隧道レポート 釜トンネル <序>

所在地 長野県松本市安曇
探索日 2008. 7. 2
公開日 2008.10.17

釜(かま)トンネルは、日本で最も良く知られたトンネルのひとつではないだろうか。
一度でも体験すると忘れがたいその姿から、“釜トン”の愛称で親しまれてきた。

釜トンは、長野県道24号上高地公園線上にあり、その起点である国道158号との中ノ湯交差点に面している。
この県道は、世界的山岳観光地である上高地へと至る唯一の自動車道であり、釜トンは開通以来、上高地への「門」として存在し続けてきた。
しかも、その門は大変に狭く、そして急勾配であり… 単純な門と言うより、上高地への進入を物理的に選別する「衛兵」といっても良いかも知れない…。それが、釜トンネルであった。

釜トンならではの狭隘と急勾配のために紡がれた逸話は、枚挙に暇がない。
それを語り始めれば、あっという間にスクロールバーが目一杯まで小さくなってしまうだろうが、敢えて皆様には多くの予備知識のない状態で、この釜トンネルを体験して貰いたいと思う。

私と、nagajis氏が、この日そうであったようにだ。


そこには、トンネル(隧道)の常識を覆すような光景が、一つならず待ち受けていた。

しかも、それが廃隧道になっていたのだから、もう タ マ ラ ナ イ。



 釜トンとの格子越しの再開 


2008/7/2 17:00 【周辺地図(別ウィンドウ)

国道158号を松本から高山方向へ向かって進むと、幾つものトンネルの果て、中ノ湯洞門という古びた洞門を抜けた先で、この青看が現れる。

ここは古くから中ノ湯といい、以前はその名の通りの温泉場だった。
そして、釜トン開通以来、ずっと上高地の玄関口を務めてきた場所だ。

青看には、はっきりと「直進」「県道24号」「上高地」と記されており、このまま上高地へも進んでいけそうだが、実際それは出来ない。
それが許されるのは、限られた一部のドライバーだけなのである。




そして、青看は現れても肝心の交差点は見えもしない。
交差点は、青看から300m近くも先にあるのだ。
だが、早くも右折と直進のレーンが別れる。
この設計は言うまでもなく、交差点の渋滞対策である。

そして、通行レーンが分岐する直前の場所に、草むらに埋もれそうな1枚の看板がある。
「県道上高地公園線 待機路線終り これより駐車・停車禁止」と書かれている。
つまり、上高地へ向かおうとする車がいくら渋滞の列を作っていても、これ以上手前で待ってはいけないということだ。
「沢渡」「平湯」などにある駐車場に車を停めて出直してこい。そういうことを言っているのだ。

だが、そんな渋滞も今日では目にすることはなくなった。



やがて交差点の本体が現れる。

道路中央に長々と続いてきた直進レーンだが、その機能が一杯まで使われることはもう無いだろう。

というのも、平成8年の夏以降、上高地へ向かう県道24号の全線が通年のマイカー通行規制下に置かれたのである。
よって、現在ではバスやタクシーなど、通行許可証を持った車以外の自動車は進入が出来ない。

規制の開始から時間が経っていることから周知の徹底も進んでいるようで、あまりゴテゴテと直進禁止の表示はないが、信号機の所に「左折のみ可能」という道路標識が掲げられている。
何より、警備員がリアルタイムで張っている。




幸いにして、上高地のマイカー規制は環境保全が最大の目的であり、自転車や歩行者まで排除するものではない。

警備員に一瞥を食らいはするが、我々自転車は心おきなく直進して、釜トンネルへとその身を委ねることが出来るのである。

ただ、十数年前に通ったことがあるからと何の下調べもしてこなかった私は、大きな勘違いをしていた。
しかも二つも。

一つは、数年前に釜トンネルが改良されたことはニュースで知っていたが、それは単純な旧隧道の拡幅だと思っていたこと。
もう一つは、釜トンネルがどれほど急勾配だったかを忘れていたという点だ。

実は、この日の探索のメーンは国道158号の旧道探しであって、その終わりに待ち受ける釜トンネルにはさほど注目していなかった。
それはいうまでもなく、「廃隧道など無い」と思っていたからなのだが…
この現場を前に、嬉しい悲鳴を上げながら私は思った。

「迂闊」と。




これが、釜トンネル。

銘板にもはっきりそう書かれている。

巨大な観光バスがヌルーリと出て来た坑門は、
数々の伝説を残す「釜トン」の何一つを語ってはいない。

そんな気がする。




これか…。

コイツが伝説の釜トン…。


つか、さすがnagajisだ…。
まるで、空気の様に坑門へ近づいていく…。
間違いなく、旧坑門へ。

これは、もしや… これはもしや警備員に気付かれず… いけるかも。




十数年前にはおそらく無かっただろう真新しい坑門。
そして、その中に収まっていた巨大な鉄扉。
立入禁止などと書いているわけではないが、言いたいことはよく分かる。

だが、え 

   えええ え??

   ギィーー…。





やっべぞ。

鍵なんてかかってねぇ。

そして、洞門が長げー。

釜トンはどこだ?
この奥だったっけか… 記憶が曖昧である。

とりあえず、進めば全てが分かるだろう。




 「 あ …はい。 」



 制止されました。

立入禁止って書いてないんだし、鍵も開いていたわけだが、だからといって、制止されたのだからこれ以上問答しても始まらない。


まあこれは仕方のないこと。

しかし、隧道ならば出入り口は二つあるはず。
表が駄目なら、裏口だ…ぜ。