道路レポート 青ヶ島大千代港攻略作戦 導入

所在地 東京都青ヶ島村
探索日 2016.03.05
公開日 2018.01.06

あの青宝トンネル旧道の激闘も、この探索の前座に過ぎなかった。 (でも、前座で敗北してるんですが…)

私が青ヶ島で一番行きたかった場所、大千代おおちよ港。

これはその挑戦の記録。

しかし、最新の地理院地図に堂々と「地方港」の記号で描かれている港に、なぜ私が行きたいのか。

愚問。

もちろんそれは、廃道があるからだ。
私の探索の腕を試し、同時に好奇心を最大に満たす、厳しい廃道探索の舞台があると確信したからである。
しかも、事前に少しだけ歴史を知っただけで、その凄絶過ぎるストーリーに惚れ込んでしまった。
青ヶ島という、廃道趣味者にとっては聖地的な凄みを持つ小世界の中においても、大千代港こそが最強の存在だと思っている。

そんな大千代港は、青ヶ島全体を4地区に分けた場合の東側外輪山一帯を指す北山地区にある。(他の地区は、村落がある北部外輪山上の岡部、西側外輪山一帯の上手、島の南半分を締めるカルデラ及び内輪山の池之沢という。)地理院地図に同じ「地方港」の記号で描かれている三宝港(青ヶ島港)とは、楕円形の島の点対称位置に存在する、同島の第二の港なのである。
しかしこの港が、とんでもないことになっている。


次の画像は、2018年1月5日に当港の管理者である東京都八丈支庁の公式サイトからキャプチャしたものだ。

本港は青ヶ島の南東部に位置し、小型船のための物揚場が整備されていましたが、港へのアクセス道路が崖の崩壊により寸断され使用出来ない状況にあります。

!!! せっかく港を作ったのに、その港へ通じる唯一の道が崩壊したために、現在使うことが出来ない状態になっているらしいのである。 ……酷い!

一緒に掲載されている空撮の画像を見ても、それはもう港というか、崩壊した崖に周囲を取り囲まれた、完全なる廃墟のようにしか見えない。
こんな写真を、「これが大千代港ですよ〜」って感じで掲載しているとか、八丈支庁は私を萌え殺させるつもりか!?
陸路から近づけないから使われていないのと明言されているが、それでも私はこの埠頭に立ちたいッ!
これが、青ヶ島での私の一番の目的だった。



『八丈支庁事業概要(平成28年版)』より引用。

なお、『八丈支庁事業概要(平成28年版)』を見ると、大千代港には右のような設備があるようだ。

大千代港にあるのは、水深3.0mの物揚場(ものあげば。港湾法では水深4.5m未満を物揚場、それ以上のものを岸壁と区別する)1本(長さ50m)だけ!

一緒に表に載っている青ヶ島港(三宝港)と比較しても、その設備の貧弱さは段違いだ。
おそらくはそこら辺の漁港にすら設備の劣るこの港が、昭和52年の開設以来、青ヶ島港と同じ格付けの地方港として、法律上では現役の施設であり続けている。

なお、八丈支庁の管内にはこの表の通り、八丈島と青ヶ島にそれぞれ2港ずつ、計4港の地方港がある。
そして、伊豆諸島の他の島々(さらに全国の多くの離島)も、2つ以上の港(地方港と漁港の合計)を有している場合が多い。
これは現在の離島行政が“一島二港”政策を推し進めているためである。その目的は、定期船の就航率向上だ。船を風向きに応じて島の風下側にある港に発着させることで、港内の高波による欠航を少しでも減らそうというアイデアなのである。そしてこれは実際に効果が高い施策になっている。
長年、就航率の低さが大きな課題となっている青ヶ島にとって、大千代港の整備は極めて重要な意義を持っていたはずなのだ。それなのに…!



青ヶ島村公式サイト内「青ヶ島MAP」より引用。

左の画像は、青ヶ島村公式サイトに掲載されている観光客向けのガイドマップ「青ヶ島MAP」(PDF)である。

ファンシーな感じの手書きイラストマップであるが、地図上の至る所に「×」が付いていて「通行止」と書かれているのが、なんとも恐ろしい。
そして、そんな地図上に沢山ある「×」の一つが、大千代港へ通じる道を塞いでいて、こうも書いてある。

大千代港 港へ通じる道が崩落のため、現在使われていません

イラストマップの中の島の姿は全体的に長閑に見えるので、さほど苦労せずに辿り着けそうにも見えるのだが、さすがに私もこれに騙されたりはしない。
はっきり言って、今回は探索前からとても恐かった。恐がっていた。
過去の例でいえば、例えば千頭林鉄早川左岸道路に挑む前の心境に近かった。生きて帰らなければならないのは当然だが、探索の目標を達成するにせよ不達成で撤退するにせよ、どちらにしてもぎりぎりの戦いになると予想していた。
そこまで私を警戒させるものが、ここにはあった。

その一つは、既に見ていただいた八丈支庁サイト上の空撮写真である。
そして、それよりもさらに強烈なインパクトを私に与えたのが、ネット上で見つけた次の写真だ。




撮影:M Harada氏 (Aerial View of Aogashima Volcanoより引用)

大千代港は、写真中央やや右側の外輪山が最も大きく崩れている辺りに見える。

終わってるだろこれ…。

道も完全に呑み込まれてる感じだし……。

これは、辿り着けるのか……?

率直に言って、自信は全く持てない。それに、不用意に踏み込むと命を失いかねない感じが凄くする。
正面突破以外の手段を考えようにも、島を取り巻く海食崖は凄まじすぎて、どこか楽に下降出来るルートがあるようには見えなかった。
ちなみに、私がサーチした時点では、ネット上にも陸路からの到達記録はなし。
漁船でもチャーターすれば、海路から辿り着けはするだろうが…、それは私の求める探索ではない。


改めて、ちゃんと地形図を見てみよう。

なお、都道青ヶ島循環線から分岐して大千代港へ通じる、今回の探索のターゲットとなる道は、村道18号線という。
この村道は、海抜300mの外輪山稜線上からスタートすると、外輪山外側斜面をトラバース気味に緩やかに下りながら南進し、大千代港直上の海抜200m付近まで進んだところで、折り返すようなカーブを見せた直後に終わっている。この地図上の道の長さは、ちょうど1kmである。

村道の終点から大千代港までの間は、本当に一切の道が描かれていないが、両者の間の距離は、高低差約190m、水平距離約300mと読図した。

それにしても、しゃれにならない等高線の密度であり、その途中に隙間なく並ぶ崖の記号には、怖気を催さずにはいられない。

ちなみに左図は参考までに、日本第二の高峰として知られている北岳の山頂付近の地形表現だ(縮尺も一緒)。
こうして比較してみると、青ヶ島の海食崖は部分的に、南アルプスの高山に匹敵するほど険しい地形として表現されていることが分かる。
そして、南アルプスの高山で登山道から離れて上り下りしたら、危険だというのは間違いない。

今回の探索中は、いつも以上に慎重に押し引きは判断しなければならないと思う。マジで。





この探索は2016年3月5日、自身初の青ヶ島上陸の翌日、島を離れる日の午前中に行った。


2016/3/5(土) 7:20 《現在地》

村道18号線は、こんなにも尖った景色の中からスタートする。

もう最初から恐いんだが、折角ここまで来たんだから死力を尽くすぞ!

残り時間的に、泣いても笑っても今回チャレンジはこの一度だけ。


攻略開始!


(三宝港での乗船手続き開始まで 4:40)