金沢区朝比奈の“脅迫的な”市道 前編

所在地 神奈川県横浜市金沢区
公開日 2012.7.29
探索日 2009.9.28

道路レポートは今回が記念すべき(?)150作目。
そこで今回は、普段あまり取り上げないジャンルとして、都会の市道を見てみようと思う。

おそらく日本に一番沢山あるのが「市道」カテゴリの道だと思うし(平成の大合併により、町道や村道を確実に上回ったはず)、ほとんど誰しもがお世話になっているはずだが、個々の路線名が分かりにくい事もあってか、道路趣味の対象としてはマイナーと言わねばならない。
そして、私が今回のレポートを発表した事によって、そうした傾向に風穴を穿つ… つもりなど毛頭なく、そもそもそれほどのインパクトを有さない道なのであるが、

し か し !

この道の入口にある“看板”だけは、オブローダーなら決して素通り出来ないはず!


かく言う私も、何の予備知識も持たないまま、もちろん探索の対象とするつもりも全くないまま通りかかり、そしてこの市道に捕まった。




そんな舞台はどこかと言いますと…


2009/9/28 10:52 【現在地(マピオン)】

ここは神奈川県横浜市の南部に位置する金沢区の中でも南端に近く、横須賀市と境を接する六浦(むつうら)地区の六浦交差点。
手前を左右に通っているのは国道16号で、奥へ向かっていく道は、この交差点を起点とする神奈川県道23号六ツ浦原宿線である。(背景にあるのは京急本線の高架)

この昼夜間とも非常に交通量の多い交差点は、今回の舞台から1.7kmの近地にある。

朝から横須賀方面のサイクリングに出かけていた私は、次なる舞台である横浜への移動の途中でここに至り、そして予定通り県道23号へ進んだ。
この時点では、直後に遭遇する「市道」の事など、全く予期していなかった。




神奈川県道23号の愛称は、横浜環状4号。

横浜市の外郭をなぞるこの道は、国道1号と16号を連絡している事もあって、これまた交通量が非常に多く、2車線の道幅に車が溢れ返るという、この辺りではありがちだが、やはりうんざりする風景を起点早々に現わしていた。

護岸に守られた侍従川を二度渡るうちに、地区の名前は六浦から大道(だいどう)に変り、電柱に表示されていた住居表示のその文字に意味もなく心を躍らせた。
調べたわけではないが、この道の行き先のひとつは鎌倉であり、しかもその途中に控えているのは「鎌倉七道」のひとつとして名高い「朝比奈(あさひな)切通」(現道は迂回しているが)ということで、その辺からこういう地名が息づいているのかもと想像した。

だが今回の横浜行きの経由地は、予定していた朝比奈切通から急遽変更となった。
原因は、この後すぐに出現した “1枚の看板”…。



“脅迫看板”に誘われて… KADOWAKASARETE


11:03 【現在地(マピオン)】

六浦交差点から1.7km地点の路傍(ちょうど大道1丁目と朝比奈町の境)に、ご覧のような“法面”が存在する。

今まで道路の両側に密集していた家並みが、この場所からは片方だけとなり、さらに進むと両側とも山模様になって区境の相武(そうぶ)トンネルに至るという、海から山への早廻し的景色変化のきっかけとなる地点であるが、この法面の始まりの部分だけは敢えてコンクリートの吹き付けが省かれており、砂岩質に刻まれた波紋のような地層が露出している。

なにゆえかと疑えば、すかさず答える1枚の案内板がある。

ふむふむ…




この岩場には、いつ誰が彫ったかは定かでないものの、鼻欠地蔵と呼ばれる高さ4mほどの磨崖仏(崖に彫られた仏像)があるという。

江戸時代に出版された「江戸名勝図会」に既に紹介されている(右の挿絵がそれ)とのことだが、やがて風化のため鼻が欠け落ち、現在はさらに風化が進んで、「輪郭を見る事が出来る」状態と書かれていた。

そう言われて、改めて岩盤を見ると…

 うんうん。

見えるね、輪郭。
探す過程がちょっと心霊写真を見るときを彷彿とさせるが(失敬だな…)、確かに輪郭が見えた。




ん?


「Uターンもできません。」 ?


偶然にも(磨崖仏が目を惹かなければ、素通りしていたと思う)、
「横浜市金沢土木事務所」が設置した看板を発見した。

しかもそこには、場所に似合わない、
穏やかならぬ文言が並んでいた。


これこそ冒頭で述べた、“オブローダーが(気付いたなら)素通り出来ない看板” に他ならない。




 この道路は、車両の
 通り抜けができません。
 Uターンもできません。
     横浜市金沢土木事務所

↑ えーっ!!

看板の内容を完全に真に受けるならば、この道に車両で入った場合、最後は必ずオールバックで帰ってくる以外に手がなくなる、と言う事か。

まあ、車両という表現を四輪の自動車に限定したとしても、なかなかどうして、他では見ないような脅迫的な表現である。

そうだ。
これこそ私が愛してやまない、道路管理者が道路利用者に向けて発した脅迫的なメッセージの一種である。
そして「脅迫」されてしまった以上、本当に “それほど” の道なのかどうかを確かめずにいられようか。 (いや、いられないのだ)



そしてこれが、問題の道の入口である。

県道23号とは直角に交わっており、両側の角地にそれぞれ電柱と道路標識柱という障害物があるために、さっそくにして、自動車で入りにくい雰囲気を醸しているというか、マジで入りにくいし。

でも、冷静になってみてみると、別に「車両通行止め」や「車両進入禁止」の標識が掲示されている事は無いので、とりあえず入る事は妨げられない。

まあ、「入っても良いけど、オールバック確定だよ」と脅迫された状態で突入するドライバーが、実際にいるかは分からないが…。

とりあえず、私(自転車)ならば大丈夫だと思うので、遠慮なく入ってみる事にしよう。

…それにしても、なんで「横浜市金沢土木事務所」が、こんな大層な看板を掲示しているんだろう?
看板さえ無ければ、敢えて部外者が興味を持って入り込みそうな道ではないわけだが…。
地図(2.5万分の1地形図)にも載ってないしね。 雉も鳴かずば……だろう。



なぜ「横浜市金沢土木事務所が?」という問題は、すぐ隣に立っていた「急傾斜崩壊危険区域」の案内板によって解決した。

そこに記載されていた大縮尺の図面にこの道が載っており、その注記から路線名「市道朝比奈175号線」が判明したのである。

つまり、この道は歴とした横浜市道に組み込まれているということであり、市道の管理は横浜市下の土木事務所が担っているのである。
そして横浜市が政令指定都市であるために、普通なら都道府県下にあって県道以上を管轄する土木事務所が市に置かれており、市内にある市道以上の道(道路法上の全ての道路ということになろうか)を管理しているのだろう。

それではお待ちかね(?)。
入口に幅員1.7m制限標識と脅迫文のある、横浜市道朝比奈175号へアタック開始だ!




「市道朝比奈175号線」という路線名だが、現行のものではないようだ。
横浜市行政地図情報提供システム」を確認したところ、平成24年現在の路線名は「市道朝比奈163号線」となっていたのである。
路線名が変更されたのか、そもそも「急傾斜地崩壊危険区域」の看板が誤っていたのかは不明だが、この確認を経て当レポートのタイトルを現行のものへ変更した。

2012/7/30 21:00 追記