2010/4/21 12:14 《現在地》
昭和37年完成、昭和43年廃止の千頭森林鉄道逆河内支線、全長3790mを探索中。
現在は起点大樽沢から250mほど進んできた地点で、早速一本目の隧道が現われた。
その坑口は半ばまで土砂に埋もれていて、発見した時点では貫通していないのではないかと心配をしたが、いざ坑口の前に立って覗いてみると、50mほど先に出口の歪なシルエットが見えたので、とりあえず安堵した。
なおこの隧道は、今から1時間ほど前に、すぐ下の本線を探索した際、【このように】目撃されていたものだ。
隧道を、通って、出る。
「もう少し味わって」とか言われそうだが、余り味わうものもない。
至って普通でシンプルな、両側坑口部のみがコンクリートで巻き立てられた素堀の廃隧道である。
…今日に限っては、えらい贅沢者になってますから、自分。
というか、千頭林鉄にいる最中は、誰もがこうなる(きっとなる)。
いずれは全部土砂に埋もれてしまいそうな出口(←)と、
坑口に連なるコンクリートの擁壁が、林鉄にしては今風な印象の前方風景(→)。
昭和30年代も後半になってから作られた林鉄というのは珍しく、林鉄用としては一番現代の土木構造物に近い世代なのだろう。
もっとも、言われなければ新しさに気付けないくらい、荒廃しちゃってるが。
うひょーー!また出た隧道!
やっぱり贅沢だーー!
勿体ぶったりなんてしないんだぜ。
12:20 《現在地》
本当の名前が別にあるかは知らないが、とりあえず「逆河内第2号隧道」だ!
隧道の前がちょうどカーブしているために、これだけ近付いても、まだ貫通しているのかは分からない。
でも、満面の日光を浴びて、気持ち良い場所。隧道にしては明るい印象だ。(これで閉塞だと一気にテンションが下がるが)
なお、この隧道で気付いたのが、坑門の上部両側に疏水溝と思しき切れ込みがあることだ。
写真を見直してみると、1号隧道にも同じ溝があったので、本線の隧道にはない逆河内線の特徴らしい。
なお、大間川支線の隧道においても、昭和30年代に延伸工事が行われた区間にのみ、同じ溝がある。
東京営林局ないしは千頭営林署の設計自体に変更があったと思われ、今後同局内の隧道竣工年を判断する上で、ひとつのヒントになりそうだ。
そしてこの2号隧道が抜いている尾根の30mほど下には、本線の【この隧道】があった。
ガーダー橋とセットになっていた、印象深い隧道だ。
残念ながら木々が茂っていて直接目視することは出来ないが、地形にその存在を感じることは十分出来る。
というわけだから、2号隧道をくぐってしまうと、いよいよ逆河内線は独りになる。
万が一転落したときに受け止めてくれそうな路盤は、もう無くなってしまうのだ。
まあ、それを心配するよりも、まずは貫通しているかの確認が先なわけだが。
YES! 貫通確認!!
この隧道は地形図でも結構長めに描かれているのだが、確かに1号と較べればかなり長い。
100m近くあるのではないだろうか。
そして洞内は完全に素堀であったが、特に崩れている箇所もなく、ぬかるんでいることもなく、平和だった。
崩れてさえいなければ、地上よりも隧道内の方が遙かに平和というのが、千頭林鉄の1つの定説になりつつあるようだ。
さあ、あの光の向こうはどうなってる?
それがとっても気になるぜ!
さあ!どうなってる!
な、 何か怖いような…。
ど、どうなの?
どうなの、これは…
まだ分からないけど、
さっきまで見えなかった空が見え始めたのが、なんか恐ろしい。
現在地はこんな感じ。
2号隧道を出たところで、もう本線は寸又川の対岸に遠ざかった。
前方の日向林道までの距離は、推定700m程度。
川下に向かいつつの上り勾配なので、ぐんぐん谷底は遠ざかっていくはずだ。
谷底に近ければ近いほど路盤の状況が悪いという経験則は、現状においては多少の安心材料になると思う。
また看過すべきでない一事実として、この逆河内支線は本線と異なり地形図に道が描かれているということがある。
ようは、「心配せずに、どんと行こうぜ!」だ。
日が燦々と照りつける路盤は、さっそくの大荒れ模様。
路肩を示すコンクリート壁が無ければ、ただの山の斜面と変わるまい。
春先という探索時期は、藪が浅くて見通しがよいことが最大のメリットなのだが、こういう高低差のある場面だと、色々見えすぎて怖いと思うこともある。
実際の危険を認識しうるという意味では、それもメリットなのかも知れないが。
←こんな具合にね。
…綺麗な山だぜまったく。
さすがは、奥大井県立自然公園に指定されているだけのことはある。
歩行からは、少しの遊戯性を感じないけどな…。
見下ろす寸又川の白く光る水面に視線を走らせれば、突き当たりの対岸に見える、やはり絶壁に画された狭い平場。
もはや遠ざかる限りの運命となった、本線の姿である。
既に探索済みの場所のはずなんだが、あんまり思い出せないな…。
短い時間内に、色々ありすぎた…。
ちなみに、向こうからこちらは【こんな風に見えていた】。
こちらも負けず劣らず“ガチ”な場所だと分かる。
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キツイって!
これは、キツイだろ。
とりあえず、いまここから見渡せる50mくらいは、全部これ。
これは無いだろ。 無いよ。
…でも、ここまで来て断念とか、許されるか?
もう5〜600mで林道なんだぞ。
いや。
冷静に考えれば、実はいま撤退しても、今後の探索が絶望になる訳じゃない。
少し戻って2号隧道の尾根を下れば本線に降りられるし、そこからは1kmくらいの迂回で日向林道に復帰も出来るのだ。
ごめんなさい。
任務を一部放棄しました。
逐一場面の写真を撮って、皆様に報告するという任務を。
…そう。
撤退はしなかった。
しなかったが、さすがに急斜面すぎて、途中経過を撮影することは自重した。
立ち止まらず、一気に通り抜けた。
オイ!地形図!
仕事をしてくれ!!
つか、せめて更新してくれ…
なんで、
なんでこんな道が普通に描かれてるんだよ。
(何を今さらなことをイッテルンダ…)
気づけば、寸又川もあんなに遠くに行ってしまった。
それなのに、未だに墜落すれば直行できる状態だ…。
こんな斜面を慎重に、時には激しく進んでいくと、
見えてきたよ。
3本目の隧道が!
で も …。
大丈夫なのか…?
おそらくもう、来てる。
これはもう来てると思う。
↓↓↓
この隧道を抜ければ、日向林道!
…たぶん。
12:44
ぎりぎりの斜面を乗り越えて、3本目の隧道の入口に到達。
大きなひびの入った坑門から、中を覗く。
当然だが、瓦礫の斜面は洞内にもなだれ込んでいた。
そして、その先がまだ見えない。
風… いまは感じないが…。
頼むッ!
良かった〜!
閉塞してなかった!
とりあえず、この「逆河内第3号隧道」も貫通!
約50mほど先に、真っ白く輝く光の門が!!
私は跳ねるように洞内へなだれ込んだ。
明るいな… 外。
もちろん、埋もれかけているよりは全然頼もしいんだけど、
廃道での明るいイメージは、良い印象ばかりじゃない。
ラストちょこっとだけ右にカーブした隧道を、抜け出る と!
林道だー!!
「文字」が叫んでばっかりだが、現地でもちゃんと声を上げているので安心してね…。
遂に来たぞ。
日向林道!
千頭堰堤以来の林道!
半日ぶりに、軌道から生還!
この逆河内支線だけだとまだ30分くらいしか経ってないけど、5時間ぶりの林道だ!
ただ、最後まで地形図と違うな。
こんなに高低差があるなんて、聞いてないぞ。
とりあえず、進めるだけ進むが…。
もう進めなくなった!
どうすんだよ。
今度こそ、戻るなんて絶対にイヤ!だぞ。
…ロープ、持ってきてないしな…。
でも、ここを降りる以外にはもう先へ進む術がない。
この先の軌道跡はもう、林道が切り取った法面に吸収されて、完全に消滅してしまっていたのだから。
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