国道291号清水峠 隧道捜索編 <最終決戦> 第2回

公開日 2012.11.21
探索日 2012.11.03


清水集落を朝6時に出発し、予定通り2時間で居坪坂まで到着した。
もはやこの場所から今回の最終目的地である一本松尾根の清水国道隧道擬定地点“清水隧道”までは、水平距離でわずかに1kmに過ぎない。
しかし彼我の高低差は300mもある。

これから始まる本谷遡行は、この距離の割に大きな高低差を埋めるための“試練”と捉える事が出来る。
楽な道ではないだろうと思っていた。
しかし、何としても踏破したい。
これに成功しなければ、大袈裟でなく今回の探索は、なにひとつ成果を得られず終了することになるだろうから。




最新の地形図で見ると、本谷の渓相はこのようになっている。→

探索前、この地図を穴が空くほど眺めている。
その結果、“どの辺が難所っぽいか”とか、色々と想像&予想したことはあったが、それをここでウダウダと述べるより、現実の風景を見ていただいた方が早いだろう…。

とにかく、昭和20年代には清水集落の屈強な人達が、炭の原木を求めてこの谷を遡ったのである。
そして、「大きな滝はない」と言うのである!
「ローソクのような大岩を目印に登れば、隧道近くの清水国道に出られる」と言うのである!!

辿らいでか!!!




本谷遡行 <part.アタック>


《 8:18 遡行開始から4分経過、100m地点 【MAP】

既に遡行を開始して4分を経過しているが、最初の100mには特に障害はなく順調。
少し大きな岩が多くて歩きづらいという程度で、森の中の渓谷は穏やかだった。
また、出発時点では心配事の一つであった“水量”についても、問題になることは無さそうだという実感を得た。

なお今回の装備は、2人ともネオプレーンのウェーダー+ネオプレーンのフェルト底靴というもので、沢登りに特化させてきたが、早速その性能を発揮していた。

そして予想外にラッキーだったのは、底の凹凸が少ないフェルトの靴は、少しくらい雪を被った岩場の上でもスリップすることなく、安定して岩を踏みしめる事が出来たのだった。
おかげで1〜2cmある積雪をほとんど気にすることなく、進むことが出来た。



《 8:22 遡行開始から8分経過、200m地点 【MAP】

 …と呼べるだろうか、一応は。
背丈ほどの滝が、本谷の全ての水を集めて目の前に落ちていた。

そして、この滝自体は容易に突破出来たのだが、
これをきっかけにして、谷は険しさを増し始めたのだった。

そして数分後、その険しさは早くも我々に不安と恐怖を与えるレベルに…。



《 8:28 遡行開始から14分経過、280m地点 【MAP】

こ わ っ ・・・。


これ、行けるの……。

早くも、祈りたくなるような光景だった。

行く手に現れたのは、おぞましい回廊状の谷である。
両岸は積雪した白い絶壁で、この谷から逃れる術は無さそうだ。
…もしも、この回廊の途中に再度“滝”が現れたとしたら……。

絶望?!



《 8:33 遡行開始から19分経過、320m地点 【MAP】

実はこの場所、地形図上からも難所臭がプンプンしていた。
水線がS字に小刻みな蛇行をしており、さらに右岸にはガリーが描かれていた。
本谷の奥地へと人を寄せ付けない、そんな関門のような難所があるとしたら、この一角ではないかと思っていた。
私とHAMAMI氏共通の敗北地である森吉“神の谷”、あの水に満たされた回廊ともだぶる光景であった。

だが、ここでは古老の証言に軍配が上がった。
この場所で最も恐れられた滝は現れることが無く、両岸の険しさとは対照的に、河床は穏やかなゴーロであったのだ。
これほどまでに深く谷を刻んだ水勢が、感じられなかった。

この“絶壁蛇行地帯”の終わりが見えてきた時、私の中で「成功」の2文字が輝きを増し始めた。
相変わらず積雪の不安は拭えないけれど、この難場を乗り越えられれば……!



《 8:42 遡行開始から28分経過、400m地点 【MAP】

約120m続いた“絶壁蛇行地帯”の通過には14分を要した。
今回は2人とも地形図の他にGPSを携帯していたので、現在地は手に取るように分かった。
この通過の途中では、標高1100mの計曲線を越えていた。
清水国道はこの左手の崖上、高低差150mの斜面を横断しているはずである。
だが今のところ、谷から左側へ這い上がることは無理である。

そして私はこのとき、“不安”を新たにしていた。
「難所を越えた」と思ったのはフェイクで、“絶壁蛇行地帯”を過ぎても谷は狭いままだった。
幾らか両岸の森林は近付いた(=絶壁が低くなった)が、渓相はゴーロから、基層である一枚岩の露出が目立ち始めていた。
明らかに河川勾配が増しており、水は岩間を迸り始めた。
1歩1歩が、確実に重くなってきた。



うあぁ…。

やっべーよ…
プール&滝だよ。

底に足が付くかどうか微妙な感じのプールに、小滝。

小滝だけならば何とかなりそうだったが、その前のプールが問題。
真夏ならばイイヨ。イインダヨ。
でも、今日ここで全身びしょ濡れになったら、多分探索続行不可能になる。
つか、命の火まで消されかねない。

さすがに雪中水泳は無理…。





というわけで、左岸へ小高巻きを敢行。

落ち葉の上に濡れ雪が乗った岩場はとても滑りやすく、小さな高巻きにも神経をすり減らす羽目になった。

しかしともかく、小プールと小滝を超える事が出来て……




《 8:48 遡行開始から34分経過、450m地点 【MAP】

無理ッ!

さらに大きな滝が、行く手を遮った!!

…古老情報は、偽りか?!

否。

山で“ならした”古老的には、この程度は「大きな滝」ではないのだ。
あくまでも古老証言は「大きな滝はない」なのだから、言い換えれば「小さな滝はある」のだろう。
しかも、いくつあるとも知れないのである…。




前と同じように、小刻みな高巻きを敢行する。

だが、これが怖いのである。
高巻きの最中、滑りやすい岩場を通過する。
脚下には轟々と飛沫を上げる滝があり、滑り落ちたら探索終了。
(死なないまでも、全身びしょ濡れになったらそこで探索終了だろう…)

そして、この中くらいの滝を越え、再び河床を進むこと1分…。




《 8:53 遡行開始から39分経過、470m地点 【MAP】

やっぱ、無理。

リームー…。

またしても、滝。

しかも、今度は高巻きしようにも、少しでは済まなそうだ…。



HAMAMI氏と相談した結果、滝壺からほんの少し引き返したこの場所から、
大きめの高巻きを敢行することにした。

問題は、この濡れた岩場を徒手空拳で登る事。
とりあえず、6mほど上にある樹林帯まで辿り着ければ、
何とかなると思うわけで…、気合いを入れて頑張った。

ここで頑張らないと、何も得られないんだ!




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本谷遡行 <part.白魔>


《 9:01 遡行開始から47分経過、480m地点 【MAP】

よしゃよしゃよっしゃあ!!

8分かかりました!

魔の谷底から、とりあえずひと息付ける左岸の樹林帯に辿りつくのに。

しかし、これで何とか前進への再始動が出来そうだ。
恐らく、古老もかつてはこのようなルートで本谷を遡行したのであろう。
また、当時なれば何らかの目で見て分かるルートがあったのかも知れない。

今は全てが自力である。

間違いなく過酷だったが…

楽しくもあった。

自分たちの実力で一歩一歩清水国道へ近付いていくのは、たまらない興奮事であった。


後は、この“熱”が冷める前に、なんとかこの高巻きを成功させて先へ進みたい。



《 9:10 遡行開始から56分経過、520m地点 【MAP】

高巻き開始から9分経過。

そこに道形はなかったが、積雪した山腹を適当にトラバースして進むことが出来た。
そして、谷の方向へと悉く傾いて育っている灌木を、高く足を上げて踏み越えるトラバースは、本当に疲れる作業だった。
積雪があるお陰で見通しには恵まれたし、灌木のお辞儀の角度も増していたと思うが、足元の地形がよく分からない事のリスクや、濡れ雪を踏み分ける足の重さに、そうしたメリットは相殺された。
幾ら小滝がうざくとも、基本的には谷底を歩いた方が楽だというのが、このトラバースを数分こなしてみた2人の感想だった。

自然、我々は再び河床へ下りれる場所を探しながら進んでいった。
トラバースさえも出来ない様な最悪の地形が現れないことを、祈りながら…。



《 9:15 遡行開始から61分経過、550m地点 【MAP】

さらに5分後。

トラバース、マジキツイッす。

どうやら我々がトラバースを開始した地点から、本谷には連続で滝が現れているようだ。
トラバース中にもかなり登っているが、谷はそれ以上のペースで追いついてきた。
遂に標高1150mを越え、距離の上でも清水国道までの半分をこなしている。

実は私の中の本谷には、“そこまで辿り着ければ恐らくクリア”という場所があったのだが、それが近付いていた。
というか、地図の上ではこの辺りで本谷に戻れば、もうその場所に辿りついていそうだった。

音と気配から連瀑地帯を抜けたと判断した我々は、意を決して本谷の河心へ戻ってみる。



よっしゃあ!

行けるで!!!



《 9:20 遡行開始から66分経過、570m地点 【MAP】

約20分続いた“試練のトラバース”に耐え、

我々は再び本谷河床に降りたった。

振り返れば、そこには明らかに連瀑を感じさせるV字スリットが口を開けており、
その背後は谷底の風景と言うよりは、空っぽかった。
晴れていたら、何が見えていたのだろう…。

空気が白いのは、雲の中に入ってしまったに違いないのである。
幸いにして今は雨も雪も降っていないが、もし降るならば雪だろう。

ここで当たり前の事を書くが、

寒い。

極寒とまでは言わないが、濡れた下半身はネオプレーンの保温性を通り越して、寒い…。
私もHAMAMI氏も、雪山で沢登りをした経験は無い。
つか、今シーズン初めて見る雪だっちゅーの!
11月3日に雪山を歩いたのは、結構レアな体験だと思う。忘れがたい体験だ。



少し、明るい話をしよう。

先ほど書いた“そこまで辿り着ければ恐らくクリア”の地点とは、何だったのか。
それを説明しようと思う。

昨年8月16日の第4次探索(テレビの収録のため十五里尾根ルートで清水峠へ日帰りした)は、前説でも述べた通り、今回の探索実行に直接繋がる情報入手の機会であった訳だが、それだけでなく、この日の前半は珍しく晴天に恵まれたことから、本谷の内部を観察するまたとない機会ともなったのであった。

この写真は、十五里尾根の登山道から撮影した本谷内部だ。
木が生えていない谷の中が、明け透けに見えている。
その河川勾配の激しさにまずは目が行くところだが、私はこれを見て別の事を考えていた。

この白さは、歩けそうだぞ。

…と、そんなことを考えていたのである。



白く見える本谷の上部は、ゴーロになっていると考えたのである。

…いや、「考えた」なんてもんではなく、

はっきりとゴーロが見えたと言って良い。

そしてゴーロならば、歩けるだろうと考えたのだ。



さらに空撮写真も、この“本谷ゴーロ説”を裏付けていた。

「現在地」よりも下流では谷底が細くしか見えていないが、上流は太く白くはっきりと映っている。

ここは大きな岩がゴロゴロと谷を埋めているゴーロに違いないだろう。


しかるに!



ここまで来たら(多分)清水国道に辿り着ける!!