今回は通りすがりの探索となったので、近くまでクルマでアクセスし、未成道路のみチャリでピンポイントに探索した。
同行者は、この日の探索が初合調となった「明治」氏。(大学院生)
いずれ他のレポートでしっかり登場して貰うことになるが、取りあえず今回は陰役に徹して貰った。
提供された情報を頼りに、都留市中心街から県道市道と乗り継ぎ加畑川沿いを遡ること、約2.5km。
その途中で、一風変わった「道路改修記念碑」を見つけた。
本編と直接関係ないが、まずはこれからご覧頂こう。
この碑があるのは、加畑の一つ手前の平栗(ひらぐり)地区。
現場へ向かう市道がジグザグにカーブするその途中、火の見櫓の手元に道路に面して立っている。
遠目には、べつに変わった碑には見えない。
だが、正面に回り込んでみると、その奇抜なデザインに驚かされる。
もろ、十字架である。
これは、切支丹にまつわる珍しい古碑なのか。
おもわずクルマを停め、その碑面を注視すると…。
ミミズの這ったような文字…というと、もの凄くヘタクソな字のことを言うが、ではこの文字はなんて表現すればいいのか。
これにはちゃんとした字体の名前があり、「篆書(てんしょ)体」というそうだ。
いまでも企業のハンコなんかに見ることがあるが、この篆書体で書かれた文字が、十字架型の彫りの内側に丁寧に配置されている。
その内容は、写真(カーソルを合わせてみてね)の通りだ。
「貳」の文字が個人的にヒット。まるでヘビだ。
ちなみに、「道路改修」の具体的な内容を示すような他の文字は、裏面を含め一切ない。
また、皇紀2600年とは昭和15年のことである。
というものを見ながら、なお1kmほど点々と家並みのある中を進んでいくと、目指す入口が見えてきた。
そこには、一目で“ソレ”と分かる、怪しい雰囲気が“臭って”いた。
2008/3/19 15:48
加畑川沿いの1.5車線道路。
そこから、唐突な感じで左折する道。
幅はここまでよりもやや広い。
やや赤っぽく変色した舗装からは、余り使われない事が窺える。
ここが問題の道の入口だということは、事前に写真が有ったわけではないがすぐに分かった。
何となく中途半端な路幅に、未成道路の典型的な類型を重ね合わせてしまう。
加畑川を渡る橋の向こうに、なぜか広い駐車スペースがあるが、ここにクルマを停めているのは私だけである。
近くには、こんな駐車場を必要とするようなレジャー施設は何もないし、駐車場自体にも何の案内もない。
いかにも、休遊施設の趣。
この橋には銘板が4枚取り付けられており、この道の歴史を垣間見ることが出来た。
橋の名前は「金山橋」。
竣工年は「平成2年」である。
まさに、バブル期に架けられた橋のようだ。
橋を渡ったところから、急に上り坂が始まる。
ガードレールからはみ出した大量の枯れ藪が、この道の利用状況を何よりも雄弁に語っている。
もし未舗装道路だったら、とっくに藪の中に掻き消えていたかも知れない。
明神峠への、短いが非常に急な上りが始まった。
最初のカーブを過ぎたところに、解放されたゲートがあった。
こういう道の通例としては立入禁止だが、ここの場合は開け放たれたままゲートが、勝手に朽ちていた。
それは、道路用のゲートとしては余り見ない、むしろ住宅のガレージでよく見る製品である。
なんとなく「私道?」という気がしたが、れっきとした市道だった。
路肩には残雪がすこしあった。
トンネルまでの距離はわずか300mほどだが、そのぶん勾配は厳しい。
特に、何もない道が続く。
峠の方向へ向き直って、さらにきつい上りが続く。
このストレートの路面状況には、不思議がある。
左側の低い法面と側溝とのあいだに、なぜか1m以上の幅があって、そこが深い藪になっているのだ。
側溝から道路側は舗装されているのだが、この本来舗装されている部分を全て合わせると1.5車線である。
しかし、法面の位置を見る限りは、2車線道路を作ろうとしていたのではないかと思う。
未成道路という現状を考えれば、設計後に道路規格のトーンダウンが起きた可能性も。
大好きな未成道路のテイストに酔いながら、きつい上りも鼻歌交じりで進むこと5分。
もう、峠の尾根が見えてきた。
峠そのものに、いまは道がない。
横たわる“グリーン”によって、旧来の峠道は消されてしまった。
ゴルフ場に寸断された峠の替わりに作られたと想像されるのが、この「天神トンネル」だ。
噂には聞いていたが、その異様な外見にまず、頬が緩んだ。
わざわざ、歩道用トンネルがある!
路面に描かれた矢印が、中央の穴に入って欲しがっている!
ああ、いま入ってやるよ!!
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15:51
ボク、どの穴に入ろうかな?
一番“ オイシイ ”左の歩道トンネルは帰りに取っておく として、
やはりここは無難に真ん中かな。
情報が極端に少ない(ここで言う情報とは案内看板のようなものだけでなく、道路標識など、道路を道路たらしめる様々な情報装置を言う)未成道路にあって、橋やトンネルの銘板は最大の代弁者である。
この道路にしても、地形図からも抹消された古き峠の名前を唯一留めるのが、このトンネル銘板だ。
銘板には、下に小さく「都留市長 都倉 昭二」の名がある。
市のサイトで調べると、都倉昭二市長は昭和60年から平成9年まで長期間市政を与っていた。
この道が、市道として建設されたことを強く主張する銘板である。
坑門に取り付けられた銘板には延長などの諸元を示すものがないが、地形図からは350m近い長さが読み取れる。
道路自体は未成に終わったが、このトンネルについてはちゃんと竣工していた。
ご覧のように、照明施設も整っている。(点灯はしていない)
都市型トンネルとでも言うべき、箱形の断面。
一旦は峠に至るまでの地山を全て切開し、開削工法で作られたことが断面から窺える。
この頭上のゴルフコースは、平成7年の完成である。
おそらくだが、ここにゴルフ場を作るにあたって天神峠の古道がコース内に組み込まれてしまうこととなり、地元の反対が有ったのではないか。
ゴルフ場誘致を進めたかった市側がトンネルを含む新たな車道を造ることで、住民を納得させたようなことがあったのだと想像する。
その後、いかなる理由によるものか、ゴルフ場は完成したが道の方は止まってしまったようだ。
それにしても、妙に息苦しい感じのするトンネルだ。
その理由は明らかで、巨大な柱が幾つも直立し、上下線のそれぞれ広くもない車道をセパレートしているせいだ。
つまり、道路用としては珍しい「単線並列」のトンネルとなっている。
普通に考えれば、たった2車線+片側歩道という交通容量を確保するために、このトンネルの構造は大仰すぎる。
なぜ、わざわざこんな手間のかかった構造になっているのか、素人には説明がないと分からない。
このトンネルは、開削式の割に土被りが大きい(最大30mくらいはある)ので、強度的に不安があったということかも知れない。
使用感が殆ど無い洞内。
ありがちな悪戯書きとかも見あたらない。
音もなく冷たい北風が通り抜けている。
入って最初の100mほどは右に結構な角度でカーブしていて、出口は見通せない。
カーブの途中では、前後共に光が見えなくなるところもある。
とにかく、飄々とした雰囲気だ。
写真は、平行する歩道トンネルと車道トンネルを連結する横坑。
こういうものが、50mおきくらいにある。
歩道トンネルは帰りに“取っておく”こととしていたが、そこは車道側にも増して、鬱々とした雰囲気に包まれていそうだった。
カーブが終わると直線となって、残り200mほどは出口まで見通せる。
洞内は、全線にわたって南高の片勾配である。
しかも、ここに来るまでの上り勾配を単純に延長したように、トンネル内の坂としてはかなり急だ。
何もないという表現が、こんなにしっくり来るトンネルも少ない。
意外な光景に遭遇した。
なんと、洞床のアスファルトの上に、かなりの量の剥離したコンクリート片が散乱していたのだ。
これは反対車線側に限ったことで、しかもこの一角(長さにして3mほど)だけだが、何か予期せぬ事が起こったようだ。
素人の考えることなので誤りがあれば指摘して貰いたいが、新規のコンクリートトンネルの壁面がこれだけ派手に剥離するのに、いくら手入れを怠ったからといって、十数年しかかからないというのは何かのアクシデントorインシデントだと思うのだ。
この散乱したコンクリートの元も分かった。
すぐ上の柱の上部に、大きな剥離痕が出来ていた。
亀裂などは生じていないので、あくまでも局所的なものだろうか。
とりあえず、トンネル全体の崩壊に繋がるようなものでは無さそうだ。
最後まで急坂のまま、南口へ到達。
この先は、同じ都留市でも夏狩地区となる。
15:59 通過。
勾配替わり点としての車道上の峠は、トンネルを出て30mほど掘り割りの道を進んだところにある。
海抜は約580mで、クルマを停めてきた加畑からの高低差が80mくらい。
まあ、小さな峠である。
未成である理由も、きっとローカルな事情だと思う。
振り返る、天神トンネル。
すぐ上にはゴルフコースが見えるが、道路とは歩道一本繋がっていない。
セパレートが、なんとも重々しいこのトンネル。
クルマでスピードを出して突っ込んだら、相当に怖い思いをするだろう。
次回は、髀肉の嘆をかこつ工事断念地点へ。
さらに、舞い戻っては、怪し妖しの歩道トンネルへ。
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