道路レポート 静岡県道39号 掛川川根線 川根区間 中編

所在地 静岡県島田市
探索日 2015.3.10
公開日 2017.10.7

“通り抜けできる400m”の先には…


2015/3/10 6:35

「前編」を公開してから特に深い理由もなく半年空いてしまったが、島田市川根町家山にある前山橋を渡ったこの地点から、県道39号掛川川根線のレポートを再開する。

地理院地図(右図)もスーパーマップルも、この前山橋を渡った地点までで県道の色塗りを止めているので、ここが12.7kmもあるという長い不通区間の開始地点と想定していた。ゆえに当初の予定では、この朝一の探索は、これだけ(前編分だけ)の本当にミニ探索の予定だった。


だが、この位置で私を出迎えた、「この先400mより通り抜けできません 静岡県」と書かれた看板が、さらに先へ私を進ませる理由となった。
県名が出ているので、この場面においては明らかに県道のことを示した内容だろう。ということはつまり、少なくともここから400m先までは通り抜けが出来るということ。

地図には県道として描かれていないラスト400mの県道を求め、橋の袂を右折したところから、この街角のミニ探索は、当初想定しない内容へ変貌を遂げていく。
県道39号のエクストラステージへ、れっつごー!



自分の中ではそれなりに根拠を持って選んだ2択(橋の前で左右どちらの道を選ぶか)であったが、右折するとまずいきなりにして、県道っぽくない。

別に地形が険しいわけではないが、道が狭いうえ路肩の白線も何もないしで、県道だとしたらいわゆる“険道”と呼ばねばなるまい。
県名が書かれたデリニエータとか、同じく県名の彫られた用地杭でもあれば、県道だと判断できるが、何もないので早速不安になった。
不通区間の経路上にあるとみられる前山という山上にある集落へ向かう車道は、さっきの分岐を左折だった。やはり県道も、奇をてらわず左折だったか?

建設会社の倉庫らしいものなどがある、雨上がりでなければ土埃のしそうな家山川沿いの細道を、100…、200…、そして300mまで、何事もなく進んだ。
あまりに呆気なく、400mという予告された距離の大半を使い果たす。




6:38 《現在地》

ここは前山橋から300m地点。

地図にもその通り描かれているが、家山川に注ぐ小さな川が行く手を遮り、道は川を渡る直進路と川沿いを上流に向かう左折路に分岐していた。
そしてこれが少しややこしいのだが、直進路は橋を渡った直後で再度直進と左折に分かれており、左折するとやはり川の上流へ通じている。

この川を挟んだ2度の分岐をともに直進すると、奥に見える建物がある一帯に行けるのだが、そこは馬を飼育する施設らしかった。おそらく関係があると思うが、手前の分岐角には将棋の駒を逆さに意匠した縁起物である「左馬」のモニュメントが置かれていた。
また、その隣には小さな木造のお堂があり、地蔵らしき石仏が安置されていた。




まだ前山橋にあった看板から400mは来ていないので、あそこに書かれていたことを信じるなら、県道はもう少しだけ続いているはず。
直進、左折、直進後の左折、この3本の道のいずれかが、県道なのだろう。
地図に色が塗られていないせいで、悩まねばならない。
はっきりと答えを示すものはないが、唯一舗装がされていること、左折しやすいように角が切られていること、そして左折の先に見えたもの(後述)を根拠に、ここは橋の手前を左折するのが県道だと判断した。

左折の先に見えたものとは、目の前にある簡素な橋(仮設橋じみている)とは別格の本格的な橋の姿だ。
目の前の橋とあの橋と、どちらかが県道だとしたら、向こうこそ相応しいだろうという判断。

そしておそらくあの橋を渡った辺りが、“運命の”(←大袈裟)400m地点となるのだが、道自体は、もっと先があるようだ。(黄枠線の中に注目)



すっげー登ってる!

距離的には、もうあの辺りは県道の「通り抜けができない」区間内だと思うが、道路管理者が言う「通り抜けできない」とか「通行止め」ということと、そこが県道でなないことは、決してイコールではない。
世の中には、登山道みたいな国道や県道というものがごまんとある。それは道路趣味者にとっての常識である。

ゆえにこの場合も、まだあの道が県道の認定を受けた紛うことなき県道、それも一般県道よりも格上の主要地方道である可能性は十分ある。
しかもあの坂道の見えている場所は、前山集落を越えて掛川へと通じる【旧地形図】上の古道とも、だいたい合致していた。

インパクトのある急坂の出現に素朴な興奮を憶えると同時に、朝っぱらこんな(想定外の)坂道を登ることになるのかと、不通県道探索で引き際を見極める難しさに苦笑が漏れ出る私であった。



坂道の前に、まずは橋だ。

おそらく県道であると思われるこの橋。
規模は小さいが、道幅は前山橋とそっくりだ。
橋の両岸とも丁字路になっていて、橋を渡って坂道へ向かうには、クランク状の右左折をすることになる。
いかにも県道としての走行性は良くないが、それは前山橋がすでにそうだった。
とはいえまあ、どこにでもありそうな橋だ。

取り付けられた4枚の銘板によると、橋の名前は新代橋(よみは「しんだいはし」)で、竣功年は昭和62(1987)年3月だった。
前山橋よりは5年遅れている。また、竣功年の銘板が2枚あった。

(この橋が県道であるかどうかは、島田土木事務所が発行する管内図を見れば分かりそうだが、未見である)



橋を渡って左折しようとすると、そこに1枚の看板が立っていた。
あまり見慣れないデザインだが、農道であることを示す標識だった。

農道 新代沢 線
幅員 3.0 M
延長 495 M
車の運転には十分気をつけて通行して下さい
              川 根 町

ここにいても威圧感を受けるほどに強烈な坂道で始まる道の正体は、私が期待したような県道ではなく、農道だったのか。
多少の落胆を禁じ得ない。
いや、正直言えば「多少」ではない、おおきく落胆した。
農道を下に見るのは良くないが、県道を楽しみに来ている以上、そうでないと明示されたことにがっかりした。

ここで引き返そうか。

そう思いもしたが、踏みとどまって先へ進む決断をしたからこそ、これが「中編」になったのである(笑)。
そして、これはこの看板のデフォルトの表記なのかもしれないが、「車の運転には十分気をつけて…」が真に迫ることも、分からせられたのだった。



おそらくだが、農道新代沢線にバトンタッチする形で、【前山橋の看板】にあった県道39号の「通り抜けできない」区間へと入ったものと思われる。
県道と農道は法的根拠が異なる道路の種類であり、基本的に排他の関係でありが、農道の看板があったからといって、ここが県道ではないことは確定しない。
なぜなら、農道の看板があっても、そこが現在も農道であり続けているとは限らないからだ。

…とまあ、そんなことはさておき、坂道である。

急だ。

それは最初に見たときから分かっていたが、立ち入ってみて実感した。
自転車の変速を一番軽くしても漕ぎ心地が猛烈に重く、さらには前輪が浮き上がりそうになるのを、前傾姿勢で封じる努力も必要だった。
舗装されているおかげでなんとか自走はできるが、明らかに15%を越える勾配だ。20くらいあるかも知れない。



そんな急坂であるだけに、家山の長閑な地平は、

私の汗と奮闘と引き換えに、あれよの間に遠ざかっていった。

寝起き、しかも平坦な場所からのいきなりの急坂で、私の身体も大層びっくりしているぞ。



新代橋から150mほどで急坂道は杉林に入り、下界からは見えない領域へ。
写真はその直後に現れた、切り返しのカーブである。
大井川筋らしい玉石練り積みの石垣が鮮やかだ。
そして切り返した先も、これまでに劣らない急坂だ。

ぶっちゃけ、急坂区間へ立ち入ったことを後悔し始めていた。
急坂の農道というのは、あまり珍しいわけではないし。
でも、なんとなく引き返しがたい。何かを見届けずに引き返すのは、
道への敗北、下手したら冒涜とさえ思ってしまう私は、昔からいる。


…だから出会えることもある。




6:46 《現在地》

こんな“県道”に。

……とはいえ、この写真だけでは説明が圧倒的に足りないだろう。

まずここは、新代橋から200mの地点にあった、二度目の切り返しカーブである。
そして見ての通り、強烈な上り坂は、なおも続いている。海抜は180mほどになっており、
既に前山橋や新代橋があった地平より40mも高いところに来ている。(=計算上の平均勾配20%)

私に風雲急を告げるという言葉を思い起こさせるほど、ここには地上になかった強風が吹き荒れていた。
理由は標高が上がったことと、路傍の森がここで開けて、農道の目的地であるらしい茶畑が始まったせいであったが、
このカーブの周囲にはそれとは別に、県道を求めていた私の目を十分に見開かせるものがあったのだ。それも大量に!



見てくれ、この用地杭の数を!

全部に、「静岡県」と彫られている。

囲まれた範囲が県有地であることを示しているが、このように道路を囲んでいる場合は、

そこが県が管理する道路であることを表すことになる。そしてこの場面では、

県道の証しと考えるのが妥当だ。

にしても、こんなに必要かと思えるくらい数が多い。用地杭は見慣れたアイテムだが、
普通の県道にはこんなやたら突き立てられてはいないぞ! 強烈なアピールである。
私に対する、ここが県道であることに気付いてくれという、間接的な熱烈アピール!!

認めよう!


お前が、(主)掛川川根線ナンバー・サーティ・ナインだ!!!


いなくなったと思ったら、いた!

見えなくなったと思ったが、ちゃんといたのである!

地図には県道の色で塗られてなくても、こんな所に県道があった。



しかし、なんという、急坂だ!

いわゆる“登山道県道”ではない、車道として解放されている県道としては稀に見る急勾配だ。
急坂として特に有名な国道308号の暗(くらがり)峠を彷彿とさせるものがある、
この切り返しカーブ内側の、尋常ではなくなってしまった急勾配などは、特に!!

あまりに急坂のため、(路面なのに)通行には差し障りがあるという道路管理者の判断なのか、
わざわざ蛍光の道路鋲がカーブ内側部分を囲むように設置されている。じゃあ路面にするとつっこみたい(笑)。


当然、このカーブの内側の急斜面にも、用地杭がぐっさぐっさ刺さってる(笑)。

どうあっても、このカーブが県道であることを、地味に知らしめたいらしい。


いや〜、どの角度から見ても、すごい急坂ですなぁ。

自分で見つけ出した成果を前に、激風の中で悦に浸っていた私だったが、

やがて風の音とは明らかに違う、もっと甲高い音が聞こえてきた。


まっ、まさかッ!

密かな山行がの名脇役と噂される “あいつ” が、近づいている?!




こいつは…、

久々に脚をやられそうな県道だぜぇー!