主要地方道31号 浪江国見線 霊山不通区 第3回

公開日 2006.05.03
探索日 2006.04.24

異常勾配県道

霊山閣の先へ

06/04/24
14:14

 いきなりでかい地図の出現でちょっと驚いたかもしれないが、いま私がどんな場所にいて、そしてこれから何に挑もうとしているのかを見てもらうには、このサイズの地図が必要であった。
 整理して説明していくが、左上の方に現在地点がある。ここは、県道の通行止め地点となっている霊山閣跡の駐車場から30mほど進んだに過ぎない場所だ。
通行不能区間は、県の資料や地図上の読図から約4.2kmと考えられるが、このうち、前半の1.4kmほどは、登山道として利用されている区間で、今そこに足を踏み入れた。
注目なのは、大概の道路地図帖がこの部分は県道の色で塗っているということで、地形図でも2本線の実線で普通の道のように描かれている。
だが、現地に来てみれば、霊山閣で一般車両は通行止めとなっていた。
 また、登山道区間からやがて、県道の独特な点線部分に分かれるわけだが、この辺りは殆ど訪れた(というか、分岐地点という風に認識した)人がおらず、真の不能区間の現状は全くもって謎に包まれている。
 地図の遙か下の方には、先ほど涙を呑んだ撤退地点である、南側の通行不能区間入口である霊山庵が描かれている。

 合計4.2kmの通行不能区間であり、この数字を大きいと見るか小さいと見るかは、あなたがこれまでに体験した場数と反比例するように感じる。私はそれ以前に、地形図上の等高線の密度を見ただけでギョッとした。



 前回は、最後にこのシーンで終わっている。
自転車もバイクも駄目と明記された看板を振り切って進んだ私の前に現れた、道一杯を塞いで作業中のユンボ。
オブローダーにとっては、崖の崩落や激しい藪よりも嫌で、死の宣告にも近い、「オヤジ」の出現である。
もはやこれまでと、チャリを捨てて捨て身で望むかとも思ったが、決断できぬままゆらゆらとオヤジの視界に足を踏み入れてしまう私。
怒声が来るか、クラクションが来るか。それともユンボの刃が無言で襲いかかってくるか。
私の脳内に次の瞬間の無惨な最期がフラッシュバックする。
それは大袈裟だが、ともかく、こっそり通り抜けられる可能性はゼロであり、こうなってはもはや、コンビニ勤めでかつて鍛えた笑顔で正直に目的を告げるしかないだろう。

 オヤジが、私に気が付き、ユンボの唸りが止んだ。
オヤジ、運転席から半身を乗り出して来る。
私、にこやかに言う。

 「お仕事中恐れ入ります。ちょっと通してください。」

 ……。

 ……痛い。 沈黙が痛い!

だが、ややあって、オヤジ、口を開く。

 「これって抜けられるの?」

……キラーーーン! 私、内心ガッツポーズ。 これはもらった! この対応は地元の人ではない。それに、下の看板の通行禁止についてとやかく言ってくることもない。もらった! 突破できるぞ!!

 私は、オヤジの気が変わらぬうちに、そそくさとユンボの脇を通り抜けた。チャリを担ぎ、ユンボがかき集めた杉の丸太を踏みしめながら。

 オヤジさん、ありがとう。
どうせ、そう経たずに戻ってくるだろうから……そのときはもう一度だけ、ごめんしてね。



なんじゃあ
こりゃぁ!

これが県道か!



 これが天下の公道であるところの県道の姿なのかと我が目を疑うほどに、路面は切り倒され集められた材木で埋め尽くされ、歩いて通るのがやっとという幅である。
さらに、その残された路面といっても、ゴツゴツとした石が露出し、その勾配はとてもチャリを漕げるような物ではない。
この2日前に見た信夫山の坂も凄かったが、ここもそれに勝るとも劣らない破天荒な坂である。
しかも、こっちは一応現役の県道であり、大概の地図が車道として描いている道だ。
いや、実際、登山道として車輌交通が禁止される近年までは車も通っていただろう痕跡は、この先の随所に現れるのである。



 さて、私はこの勾配が果たしてどれほどの物なのか、またしても帰宅後に地形図で調べてみた。
すると、100mの水平距離で等高線を4本噛んでいる事が判明。
つまりは……その勾配は100分の40……

40
鉄道風に言えば、400パーミル。

 え、信じられないって?! 



 たぶん、40%はちょっと言い過ぎかもしれないが、ともかく30%は余裕で超えている。
霊山町改め、伊達市道路課さーーん! ここの勾配をちゃんと計って勾配標識を立てれば、たくさんの勾配マニアが集まりまっせー!
マジ日本一かもよ、この県道の勾配は。 今は車道でないのが惜しまれる といったところだが。



 だが……。

 日本一の急勾配(?)には、当然、代償があった。

 まだ、目的としていた通行不能区間に踏み込んで、たった100m程だというのに……。



 私の払った代償は、余りにも大きかった。


 もう、限界だぁーー。

 まじ、マジしんどいよ。 もう歳だからさ。ネタでなく、これはキツイ。

 ここで、私の残機が一人減った。(言い訳くせーが、この日はかなり暑かったんだよね)



 道路に倒れ伏し、ドリンクをがぶ飲みする私に、余りにも過酷な宣告がなされた。
これは、まさに追い打ち!
地獄に閻魔。 泣きっ面にキラービー。

 満タンだと思っていた「おーい!お茶」が、
 実は半分しか入ってなかったー!(涙)



 車道らしい幅は今さら取り戻したものの、もうそんなことはどうでもよくて、残り全てあわせても500mlペットボトル一本に満たない飲料のことで私の目の前は真っ暗になった。
この霊山は尖った痩せた山で、この上に水場があるとは、ちょっと思えない……。

 まさか、こんな事で探索が終わってしまうなんて、馬鹿臭すぎる!
でも、いまさら麓のどっかまでジュースを買いに戻る時間も気力も
 ねー!! あるわけない。

 どーする俺。 ほんと、どーすんよ俺!!


            (つづく)