大塩沢林道 〜五十里と塩原を結ぶ古い林道〜 第6回

所在地 栃木県日光市〜那須塩原市
公開日 2012.06.21
探索日 2009.07.31

万難を除して 辿りつく場所  6.0km地点〜


13:55

急激に濃さを増す霧の流れ逆らいながら、暗い表情で斜面をトラバースし続けた(約3分間)私の行く手に、忽然として平場が現れた。

この平場を見て私が真っ先にイメージしたのは、海上に浮かぶ航空母艦の甲板であった。
このときの私の心境は、燃料が残り僅かという状態で、深い霧の海に帰るべき艦を求めてさまよった、決死の飛行機乗りのそれに近かったのだろう。

それにしても、この区間の道はいったいどこへ消えてしまったのか。
単純な土砂崩れや路盤の決壊で、これほど広範囲にわたる道の消失を説明するのは難しい。
これはもう、地表に道を乗せたまま山の斜面が広範囲に滑り落ちた…巨大山崩れの跡としか考えられないだろう。




【疲労の度合がよく分かる動画】

路盤と再開したことの安堵の大きさのみならず、

復活した路盤の霧に浮かぶ姿が、あまりにも幻想的で心打たれたため、

これまでこの道の上では表現したことの無かったくらい、テンションが上がっている。

あっははは!!あはは! はぁはぁ…



…ここで約2分間、ゆっくり呼吸を整えてから、再出発。

そして、この再出発時には約2時間半ぶりに……




自転車に
 乗れた!!


遂にこれはキタッぽいぞ!!

遂に遂に、路盤の状況が改善の方向に動いた!

荒れ方のピークを完全に越えた感じがする!




つまりこれはどういうことが考えられるかというと、
直前の大崩壊現場こそが、この道が最初に「通行不能」となった原因だったと推測出来る。

それで地形的な条件が険しかった五十里側は、通行不能箇所を終点に見立てる形で荒廃が進み、あれだけの大荒れに至ったものと思われる。
もちろん、通り抜けできなくなった後も本来の林道として活躍し続ければ“ああ”はならなかったのだろうが、見てきたとおりこの林道沿いには、あまり伐採地や造林地が存在しない。
沿道の林業は低調に推移したと断言出来るだろう。

その一方、これから向かう塩原側は等高線もだいぶ緩やかで、峠を越してこの辺りまで、比較的最近まで車の出入りがあったものと推測出来る。

これにはマジで安堵した。
この調子だと、そう遠くなく本格的な轍が出現してもおかしくはない感じだ。
峠道“全部”廃道という最悪の事態だけは、無事に回避されそうだ!




14:00 《現在地》

1時間35分かかっていた。

たった800mに。

この場所は起点から6.1km附近にある右カーブで、5.3km地点のヘアピンカーブ(一度目の切り返し)とは同じ尾根筋にある。
両地点間の直線距離は200mに過ぎないが、路面の高低差は80mくらいある。
そして、なかなか思うように増えなかった標高も、ついにここで1000mの大台に乗る。

ここから峠まで、残すところは450m(標高は+50m)ばかり。

緑の道を上り続けたら、白い世界に辿りつきつつある。




またしても崩壊が現れた。

だが少し前までの険しさは、もうここにはない。

下ではあんなに「暑い暑い」と呻いていたのに、今ではもうウィンドブレーカーが手放せないくらいの涼しさになっている。
ここに来て、ぽつりぽつりと雨粒が落ち始めたのも、肌寒さを呼んでいた。

雨は…嬉しくない。
でも、もう降っても良いかな、とも思った。
あまり先の心配はしていなかった。
これまでと比較すれば、ピークを越えた事があまりに明白だったし、今はただ、私の長時間の頑張りがどのような光景に結実するのか。その一点に興味を注いでいた。
どんな峠が現れても、感動するに違いないが…。




雨の粒が、垂れ込めた霧を裂いてボタボタと、降る。
空から降るのではなく、頭上を覆う数多の枝葉からの降雨。
長時間の汗と湿気と霧とが重なり、もう私の体に乾いた場所など無かったから、雨を避ける理由もなかった。

右カーブからは既に10分を平穏な前進に費やした。
今は路傍の苔むした長い石垣に、黙って誘われている。

勾配はこの辺りでほぼ失われ、だいたい平坦に感じられる。
峠と生きた轍のどちらかが、或いは両方が、いつ現れてもおかしくなかった。




行く手の景色の変化に普段よりも敏感になった状態で進んでいくと、霧の向こうにうっすらと見えてきたシルエットに足が止まった。

なにかとても大きなものが、路上に有るようだ。

あまり大きいので、何かの構造物かと思ったが、近付いてみると…。




超でっかい倒木だったでゴザル。

それにしても不思議なのは、この倒木がどこから現れたのか。

ほぼ道の真ん中に鎮座しているが、ある日とつぜん山の斜面をゴロゴロと転がって来て、ここに落ち着いたのだろうか。
こんな倒木が転がって来る場面に遭遇したら、さぞ驚くだろう。

所詮倒木といっても、ここまで大きくなるともはや重機がなければどかすことは出来ない。
うまく運び出せれば、使い出もありそうだが…。




この倒木を過ぎてちょうど1分後、



ようやくその時は来た。




峠。




大塩沢林道、無銘の峠。

静寂に支配された海抜1050mの窓を境に、
手前の日光市(旧藤原町)と、
奥の那須塩原市(旧塩原町)が接している。


時計を見ると、14:16を指していた。
五十里湖畔の起点を経ってから、
4時間45分という長い時間が経過していた。

地図から読み取れるここまでの距離は6.4kmだが、
高低差も足せば実質7kmくらいの道のりであった。

そのうち最初の1.3km以外は全て廃道状態だったとはいえ、

ここまで苦労しようとは、思わなかった。

「もしも」後半に現れたような決壊が、序盤に現れていたら、
大人しく自転車を捨てて攻略するよう、計画を変更した可能性も高い。
“獲物”を十分に口中に招き入れ、引っ込みが付きづらくなってから
存分にいたぶるとは、なかなか狡猾な手口の廃道であった。

「もしも」自転車を持ち込まなければ、当然ここまで苦労することはなかった。もっとも、完全に自己満足でしかないとはいえ、この結果には大いに満足した。
その理由は、古くからの読者諸兄ならお馴染みと思うが、

“ 車が通った道は車で体験したい… ”
という、最近ちょっと影が薄いポリシーに準じてのことだ。






人工的な掘り下げがどのくらい行われたのか分からないが、

峠もまた“ただの林道らしからぬ”、巨大な切り通しであった。

両の山肌に林立する、千古斧を入れざるような巨木が、さらにその印象を強めていた。

そのため、切り通しの最も深い部分では、まるでトンネルの中のような薄暗さであった。


あっ。 今、勾配が逆転した。

もうこの疲労した足に頼る必要はない。
半日お荷物だった自転車が、遂に“神の器具”へと転じるときが来たぞ。
ここからは、自転車の時代来る!



そうこうしているうちに、切り通しがまもなく明ける。

明けの向こうは、どうなっている?

なんか(珍しく)良い予感がするが…。

一応ここは、今後の数時間を占う正念場でもある。





のお出迎えに、ニンマリ!


次回は、霧のダウンヒルを爽快にかっ飛ばします!

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