県道(シルバーライン)が枝折峠のバイパスとして機能していることを意味しているのだが、県道に補完される国道というのもまた、我々道路趣味者の好きな対象である。

 いずれ本格的に違和感を覚えるのは、この200m先以降続けざまに現れる標識からだ。



 分岐まで残り200mにも再び大きな青看が現れる。
直線なので既に分岐は十分に目視できるのだが、今度は400m地点の標識とは趣が異なり、はじめて「奥只見シルバーライン」の表示が現れる。
これは、既に有料道路ではなくなって28年も経つとはいえ、なおこの愛称名でガイドする地図や観光書籍類が多いことをうけての標識だろう。

 また、シルバーラインの実情を知らないドライバーには何を言わんとしているのかよく分からないだろうが、「危険 トンネル内事故多発」という意味深な標語はこの後度々現れる。



 残り100mと思われる地点にも、再び青看が設置されている。「トンネル内事故多発」看板も再び。

 今度の青看は明らかに、ドライバーを国道に行かせまいという作為に満ちている。
峠道路・時間一方通行・急カーブ 転落死亡事故多発」などと、もろ脅し文句が並んでおり、お前はドライバーに後ろめたさを覚えさせる林道かと突っ込みたくなる。
しかも、奥只見シルバーラインの文字の下には可憐なミズバショウが意味深に描かれている。これは実はプロパガンダで、暗に尾瀬へ行くにもシルバーラインが安全ですよと言いたげだ。
それぞれのラインの描かれ方の太さの違いも見逃してはいけない。



 そしていよいよ分岐地点を前にして最後の青看は、これまでの情報を集大成とした立派なものだ。
直進の国道はまるで峠が終点であるかのように詐称されているが、それでも通り抜けようとする者を威嚇するかのように、隣の小さな青看が無茶な事を言う。
5km先より 急カーブ連続24km
…ちなみに私はまだ未体験だが、この脅しは本当らしく、国道352号線は相当の“酷”道だそうである。
しかも、この国道も二輪車禁止であり、このエリアはほんと二輪車泣かせである。(どうやっても二輪車では県境の向こうには行けない規制だ)



 そしてこれが、一風変わった分岐地点。
狭い場所に高速道のインターチェンジのような構造が設けられており、信号はない。
おそらくはかつて有料道路だった時代の名残の一つであろう。
中央には滅多に見ることのない「安全地帯」の標識に、工事現場以外ではやはり見ることの少ない「指示方向以外進行禁止(左・右)」の標識が並んでいて目を引く。
また、その奥の綺麗な看板が「尾瀬は左」と、やはり国道をないがしろにシルバーラインに誘導している。



 現在は分岐地点直前のロードサイドパークだが、有料道路時代には関連した駐車スペースであったろう、「みみずく駐車場」。
中央にはその名を象徴するみみずくと思われる巨大な鳥の像が、我々を見下ろしている。
この奥の、普通にシルバーラインに入ったのでは見られない位置に、なぜか通行上の注意書きの立派な看板が設置されていた。
(次の写真)



 シルバーライン内、特にトンネル内における安全装備の案内が主であるが、その序文はこの道路の特徴を最もよく現している。

奥只見シルバーラインには合計19のトンネルが連続し、総延長22.6kmの内トンネル延長18.1kmあります。安全運転に十分心がけてください。

 どうやら、こいつ(シルバーライン)は、自分が特異であることをしっかりと自覚しているようだ。
これで普通の顔をされていても怖いが、トンネルが多すぎるから気を付けろと言うのは、ありそうで余りない注意書きだ。
ただ、冗談抜きで本当に多いのだから、そんな注意も必要なのだろう。


 ここまでの僅か400m間の脅しラッシュで、多くのドライバーの気持ちはかなり追いつめられていると想像される。
特に、はじめて来たパパドライバーなどは、この危機感につけ込んだ、スタンドの巧みな戦術にはまんまと引っかかることだろう。

 おっとごめん。言葉が悪かった。
私の調べでは、国道を行く場合、この先77kmもスタンドが無いようなので、真面目に、ここで給油した方が良さそうである。
シルバーライン経由でも、50km以上はスタンド無しである。

あッ、自動二輪(原付含む)の通行止め標識だ。
ドキッとしたが… ま、 まだセーフ、 セーフ…。



ゲートスルーから始まる22km


 大概の標識に促されるようにして、何食わぬ顔をして左折。
歩道のない緩い登りカーブの先に、薄汚れた前時代的な料金所が健在だった。
昔は秋田県内にも数箇所現存していたが、今や過去の物となってしまった、有料道路の料金所。
このシルバーラインは無料化より28年も経過しているが、どういう訳か立派に健在である。
もっとも、係員はおらず、ゲートはスルーできる。
私はここで門前払いの恐怖を味わったが…。



 高さ制限3.7m標識と共に、全ブースにその高さのバーが設置されている。
これは言うまでもなく、この先の隧道の規格に沿った規制である。
決して、車ならどんな車でも通れるという道ではないのだ。

 そして、ここには遂に、目を背けられない規制標識が……。



 シルバーライントンネル多し
 狭幅員!急カーブ!急勾配!
 事故多発!対向車に注意

 などと、脅しに屈し国道から曲がってきたパパを決定的に怯えさせてしまう、もはや逃げられぬ脅しの数々。
1行目は詩的な美しさがあるし、2行目は妙に語呂がイイ。
これはかなり名の知れた作家の注意書きに違いないだろう。

 なお、この時点までで進路上に確認できた規制車種は、バイクと自転車。
歩行者やリヤカーについての規制は見られなかったが、実は規制対象である。(後で分かる)
と、ともかく、ある時は歩行者に、またあるときは自転車にと変身しつつ… (真似しないように、理由は後で存分に)



 無人となり、備品置き場の様になっているブースの様子。
かつて支払いのために車を停めたドライバーの目に留まっていただろう古びた注意書きが、消えかけて残っている。

 注 意 事 項
 速度制限40KM/H
 追越禁止
 駐車禁止
 スモールランプ使用



 ブースは無人だが、その隣の敷地にはシルバーライン管理所があって、この時間既に屋内の照明が煌々と点灯していた。
シルバーライン内の全通報装置はここへ通じており、24時間監視している。
当然誰かいるはずで、私は早くも胸が苦しくなった。



 そして、この瞬間以降数時間、私は一時も緊張感から解放されることがなかった。
通りかかる全ての目から怯えるようにして、私とシルバーラインとの逢瀬は秘やかに続けられるのである。


 午前6時30分、湯之谷起点をゲートイン。

 ゲートをくぐると、まずは直線の登り。
しかし、既に大きな右カーブが見えている。
はじめに、時速40km制限の速度標識と、駐停車禁止の標識。
その次にこの、「県道小出奥只見線」と書かれた縦デザインの案内標識が、グニャグニャに拉げた姿で現れる。
これは雪のせいだろう。
正確には、除雪で雪の壁が出来上がるために、こうして弱い標識が壊れるのだ。
当地は新潟県でも積雪が特に多い一帯であり、冬期間は5mを超える積雪となることもある。



 今始まったばかりのシルバーライン。
残りの距離は、終点奥只見ダムまで22km。途中で国道352号線と再会する銀山平まで14kmと案内されている。
なお、現在地点の標高は272m(地形図より)だが、銀山平と奥只見ダムは共に約760mにある。
起点から銀山平までは、距離もあるが高低差も大きく、隧道が多いことを除けば普通の山岳道路に匹敵する険しい勾配である。



 そして、まだ心の準備も殆ど出来ていないままに、行く手には四角い重厚そうなスノーシェッドが、くねらせた体躯を見せた。
目で追っていくと、そのままカーブして山肌に突っ込んで行く。
そこには、19本の隧道群の一本目のそれが、間違いなく待ち受けている筈だ。

 ついに、始まるのだ。
あの、道路トンネルの常識を覆す、隧道酒池肉林の宴が!




シルバーライン 残り、 22.0km
うち隧道残り、18.1km