ミニレポ第252回 福島県道383号熱塩加納山都西会津線 ひめさゆり狭区

所在地 福島県喜多方市
探索日 2015.07.14
公開日 2020.04.04

山上のお花畑へ通じる怪しい県道


《周辺地図(マピオン)》

福島県道383号熱塩加納山都西会津線という道があるのだが、この長い路線名をすらすらと読めるのは、地名に詳しい人だけだと思われる。
みなさんも一度、私と一緒に声に出して読んでみよう。please repeat after me.

「熱塩加納山都西会津線」

熱塩(あつしお) 加納(かのう) 山都(やまと) 西会津(にしあいづ)線 である。

ここで、県道の路線命名規則を知る人なら、疑問を持つはずだ。
なぜ地名が「熱塩」「加納」「山都」「西会津」の4つも連なっているのか。規則では最大3つまでではなかったかと。
この疑問への答えは単純明快。「熱塩加納」で一つの地名なのである。
喜多方市熱塩加納町相田を起点に、同市山都町一ノ木を経由して、耶麻郡西会津町奥川飯里に達している路線であるから、何もおかしいところはない。
ちなみに、この県道が認定されたのは平成4(1992)年と比較的最近で、当時また熱塩加納村も山都町も喜多方市と合併していなかった。

このように一見すると地名が4つに見える路線名はたまに見るが、この県道の場合、路線名より素性の方に問題が大きい。
この路線、遠方の人がわざわざ通過しそうにない山間部を縫うように走っているのであまり目立っていないが、会津地方を代表する険道である。
最新(2018年4月1日現在)の福島県資料(pdf)によると、実延長は42.3kmもあり、これは県内の一般県道では3番目に長いが、これに占める幅員5.5m以上の区間(おおよその2車線区間)は、わずか5.5kmしかないという狭隘ぶり。さらに、砂利道の区間も12km以上あることになっている。

それでも、いわゆる【自動車交通不能区間】供用中の道路のうち、幅員、曲線半径、こう配その他道路の状況により最大積載量4トンの普通貨物自動車が通行できない区間をいう。は「ゼロ」と計上されており、特に災害などによる通行規制がなければ、4トン普通貨物自動車までは、全線を通行できるということになっている。

しかし、個人的にはどうしても4トン普通貨物自動車=中型トラック(画像)が通れるとは思えないのが、今回紹介する区間だ。
この県道が誇る長大な狭隘区間の中でも、飛び抜けて「きつい」と思える区間があるのだ。



それは、起点から3.7kmほど走った熱塩加納町米岡から、熱塩加納町宮川にかけて、約700mの区間である。

35km以上も狭い区間があるなかでは、ほんの一握りに過ぎないたった700mであるが、この区間は市販の道路地図には書かれていないことが多い。
右図は、お馴染みの昭文社「スーパーマップルデジタル」の最新版の表示だが、県道383号が途切れているように描いている。
なお、赤い点線は私が書き加えたもので、「グーグルマップ」はこの迂回ルートを堂々と県道のように描いているのだが、間違いである。

チェンジ後の画像は「地理院地図」で、この地図は県道をおそらく正しい位置に描ききっている。
しかし、その記号は「軽車道」(幅1.5m以上3m未満)を示しており、他の区間よりも細そうである。
ちなみに、中型トラックの最大幅は2.5mと規定されているので、「軽車道」の幅はだいぶギリギリである。

なお、今回のレポートを書くに当たって、タイトルをどうするか考えたが、狭区の名前がピンとこなかったので、「ひめさゆり狭区」と勝手に名付けてみた。
この区間のすぐ近くに県の観光サイトにも掲載されているひめさゆり群生地があるので…。
もしかしたら、この区間内でも可憐な花を見られるかも知れないしね。

というわけで、今回は長大険道の入口に待ち構える短小狭隘区間を紹介するぜ!





2015/7/14 10:10 《現在地》

ああ!会津地方だなぁと思える景色から、こんにちわ。
ここは喜多方市熱塩加納町米岡の田中という集落だ。

カラフルなトタン屋根が軒を並べるこうした集落風景は、会津地方の一つの典型だ。
その中にひときわ高い屋根のボスキャラみたいな家が混ざっているが、それらは茅葺き屋根のトタン葺きである。
会津地方ではこうした方法で今も茅葺き屋根を大切に保存している農家が、まだまだ沢山ある。

夏の会津“農村風景”の第一印象を紹介し終えたところで、さっそく県道探索に入る。足はもちろん自転車だ。
目の前の2車線道路は、喜多方市街地から伸びてきた県道335号大平喜多方線で、我らが県道383号とは短い距離重複している。

そしてそこに見える、思わず「おいおい」と言いたくなるほど傾いた、さらに文字の消えかけた小さな青看が、2本の県道の別れを言葉足らずに告げている。
県道383号は、起点から約3km地点のここを左折することで、初めて車線数が1になる。これ以上減ることの出来ない最低の数に。
青看の左折の行き先表示には、「中川原」とある。
この辺りが初めてではない私でも聞いたことがない地名だったが、覚えておいて欲しい。




左折すると、重装備ヘキサがお出迎え!
もっとも、この3枚構成の重装備は、福島県標準である。
全国でも福島県だけが、ヘキサ標識板を2枚使って1本の県道標識を作っている。
しかし、3枚の標識板が文字と数字で溢れかえっているのが凄い!

特にローマ字の部分は無理があるだろ(笑)。
「Atsushiokano↔Yamato-Nishoaizu」って、文字サイズが圧縮されて2列目少し小さいし…。
加えて、一番下の補助標識に書かれている距離の遠さも、うんざりする。
実態としてこの大半が2車線未満であり、しかも「山都」は終点ではないという…。
まあ、敢えての全線走破とかは、こういうのが好きな人向けの苦行です。完全に。

そして、青看の背後にこんもりと緑の山が横たわっているのがよく見えるが、紹介したい狭隘区間は、さっそくあそこにある。
あの山を登っていくところが、問題の区間なのだ。




青看を見送って、田中集落に面した田んぼを進むと、橋が現われた。
地図を見ると、濁川というそこそこ大きな川らしいが、橋には銘板類が一切なく、名前や竣功年を知る手掛かりがなかった。
外見にも特徴が乏しく、古くも新しくもなさそうな、普通の1車線の橋だ。
しかし、橋の前後には、真新しくて充分に広い待避所が用意されており、この県道を通りやすくする改良が最近行なわれたようだ。




10:12 《現在地》

レポートのスタート地点から、平坦な田んぼ道を250m進むと、この丁字路にポンと突き当たる。何の案内もないが、県道はここを左折だ。

なお、右折した先に中川原集落があり、分岐地点からよく見える。
そんなわけで、1枚目の写真に登場した青看の行き先「中川原」を、早くも回収してしまった。




あ〜…  気持ちの良いロングウェイだね〜。

のほほ−−−ん



のほほー


長閑なたんぼ道の真っ只中で、突然、

“なぜか” 舗装が変わり 白線が消えた。

傍らには、少しだけ、いつもより顔を背け気味の、ヘキサ…。




10:13 《現在地》

ご名答!!!

県道はこっちですよー。


見たところ、なんの規制標識も掲げられていないし、封鎖もないようだが、

ここ、本当に4トントラック、大丈夫〜…?

(物理的に大丈夫、大丈夫じゃない以前に、「入ろうと思わない」が、大多数だろうが…)



「大丈夫だよ! 通り抜け出来るよ!」

そう言わんばかりに、「山都町 34km」と、
福島県では旧式感のある“シングルヘキサ”がアピールしてくるが……
こんな始まりで34kmもあるとかって……、普通の人は全員帰るよ(真顔)。



……でも、この先にひめさゆりが待っているらしいので(←実はどうでもいい)、行こう。
ヘキサが積極的にアピールしてくる、どう見ても怪しい区間に、車を進めた。
振り返ると、地味に白線が帰宅を拒んでいた(苦笑…)。

ここに分かり易くヘキサを立てる福島県の律儀さは、
ナビクマちゃん”の頃から変わってないんだなって思ったね…。
黙って直進した方(=グーグル迂回路)が、楽にひめさゆりに会えるのに。



狭い! というより、拙(つたな)い!

そんな印象が先に立つ。 一応、コンクリートで舗装はされているけれど、
白線とか、防護柵とか、カーブミラーというような現代的道路の備品が全くないので、
なんか、ただ舗装してあるだけの林道……、いや、それ未満の作業道とか…
むしろ、その辺の集落でよく見る“私道”っぽいまであるぞ、このショボさは………。
登るだけ登って、大きなお屋敷とかで終わってそうな雰囲気の道だ。

入口から見えていたのは、最初の直角に近い右カーブまでだったが、

そこを曲がり終えようとした、私の目に飛び込んで来たのは――




やけくそっぽい激坂!& 反対向きのヘキサ。


気圧されながらも、辛うじて足元に目を向ければ――



「福島県」ではなく、「熱塩加納村」と刻まれた、用地杭が。
しかもこれ、この後も沿道で点々と見つけまくることになるのだった。
(見慣れたサイズの用地杭に5文字も入れるのは窮屈そうだった。村名長いと大変だ…)

県道なのに「福島県」ではなく、村名が入った用地杭がある理由は、
県道が認定された平成4(1992)年以前に村道として建設された道ということだろう。
こういうところにも、地味に道路の来歴を知る手掛かりはあるものだ。

村道が県道になるのは珍しいことでも悪いことでもないけれど、
なんでこの村道を選んだんだろうという疑問はあるんだよな。後述するけど…。



振り返ると、ちょっと傾いたヘキサ。
これも福島県にしては珍しく、シングルヘキサである。

しかし、この道幅と、この見通しの悪さである…。ヘキサを立てる場所は、
わざわざ、ここでなくても良さそうなのに、県は、この区間が県道であることを、
双方向の交通に、どうしてもしっかり周知したいようだぜ…。



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