ミニレポ第151回 富山県道187号荒屋敷月岡町線 

所在地 富山県富山市石渕
探索日 2010.5.17
公開日 2010.6.23

行き止まりの県道の力尽きた新道



なんの脈絡もなく、マイナーな県道を紹介する。

富山県道187号「荒屋敷月岡町線」は、富山市(旧大山町)内の山と平野を結ぶ、幾つもある行き止まりの県道のひとつである。
全長は約12kmで、道中にはこれと言って大きな集落も、観光名所になるようなものもない。

それを敢えて紹介するのであるが、きっかけは読者さんから寄せられた情報である。
「気になる道がある」らしいので、さほどアクセスの難しいような場所でもないし、通りがかりに寄ってみたのが今回のレポートだ。

…気軽にね。







情報があったのは、この道の終点側に近い下渕地区である。
そこまで行くのも、この県道187号に拠った。
神通川支流の黒川に沿って一本だけ奥まで通じているのがこの県道で、現在のところ他に乗用車でアプローチ出来るようなルートは無い。

なお、途中は見ての通り、何の変哲もない2車線舗装路である。
むしろ、交通量の割には良く整備されている印象だ。




起点から8.5km付近の上瀬戸バス停前。
辺りは既に山深く、ときおり集落はあるが、緑の方が圧倒的に勝っている感じだ。

そしてここではじめて、これまで一度も揺らがなかった「2車線」を危うくする「幅員減少」の標識が現れた。
目の前の橋は「上瀬戸橋」で、平成6年完成の銘板が付いていた。

いよいよ「気になる道」が現れそうな雰囲気か…?




2010/5/17 8:01 【現在地(マピオン)】

予告された「幅員減少」の正体は、分岐地点だった。

そして、この分岐のカタチや左右の道幅の対比は、見慣れた風景である。
すなわち、新旧道の分岐地点に他ならない。
この場合もちろん、左が旧道で正面が新道の姿に見える。

だが、今回は何かうまくない事情があるようだ。

正面の新道は、半分だけバリケードで塞がれており、まだ開通していないらしい。
代わりに県道の終点である小坂集落方面へは、左折の旧道が案内されている。




うほ! トンネル発見!

私の手持ちの道路地図でも、左の狭い道を県道の色で塗って案内してあり、正面の広い道はいかにもバイパス的な感じでトンネルを抜いて先へ通じているのだが、着色されておらず、しかも山中で唐突に終わっていた。

そして現地に待ち受けていたのは、やる気の無さが滲み出ている中途半端に封鎖された分岐と、照明の取り付けられていない空虚を絵に描いたようなトンネル…。

もう、お分かりですよね?

こいつの正体は…

未成道!




今さらどうでもいい話だが、分岐地点のちょうど真ん中に置かれている写真の「道路情報板」。

こいつは、

新道と旧道のどちらを相手にしてるんだろう…?

普通にこの位置を見れば新道の方だが、その内容は「落石」とか「カーブ」とか、眼前の新道には似つかわしくない気が…。




一応の礼儀というわけではなく、“体験するため”の準備として、車を停めてチャリを準備した。

チャリに跨り、いかにも豪雪地に相応しく、また十分に現代的な印象の、地山から大きく突出した坑門に近付いていく。

金色の銘板に描かれた字の中には、私がはじめて目にする文字があり、それはちょっとだけ誇らしげに見えたのだが、背後の真っ暗な洞内から漂う侘びしさがそれを打ち消していた。




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見たことの無い字…

それは、

 貂。

テンである、テン。
あのリスみたいな小動物のことだよね。

さすがに管理者も読めないと思ったのか、扁額にふりがなが振られており(珍しい!)、さらに…




工事銘板はひらがなだった!

てんとび(貂飛)トンネル
1990年10月
富 山 県
延長 247m 巾 7m 高 4.7m

今年で開通から20年目。
一応平成生まれではあるが、もう「成人」である。




そして洞内。

洞内は全線上りである。

上りながら、右に一方的に曲がり続けている。


つまり、チャリだと結構しんどい。


そんなに急坂というわけではないし、薄暗い洞内は土の冷たさに満たされているために、ヒートアップすることもないのだが、外の光以外なんら目指すモノのない登り坂は、チャリにとって結構しんどいものである。

本当にこの隧道には何もなくて、空虚という言葉がぴったり来る。





貂飛トンネルは無事完成したものの、結局本来の目的は達することなく、県道になることもまたなく、中途半端に供用されている。

そんな状況を思えば、この小綺麗なトンネルは大変に気の毒なもののような感じがする。

雨風に晒されている坑口を除けば、トンネルは路面を含め、新品同然である。
開通から20年も経過しながら、未だこのトンネルには“年輪”が刻まれていない。
そこには、便利を喜ぶ地元の声も、旧道を懐かしむ想い出もない。

私のような好き者に相手されるだけの、1年…2年…20年だった。




貂飛トンネルの南口である。
この扁額は初めからひらがなで書かれており、よほど「貂飛」という風流な良い名前だと思うが、読んでもらえない自覚があったのだろう。

それはそうと、こちらは下り坂の途中に口を空けた黒い穴であり、帰りにチャリでライトを付けないまま勢いよく突っ込んだところ、あまりに暗いので目の「暗順応」が追いつかず、40km/h近い速度を出したまま一瞬サドルの上であたふたした。
トンネル全体が左にカーブしているのでハンドルを操作し続けなければならない頭があったので、ほんとあの一瞬は怖かった。

…調子に乗ってはいけないと言うことだ。
ライトのないトンネルには、ライトを付けて入りましょうね。




8:23 【現在地(マピオン)】

全長約250mの貂飛トンネルを抜けると、すぐにご覧の分岐地点である。
直進が本線だが、ここにも一車線を塞ぐようにバリケードが置かれていた。
そして左の道の先を目で追うと、公園のようにツツジの植えられた築堤の下に、一軒の民家が見えた。
どうやらこれが大字にもなっている石渕の集落のようだが、集落というか、家は一軒だけ。

そして地図を見ると、新道はこの先に“何もない”ことになっている。
逆に言うと、この石渕集落の(おそらく)一軒のお宅だけが、貂飛トンネルの必然ある利用者ということだ。
もちろん、旧道沿いには「石渕バス停」もあるので、集落から旧道に下る道もある。
気分によってどちらも使えて…なかなか、便利だ。




むむっ…。

石渕集落の分岐を過ぎると、いよいよあやしい雰囲気が出て来た。

淡々と上り続ける道は、相変わらずセンターラインの消えかけた2車線舗装路なのだが、路肩から“緑が溢れ”はじめている。
廃道化の第一歩だ…。

それに、なんかこの道は“演出過多”というか、お金が掛かりすぎている気がする。
だって、さっきの築堤に整然と植えられたツツジに、今度は右の並木はサクラである。
まるで観光道路だが、あと集落一つ二つを数えて終点になってしまう県道のバイパスとしては、ちょっとやり過ぎじゃないの?
受益人口というのが沿道住民だけだとしたら、この先の区間ではせいぜい20人くらいじゃないか?

まさか、無理が祟って工事中止になったの??






あぁ…。

地図通りの結末だ…。


しかし、ほんと何をしたかったんだこの道は?




つづく





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