「ヨッキさんの好きそうなループ橋を見つけました!
ネット上にはほとんど紹介されていませんが、絶対に気に入ると思います。
是非見に来てください。」
同ループ橋についての情報は、別の読者様からも寄せられていた。(工藤様、ダラマスト様、ありがとうございました。)
場所は山梨県韮崎市。県道17号にあるという。
縮尺の大きな地図で確認すると、韮崎市街から西へ「七里岩」(しちりいわ)の上に登っていく県道の途中に、確かに小さなループが描かれている。
ループ橋という物自体珍しくはあるのだが、ここには特に変わった何かがあるというのだろうか。
車で「神岡」へ向かう途中、ちょっと立ち寄ってみた。
「ちょっと立ち寄ってみた」などとは書いたが、せっかく読者の教えてくれた物件である。
車で通り過ぎつつ写真を何枚か撮って、それで「体験済」というのでは、ちょっと味気なさ過ぎる。
ここは情報提供者と物件自体に敬意を表し、ループ橋が待つ上り坂の麓にあたる韮崎市街地で車を降り、チャリを組み立ててから出発した。
僅かな距離だが、これも「山チャリ探索」だ。
写真の左に「法面工事中」の看板が見えるが、道を挟んで民家の裏手、岩盤が露出しているのが見えるだろう。
これが、この韮崎から小淵沢付近(北杜市)まで延々28kmにわたって連なるという、「七里岩」の一部である。
甲府盆地から諏訪盆地へ連なる峡北地方に、独特の景観をもたらしている七里岩。
その細長くも途切れぬ岩稜の様子は、国道20号の車窓からも延々と眺められる。
ループ橋は、崖の上に待ち受ける広大な台地へ、さらに奥に控える秀峰・八ヶ岳へ近づく道である。
県道17号を韮崎市役所前から500mほど進むと、それまでの国道20号旧道から右へ分かれて、急に登りはじめる。
ループ橋はもう400mほど登ったところに描かれているが、交差点には特に交通規制を示すような標識もなく、至って平和である。
ネタになるようなループ橋が本当にあるのか、少し不安になった。
10%近いと思われる急勾配。
麓から急激に起ち上がる七里岩の斜面に対し、道はここまでジタバタせず、ほぼ直線的に黙々と高度を稼いた。
しかし、ボチボチそれも限界が来る。
「道路をつくっています」
来年の春には、ループ橋は全国でも“より”稀な、廃ループ橋になるかも知れない。
山梨交通の巨大な低床バスが、緑を突き破るように駆け下ってきた。
その迫力の前に、ついつい素通り… できない!
標識が…
常識のない標識だ!
この標識は傑作中の傑作だなー。
新しい道路が出来たら、この標識はどうなっちゃうんだろ。
もし要らないなら下さい(笑)。
珍品中の珍品だー。
まさに、『この先ループあり』
しかも、決して奇麗なだけのループでは無さそうな感じがする。
だって、標識に描かれたカーブは凄く角度がきつそうだし、
それに…
向かいの高い石垣の上にも、ガードレールが見えているじゃないか。
ループというと、山河や海を長大橋梁で悠々と跨いでいくようなイメージが強いが、こいつはもっと庶民的というか何というか…、「九十九折りとは兄弟です」とか言ってくれそうな雰囲気。
かなりコンパクトにまとまっているっぽい。
おそらくは、ループとしてはかなり最初期のものではないか。
このようなループの道から、世間でよく知られている巨大ループ橋へと発展したと考えるのが自然だ。
ここを九十九折りでは自動車が安全に登りきれないという判断があって、はじめてループになったはずなのだ。
いざ、ループの核心部分へ。
「Q」標識の50m先で、右ヘアピンカーブが始まる。
県道とはいえ主要地方道に指定されているだけあって、通行量は意外に多い。
しかし、路幅は2車線ギリギリしかない。
後続車両の途切れるのを待ってから、ようやく私はヘアピンに入ることが出来た。
出たーー!!
これーはー……。
橋というよりも、隧道だ。
しかし、隧道ならば山があるはずの場所に、道がある。
先ほど私を追い越していった車が、そこを通っている。
さらに近づいてみよう。
ぐぅわー!
どこ通ってくるんだよー(涙)
もう、ぜんっぜん2車線の意味無いし。
まあ、大型車規制は別にかかってないんだけどね…。
いいタイミングで、良いもの(?)を見てしまった。
のっそのそとトンネルをくぐった大型トラックは、路肩で小さくなってやり過ごそうとしている私に対し、いかにも迷惑そうに巨大な鼻面を近づけると、、プシュンプシュン吐息を吐きながら背後のヘアピンへ入っていった。
で、ハッとして撮影したのが左の写真。
ちなみに、このヘアピンカーブでも、完全に2車線全部を使って曲がっていってました。
ヘアピンのくせにインにもアウトにもぜんぜん路肩がないのは、幹線道路として間違ってるよねぇ。
さあ。
大型車がまた来る前に、隧道を観察だ。
なんと言っても目を引くのが、この独特の卵形断面だ。
この種のアーチは「多心円アーチ」と呼ばれており、複数の円弧を重ね合わせたような複雑な形状である。
力学的な強度は真円に劣り、よく見る馬蹄形の断面にも劣っているのだが、交通に対して無駄となるスペースを少なくできる形状であるため、地被りの少ない隧道や暗渠などに利用されていた。
最近は建設されておらず、卵形断面=戦前? というような目安を私は持っている。
ちなみに、扁額や銘板、その他装飾的要素は一切無い。
唯一、アーチ部分に夜間接触防止用の黄蛍光色塗装が施されているだけだ。
まあ、大型車があんな状態で通っているくらいだから、この内壁一面の傷も頷ける。
しかし、頑張ってるなこのトンネル。
あともう少しの辛抱だぞ…。
隧道内部だけは直線だが、出るとすぐにまた右カーブが始まる。
そして、
このカーブは270度も曲がって、隧道の上を跨ぐことになる。
隧道下のヘアピン(150度) + 隧道上のカーブ(270度)
= 合計 420度ループカーブだ!
隧道部分を振り返って撮影。
卵形断面が際立って見える。
隧道内にもセンターラインがあるが、これを守って走れるのは普通車以下だけだ。
この隧道(のようなもの)だが、なんと本当に隧道として名前まで付けられていることが、帰宅後の調べで判明した。
『道路トンネル大鑑』(隧道データベース)には、この県道の旧名「小淵沢韮崎線」の隧道として、次の1本が記録されている。
青坂隧道
延長7m 幅員5.1m
限界高5.4m 竣工昭和7年
覆工あり 未舗装
7揃いのラッキー隧道。
延長7mって、こんなに短い隧道は珍しい。かなり珍しい!
そして昭和7年竣工とは、想像よりさらに古い。図らずもループの完成年も分かったことになる。
…これよりも古いループ道って、いったいどのくらいあるのだろう…。
隧道の全長は7m、上を通る道も幅7m。
下を通る車がすぐ近くに見えて、新鮮な眺め。
ガードレールが低めなので、チャリの場合は下を見ようとして転落しないように注意!
ループは「Q」標識から隧道の上を跨ぎきるまでと考えて、450度分、長さ230m。稼ぎ出した高低差は15mほどか。
ループという大がかりな“装置”を作った割に控えめな成果という気もするが、昭和7年という古さを考えれば、ループがあるだけで大きなニュースだったと思う。
ループ部分を抜けると、また直線の厳しい上り坂が始まる。
これに300mほど耐えて、ようやく広々とした台地へ開放される。
登りきったところで、左側に工事用道路が別れていた。
将来はここが新道になるらしい。
きっとループは再現されないであろうが、どのような道になるのか期待して待つことにしよう。
韮崎の等身大ループ道。
賞味期限ギリギリではありましたが…
しっかりと堪能させていただきました!!
調査完了