2009/4/30 15:06 《現在地》
現国道156号が、椿原ダム湖右腕の「馬狩谷」を跨ぐ地点に、ランガー形式の椿原橋が架かっている。
そしてその100mほど上流には、カンチレバー(ゲルバー)形式の旧橋が現存している。
いまからそこへ向かう。
約30年前に旧道となった道は、両側からかなり雑草の侵入を許しているものの、それでも軽トラ1台分の舗装路面は確保されていた。
クルマでは通り抜けられないこの道に、これだけの路面が維持されているのは、やはり旧橋の魅力のなせるわざか?
現道から100mほどしか離れていないので、いとも容易く旧橋に到着した。
当然のように柵がされているが、「立入禁止」の表示はない。
柵の簡単さもあって、あくまで「車両進入禁止」のような印象を受けた。
遠目に見るより塗色の剥げが著しい鉄の矩体へ入り込む前に、挨拶代わりの親柱チェックである。
それはなぜか一本だけしか残っていなかった。
やや大ぶりな親柱に填め込まれていた銘板には、「昭和二十八年三月竣功」と刻まれていた。
それは、椿原ダム竣功の年と同じである。
ダムの水面上にあることからも予想できたとおり、この旧橋はダム建設とともに生まれたのである。
そして、これが白川村と富山方面を結ぶ、第一世代の自動車道であった。
それより古い…つまりダムに沈んだ道については、ダムの水位が高く痕跡を見出すことは出来ないが、明治20年代に「白川街道」として、荷車が通れる程度の道が存在していたことが、「白川村誌」に知られる。
長さは10間(約18m)、幅は9尺(約2.7m)と伝わっている。
現在は完全に湖底であろう。
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そして、この旧橋。
現地では銘板(親柱)が消失しているため、橋名を知る術がないのであるが、「白川村誌」曰くこの橋の名前は「馬狩橋」である。
馬狩橋 (旧国道156号)
橋長 91m
幅員 4m
3径間下路カンチレバートラス橋
昭和27年竣工
銘板の竣功年より1年早く開通していたようであるが、ともかくこのトラック1台分の橋が、国道156号として産声を上げた当時のホープであった。
名古屋と金沢を結ぶ長距離バスが通ったこともあった。
しかし、前後の直角折れのカーブを含め、その後の交通量の劇的な伸びの前では早々とボトルネックになった。
県の道路改良計画のもと、内ヶ戸トンネルと合わせて現在の椿原橋が建設され、耐用年数をだいぶ残したまま、昭和54年に役目を終えたのである。
そんな早めの降板が功を奏したのか、橋は今でも優美な姿を留めている。
馬狩橋からの湖上風景も、また忘れがたい美しさである。
手前は現道の椿原橋、奥に見えるのは東海北陸自動車道の椿原橋だ。
そして、両者の中ほどに見える2つの塔のようなものは、椿原ダムの水門である。
古い地形図を見ると、初代の刎橋は国道の椿原橋の真下辺りにあったようである。
本橋は希少性のあるカンチレバートラス形式だが、戦後の建造ということで「近代化土木遺産」入りはない。
しかし戦後としては十分初期であり、しかも類型のあまりない(と思われる)特殊な構造がある。
大量の歴史的橋梁のデータを収集しておられる『橋の散歩径』さんには、この形式の橋の写真も大量に収録されているが、それらと比較してこの「馬狩橋」独特の構造と考えられるのが、桁の連結部に立っている門構造の部分である。
桁と桁の連結に、この構造がどのような役割を果たしているのか。
或いは単なる飾りなのか。(それにしては頑丈そうだが)
橋の下側が観察できないので分からないが、外見上の大きな特徴になっていることは間違いない。
構造に詳しい方の見識を伺いたいところだ。
湖上に佇む姿に一目惚れしてしまったような橋だが、近づいて眺める姿もまた素晴らしい。
変わった形をしている橋が、こうして麗しい景色の中にあるだけでも十分なのに、こんな独り占め同然のシチュエーションなのだ。
オブローダーというか、道路を愛するものとして、幸せでないはずがない。
廃止物件にありがちな寂しさや侘びしさを意識するほど落ちぶれてもいないし、単純に格好いいと思った。
…路上に落ちたシルエットが、また格好いいんだコレ!
鋼橋好きにとっては、親柱の銘板より重視されることも少なくない製造銘板。
昭和27年(1952)
岐阜縣建造
内示(昭和14年)二等橋
制作 株式会社横河橋梁製作所
好きな人にとって、「横河」の所に一番グッと来るのだと思うが、私としては「二等橋」の部分に意味を感じる。
これは橋が都道府県道以下の用途に設計されたことを意味している。
確かに架橋当時、この道は「県道45号八幡城端線」と呼ばれていた(八幡は現在の郡上八幡である)。
その翌年に「道路法」が改正され、まさか二級国道へ昇格するとは想定されていなかったのだろう。
もっと楽しみたかったが、橋が一本道である以上、そうそう長居は難しい。
それに、よく考えればこの橋の出現はオマケのようなもの。
まだまだ「内ヶ戸」の旧道は始まったばかりなのだった。
橋の南詰は馬狩谷沿いの林道との丁字路になっており、廃道ではないのだが、こちらも橋の封鎖具合はやる気が感じられない。
そして、なぜか親柱が2つとも無くなっている。
あと、ただならぬ橋脚の細さには、ここではじめて気が付いた。
門型の橋脚はいかにも華奢で、やはり田舎の都道府県道クラスの道に相応しい感じだ。(今どきこんな橋脚は市町村道にも出来なさそうだが)
ガードレール無しに法面も裸岩のまま。
この先に待ち受ける旧道のガチ振りが、ちょっとだけ想像されたりする、現道への戻り区間である。
困るのは、振り返るたびに足が止まることだ。
はにゃ〜
ふにゃ〜
…ハァハァ
現道へ生還。
旧道との無理矢理な交差ぶりが目を引くが、右の内ヶ戸トンネル坑門の“エリマキトカゲ”っぷりもなかなかのものだ。
別にドライバーを威圧したいわけではなく、坑門裏側からの雪崩を防ぎたいだけなのだろうが、ここまで薄く尖っているのは珍しい。
15:13 《現在地》
旧道はここを直進して、いよいよ「内ヶ戸歩危(ほき)」と呼ばれた難場へ進むことになる。
現道はこの危険地帯を、山腹の曲線におおむね沿った1322mもの内ヶ戸トンネルで回避している。
坑内を覗いても出口は見えなかった。
なお、このトンネルの工事銘板には「竣功昭和55年1月」と書かれており、一般にいわれている開通日より後である。
開通後も締めの工事が残っていたのだろうか。
旧道へ。
最新の地形図上ではこの旧道、全て破線で描かれている。
しかも、途中にトンネルが2本描かれているという、典型的な“廃”車道の描姿である。
だが、意外にも入口付近には、特に「通行止」を予告するようなものはなかった。
このまますんなり通り抜けられるはずはないと思うが…。
ダム好きの人には結構知られた“名所”であるらしいが、旧道の入口あたりから下流方向を見ると、ご覧の眺めが得られる。
ダムと橋。
この組み合わせ自体は珍しくない眺めだが、橋の尋常ではない規模とその配置の妙から“名所”たり得ている。
確かにたいそう変わった景色だと思う。
現道の喧噪が去り、静かな湖畔線で一人きりとなる。
前方に大きく張りだした半島のような地形があるが、緑が深く茂っており、さほど険しい様には見えない。
そして、道のラインもうっすら見えるではないか。
いや、よく見るとそれだけではないぞ。
ものが見えるじゃないか!
モノが!
しかも、あれは…
2本目の方である!
2本ある隧道のうち、奥にある方が先に見えてしまった。
だからなんだといわれるかも知れないが…。
見えてしまった隧道へは、確実に辿り着きたいと思うのが人情。
或いはもう一歩踏み込んで、使命感のようなものを帯びることとなった。
特に問題のない道中ならば、“毒”になることはない使命感だが…。
遠くにばかり目を取られていると、1本目の隧道がすぐそばに近づいていた。
半島というには小さな岬を穿つ、1本目の隧道である。
それにしても、ここまでは拍子抜けするほどに整った路面状況だ。
確かに路肩や法面の様子は廃道のそれに近いのだが、この道は今も誰かが使っているようだ。
15:16 《現在地》
静かに、キター…。
よく見るコンクリート製の坑口、中途半端な狭さ、そして長さ。
地形図に載っている隧道の確認であるだけに、大騒ぎというわけではないが、国道の旧道隧道というステータスは、静かに私を悦びへと導いた。
また、目を引くのは白く色褪せた道路標識の存在で、模様から高さ制限なのは明らかだが、肝心の規制内容は分からない。
内竹二号隧道
全長 56m 幅 4.5m 高さ 3.8m
昭和23年 竣功 (『道路トンネル大鑑』巻末リストより)
ぅん…?
内ヶ戸第二号隧道??
どう見ても「内竹」じゃないよな?
どうやら、たまーにあるリストの誤りに当たったらしい。
正しい名前は、内ヶ戸第二号隧道である。
早速入ってみる。
もちろん、チャリも一緒。
照明はないが、特に点灯させなくても足元が見えないことはない。
ただ、ここまで車の出入りがあった理由だと思うが、倉庫として使われているらしく道幅の半分は荷物で埋まっていた。
(にもかかわらず通行止めではないところがナイスだ)
そして、この隧道の断面には“ある珍しい部分”があるのだが、その事を意識するより先に、出口より飛び込んできた強烈な視覚的イメージが、私の思考を奪った!
白川街道三大難所のひとつ、
内ヶ戸歩危。
恐ろしくも、
また
美しい、
崩れ道。
うっかり“見えてしまった”隧道は、この奥にある…。
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