ミニレポート 第104回 国道49号 揚川隧道

所在地 新潟県東蒲生郡阿賀町
探索日 2006.06.25
公開日 2006.07.17

これが線形改良と言えるのか?!


 先日は難所「本尊岩隧道」を紹介したが、そのすぐ近くに、やはり現役でありながら老朽化著しい隧道があるので紹介しよう。
その名は揚川隧道。
阿賀野川の屈曲に対し素直に従ってなどいられないとばかり、山襞を貫きショートカットするための、国道49号に付帯する構造物であるが、並行する磐越西線の白崎隧道が大正初期にこれほど内巻きをしているのに比すれば、昭和36年完成の本隧道は、何だか遠慮深い存在に思える(笑)。
単純に車は小回りが利くからこのくらいの隧道でいいでしょ?
もしそんな論理が介在したとしたら、その後40年を経てなお現役であり続ける業を少し考えて欲しかった。

 なんて言うか、こいつはちょっと困った隧道なのである。



 本尊岩方向から車を走らせると、そこには福島・新潟両県の主要な部分を結ぶ重要な国道らしく、十分に立派な道が付けられている。
左はなみなみと水を湛える阿賀野川(揚川ダム)、右は一段上がって単線のJR磐越西線のレールが敷かれている。
かなり古い時期には、道は鉄道のより山側に付けられていたらしいが、今回は盛夏期を前にこの調査は行わなかったので、機を改めてと考えている。



 道が緩やかに上り始めると、初めて通る者にとっては、「おっ」と思わされる光景が現れる。

 老骨も露わにした隧道が、突然視界の中に飛び込んでくる。
慌ただしくハンドルを切らねば、そのまま旧道に直進していってしまいそうである。
事前に余り案内がないだけに、夜間だとこの驚きはより大きな物になるかも知れない。
のちほど、実際の走行の模様は動画でお見せしたいが、初体験の時にはちょっと驚くわよ。



 明らかに古い作りだと感じさせる、実際に昭和36年竣功と年季の入った隧道である。
隧道自体も幅員5.5mと、本尊岩隧道と同じ幅の細いものであるが、特筆すべきはその前後の線形である。
特に、この若松側坑口前の直角カーブは、危険度が高い。



 そのことは管理者も良く承知しているようで、本来ただのコンクリートの壁だった部分に、これでもかと言うほど右への矢印が取り付けられている。
個人的には、こんな姿になっても活躍している現役隧道が、抜け殻のようになった廃隧道よりは好きだ。
そしてまた、この隧道の主たる道としての期間にも、終わりは見えはじめている。
本尊岩隧道と同様、大規模に掘削されている対岸の揚川バイパスの完成を待って、旧道化する予定なのである。

 特注品の大きな“黄色看”が胸をくすぐる。



 記録に拠れば、全長は266m。
だが、それ以上に長く感じられるのは、隧道の内部に斑な模様が発生し、視線を気持ちよく通さないせいか。
或いは単に細いからなのか。
この写真では珍しく車の往来が途切れているが、やはり通行量はとても多い。
反対側の坑口まで歩くのはかなり怖いので、それはしなかった。
 ちなみに、この若松側坑口はカーブにあるためか、控えめながらも坑口を拡幅するという、我々への愛情を見せている。
これは釜石市の国道283号線が、私に体験させてくれた大橋隧道(←このページの下の方)によく似ている…… っつーか、内部の様子を含め、規模も何もかも瓜二つだな。



 近隣の本尊岩隧道同様、控えめな扁額が取り付けられている。
アーチ部に対し同心円状の溝があるほか意匠と思われるものもなく、元々はシンプルな印象だったはずだが、老朽化のために生じた白化で見るに堪えないほど痛んでいる。
せめて旧道化する前に化粧直しだけでもさせてあげようよ…。



 隧道内部から振り返ると、やはり直角カーブが目の前に迫る。
これが、むかし教習所で習ったと思うけれど、目の“明順応”に追いつかず近付いてくるのだから、晴天の日などがむしろいちばん危ない気がする。
この明順応・暗順応という生理現象は、人体以上にカメラが良く再現するので、後ほどお見せする動画でもそれを追体験していただきたい。



 隧道に入らず直進すると、そのまま一車線の旧道に繋がる。
この道は山裾をぐるっと回って、約1kmで反対側坑口に続いている。
距離だけを見ると確かに隧道の短縮効果は馬鹿に出来ないものの……。




 旧道の足元には、昭和38年に竣功した東北電力揚川ダムが、大河と物言わぬ格闘を演じ続けている。
新しく作られるバイパスは、磐越自動車道と同様、この向こう岸に山の中を通ることになる。

 旧道を通って、隧道の反対側へも行ってみた。



 若松側と殆ど同じ作りである。
カーブの向きが違うだけ。
よく見ると黄色看のデザインも違ったりするが、とにかく、やはり矢印に満ちた坑口前の景色である。



 揚川隧道のレポではないが、この坑口から200mほど新潟側へ進むと、今度は山側にもの凄い擁壁が現れる。
二本松城の城壁にはその規模に驚かされた私であるが、この道路端の石垣も負けず劣らず、高い! 高すぎる!!
写真では目立たないが、道路と石垣の合間にはJR磐越西線のレールが敷かれており、どうやら大正初期に鉄道のために築造されたもののようである。
これだけの規模の石垣は、そうそうあるものではない。




 では、最後にこの隧道を車で通り抜けた際の動画をご覧頂こう。
若松側から、新潟側へと通っている。
音にも注目していただきたい。

    →【動画】(wmv形式  0.9MB)