2014/10/28 7:48(トンネル脱出から9分後) 《現在地》
“SD(すべり台)”を後に、谷底を少しだけ下流に移動した。
写真は上流方向の眺めで、無垢で豪放な北沢の清流が場を支配している。
疎林の向こうに場違いな人工物がうっすら見えるが、あれが“SD”。
ピンクのラインは私の動線の再現だ。
改めて谷底のより広い範囲を観察したが、ここにある人工の構造物はやはり“SD”だけのようだ。
これだけを作って、人は忽然と姿を消したかのようである。
それこそ、頭上にワサビ沢トンネルが口を開けていることさえ、見上げても見えないし、感じるということも全くなかった。
そんなわけだから、対岸の頭上にあるはずのこれから目指そうとしている“謎の穴”など、谷底から見えるはずがなかった。
これは私にとって結構重大なアクシデントで、どこからどういう風に登ってアプローチするべきかを十分にイメージした状態でアタックしたかったのに、なんかこの状態でテキトウに登れるところを上ったところで、ピンポイントにあの穴に辿り着けるとは思えなかった。
もちろん、穴へ通じる道があるなら、それを見つけ出して辿るだけでいいのだが、今のところ全くそういうものが見えていないのだ。
対岸には崖と灌木帯と針葉樹林帯がモザイク状に点在しているようで、どこを見てもほとんど同じに見えてしまう。
出来るだけ穴の近くへ登って行くには、どこから取り付くべきなのかということのヒントが欲しかった。
(→)
だから一回戻って……
……というのは嘘で、上で撮影したこの写真を、デジカメの小さな液晶画面に表示させて、穴の空くほどじっくり眺めたのだ。
でも、小さな画面で見ても、ピンとこないんだよな、こういうのって…。
私は、勇んですぐ降りてきてしまったことの拙速を後悔した。
上に居るときにもっとじっくり対岸を観察すべきだったのだ。
どこから、どのくらい登って、何を目印にどう動けば素早く穴へ辿り着けるのかを、ちゃんとイメージしてから、谷底に降りるべきだった。
でも、デジカメの画面のおかげで、どうにかリカバリできそうだ。
現在地を改めてイメージし直した結果、もう少し下流側にある針葉樹林帯から取り付くべきことが分かった。
そして、針葉樹林帯の内部では、出来るだけ樹林帯の右外縁に進路を採り続けて登れば、自ずと穴に辿り着けるはず!
7:53(トンネル脱出から14分後)
画面凝視に5分近く費やしたが、どうにか指針を取り戻し、谷底での行動を再開。
写真は下流方向を撮影したもので、だいたい矢印の辺りから取り付けば良さそうだ。
ちなみに、もう少し下ると両岸が極端に狭まり、回廊状の谷になっている。行動できる範囲は広くない。
それでは、ぴょぴょんと渓を跨いで対岸へ。
7:56 (トンネルから17分、登りはじめから0分) 《現在地》
ここだな、取り付き。
初めて対岸の斜面の様子を間近に見たが、先ほど降りた左岸と較べると、見るからに険しい。
土が少なく、代わりに岩場が圧倒的に多い。崖に近い斜面である。
だが、上から見立てたとおり、樹木もそれなりに生い茂っているから、土もあるはず。
樹木から樹木へと捕まりながら登って行ければ、何とかなりそうに見える。
あとは、踏み跡程度でも十分だから、先行者の痕跡さえ見つけられたら心強いのだがな…。
周囲を見回しても、存置ロープやピンクテープなどは見当たらなかった。
上に穴がある以上、谷底からのアプローチルートが絶対あったと思うが…。
さあ、いくぞ!
左側は枯れ滝のような岩場で、とても登り得ないので、自ずと進路は右に絞られた。
いい具合にマツやモミが生えているので手掛かりが多く、傾斜のわりには転落の恐怖を感じることなく、
順調に高度を上げ始めている。ただし、樹林帯の中にも鋭く尖った岩場が隠れているので、
うっかり入り込んで、進退に極まるような状況だけには注意しなければ。
基本的に、登るよりも下る方が数段危険だし怖いので、
少し登る度に振り返り、下りのコースを記憶に残すことに努めた。
7:59 (登りはじめから3分後)
写真からはあまり変化を感じられないと思うが、登り始めて3分を経過した頃には、
既に谷底から15m以上の高さに達していた。いざ登ってみると、期待以上に土の斜面が多く、
かつ樹木も多く、そして土も締まっているので、登りやすかった。
広葉樹の腐葉土でなく、針葉樹林帯の酸性っぽい土なのが良かった。
この調子で高度を稼げば、もうすぐ謎の穴が見えていた高度に達することが出来そうだが、
問題は、樹林帯の外の崖っぽいところに見えていた穴を、スムーズに見つけられるか、
そして最後に、その崖っぽいところを通過して、穴に辿り着けるかどうかである。
まだ油断は禁物。
それわはかっているけれど、まぶたに焼き付いた魅惑の穴が、
近くにあるのだと思うと、ドキドキが収まらない!
こんな所に口を開けているのは、何の穴なんだ!
ぐぬっ!
ちょっと険しくなってきたか……。
幅のある垂壁に上を遮られてしまい、やむなく右へトラバース気味に登っている。
そうすると針葉樹林帯の外側にある灌木帯が見えてきた。穴の在処は、灌木帯の真上だったと思う。
だが、灌木帯は滑落の危険を感じる猛烈な急斜面であり、入り込むのは止めた方がよさそう。
というわけで、トラバースはこのくらいにして、針葉樹林帯を外れる前に、
どうにか上に脱出できるルートを探したい。少し登ることが出来れば、
この上にもまだ樹林帯は続いているように見える。
そんな一点突破の抜け道を探していると……
なんだこれ!
何かのケーブルが斜面を這っている……!
最初はまた存置ロープかと思ったが、
緑色の絶縁体で被覆された針金のような材質のこれは、
ロープではなく、電線とみられる。
しかし、いったいどこへ通じている?!
謎の穴へ通じているような気がするのは、
私だけではあるまい!
ケーブルに到達した地点から、下を覗いて撮影した。
おそらく固定されていないケーブルは、斜面にただ垂れ下がっていて、下の末端は谷底まで達してはいないと思うものの、崖に入り込んでいるので下って確かめることは不可能だ。
というか、高度感が強烈になってきているので、あまりここにも長居したくない。
黙っていても精神力を削られていくようだ。座って休めるような平らな所が早く欲しい。
これは上方。
私はこちらへ向かおうとしている。
謎のケーブルが、謎の穴へと私を導いてくれることを期待して、可能な限り、これを辿って登りたい。
しかし、見るからに厳しい地形だ!
とはいえ、ここしか登れそうにないのも事実。
右も左も、もっと険しそうである。
恐ろしいが、立ち木を頼りに、ケーブルを手繰っていこう!
おおーっ!
やべぇ… 格好いい!
振り返ると、あり得ないような異様な光景が目に飛び込んできた。
対岸から見る、ワサビ沢トンネル北口末端……、とんでもなく格好いい!
そして、この見え方は、自分の位置を知るための重要な手掛かりになる。
思い返せ……というか、あそこで撮った【デジカメの写真】を再生して確認しろ。
トンネルから見たとき、謎の穴がどういう風に見えたかを、逆に考えるんだ。
そうすれば、今いる場所と、目指す穴の位置関係が、見えてくるはず……。
……
……そうだ、
…もう少し上だ。
だが、左右の見え方のズレは、ちょうどいい気がする。
つまり、現在地の直上方向が、穴の擬定地っぽい!
よじ登れ〜!!
8:02 (登りはじめから6分後)
たまたま対岸との間に視界を遮る大木がないところに出た。
(チェンジ後の画像) トンデモナイ写真が撮れてしまった!
これまで数千本のトンネルを撮影したが、こんな異様なトンネル風景は初めて撮る!
なんか“保険”を掛けたみたいで嫌だけど、「これを見れただけでも、対岸によじ登った価値はあった。」(断言)
ワサビ沢トンネル北側坑口の全景写真は、こうやって対岸からしか撮れないはずだ。
命懸けで撮影する価値なんてないが、マジで来て良かったと思える眺めではある!
…………
……
…
が、ここは股間がすぅすぅして全く落ち着かない! 早く樹林帯へ引っ込もう。
8:03 (登りはじめから7分後)
眼下を振り返っての1枚。
そろそろ現在地がどこなのか地図を見せて欲しいと思う読者も多いかと思うが、分からないので示しようがないのです!
GPSなんて、この崖登りではほとんど何の役にも立たなかった。
ただ、私の感覚が間違っていなければ、目的地の“穴”のかなり近くに来ていると思う。
チェンジ後の画像に表示した2本のラインは、ピンクは私の動線、黄色は地を這う謎の鉄線だ。少し前に見つけたこの鉄線には、“穴”へと通じているのではないかという期待があった。
こちらは、ほぼ同一の地点から見上げた上部の眺め。
地形的にはやや緩やかで、どこでも自由に登って行けそうな斜面だが、そのせいで下草が多く、ついに鉄線の行方を見失ってしまった。
地面か草に紛れていて、しかも倒木も多いので、ちょっと簡単には探せそうにない。
これで、鉄線が穴へと通じている確証でもあれば、徹底的に探して辿ろうとしただろうが、そこまでではないので、一旦追跡を諦めることにした。
とりあえず、再び指針を持たない状態に戻って、勘と眼力でもって、たぶん近くにある穴を探し出したいと思う。
おおっ!
今度はトラロープだ!
数本の立ち木を支点にして、長いトラロープが張ってあった。
ただしテンションがほとんどなく、地面をのたくっているのは、先ほどの鉄線と変わらない。
鉄線は上下方向に通じていたが、トラロープはどちらかというと左右方向に伸びている。
これは何を意味しているのか?
登るための補助ロープではなさそうだし、通路の手摺りというのには道がないし、前後のつながりが不明だ。
でも、鉄線に続いて明らかな人跡に再び遭遇したことで、いよいよ目指す穴が近いのではないかという期待が高まった。
さて、どちらへ向かうか。
ロープを突っ切って上に行くか、ロープ伝いに左か、右か。
右へ行くことにした。
ロープ伝いに右へ斜面トラバースで10mばかり移動すると、ロープは絶壁に入って行くではないか!
こんな無謀は御免こうむると言って、逃げ出したいところだが、現状はきっと、虎穴に入らずんば虎児を得ずの状況なのだと思う。
対岸に見た穴が、【ああいう状況】だった以上、安穏の樹林帯の中で穴が見つかることはないはず。
どこかで一度だけ、崖に進路を向けねばならないはず。
それが今なのではないか。
トラロープという手ほどきがある以上、これに随って崖へ進むのが答えと信じる!
しかも、ロープ沿いの崖地ではこんなものまで見つけた!
建設省の用地杭!
この標柱より川側が建設省(現国土交通省)の事業用地なのだろう。
ますますこの地で建設省による砂防工事が行われようとしていたことが明確になったといえる。
おそらく念入りに探せば、同じような杭は両岸に点々と設置してありそう。
もしかしたらトラロープも、用地の境界線に沿って張られているのかも知れない。
それにしても、よくぞこのようなコンクリートの塊を背負って崖を登ったものだと思う。
しかも、おそらくこれ一本だけではないのだ。
彼らに勝る山岳家はないと思える凄まじい踏破力である。
標柱を越えて、トラロープの導きを信じて、私はさらに上流方向へトラバースを進めた。
標柱地点は険しい岩場だったが、越えるとまた樹林帯の意外な緩斜面が。
しかし、【左に目を向けると】、そこはまるで屏風を立てたような絶壁で、どうにもならない。
引き続き上流へトラバースしていくしか、進路はないのである。
そしてその進行方向はといえば、巨大な倒木の横たわる急斜面で、その倒木を跨ぐようにトラロープが伸びていた。
だが、トラロープの行く先は針葉樹林帯の外だ。
……いよいよ、穴が待っていそうな気配がする…!
なお、この時対岸のワサビ沢トンネル北口は、
前回よりも少しだけ下がって、ほぼ目線の高さに見えていた。
これは、想定していた見え方に極めて近く、ここが目的地と極めて近いことを物語っているようだった!
トラロープの導きに随って、巨大な倒木を潜り抜ける!
ロープが倒木の上に掛かっていることから、どちらが先にあったのかが分かる。
倒木を潜りながら、急な斜面を登った。今にも穴が現われそうだった。
そして…
8:12 (登り始めから16分後)
穴は現われなかった。
目当ての穴は視界のどこにも現われず、その代わりに、私は“金の山”に辿り着いた。
そよそよとした青草が地面を覆い、頭上は綾錦の大絢爛。
私は谷の影なる領域を突破し、日の差す高度へ到達したのだった。
この時点で、ワサビ沢トンネル北口は、もう完全に見下ろす存在になっていた。
もはや、目指す穴を通り過ぎたことは、明白だった。
これまで15分ほどかけて登ってきたルートでは、穴へ辿り着けなかったという
現実が重かった。
現実の重さに打ちひしがれたか、私はここで少々不可解な行動を取っている。
普通なら、即座に「登って来過ぎた」と判断し、来た道を引き返しただろうが、
どういうわけか、さらに上を目指そうとして、登りうる場所を探し歩いたのである。
自分のことながら、なぜこういう行動を取ったのか、6年前の自分が説明できない。
ただ、撮影した写真などから推定するに、目の前の風景に魅了されていたのだと思う。
出発からずっと日影を歩いていた私が、突然光の中で私を包んだ紅葉に心を奪われた。
もっと言えば、穴に対する落胆を慰める、緊急避難的な行動でもあったかも知れない。
ここはうっすら記憶がある。この岩の隙間を上手く使って、上を目指した場面だ。
当然のように、もう周囲に一切の人工物はなく、ロープもいつの間にか消えていた。
普段の私からしたら、たかが紅葉なんていう珍しくもないもののために、
リスクを負ってまで、険しい岩場の斜面を歩き回ったとは、なかなか考えにくいが、
錦秋に魅せられたとしか思えない行動を、なんと30分も行っていた。
8:25 (登り始めから29分後)
この写真は、岩場をさらに上って撮影した右手の大岩壁。
おそらく、北沢における最悪場の崖ではないかと思う。
チェンジ後の画像は、同地点から見た谷の北沢上流の見通しで、
源頭に聳える鍋冠山(三郷スカイラインの故地)が美しかった。
しかし、この日の私が撮影する予定の全くなかった風景である。
ナメ滝のような場所があった。
私はずっと上り続けていたわけではなく、トラバースも多かったし、
さらに腰を下ろして休んでいた時間が長かった。ただ、一番高く登ったときの
ルートの最後の部分は記憶にある。ここから左側に見える、
恐ろしく鮮やかな部分を目指して登ったのだ。
8:40 (登り始めから44分後)
そして、この写真の場所に着いて、それでようやく来た道を下ることを決心した。
ここも北沢の険しい峡壁の中腹でしかないはずだが、不思議と穏やかで、
なんとも心の安まる場所だった記憶がある。一休みして8:50頃に下降を開始した。
なお、もう一度行けと言われても、場所が分からず辿り着けないと思う。
久々に地図。といっても、正確な現在地は分からないが、GPS上の縮れ麺のような軌跡から、
おそらくこの辺りまで登ったのだろうという推測が出来た。谷底からの比高60〜110mの範囲内だ。
そしてこれは、下り始めた後に撮影した、ワサビ沢トンネル北口。
完全に見下ろす感じの見え方になっていて、これから帰るのは本当に大変そう。
そして改めて、いかにトンネルが孤立無援の所に開口しているのかが、よく分かると思う。
トンネルの先に、いったい何が作られようとしていたのか。
その解明は、現地調査でもいろいろなヒントを得ていて、ある程度はっきり言える状況にあるが、
文章としてまとめるのは、帰宅後の机上調査に委ねたい。
さあ下山。
もう一度だけ、チャンス下さい!
8:50 (登り始めから54分後)
ここがどこか、分かるだろうか?
斜面に横たわる巨大な倒木に沿ってトラロープがある、来るときは登った【場面】だ。
そこを今度は下ろうとしている。往路はまだ日影だったが、今は明るく、印象も違って見える。
これまでの行程を振り返ってみると、“穴”到達への期待度が一番高まったのが、ここだった。
ということは、私の勘が鈍っていなければ、やはりここが一番穴から近いのではないか。
そう考えて、この倒木の下端まで下ったところでもう一度足を止めた。
そして、再びデジカメの小さな液晶画面を凝視した。
目的は、対岸撮影写真からの徹底した現在地の割り出しだ。
!
現在地がおそらく分かったぞ!
現在地は“穴”の直上10m付近!
すなわち
この下に穴がある?!
往路では気付かなかったが、太い枯れ木の幹に錆びたワイヤーケーブルが絡みついていた。
ワイヤーの行き先は分からないが、またしても人工物が発見されたという事実。
そして、祈るような気持ちで見下ろす眼下には、まだ夜が続いているような黒い谷底。
生と死を画然とするようなツートーンの世界に、怖気がよぎる!
しかし、その“生”の側の縁に、なぜか大きな切り株があるのを見つけた。
あんな場所で木を伐る林業があるだろうか?
……穴へ通じる道が、あそこにあるのかも……?
現在地から真下へ降りることは、私にとって現実的ではない。
だが、それはこの穴を必要とした何者かにとっても同じだったはず。
やはり、もう少しは「歩ける」ルートが、どこかになければおかしい。
少なくとも、木を伐って切り株を残した何者かは、外から辿り着いているはずなのだ。
現在地が登りすぎていたことがはっきり分かったので、
もう少し来た道を下降して戻りつつ、切り株方向へのルートを探すのだ!
8:56 (登り始めから60分後)
少なくとも動画の中の私――現地の私――は、
ここに分岐を感じていたことが、この動画からは窺い知れる。
最後の答え合わせをしよう。
2014/10/28 8:56 (登り始めから60分後)
食らいついた。
一旦は紅葉狩りなどという、穴への到達を諦めた者が取るような行動をしていたが、逆にそれが冷静さを取り戻させる意味で良かったのか、デジカメを最大限活用した方法で「現在地」を特定することに成功したのがファインプレイの急展開! 今度こそ、穴へ通じるルートを発見したと思う。
ただし、 最後の最後まで気は抜けない。
対岸から見た穴の周囲は、とても険しい。
はっきり言って、道なんてものは全く見えない。
しかしそれでも、周囲にいくつもの切り株が見えるのは、誰かがこの崖にへばり付いて伐採したに他ならないはず。
ここに踏破出来る余地があると…………信じたい!
分岐地点……と呼んでいいのかは分からないが、これまで一往復したトラロープ沿いのコース(ピンクの線)をここで外れて、右奥へ下って行けば(黄色の線)、おおよそ30m以内の距離で、穴に到達しうると判断した。
なおここの目印になりそうなものとしては、前に紹介した【用地杭】が10mと離れていないところにある。
また、前回更新分の最後に見ていただいた動画では、「穴へのルートにもトラロープがある」と発言していたが、撮影した写真にそのようなものは写っておらず、これは確か見間違い(願望から来たものか…)か勘違いだったと思う。
8:57 (登り始めから61分後)
前進再開!
見立てに従って、樹林帯を右下へ下って行く。
1時間前は薄暗い森だったが、今は地表まで燦々と日が届いている。
普段だったら嬉しい太陽。
でも、今は恐ろしい太陽だ。
日が照っているということは、それだけ大地が裸体に近いことを意味していて、険しさを端的に物語っているのだから。
最初の15mほどは針葉樹林帯の中であり、問題なかった。
小さな倒木を何本か跨いだが、その一部は明らかに伐られたものであり、周囲にたくさんある切り株の片割れらしかった。
そうして、ついに行く手に高い樹木が全くなくなったのが、次のシーン。
怖い。
必ず最後はこういうところを歩かなければならないだろうと予期してはいたが、
切り株があるというだけで、道と呼べるかも分からない斜面に、命を預けてしまうのは、恐ろしかった。
物理的には歩けそうだが、心の冷えに尻尾を巻くなら、ここが最後の分岐となろう。
ここを越えるなら、穴を見るまで戻るまい。
日なたに居ることが、こんなに心をざわつかせるのは、珍しい。
いっそ足元だけしか見えなかったら、こんなに恐ろしくは感じなかったのに。
全体的に登りではなく、下り気味にトラバースする必要があるのも、気持ち悪かった。
斜面は乾ききっていて、足元の小石が一歩ごとにカラカラと闇へ落ちていった。
万が一スリップしたら、たぶん1秒間くらいしか、生還のための猶予はないだろう。
へっぴり腰を作って、とにかく何があっても斜面に張り付き続ける準備を怠らず、少しずつ進んだ。
9:00:58 (最後の分岐から4分後)
見覚えのある朽ち木が現われた。
対岸の遠望で、穴の前に1本だけ立っているのがとても目立っていた、坑木とみられる一本木。
それが、足元に現われたということは……つまり
そういうことだ。
だがあと一歩。
一歩が遠い。
私が到達した場所は、言うなれば坑口の翼壁上部。
どうすることもできず、穴を上から見下ろす位置が、私の旅の終点だった。
(許さんぞ)
ならば下るまでのこと。
“朽ち木”に到達。
すなわち、
9:01:35 (最後の分岐から5分後) 《現在地》
“謎の穴”に到達成功。
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