謎の隧道の正体を求める旅は、既に始まっている。
滑川市郊外の大日公園の奥、“険道”から外れ、入口を簡単なバリケードで封鎖されている「林道東福寺線」へ入った。
写真は、入った直後の風景だ。
いつから封鎖されているのかは不明だが、たぶんそれほど時間は経過していない。
まだ新しい感じの車の轍が舗装路面に浮いており、道幅も林道としては必要十分、直前までの主要地方であるある“険道”よりも広いくらいだ。
うん、何で封鎖されているのか分からない。
10:41 《現在地》
なんて思っていたら、入口から300mばかり入ったところで、唐突にダート化。
砂利道になったのではなく、整備状況としてはさらに一段階低い土道(ダート)になった。ダートには背の低い草が路上に生えており、舗装があると分かりづらい通行量の実態が露呈した。
一般のドライバーなら、この先の展開をおそれて車では立ち入らないだろうなと思える状況。しかし、自転車の私はもちろん恐れない。
とはいえ不安は感じた。まだ入って300mでこの草の道。
ここから目的地までは1.5km前後と思うが、やっぱり廃道なのかな…? あまり酷くないことを願いたいが。
ダート化はしたが、今のところ目立った崩れはなく、またうっすらとではあるが、最近のものらしい軽トラの轍も刻まれていた。
道は杉の植林地をうねうねと蛇行していく。
地形は起伏に富んでいるが、道は不思議とほぼ水平で等高線をなぞっていく。
今のところ、サイクリング向きのいい道だ。
杉林を抜けると、夏草の茂る斜面に飛び出した。
かなりの傾斜を感じるが、道は危うげな1車線を維持したまま、途切れず続く。
一応、路肩の位置を教えるポールが立っていたりはするが、自動車だといよいよ立ち入ったことを後悔しそうな状況に。
そんな状況で、今いる道のすぐ下にももう1本、並走する道のあることに気付く。
10:46 《現在地》
眼下に並行する道を見下ろす。
その道も未舗装だが、今いる道よりは轍が濃い。
そして何やら案内板が立っている場所が、すぐ真下にあった。
この下の道の正体だが、地形図を見ると分かる。
下の道には、室山野用水の水路が埋設されているようだ。
地形図には道と水路が並んで描かれているが、実際の水路は地中化していた。
だが、昭和27年の地形図では、水路と道は少し離れていた。
今いる道こそが、水路が蓋をされるまで使われていた道である。
おお?! 舗装が回復した。
このまま進むほど荒れていくのかと思いきや、ダート区間は600mほどで終わった。
依然として道幅は広くないが、ここからはコンクリート舗装である。
別に急坂だからという訳でもなく、純粋に舗装区間に出たようだ。
そして、この後だが、(チェンジ後の画像を見ながら)
今の地形図の道は、この先で非常に錯綜しているので、私はよく注意しなければならない。
私は、この地図に赤くハイライトしたルートを辿りたいのであるが……。
皆様には、私がここで見舞われた本日最初の混乱と戸惑いを、少しだけ追体験して欲しいと思う。
うん、さっそく出て来た。
地形図にある、最初の分岐地点だ。
地形図では、この場所から左へ2本の道が分かれているように描かれている。
画像に示した「A」と「B」の分岐路だ。林道東福寺線の本線は、「C」だと思われる。
この場面、私は「C」を選べば良い。
なので基本迷う必要はないのだが、習性的に、全ての分岐路を覗いてみたいとぞ思ふ。
てなわけで、まずは「A」。
「A」は、地形図だと「軽車道」として描かれている道で、まだ新しい道なのか、今までの区間では見なかったコンクリート吹き付け法面の切り通しから始まっていた。
切り通しの向こう側は早月川の左岸に開けた斜面上であり、眼下にその大きな広がりを見渡すことが出来た(←チェンジ後の画像)。
なお、【大日公園の案内板】を見た時に話題にした旧水路跡や、その旧水路を観察するための「学習広場」という場所へ通じているのもこの道のようだが、私は奥まで行っていないので、詳細は不明だ。
次は、「B」。
うん、「B」はヤバイネ。
死んでいる。
この道は、地形図だと「徒歩道」になっているが、その行く先は、私が目指している「隧道擬定地」の付近であり、それこそ私にとっては、今回の目的地へ向かうための選択肢の一つとなるルートであった。
ただ、本命選択肢である「軽車道」があるのに、わざわざ規格の低そうな「徒歩道」を選ぶ必要はないと考えていた。
状況としては、何かの電線が入っていっており、「A」が作られる前からあった切り通しっぽかった。徒歩道というよりは広い道のように思う。
しかし、大きな倒木から始まる猛烈な藪に覆われていて、奥は見通せない。
そして私はこれを目の当たりにして、こう思った。
「ああ、ここを行くんじゃなくて、助かったゼ!」
(…………ふふっ。 いま思うと滑稽だな…。)
気を取り直して、「C」をセレクト。先へ進む。
一本道が下り始め、間もなく谷の奥でヘアピンカーブ。
こうして、直前まで路肩の下に見えていた道と同じ高さへ。
10:54 《現在地》
そのまま、下段の道と合流。
ここは地形図に描かれている通りの十字路になっている。
直進する「D」が、林道東福寺線の本線進路である。
矢継ぎ早の分岐出現で頭の中がこんがらがりそうなところだがだが、下段の道の正体が水路だと分かっていれば、実態としてはなんてことのない、道路が水路を渡るだけの地点である。
とはいえ今は水路には蓋がされて道になっているので、右「E」と左「F」にも行ける。
試しに「E」へ少し進むと……
水路を埋設しているだけあって、等高線そのもののような水平路だった。
そしてすぐに【見下ろした覚えのある地点】に達した。
読みたかったのは、ここにある案内板だ。
改良工事の結果、大部分が地下に隠されてしまった室山野用水だが、見えなくなった分だけ、語り伝えるための努力は惜しまれていない。
ちょうどこの場所は、早月川の谷から、今いる東福寺の谷へ抜ける用水の隧道の出口があったところで、かつ水路の分岐地点であったそうだ。
現在は坑口も分水施設も地下に埋設されているとのこと。
水路用とはいえ、江戸時代の文政8(1825)年から10年の間に建設された「おお穴ぐり」と呼ばれる隧道が、改良されながら今なお地域の水源として活躍している。それがこの地下にあることと、それを伝えようとする真摯な態度に、感動を覚えた。
出会った瞬間の第一印象としては、私の探索を攪乱するエイリアンと思われた室山野用水だが、ここで私の中では完全に和解。
ここで得た知恵も糧にして、私は私が目指す“水路ではないはずの隧道”を目指すという決意を、一層深めた。
なんて書いてますけど
あなた、ナチュラルに、見逃してますから。
本来進もうとしていた道を完全スルー中。→←恥ずかしくないの?
「分かってるよ! さっき十字路で気付いたさ……。」
おかしいって……。
でも、本当に全然、分岐なんて気付かなかったんだよ…。
【この写真】の辺りに、地形図だと分岐があるはずなんだが……。
いまから引き返して、確かめてみるからね。
11:05
さっきナチュラル・スルーした分岐地点は、地形図だとこのように描かれている。
私は、赤線の道を進もうとしていたのだが、どうやらこれは林道東福寺線の本線ではないらしく、それどころか、分岐自体あるように見えなかった。
地形図だと、同じくらいの幅の車道(軽車道)が分岐しているように書かれているのだが……。
また、目指す隧道が描かれている昭和27年版の地形図においては、ここまで走ってきた林道東福寺線は、隧道がある道と一続きであって、黙っていても自然とそちらへ進めるような描かれ方だ。
(読者諸兄は、ここまでの林道区間は平凡で面白くないと感じたかも知れないが、今回のレポートが紹介しようとしている本題の一部なので略せなかった)
とにかく、もう一度よく調べてみるしかない。 ここを! ↓↓↓
さきほどナチュラル・スルーしたときとは逆方向に景色を見ている。
GPSが間違ってなければ、ここが地形図上の分岐地点だ。
この場所から、右後方へ分かれる道が描かれている。
?
?
?
んん?
ポツンと立つ、「北陸電力魚津送電所」のこの看板。
鉄塔巡視路を案内するものだと思うんだが、矢印がついているな…。
まさか?
背後の土の斜面?
道あった!
林道から2mほど登ったところに。
マジでこれなの?
位置は確かに正しいけれど……、
最新の地理院地図の軽車道が、これ?!