尾盛駅への道 第2回

公開日 2010. 5. 2
探索日 2010. 4.19


現在時刻 14:05

★乗車目標 (第1希望)
 尾盛発 14:53 (千頭方面行き)


☆乗車目標 (第2希望)
 尾盛発 15:10 (井川方面行き)

○最終防衛ライン(終電…)
 尾盛発 16:28 (千頭方面行き)


現在地(右図)は、接阻峡温泉駅を出て3つめ「第29号隧道」と4つめの「第30号隧道」の間を流れる沢の中で、駅間線路長2.3km中のほぼ中間地点である。

朽ちた遊歩道用吊り橋の先へと、“残り1時間を切った”私は進む。


 この道を、信じていいの? 





地図にない道の、決着



名前の分からない吊り橋の先には、小さな広場がある。
左に行けば井川線の第30号隧道で、正面は険しい斜面。

道は自然と右の方へとトラバースさせられる。
そして、この広場の隅に、珍しいものがあった。


小型の生コンミキサー。

いったいいつからここに置かれているのだろう。
かなり年季を感じるが、特に興味をひいたのは、台車の下部に4つ、小さな車輪が取り付けられていた事だ。
ただし、車輪は平面的で、期待したような軌道用ではない。

最近私は古い産業機械が好きで、知識がないので解説する事は出来ないが、こまめに写真を撮っている。
本機の素性を示す銘板の画像は、【こちら】。興味のある人はご覧ください。




ほぼ平坦な道が、小さな尾根を巻くようにカーブして続いている。

相変わらず、ガードレールが歩道を主張。
萌えきらないナウ。

そして、すぐ前方にもう一つ沢があるらしいことを、地形図と水の音とで確認中。




第30号隧道ひとつ分を巻ききると、進路は再び線路の方へ。

右は次なる沢である。

この感じは…

もう一発ありそうだ。




キタコレ!!

しかも今度のはデカイ!!


現れたのは、さらに本格的な吊り橋だった。

長さは前の橋の倍くらい、高さもかなりある。
ただ、今度は床板も鉄製なので、全然不安感はない。
自転車のままでもすいすい行けそうだ。

まともに使われていないというのが、もったいない橋だ。

このまま朽ち果てさせるのか?




コンクリートのアンカーには、目立つように立派な建設銘板が取り付けられていた。

それによると、橋の名は「くりぞうりさわばし」。
竣工「1991年3月」(平成3年)だから、今年で完成20年目か。
事業主体は「本川根町役場」である。

この竣工年と事業主体の情報は、値千金である。
本遊歩道は、町営事業として整備されていたのだ。

いったい、この20年の間に何があったのだろう。
この橋を見れば、当時の行政(町)が本気で取り組んでいたことは疑いがないのだが…。




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14:08 《現在地》

オオッーー。

と、軽く歓声を上げるレベルの橋だな。
まだ廃橋としての熟度は低いが、独り占めするには申し訳なくなるような立派さ。

そして、この場所に限っていえば…

井川線よりも本橋が遙かに多く日を浴びて…、 輝 い て い る!






「くりぞうり沢」(漢字は不明)は、地形図上では水線のない地形として描かれているが、
実際にはご覧の通りかなりの水量を持つ、大きな谷である。
しかも連瀑を散らしており、井川線の車窓は、
右に橋と大井川の流れ、左に滝という、
かなり贅沢な状態になっていることだろう。

それにしても、こんなに立派な橋が現役鉄道の車窓にあるにも拘わらず、
地形図に全く反映されていないのが不思議である。




 … う お!

最初の吊り橋の直前で、この道はかなりの高度を一気に階段で下った。

そしていま目の前に避けがたく現れた階段は、その“借り分”の催促をしに来たもののように私には見えた。




ということは…
これを登るとまた、“合流”があったりするのかもしれない。
下る前に分かれた“左の道”のことが、ずっと引っ掛かっていた。

今は小さなアップダウンに拘泥している時間はない。

ホッ! はっ! ホッ! はっ!

尾盛駅のパーク&ライドは、しんどい…。




下った分に3割くらい利子を付けて登らされている気がする。

途中で見上げた杉林に、幾重にも築かれた玉垣を発見。

しかも、奥の方には、小さな廃屋らしきものが何棟かある。

もしやこれは、廃村?

尾盛村とか、そういうのがあったのか?

出発以来初めてリュックを降ろし、秘密兵器の古地形図を広げるが、それらしい物は描かれてなかった。






どうやら、予想が的中したらしい。


階段を上りきった所は、大量の丸石が置かれた小尾根状の広場だったが、

そこで見事 “丁字路”に突き当たった。




14:14

↑ こういう事に違いない。

「くりぞうり沢」と無名沢を、それぞれ近代的な吊り橋で跨ぐ“右の道”こと「遊歩道」は、
おそらく新道である。

対して、地形図に描かれている“左の道”は、
旧道だったのだ。




旧道ならば、やらなきゃな。
そういいながら、左折する。
戻る方向だが、かまいやしない。

第一希望である14:53の列車に乗り遅れるだろうが、私の本当の目的からすれば、当然の選択だった。

私が本当に辿り明かしたかったのは、廃遊歩道ではなく、
尾盛への、正統にあるべき旧道。

その姿は旧版地形図において明らかで、遊歩道が尾盛駅に通じているかは不明ながら、少なくともかつて一本の道が駅付近へと向かっていることを私は知っていた。
(私はオブローダー。辿るべき道の無い山河跋渉に興味はない)

少し乱暴な言い方をすれば、私が辿りたかった本当の道が遊歩道に攪乱されていたというのが、これまでの現状認識だった。

だから道が二手に分かれたとき、明らかに遊歩道と分かる「右」を選んだ一番の理由は、「美味しいものは後にとっておきたい」気持ちからだった。
遊歩道もまた廃道だったから、捨て置くことが出来なかったというのもあるが。

ともかく、2つの道はひとつになった。

私にとって“寄り道”ではない旧道探索を、これより開始する。





尾盛への“旧道”を 探索


14:15 《現在地》

旧道と思われる道を左折すると間もなく杉林に入り、先ほど遠くに見えた廃屋の一軒へと行き当たった。

その作りはいかにも「山男の休憩所」であり、開け放たれた扉から屋内も覗いてみたが、ただ土間と板間があるだけで、台所など住むための設備は見あたらなかった。

この建物の正体は、造林地で働く人たちの休憩所と想像できる。




植えられてから30〜40年と思われる杉林は、余り手入れされていないらしく、枯れた下枝が森全体を陰鬱に演出している。

経験上、ここはいかにもヤマビルが多そうな感じがして、早足で通過してしまった。
だが、道の路肩に延々と低い石垣が積まれており、等高線をなぞるように蛇行しているのは、小さな見どころであった。

そして、同じような石垣が、付近には何列も存在していた。
やはり、かつてここは集落跡だったのかもしれない。




平坦な道は2分ほどで林を抜け、渓声のとどろく大きな谷に突き当たった。

直進方向は空中となり、地形に沿って右折を余儀なくされるも、それから10mほどでお椀状にえぐれた谷に道は削り取られ、判別不可能になってしまった。




先細った道形が消滅した末端部より、足元の「くりぞうり沢」の正対する山腹を見ると、案の定道の続きと思われる平場が存在していた。

なにやら本格的な廃道歩きの様相を呈しはじめているが、時間に制限がなければ「望むところ」と思ったかも知れない。
好みではない歩道用のガードレールや、安っぽい立て札が無くなったこの道は、これまでになく活き活きとしているように思われたからだ。

…あくまでも、極めて個人的な嗜好だが…。

ともかく、2箇所の階段と2本の吊り橋に頼った、いかにも歩道らしい新道に較べて、この旧道は険しいなりに平坦で、明らかに車道を志向しているように見える。
まさかとは思うが、本当に車道だったりしたら、楽しいのだが。







橋の痕跡を探したが、強い流れの沢に全て押し流されたのか、

谷中で見つけられたのは、長さ2mくらいもある、ひしゃげた鉄の棒1本だけだった。

橋と関係あるのかは、不明。




新旧道の高低差が一目で分かる。

「くりぞうり沢」の恐ろしくV字に切れ込んだ岩間には、
井川線のガーダー橋と鉄の吊り橋を見下ろすことが出来た。

この先は滝となって落ちているわけだが、なんとも恐ろしい眺めだ。




落ち葉の積もった斜面は、手掛かりが少なくやや滑りやすかったが、無事に右岸の路盤跡に復帰出来た。

そして改めて先ほど歩いた路盤を見ると、その路肩にも空積みの石垣が残っていたことを知った。

岩場を削って路盤を作り、幅の足りない部分に石垣を噛ませる工法は、一定の幅員を要する車道にこそふさわしいものであり、改めて旧道は単なる歩道じゃ無かったという疑念が強まった。

かつて尾盛駅まで車道が通じていたのだとしたら、これぞ「 オブローダーと秘境駅ファンの邂逅 」というにふさわしい決着だと思うのだが…。





なんていうニヤニヤ気分を、尾盛の山は許さなかった。

一難去ってまた一難。

せっかく路盤が現れたと思ったのも束の間、再び大規模な崩壊が前方に現れたのだった。


マジ大規模っぽい。






きついな。


ゴツゴツした崖ではないが、土の斜面も滑り落ちて無事の保証はない。

これだけ綺麗さっぱり道が消滅しているというのも、何かあったのだろうかと思ってしまう。

単に崩れたにしては、大規模だ。

長い桟橋のような道だったのだろうか。


そして、この不毛と思える斜面のなかに、意外過ぎる発見があった!
(赤い矢印の所だ)




なぜ レール?


うわーッ!!


…って、待ちなさい。
落ち着きなさい、俺。

レールは、直前の路盤よりも少し低い位置に、土に埋もれるようにしてあり、露出している長さは2m弱。
サイズは明らかに「鉄道」ではなく「軌道」クラスで、林鉄のものとソックリだ。

まさか、この道は軌道跡ナノ?

それを確実に否定できる証拠もないが、さすがにこれだけで断定するのは無理がある。
むしろより穏当な推測は、桟橋の骨組みとして、廃レールが使われていた可能性である。

そして残念ながら、これ以降二度と、レールを目撃することはなかった…。




レールの発見で血圧が上がったが、周りを見渡してすぐに冷静になった。

足場のない傾斜面を、ソロリソロリと少しずつ進んでいく。

ちょうどこの真下に無防備な線路が見えており、下手に落石や丸太でも墜落させると、大変な事態を惹起してしまう危険を認識した。

列車に直撃しないまでも、ね…。

分かるよね。




二度目の路盤決壊を突破すると、再び杉林が始まった。

路盤も鮮明だが、廃道に違いはない。

そして、見覚えのある場所にたどり着くにはもう一回、谷を横断しなければならないはずである。

速歩で進む。




予想通り、100mも行かないうちに、再び流水のある谷が行く手に立ちはだかった。

幸い今度の谷は浅く、橋はないが、横断は楽だ。

失われた橋の痕跡を探しつつ、結局成果を上げることなく、大岩の散乱する谷を横断して平穏な路盤へと復帰した。

どうやら序盤に沢山あった橋たちの下部工(アイビーム)も、遊歩道化に合わせて設けられたものらしい。
本当に堅牢な橋が欲しいこれらの谷に、近代的な架橋をしていた痕跡が無いのだから。




14:30 《現在地》

三度甦った路盤を歩き始めると、間もなく路肩にガードレールが現れた。

そしてさらに50mほど進んだ所が、見覚えある分岐地点であった。
これにて新旧道を網羅した、「くりぞうり沢」一周オブローディングが達成されたのである。

が、立ち止まっている暇はない。

僅か400mほどの区間に大規模な決壊を3箇所も抱えた「旧道」。
これを戻るのは、時間的にも安全面でもリスクが大きかった。
階段の上り下りは嫌だったが、もう一度「新道」を通って現時点の最終到達地点である丁字路へと復帰することにした。






14:40 《現在地》

駆け足をして、25分ぶりに戻ってきた。

今度はここを右折して、いよいよ未知のエリアに入る。
果たして、玉虫色の遊歩道は、まだ続くのか。
そして、旧道の顛末はいかに?


それにしても、当初の乗車第一希望だった列車が尾盛駅を出発するまで、あと13分しかない。

これはもう、間違いなく無理だろう。

となると第二希望だが、それでも15:10発なんである。
ちょうど30分しかない。

…大丈夫か?

これも逃すと、私は尾盛に到達できたとしても、2時間後の終電まで、駅前をプラプラする羽目になんだぞ…。

それじゃ、まるで熱心な秘境駅ファンじゃないか。

どうするんだよ。





信念に赴くままの旧道探索が、

私の退路をじわりじわりと狭めていった。