道路レポート 国道229号須築トンネル旧道 第3回

所在地 北海道せたな町
探索日 2018.04.27
公開日 2018.10.11

第2隧道への挑戦、2度目の「走り」!


2018/4/27 9:10 《現在地》 

車の行き交う現在の国道からは見放された土地である藻岩岬を回り込むと、遠望によって事前に大まかな地形や風景を窺い知ることができた領域を脱し、完全な未知の世界へ入った。
そしてそんな未知に鋭く切れ込む私の視線は、早くも情報皆無の存在である“第2の隧道”の姿を捉えたのだったが……

隧道の手前には、波濤荒れ狂う入り江があり、その神撃を彷彿とさせるほどの迫力は、一瞬で私の度肝を抜いた。

前回は、そんな激烈な景色を見るだけ見て終わったが、はてさて、私はどう立ち向かおう。
そもそも、立ち向かえるものなのか……?
今回は一転して、冷静な観察からスタートだ。




↑写真は、入り江の入口付近を道から見下ろしている。

ちょうど大波が入り江に入り、怒張する海面の高低差が恐ろしいほどに拡大している。

右側の湾奥では、引き水がまるで滝のように岩場を流れ落ちているが、次の瞬間には……↓



引き水終わらぬ岩壁に波頭が激突し、

瞬間的、爆発的に、最大で10mくらいまで波飛沫が噴き上がっている。

これが、前回の最後に見ていただいた“瞬間”だ。


ようするに、こけおどし飛沫だけなのだ。

恐るるに足らず!(でも怖いけど、人間だもの)


次の写真は、道が一旦途切れる直前の“★”地点で撮影した。↓




この伊豆半島の縮図みたいな形をした入り江が、悪い奴なんだよな…。

再び、動画をご覧いただこう。ちょっと引くくらい大迫力だ! ↓




でもこれで、はっきり分かったはずだ。

襲ってきているのは、飛沫だけだと。



これが、数秒に一度は煮え立つ地獄の釜のようになる現場だ。
逆にまた数秒に一度の波がない一瞬を撮影すると、雨でもないのに濡れている不思議な場所でしかないが、この濡れている範囲は全て波飛沫を被る。

私が立っているこの高さのままに、岩場を回り込むような道が続いていたはずだが、目に見える道形は全くない。
長年の波の浸食によって、岩盤ごと砕かれて失われたのだろうか。橋だったにせよ、本当に何もなかった。

ここの突破方法だが、単純に素早く通り抜けるのみだ。
地形的には、手掛かり足掛かりとなる凹凸が豊富にあるので、慎重に歩けば難しくない。
多少もたついて頭から海水を被ったとしても、この写真の範囲内に降りかかるのは派手な飛沫だけで、波の本流が押し寄せるわけではないので、押し流される心配はほとんどない(あくまでもこの探索時の波高では)。
濡れと焦りで転倒することが一番の悪手だろう。焦らず、濡れてもいいさの神経で、岩場をトラバース気味に巻く。

今度の波が爆発した次の瞬間に、突入する!



今だ!

いっけぇー!!!




突破☆成功!

波と波の間隔は、おおよそ7秒前後。
この時間だけで、約10mもある“飛沫を被る区間”の崖地を横断しきることは、少し無理がある。

なので途中で一度だけは飛沫を頭から浴びる覚悟を決めていたのだが、とてもラッキーなことに、その一度は、くぐもった空気砲のような中途半端な音とともにブフォッと少量の飛沫が噴き上がっただけで、頬を濡らす水気だけはぶつかってきたが、塊としての水は足元にも届かなかったのだった。
そういう“不発”もときおりあるのを見てはいたが、事前に予見することは不可能だから、これは単純にラッキーだった。おかげで濡れずにここを突破出来た。

そして、ここさえ抜ければ……




待望の“第2隧道”が、もう間近だ!

しかし、この隧道もまた、先に見た第1隧道(これらの名前はもちろん仮称だ)と同様、極めて険しく切り立った岩場に、まるでそれだけがぽっかりと口を開けるようにして存在していた。
隧道がなければ歩いて先へ進めそうにない難地形というのが、2本の隧道の在処の共通点といえそうだ。
ここもまず、高巻きでは迂回不可能な地形である。

そして、ここから第2隧道の坑口へと至る最後の数歩もまた、難関だった。
遠目にも道が切れて見えたのだが、実際その通りであった。
ここには、まるで石垣のようにも見える、碁盤の目のように亀裂の入った赤っぽい岩場があり、これだけ急傾斜でも手掛かりが多いのでトラバース出来るのはありがたいが、慎重な動作を求められるのは言うまでもない。
ここにきて海面からだんだんと高くなっており、高度感からくる恐怖も無視できなくなってきた。




9:19 《現在地》
第2隧道、到達! と同時に、内部の貫通を確認ッ! これでまた、さらに前進できる! 第1隧道は、見え始めた早い段階で貫通が確認できていたが、今度はそうではなかったから緊張していた。隧道抜きではとても先へ行けそうにない地形なので。

隧道自体は、これまたよく原型を止めている。長方形に近い断面がよく保存されていた。
サイズ感も前と同じで、いかにも“人道”といった感じだ。大人が二人並んで歩いたらたぶん窮屈だろう。
これまでのところは、隧道内部が一番よく道として保存されているし、安全も感じられる状況である。やはり地中という環境は、経年に対する堅牢性が高い。

チェンジ後の画像は、先ほど“走った”現場を振り返って。相変わらず数秒ごとに“爆発”していた。




隧道は長さ10〜15mほどでしかなく、内部状況も良いので、あっという間に出口へ迫った。

坑口を埋め尽くす外景の威圧感が、半端ないッ!

この逆の眺め――隧道に迫るとき内部に威圧される――は、廃隧道などでよく目にする気がするが、ここは完全に逆だ。
左にちょこっとだけ見える海面がもしなかったら、もう完全に森林限界を超越した高山の稜線風景のようではないか。
有り体に言って岩石ばかりの死の世界にしか見えない風景が、坑口という名のいびつな窓の外に迫ってきていた。

恐ろしくも、楽しくて仕方ない。 興奮のしすぎで鼻血出そう!(子供のころはよくでた)




振り返ると、岩窟という表現がぴったりな坑口風景。
オーバーハング気味の崖に口を開けており、逃げ道は皆無だ。

こうして2本の隧道を潜り抜けてきたが、未だに見えてこないのが、この道の建設時期だ。
建設にあたって、ほぼ人力で行われたのか、機械力に頼ったのか、それさえも見えてこない。
鑿の痕があれば前者、削岩機の穴が残っていれば後者と分かるが、どちらもない。

見えてこない……、古いものなのか、意外に新しかったりするのかが…?




再び進行方向に目を転じれば、

次の展開に、まるで選択の余地のない地形であった!

第3隧道の出現は、必然だ!




約束された第3隧道の出現。

これまでで一番険しい地形に掘られている。

沸騰するような入り江が隧道直下の岩場に砕けていて、この世のものとは思えないような恐ろしい潮騒を轟かせていた。

窯のような狭い谷の空気は波によって揺り動かされているのか、水気の混じった突風がここにいても頬を撫でつけてくる。

人が日々の暮らしのために歩んだ道と仮定すると、これほど険しいものは初めて見るような…。



第3隧道の控えめな開口まで、窯の岩壁を取り巻く一筋の道が途切れがちに付けられていた。
ほとんど日の光の届かない暗がりの岩場と、白雪のような波の飛沫とのコントラストが強烈だ。
人間のような中間色をした軟弱者の立ち入りを拒む、神々の芸術のような凄愴さがあった。

今日の波は、少しだけ高いのかも知れないが、決して珍しい高波でないのは間違いない。
確か気象台は今日の檜山地方の波を2.5mとか言っていたと思う。
これより高い日も、季節風が激しい冬場などは、ほとんど毎日ではないかと思う。
この道を、どんな日に使い、どんな日は避けたのか。具体的な基準を聞いてみたい…。



坑口前の凄まじいばかりの“コの字道”

垂直に近い岩場がコの字型に掘り込まれており、そこが唯一の通路になっている。
冒険アニメとか、悪夢の中にならば容易く出て来そうだが、現実にこんな道を目にすることは、滅多にない。
そしてそのまま隧道へ突き刺さっていく。

隧道は、今回も見事に貫通していた!

ここから既に出口が見通せる。すばらしい!
そして、これまでの2本の隧道よりも長そうだ。長くて暗そう。
実際、この隧道がくぐる岩場の大きさは、前2本とは比較にならない。地形図上で大きな存在感を示している岩尾根を貫いている。

それにしても、坑口前に見える白っぽい部分は何だ?
最初からずっと見えていたのだが、残雪じゃ、ないよな…。
まさかあれは…… コンクリート??
遂に、この道の生きた時代を証言するアイテムが現われるか?



間違いない! これはコンクリートの路肩工だ!

地味に重大な発見だ。
コンクリートが使われているということは、少なくとも明治以前に廃絶した道ではないということになる。それより全然新しい可能性が高い。コンクリートはコンクリートでも、これは場所打ちされている。場所打ちコンクリートの普及は大正以降であり、しかも最初はかなり限られた採用だった。それこそ地域の中心的な橋の永久橋化とか、玄関口的なトンネルなんかに優先的に使われた。路肩擁壁なんかはかなり後まで石垣が中心で、はじめはその目地を埋めるくらいだった。しかしここにあるのは、崩れた断片だけではあるが、場所打ちされたコンクリートの路肩工に見える。

個人的な印象として、それこそ昭和30年台よりも後の作設ではないかと思う。ここが昭和44年の須築トンネル開通前日まで須築の生活道路として使われていた、国道229号の旧道といえるような道であった可能性が、さらに高まった。




入り江を巻くひっかき傷のような道を振り返り、さらには脚下の海の向こうに目を向ける。

こうして首を巡らし四周を見ると、ここは本来ならば人の往来など全く想定し得ない地形であるのに、

僅かこれだけの道が確かに通じていて、通り抜けられてしまうことの妙が、とても楽しかった。

ゲームの隠しコースみたいなものをリアルで見つけた心境だ。これが、“陸の孤島”のリアル(現実の生活道)か。

自転車を含む車上にあっては、決して想像し得ないような交通の実景が、ここにはあった。




次回、第3隧道の向こうへ…。