橋梁レポート 宝仙湖底の岩ノ目橋 中編

所在地 秋田県仙北市
探索日 2012.11.07
公開日 2014.01.27

夕暮れ迫る渓を駆けた二人の結末


2012/11/7 16:13 《現在地》

このままでは、ヤバイ!!

二人はそう思った。
もともと気軽な探索のつもりだったため出発が遅かったのに、現地に着いてからはあれこれと目移りしてしまい、何一つやり遂げたことがない。
挙げ句の果てに小雨が強雨となり、夕暮れを誘い込んでいる。
もう中途半端なお前らには探索させてやらない。早く帰れ。そうダムがぼやいている気がしてきた。

ここへ来た大元の目的は、柴犬氏が発見した「岩ノ目橋」の確認である。
これだけは果たさければ、来たことさえ後悔する。
だが、ここまでの無計画な探索のために時間がもう残り少ないので、最後の手段を使って橋の捜索を敢行することとなった。その方法とは、岩ノ目沢の上流に架かる現在の岩ノ目橋(以後、これを「新橋」とする)から直接沢を下ることで、湖底にある旧「岩ノ目橋」(以後「旧橋」とする)を探すのである。
「岩ノ目橋」という銘板の画像しか旧橋の位置の手掛かりは無いが、この名前で岩ノ目沢以外の場所にあったらアウトだよな!! 頼むぞ!



林道から樹林と灌木の斜面を突き抜けて、強引に沢底へ下り立つ。

水はざぶざぶと音を立てながら、川幅一杯に勢いよく流れていた。
宝仙湖に注ぎ込む10を越す河川の中では、中くらいの規模の沢であろうか。
多くの沢が一斉にこの勢いで注水しているし、またダムから勢いよく放水している様子も見えないのに、水位があんなに低いのである。
おそらく、もの凄く巨大な浴槽に蛇口で水を注ごうとするのに似ているのだろう。
小さなダムなら、数日で満水になりそうな注水量があるのに。

ところで、現在の地形図ではこの辺りに沢沿いの道は描かれていないが、昭和28年の地形図には、左岸に沿って森林軌道が描かれている。
地形が緩やかなので、橋やトンネルがありそうでもないが、平場くらいは残っていたかも知れない。
もはや、これ以上の寄り道は探索の生死に関わるとばかり、私たちは普段見せないほど先を急いでいたので、目線を送っただけで路盤探しはしなかったが、一応報告しておく。



新橋から沢に降りた直後は、水際にも高木が生えていたが、それから50mも進むと森は高巻きに沢を見守るようになった。
そして代わりに沢の周囲は、灌木と草が生い茂る原野に置き換わった。
これは、玉川ダムの満水位よりも下に入ったことを意味していた。
年に数度は冠水するエリアということである。
このことに伴って前方の視界は急激に開け、我々の焦る心が一層激しく焚き付けれる形となった。

目指せ! あのピラミダルな男神山の麓に横たわる湖面を!
そこまでに旧橋が現れなければ、我々は潔い気持ちで帰ることが出来るだろうし、それでも仕方がない。




我々は、今までに無いほどの凄いスピードで前進している。

川の流れに乗っているイメージである。転倒くらいは構わないという勢いであった。

特に、細田氏の速度は目を瞠るものがあり、デジカメを庇いながら歩く私はときおり彼を待たせた。

そんな彼が、「何かを見つけた」ような顔でこっちを向いて待っているが…? 

も し や?




細田氏が見つけたのは、砂防ダム。

正確な場所は分からないが、たぶん、このへん《現在地》だ。

…そういえば、
ダム湖に向かって砂防ダムが落ち込む風景は、随分前に別の場所で見た憶えがある…。
そうだ。同じ秋田県の藤里町の素波里ダムだ。このレポートだ。

あの場面は湖に引きずり込まれるような恐怖が強く、良く覚えている。
それだけに、私はこの再度の恐怖を連想させる光景に私はドキリとした。



この砂防ダムの下まで湖面であれば、旧橋は水没していると言うことであり、
このまま見つからずに終了となったわけだが。

回 避!!

と同時に、我々はこの砂防ダムから押し流されて墜落する事態も

回 避!!

しなければならなかった。 細田氏の慌てた足ぶりに注目。




完全に川流れ状態で前も見ずに歩いていたら危なかった(←そんな奴はいない)。

落差8mくらいの横幅の大きな砂防ダム。

コンクリート製だしさほど古びた印象は受けないが、この砂防ダムは昭和48年の地形図には既に描かれており、水上にいた時間よりも長く、水中で過ごしてきた可能性がある。
そういう意味では、目撃されること自体がレアな砂防ダムであるかも知れない。
これは全く無意味な感想だが、こうして鮮烈な滝を落とす姿が妙に活き活きと嬉しそうに見えたのは、私だけであろうか。




…砂防ダムに特別な感傷を抱いたのは私だけであったようで(苦笑)、細田氏はまたも駆け出していた。

そして、その先には、遂に、遂に見えた!

写真の中にだけ存在していた“茶色の廃橋”岩ノ目橋と思われる、その姿!!

おそらく柴犬氏とは別のルートで接近しているため、このアングルで橋を見るのは初めてだが、見覚えのある姿だった。

やったぞ! とりあえず、水没回避!!




更に進むと、地面からあらゆる植物が消えた。

この辺りから先が、今年の特別な渇水によって地上に露出している、スペシャルゾーンなのだろう。
だからこそ土中に生存した植物の種子が存在せず、今年の8月以来3ヶ月以上も地上にあるのに芽吹いていない。
ゆえに、地球ではない別の惑星のような景観だ。
対して上の写真の草原などは、例年から数ヶ月間は地表にあるからこそ、植物が容易く芽を吹くのである。

目指す旧橋は、近くに見えて、実際はまだ500m近く離れている。
遮るものが無いから、そう見えるだけである。

それにしても、細田氏の嬉しそうな表情である。
もちろん、私も嬉しい。喜色満面である。
今日のダラダラした探索も、終わりよければ、全て良し!




遠目にはさほどの起伏も無く、まっすぐ橋に接近出来そうに見えていたが、
これは、視界に大きさを比較するものがあまり無いために生じた錯覚であり、
実際にはご覧のような斜面を数回よじ登り、ようやく“橋へ通じる平場”へ立つ事が出来た。

つまり、そこは…




水没廃道の路盤!

もう、我々と橋を遮るものは無い!!





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