千頭森林鉄道 逆河内支線 第4回 

公開日 2011.4.14
探索日 2010.4.21
所在地 静岡県川根本町

想定外事態発生!


見てることしかできないけれど…


2010/4/21 13:20 


見てしまった。

本当の軌道跡としか思えぬラインを。

見てしまったからには、認めるしかない。

私が注意していたにもかかわらず、林道と軌道跡の交差する場面を完全に見逃していたことを。

そしてこれだけの高低差が既についている以上は、かなり前から軌道跡は林道の下にあったであろう事も。


さらに、これも認めなければならない。




ここは近付けない。


分かってるよ。

こうして画像を公開した以上、これを読んでいる皆さんの気持は分かるつもり。

なにより、他ならぬ私が一番近付いてみたいさ。当たり前のことだ。

いままでだって、出来る限りは「実踏」することで、廃道を伝えてきたつもり。

だから今回だって、隙があれば実踏はする。もちろんする。

だが、少なくとも今見えているこの範囲には、下りれそうな場所がない。

私だって、歯がゆいんだ!





とりあえず、落ち着いて現状確認。

既に、3号隧道先で軌道跡が林道と合流してから1kmを歩いているが、この間のいつ軌道跡が林道の下に行ったのかは分からない。
ただ、どう考えても「切り通し」よりは前だっただろう。
したがって、切り通しの下にはやはり隧道があったかも知れない。

安心してくれ。
わざわざ戻って確かめなくても、どうせこの探索は往復になる。
軌道跡の終点を確かめたら戻ってくるのだ。
切り通し付近の再チェックや、もちろん現在地から切り通しまでの再チェックも、復路で行うことにする。

しかし、これでますます時間的な余裕は無くなってしまった。
今はこの場所にあまり思いを引きずられることなく、まずは終点を目指そうじゃないか。




いま軌道跡を見つけてしまった場所は、ちょうど山ひだが凹になった谷線だった。
そこから数十メートル進んで、現在地は凸の山線にいる。
となると、また次の谷線が前方にひらける。

この道は、切り通し以来ずっとこの繰り返しだ。
こうやって頻繁に谷と尾根を繰りかえすのは、それだけ崖下の本流が持つ浸食力が凄まじいということ。
山肌も出来る限りは緑を装っているが、実は逆河内谷に削られまくって“ひぃひぃ”いっているのだろう。

そして、そんな急な山腹。
谷を一つ挟んだ次の尾根の上に、またしても予想外のものが出現した!




い、がある?!

こんな場所に…!

大樽沢の宿舎と同じような廃虚なのか?

それにしては…、ずいぶんしっかりしているように見えるが…。

それこそ少し洒落た山荘とか、一軒宿をウリにした温泉旅館に見えないか?
周りにはヤマザクラとかが満開だし、綺麗な感じ…。




しかし、見晴らしの良かった尾根の上から少し離れて谷線に向かうと、もう件の建物は見えなくなった。

あれが建っている高さは、おそらくさっき見た軌道跡と同じだと思うんだが…。

ともかく、いまは無事にこの谷線を越えないと。
見ての通り、林道が荒れているのは大抵谷線だ。
そこは周囲3方向から瓦礫が降り注ぐうえに、支流の谷による堆積と浸食を同時に受けるのだから、安定しないのも無理はない。

私も現在ヘルメット着用中だ。
直撃する確率は天文学的に引くいと考えてはいるが、この道を歩き出してからの30分の間で小規模な落石を2度、周囲30m以内で目撃している。
この道にとって落石は、いたって日常の風景である。




さて、谷の奥に来たところで、また軌道跡のチェックだ。

あるね。あるねー。

相変わらず林道の20mほど下の切り立った斜面に、林道の半分以下の幅しか無さそうな平場が見える。

訂正。 平場「だった斜面」が、見える。


…(ボソッ)ここは、その気になれば降りられそう…。

……帰り道の楽しみに取っておくか。

楽しみ半分、怖さ半分だけどな…。




そして、いま見たのとは反対側の、進行方向に続く軌道跡の路盤…。


赤い破線の部分は、歩けるか歩けないかは別として、完全に路盤の姿が消滅している。
そして黄色い部分には、いくらか平場が見えている。

こんな感じだから、仮に軌道跡を歩いてみるとしても、それは細切れにならざるを得なさそうだな。
どうせ歩くならば、こうして目視で現状が見えている場所ではなく、緑や斜面の角度のせいで確かめることが出来ない尾根の周辺の軌道跡を確かめたいものだ。

まあ、行きはとりあえず見るだけにしておこう。
時間を使いすぎて、目的地まで行けなければ悲しいからな。




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きたきた。

林道の下に、例の建物が見えてきた。

軌道跡のラインも、途切れ途切れながら、その辺りにやはり結ばれている。
建物の前を通っていた感じなんだろうか。

そして、建物があるのは林道の下だけでなく、林道上にもあった。
これはさっきまで見えていなかった。




13:25 《現在地》

林道に合流してから1.2km地点において、林道上に三棟の建物が並んでいた。

路上に建物など公道ではまず見られない光景だが、道幅が非常に広く取られているので、これでも建物の横を十分トラックが通行できるようになっている。
現状は廃道同然なので、車でここに来ることは出来ないが。

そしてまず一番手前の建物だが、これはおそらく休憩所である。
確か鍵が掛かっていたか何かで中を確かめられなかったと思うが、ちょっと記憶が薄い。

問題はその奥にある…建物というか…小屋掛けされた器械のようなものなんだが…。




こんなん、初めて見たよ。

何だと思います?

ディーゼルエンジンにドラムが接続されており、ワイヤーが巻き取られるような仕組みになっている…。

そして、このワイヤーは…




この台車に結ばれていた。

台車の下には、レール!

これはまさしく、インクラインだ。

残念ながら林鉄そのものではないが、林鉄のレールや車輪を改造して使っていると思われる。
また軌間は計測していないが、最低1mはある。明らかに通常の林鉄の軌間より広い。

そしてこのインクラインの行き先だが、20mほど下にある例の大きな建物で終わっているようだ。
おそらく、林鉄を廃止してその上部に林道を建設した後、建物と林道のアクセス用にインクラインを設置したのだろう。

大変興味深い遺構である!
下の建物とあわせて、帰路にもう少しじっくり観察したい。



3つ目の建物は…。

これはもう、建ってないよね(笑)。

なんか、ドリフのコントに出てくる、建物の“セット”のようになってしまっている。
もう一発嵐を食らえば、完全に瓦解してしまいそう。

しかしこんな状況になっているのに、それでも棚が設えられていた一面だけは健在で、色々な物品がちゃんと残っているのは涙を誘う。
特別に珍しいもの…林鉄時代を彷彿とさせるものは、無さそうだったが。





建物が建ち並ぶ一角はやはり“山線”で、

そこを過ぎると再び“谷線”となる。

これまでで、一番深く険しい、谷線に。



凄まじいばかりの崩壊地形だ。

さすがにここは一度見たものの記憶に残る景色であったらしく、地名がちゃんと付いている。
地形図には書かれていないが、林鉄が現役だった当時の施行図面に見えるその名は、最近刊行された登山ガイドにも継承されていた。

どんな謂われがあるのかは知らないし、想像も出来ないのだが…

“源平クズレ”

そう、呼ばれている。


はたしてこの巨大崩壊地…源平クズレを、軌道はどう乗り越えていた?!←カーソルオン





だから、

無理だってば、マジ無理…。