2014/1/31 12:14 《現在地》
熊野尾鷲道路のインターチェンジがある尾鷲市賀田(かた)から、国道311号を熊野市方向へスタートする。
賀田湾の青い海を左に1.3kmほど走ると小さな曽根の集落があり、そこを過ぎてさらに300mほどで、国道はトンネルを前にして二手に分かれる。
ここが現国道と旧国道の分岐地点である。
正面の現国道に口を開けているのは、平成9年に完成した全長1106mの曽根トンネルであり、熊野市方面へ向かうならば黙って直進すればいい。
左折が旧国道であるが、既に国道の指定は解除されており、おそらくは尾鷲市道になっているものと思われる。
てっきり、梶賀集落の入り口を示すような案内板(青看)でもあるかと思ったが、そんなものは無かった。
青看がない替わり(?)に旧道の入口を飾っていたのは、古びた道路情報板と通行規制の案内板であった。
どちらも国道時代の名残と思われるが、市道となって管理者が県から市に変わっているはずだから、今は本当にただの飾りになっているのかも知れない。
なお、「国道時代の名残」と書いたが、そのまま「酷道時代の名残」と字を変えても良いだろう。
時間雨量40mmで通行止めなどというのは、いかにも酷道的である。
入口から早速にして旧国道の遺物に出会い、私のテンションは上昇。
このまま一気に行くぜ〜〜!
これは… 良い道だな。
酷道を覚悟していた私だが、実際の道は、とても旧国道とは思えないほど立派だった。
どうやら、旧国道で整備されたのはこの先の梶賀第一トンネルだけではなく、そこまでの1kmほどの道も相当大規模に改築済みだったようだ。
国道311号といえば、現道でさえも未だ1車線の区間が随所に残っているのに、ここは旧道でありながら2車線で、しかも車線も路肩も相当ゆったりとした造りなのである。
その雰囲気は、生活道路というよりもむしろ、ラグジュアリーな観光道路であった。
この改築で便利になった梶賀の住民に聞かれたら怒られるだろうが、国道整備という公共投資の費用対効果を考えたら、これは二重投資の誹りを免れまい。
まあ、世の中には作ってもまるっきり使っていない未成道も結構あるので、それに較べれば遙かにマシなのだが、一車線に喘いでいる酷道区間の沿道住民がこれを見たらなんて言うか。
突然の青い海面の画像(↑)であるが、
これはひとつ上の写真のガードレールから、真下を覗いた眺めである。
そしてここから目線を上げると、こんな(↓)の“車窓”が視界いっぱいに飛び込んでくる。
ワンダホー!!
まるで湖のように静かな賀田湾の向こうに、その場所を占めることを運命付けられていたかのように収まりよく賀田の街並みが見えた。
長大トンネルを選んでしまった現国道が、気の毒に思えてくるほどの、絶佳なる眺望であった。
12:20 《現在地》
旧国道に入って1kmほど進んできた。
ここまで道は山腹をなぞりつつ高度を徐々に上げているが、自転車であっても坂道に喘ぐというような辛さはない。
道は幅も広いが、勾配もゆったりとして付けられていた。
また、ここまでただ一台の車とも行き交っていない。
平日の日中、この道はほとんど私の独り占めのように思われた。
そしてここで、地図には無い小さな旧旧道を発見した。
旧国道の切り通し一つ分だけの旧旧道である。
もちろん侵入。
まあ、この旧旧道では幸いにして、藪は見るだけで済んだのだが。
出口は倒れた電信柱で塞がれていた。雑なやり口だ。
こうして旧旧国道から、再び旧国道へ。
旧道に入って1.4kmほど走ると、遂に見えてきた。トンネルが。
あれが問題の梶賀第1トンネルであろう。
そして、トンネルの手前に1本の青看が立っているのも見えた。
……それはそれは、意味深な青看だった。
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12:26 《現在地》
梶賀第1トンネルの前に立つ1本の青看。
その内容は、青看としては少々奇妙なものだった。
トンネルの出口が急な左カーブだから注意せよということらしいのだが、それを青看として表示しているのが珍しかった。
こういう通行上の注意点を予告する場合は、白地に赤い矢印や文字とか、黄色地に黒い矢印と文字で表示される場合が多いのである
そして、こういうちょっとした違和感は、道路探索において大切にしたい。
現代の道路というのは基本的には規格品であり、見慣れないものを見たら、何かあると疑うべきなのである。
この場面に登場した不思議な青看は、トンネルの先に待ち受ける何らかのイレギュラーに原因しているように予感された。
ところで、の反対車線の路面を見て頂きたい。
最高速度を示す道路標示が手入れもされずに消えかけていたのだが、その内容がいかにも旧道だった。(→)
一部に熱狂的なファンを持つ「40高中」のご登場だ!
この道路標示は、「高速車」と「中速車」の最高速度が(法定速度以下の)40kmであることを示している。
平成4年に改正される前の道路法は、普通乗用車や大型乗合自動車などを「高速車」、大型貨物自動車などを「中速車」、原動機付自転車を「低速車」という風に区分しており、それぞれの法定速度を60km、50km、30kmと定めていた。
平成4年に「高」や「中」といった道路標示は廃止されているのだが、平成12年まで現役の国道だったはずのこの道では最後まで削除されなかったようだ。
まあ、実用上はあっても困らないし、行き止まり国道の末端部ゆえに見過ごされていたのだろうと思う。
もっと大切なセンターラインとかも薄れすぎだしな…。
目立つ大きな青看のすぐ先にも、同じ内容を警告する小さな標識があった。
もしかしたら、こっちの方が古いのかも知れない。
青看に較べて、随分と草臥れた印象である。
そして、「導入」でも予告したとおり、梶賀第1トンネルには旧道(現在の国道から見れば旧旧道)がある。
その入口は解放されているように見えたが、実は少し先にバリケードがあった(帰り道で探索したので後でお伝えする)。
今は旧道よりも、目の前のトンネルが気になるぜ!
“第2”なき“第1トンネル”の哀愁漂う姿をご覧下さい。
どこにでもありそうな平凡な坑門。特徴を挙げることが出来ない。
わが国の歴史上、トンネルの坑門が最も無装飾だった時代のトンネルだと一目で分かりそうな「デザイン」だった。
だが、想像していたよりも幾分草臥れた印象だ。
なんか照明とかが暗い気がする。出口も見えない。
で、実際どのくらい古いものなのかは、工事銘板が教えてくれた。
梶賀第一トンネル
1985年 3月
三 重 県
延長390m 巾7m 高4.5m
施工 日本土建(株)(株)塩谷組
完成は1985年(昭和60年)とあり、これは現国道が開通した2000年(平成12年)より15年も前である。
この15年の間に、ここにある第1ンネルの続きに第2トンネル以降を建設する道路計画は中止となって、現在ある曽根および梶賀トンネルが建設されたのである。
なお、トンネルの長さこそ現国道には遙かに負けるが、断面のサイズについては負けてないどころか微妙に勝っている。(梶賀トンネルは幅6m、高さ4.7m)
ここまでの立派に改修された旧道もそうだったが、県はこの道の建設には相当に力を入れていたと感じられる。
開通した当時は、30年後のこういう状況を、誰も想像していなかったんだろうなぁ…。
計画の変更がもし起きなければ、今ももちろん国道であり続けただろうから、遙かに多くの車が行き来したであろう。
センターラインだってこんなに消えかけることはなかったろうし、たくさんの旅人が熊野灘の風光と共にこの素晴らしい新道を思い出に刻んだのだろう。
サイクリストの集団が、夏場にこのトンネルで涼を得たりな。
そしてこのトンネルの先などは、南紀有数のビュースポットになっていたのではないかと思う。
だって、第2トンネルとの間には、梶賀の入江を跨ぐ長大橋が計画されていたはずだから。
それが実現していれば、国道311号唯一の海上橋になっただろう。
全長390m、築29年の梶賀第1トンネルへ。
このトンネルの特徴としては、とにかくこのきつい右カーブである。
地図上で見ても、両坑口はおおよそ70度くらい向きを異にしており、これが実際の印象となるとそれこそ90度向きを変えているのではないかと思うほど、入ってすぐから出口まで延々と右カーブが続く。
自動車ならば、ハンドルを右に切りっぱなしのまま走る感じになるだろう。
高速道路のインターチェンジを走っているときのような、独特の違和感が味わえると思う。
歩道も無いのに幅7mとやや余裕を持った造りになっているのも、このカーブの視距を出来るだけ確保するためだったかも知れないが、定かではない。
変化の無い写真を連続掲載した意味は、トンネル内がひたすら右にカーブし続けていることを伝えたかったから。
上の写真が入ってすぐで、右の写真はちょうど中ほどで撮影した。
なお、トンネル内もそれまでの道に引き続いて、緩やかな上り坂になっている。
そういう所も、本来は海辺の梶賀集落ではない、もっと別の高い場所を目指していたことを暗示している。
相変わらずの右カーブと上り坂、
そして光に満ちた出口!
海を渡る準備はできたか?
出来てるぜ〜!
飛び出していくぜ〜〜!!
右カーブトンネルの出口に
直角左折という危険過ぎる線形。
滲み出まくる未成道臭ハンパない……!
本当は、トンネル前にあった青看の支柱は、
←こんな変な青看
…ではなくて…
こういう青看→
を取り付ける予定だったんだろうなぁ。
深いなぁ…。
次回は“永久終点の地”、梶賀の港へ。
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