ミニレポ第263回 旧大規模林道葛巻田子線 田子町山口の未成区間 後編

所在地 青森県田子町
探索日 2022.05.04
公開日 2022.05.14

大規模林道、その忘れ形見の歪な姿に涙した


2022/5/4 5:21 《現在地》

国道から地図にない道を辿ること約2.4kmにて、唐突に分岐地点が現われた。
今回私は、“事前資料”によって、ここまで来た道の素性が山のみち交付金林道であることは知っていたが、この分岐の存在は情報にはなかった。

事前情報によれば、この林道の路線名は、嘉沢関(かざわせき)線という。
起点は私が入ってきた【あの交差点】で、終点は、この分岐の左の道を進んだ先にある。
嘉沢関線は、緑資源幹線林道整備事業の代替として発足した山のみち交付金林道整備事業によって整備された。

嘉沢関線の起点からここまでのルートは、概ね従来の大規模林道および緑資源幹線林道・葛巻田子線の計画線をなぞっていた。
だが、この辺りから先のルートは、葛巻田子線とは無関係の新規のものだ。

そのような境界的な領域で出くわした“情報にない分岐”に、私が色めき立たないわけがなかった。
なぜなら、自然と次のような想像に至ったからだ。
右の道は、葛巻田子線のルートをなぞろうとした未成道ではないかという想像に。



これは分岐地点からの眺望だ。
この場所は路肩には樹木がなく、ここまであまりなかった見晴らし地点になっていた。

ここからは、今回の出発地点である国道104号や山口などの集落がある熊原川の低地が見えた。
今回の探索のここまでの内容の全てといえる約2.4kmの上り坂で、この見下ろしている170〜180mの比高を獲得したのである。
そしてこれは、大規模林道が獲得しようとしていたもっと大きな高度の序盤を再現したものであった。

また大規模林道は、熊原川の低地を挟んだ向こう側に見える浄法寺との境にある山並みを越えて、ここへ来ようとしていた。
向こう側の山越えはギリギリで間に合ったが、その次に挑むはずだったこちら側の山は、ついに越せずに終わってしまったのであった。

……そうしたことに思いを致しながら……




右の道に突入してみる!

分岐地点にも、道の素性に繋がりそうなアイテムは何もない。

路面に砂利が敷かれた形跡はあるが、ほとんど轍を感じない。



……未成道っぽい。



分岐の形だけがあって、その先に道はないのかとも思ったが、

どうやらそうではないようだ。

奥のスギ林の中へ延びていっている。



だが、スギ林の中にあるのは、期待していたような道ではなかった。
ぶっちゃけ私が期待したのは、未成道っぽい道。
しかし、ここにあるのは今回の探索では初めて出会う、古ぼけた造林作業道だった。

ようするにあの分岐は未成道の名残ではなく、最近建設された嘉沢関線と、
昔からここにあった造林道を繋ぐものとして用意されたのだろう。
分岐部分を現代的に作り直したから、未成道っぽく見えただけだろう。


5:23
案の定、その道は分岐からいくらも行かないうちに、小さな尾根上で別の道と接続していた。
ここが私の地元なら見つけた全ての道の終わりを確かめたいと変な欲を出したかも知れないが、それをするには人生は短すぎるので、ここは潔く引き返すことにする。
はっきり言えることは、これらの道は、今回の調査対象である嘉沢関線が整備される以前から、この辺りの山を管理するためにひっそりと整備されていた道だろうということだ。

(航空写真を確認したところ、ここから尾根を上った先にも広い造林地があり、右の道が通じていることが分かった)




というわけで、未成道を期待した右の道は見事な空振りだったが、分岐へと引き返すスギ林の中で、これから進む嘉沢関線が描く豪快な九十九折りを見下ろせたのは一応の収穫だった。


5:25
分岐へ戻り、それから今度は左の道へ進む。
そうすると即座に豪快な九十九折りの下りが始まった。
直前にスギ林の中から見下ろした九十九折りだ。

こうして文章や写真で表現しても、「ふーん、下っていくんだね」という感想しか貰えなさそうだが、ここは私にとって今回の探索における盛り上がりのピークとなった。
なぜなら、遙か山の上のゴールを目指して計画された大規模林道が、山のみち交付金林道への継承に伴う計画の縮小を受け入れて、全く逆方向へ急転直下に下山していくのである。

道路(林道)としての生存を懸けた悲しい挫折が、ここにあった! 
↑熱い展開だと思わないかッ!



九十九折りで一気に高度を下げた後も下り方のペースは衰えず、標識などで明示したものはないものの、おそらく平均15%くらいの激坂で南へ下り続けていく。まるで促成栽培をしたような林道。そんな印象だ。

全体的に緩やかで土工がオーバースペックだった前半戦とは、完全に別の道を辿っているようにしか思えなかった

が、間違いなくどちらも同じ嘉沢関線である。

このような印象の違いの原因は、いうまでもなく、前半戦は大規模林道を継承した線形であり、後半戦は山のみち交付金林道として全く一から設計された線形であるからに他ならない。
まるで伝説の合成怪物、キメラのような道だと思った。
全ての道路は人工的だが、誕生の経緯が自然発生的なものと、このように歪なものでは、膚に触る感触がまるで違うように思った。



5:31 《現在地》

前半戦で稼いだ高度を一瞬で半分投げ捨てた。
もしこちら側から自転車で登っていたら、ただただしんどい印象しかない道だったろう。

ところで、道はまだ終点には着いていないが、ここに分岐があった。
先ほど尾根の上で出会った造林道をここで突っ切っていく。
写真は分岐を振り返って撮影したもので、左が造林道である。私が下ってきた右の林道も十分に急勾配だが、造林道は桁違いの急坂で、規格なんてものが存在しない世界の住人なんだと思った。




かなり下ってきたが、まだ下界まではもう少しある。

この道は、前半で上って、後半で下る。
このように書けば、峠越えをしたのかなって解釈する人が多いと思うし、当然私も自然とそう考えたくなるが、現実はそうではなく、入口があったのと同じ熊原川の低地へ下りていっている。
このこともまた、林道嘉沢関線が生まれた特殊な背景と関わりがありそうで、一種の闇の深さのようなものを感じさせるポイントだ。

最終的にどこへ通じているかを読者諸兄もまもなく知ることになるが、そのとき、なんとも言えない感想を持つと思うよ。



上ってきたときのような観察の目を周囲に向ける要素もあまりないままに、平成20年代生まれのまだ新しい林道を下り続けた。
当然、あっという間に探索は終わりに近づく。
夜明け前の午前4時台の山に登って私がしたことは、地上よりもほんの数分だけ早く今日の朝日を出迎えたことだった。そして、私の下山と共に、谷間の地上にも朝日が注ぎ始めた。




麓の家並みが近づいてきた。
ここは関の沢と呼ばれている沢の出口で、林道の終盤はこの急流の沢に沿っていた。
ようやく急勾配の下りは終わり、個性の乏しい道となった。

そしていよいよ集落に出会うと、その名も集落センターと名付けられた、平たくいえば公民館があった。なぜこの道をレポートしているのかも忘れそうな普通に過ぎる道だが、ここで起点以来初めての舗装が現われた。もっとも、この辺は昔からある道なのだろう。



5:41 (どこに下り着いたかは、まもなく発表します)

集落センターから50mほどで、広い道に突き当たった。
突き当たった道は、スタート地点があったのと同じ国道104号だった。
この場所が、林道嘉沢関線の終点である。
起点を出発してから約1時間、最高所付近にあった分岐を下り始めてからわずか15分で、嘉沢関線の全線走破を達成した。

チェンジ後の画像は、国道側から振り返った林道の終点だ。
なんの案内もないが、そもそもこの光景を見てどこかへ通じている林道の入口だと思う人は、ほとんどいないだろう。
だって、国道側の歩道の縁石も切れてないんだぜ。低くはなってるけど…。
普通に民家の入口にしか見えない!

これが、波瀾万丈を生きた大規模林道の悲しい末路だった。

現地探索終了! 以下、振り返っての机上調査へ。





このことは、終点が異常に目立っていないこと以上の悲しみポイントだといえると思うのだが、最終的に下り着いた終点は、なんと起点からわずか800mの至近の位置だった。

地形図に書かれていない林道嘉沢関線の(GPSログを元にした)全体地図は右図の通りで、起点は田子町大字山口の嘉沢という字で、終点は同町の大字関である。だからこそ嘉沢関線という路線名なのだが、この嘉沢と関は国道104号沿いに横並びの集落であり、両者は国道の道なりにたった800mしか離れていない。

この間近な両集落を繋ぐために林道嘉沢関線が辿った軌跡の長さは約4kmあり、5倍も迂回している。
林道の主目的は林業なのだから、何も起点と終点を短い距離で結ぶ必要はないが、この道が誕生した経緯を考えれば、やはり強烈な肩透かしの感じを受ける。

なにせこの道は、「国道級の林道」を謳った大規模林道の後継である山のみち交付金林道として、壮大で多彩な道路機能の再現を目指しながら、元大規模林道につながる起点から意気揚々と山に入っていた道だ。
それが約10年後、遂に完成したと聞いて走ってみれば、確かに起点から終点まで道は通じていたものの、計画全長14kmだったはずの道は4kmしかないし、十和田湖の近くへ行けると聞いていたのに、辿り着いたのは起点から800m隣の集落だというのでは……、肩透かしもいいところで、「こんなの全然大規模林道じゃないじゃん!」と怒り出す人もいるかも知れない。

仰るとおり、こいつは大規模林道でもなければ緑資源幹線林道でもない、田子町が管理する普通林道嘉沢関線なんですよね…。
ただ、山のみち交付金林道整備事業という国庫補助事業で整備されたという経緯があるだけの、どこにでもある普通の林道だった。

そして、チェンジ後の画像に表示した緑の線は、後述する資料によって判明した、大規模林道計画路線の大まかな位置である。
こうして重ねてみると、起点から【1.5km地点】くらいまでは、嘉沢関線と一致していたようだ。
だがその先、【2.4kmの分岐地点】辺りまでは並行する別路線となり、そこから終点までは全く新規の路線として設計されたようである。
このような背景によって、嘉沢関線のキメラ的二面性ある道路風景は生まれていたのだ。
しかしほんと、燃料不足で墜落したロケットみたいな経路である……。もっと燃料を積んでから打ち上げて欲しかった…!



ここで今回のレポート中に何度も登場した“事前情報”のタネあかしをする。
それは、「山のみち地域づくり計画」という行政資料だ。

平成20年3月末に緑資源機構が解体されて事業主体を失ってしまった緑資源幹線林道だが、当時全国に約700kmあった未完成区間の処置について、次のような方向性が示された。

未完成区間を抱える市町村が事業の継続を希望する場合、原則的に国はこれを拒否せず、道県が事業主体となる「山のみち交付金林道」として、道県が従来程度の負担となるような高率の国庫補助を与えた上で整備を継続する。
ただし条件として、道路の規格は原則的に完成1車線、幅5mへ縮小し、それ以上の整備を行う場合は市町村などの負担とするほか、状況によって施工区間の削減を受諾するものとする。

各道県は地元自治体の希望を聞きながら「山のみち地域づくり計画」を策定し、これを国が承認して交付金が支給される。道県が交付金を使って整備を実施し、完成した道路は順次地元自治体に移管されるという経過を辿ることになる。

青森県の「山のみち地域づくり計画」はわずか2ページからなる本文のない図表だけのPDFだったが、現在はリンク元が消失してしまった(?)ようなので、以前保存しておいたデータをもとに説明したい。
(元データを見たい方は、こちらに→1ページ2ページ

右図は同計画書に掲載されていた図を分かり易く再構成したもので、緑線が当初計画されていた大規模林道(緑資源幹線林道)の計画路線、赤線が実際に普通林道として整備された山のみち交付金林道である。

今回探索した嘉沢関線(全長4063m、幅4m)の他にもう1路線、さらに長い小雷鉢貫通(こらいばちぬきどおし)線(全長9177m、幅4m)が計画されていた。
そしていずれも平成22年に着手され、平成31年に完成済である。

この2本の新設林道を合わせると全長は13kmほどで、もともとの計画路線と大差ない。
ただし幅は半減し、しかも未舗装である。
そして意外なことに、今回探索した嘉沢関線の起点付近の一部くらいしか、大規模林道の計画線をなぞっている部分はない。

なぜ、これほど大きな計画の変更が行われたのか、経緯は公表された資料になく不明である。
国が受託を迫ったのか、地元サイドが要求したものなのか、分からない。
ただ、全長の長い小雷鉢貫通線については、半分程度が従来あった林道の改良なので、実質的な新設延長はもっと短くなっている。

計画変更の経緯は不明ながら、国道104号と県道21号を結ぶという大規模林道の主要な機能は、新設の小雷鉢貫通線と既設の朝比奈線という幅5mの林道を併用することで、かなり遠回りだがどうにか実現は出来たようだ。実際に通行した経験がある人は、ぜひこの道の感想を教えて欲しい。

一方で、嘉沢関線については、もともとの大規模林道の経路の一部をなぞったものではあるのだが、起点から上って起点近くに下りて来るという悲しい出戻りの経路になっているので、純粋にこの沿道の山林の管理目的で必要とされたのだと考えられる。
事実、沿道には多くの伐採地が広がっていて、林道としてちゃんと利用されている様子もあった。地図上ではいかにもムダっぽく見えるかも知れないが、意味はあるのだと思う。
ぶっちゃけ、山上で行き止りにせずに下りてくる経路としたのは、必ずしもその必要性の乏しい、しかし通り抜けできることが前提である大規模林道の後裔としての地元へのサービスなのではないかという勘ぐりもしたが……苦笑。


いろいろな事情によって元の計画の通りに作られなかった道路が、大きく姿を変えて実現していった経緯は、素直に面白い。
道路という形あるものの背後に潜む、整備の経緯という地味な物語は、資料として残されたり、誰かが語ったりしなければ容易く消えてしまうものだけに、こういうややこしい経緯を持つ道こそ、記録を残しておいてほしいものだ。
林道嘉沢関線など、事前資料が目に留まらなければ絶対に立ち入ることのなかったマイナー林道だが、話を知ってから見ると本当に愛おしい道だ。
以上、山行がの中でもかなりマニアックな内容に終始したレポートになってしまったと思うが、気に入った方はぜひコメントを残していって欲しい。




完結。


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