ミニレポ第255回 深浦大岩の奇天烈な隧道

所在地 青森県深浦町
探索日 2020.06.03
公開日 2021.05.02

大岩の頂上を目指す楽しい道


2020/6/3 12:05 《周辺図(マピオン)》

白神山地が日本海に落ち込む急峻な海岸線を占める、青森県西津軽郡深浦町。
かつて北前船寄港地として栄えた中心集落深浦港から目と鼻の先の苗代沢地区に、ご覧の奇勝がある。
その名付けの古さを物語るように、ただ「大岩」とだけ命名されているこの場所が、今回の舞台だ。

そうそう、今回はいちおう、久々の、「島さ行がねが」です(笑)。



地形図には「大岩」という名前の注記はないが、海上に突出した小さな半島が描かれ、
先端部分には、岩場の記号にぐるりと取り囲まれた「18.4m」の三角点が存在する。
一応、本土とは地続きのように描かれており、法的にも島とは扱われていないが、
実は本土と先端部の間に小さな海峡があり、地形の形状としてはいちおう島である。

さて、「大岩」の先端へ行くような道は描かれていないが、実際は道がある。

そればかりか――



隧道が、あるじゃないか!


道などなさそうな小島に不釣り合いに隧道があるという光景は、
懐かしの「山行が初の海上島」こと、犬走島の隧道を思い出させた。

そして、本土と「大岩」を結ぶ道が、その隧道へ通じているのが見える。
「大岩」は台地状をしているが、周囲は全て切り立った海食崖であり、
ハシゴかロープでもなければ登れそうにないが、しっかりと「大岩」の上に
手摺りが存在していることと、隧道の存在は、もちろん無関係ではない。



この「大岩」は、町内で配布される観光パンフレットには掲載されているが、メジャーなスポットではなく、
隣接する国道101号に駐車場が無いこともあり、素通りされることが多い。私も立ち寄るのはこれが初めてだ。

地形図だと細長い半島状に描かれているが、実際の地形を子細に観察すると、
いくつかの大岩が海面すれすれの陸地である波蝕棚によって繋がっていて、複雑だ。
本土寄りに赤い社殿を戴く大岩、そこから100mほど波蝕棚の道を隔てて、「大岩」がある。
波蝕棚の途中に海水で切れている“海峡”があり、小さな橋が架かっているのが見えた。
この海峡部は潮位に依らず浸水しており、「大岩」を島にしている。



「大岩入口」バス停の脇に、国道の防波堤を破って分岐する遊歩道がある。
最初は小さな橋で、渡ると直ちに道は二手に分かれる。
左は、先ほどから社殿が見えていた「恵比寿神社」で、「大岩」へは直進すればいい。




せっかくなんで、HAMAMI氏と並んでオブ神さまへ参拝中。賽銭箱というものがなく、小さな社殿そのものが賽銭箱になっているという、エコ仕様だった。箱というクッションを介さず、直接に神へ金を渡す感じが、現世利益により繋がりそうでいいね。




恵比寿神社を躱す直進ルートを選ぶと、直ちに視界が開け、

正面にドーンと座する「大岩」が!

どう見ても、徒手空拳では、手摺りのある頂上には行けそうにない険しさだが…!



ずっと前ばかり見ていたが、これは深浦町中心部がある南側の眺め。
左の陸地に市街地があり、背後は黄金崎の半島、それらに抱かれた湾内には、
波除けになりそうな小島がたくさん浮かんでいる。

平日ということもあってか観光客の姿は全くないが、綺麗なところである。




舗装された一本道の歩道を行くと、潮間帯の磯場に入り、さらに行くとこの小さな橋がある。名もない小さな橋だが、ここだけ少し海が深く、「大岩」と本土の間のいわゆる海峡になっている。

もっとも、この橋らしい橋というのは、たぶんに遊歩道としての演出を含んでいると思う。目立たぬ低い位置に旧橋の痕跡があり、今の橋は見栄え重視で嵩上げされたものではなかろうか。



橋を渡れば、あとは某“蛇の道”をスケールダウンした道が、「大岩」へ脇目を振らせず伸びている。

なお、周囲はまるで湖のように穏やかな水面だが、日本海の外洋は「大岩」の背後まで迫っており、

冬場など日本海が大荒れの日は、この道もそっくり波に洗われるものと思う。



さて、約100mの短い海上横断区間が終わり、

どんな波にも流されない沖の陸地「大岩」へ、上陸の時を迎えた。

しかし、やはり島の周囲の岩場は高く険しく、手摺りが見える頂上への糸口が掴めない。

全ては、この道の先に待つ隧道に、委ねられている。



Post from RICOH THETA. - Spherical Image - RICOH THETA

12:11 《現在地》

「大岩」の南西岸に口を開ける隧道坑口へ到達。

道はここまで一言も種明かしをせず、黙って我々を連れてきたが、
唐突に現われた隧道が、これまでの道を直角に曲げた方向に開いていることや、
あまつさえ、入口が階段になっていることまでが目に飛び込んでくるにつけ、
隧道には人一倍熟達した我々だからこそ感じる、強烈な違和感があった。

上の全天球画像をグリグリして、入口を見つめる二人の怪しい男…… ではなく、
怪しい入口を見つめる二人の男の、怪しいものを見るような半笑いの顔を、見て欲しい。




階段隧道

やっぱり、こうなっていたか…。

実は、階段になっている隧道というのは凄く珍しい。
過去の記憶を呼び戻しても、ニコイ廃遊歩道や、佐渡の賽の河原の歩道など、
いずれも人道専用であるし、基本的に人道にはトンネルが少ないから、
階段を持つ隧道は少ないのである。まして、これほど急なものは本当に珍しい。

……まあ、地下道を隧道と見做すならば全く珍しくなくなるけれどね。




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文字通り、上に見える光の目指して石段を登っていく。

脳内には自然と修行僧的なスピリチュアルなイメージが展開する。

あの光の元に、「大岩」の上という小さな別天地が待っていることを期待して登る。


そして、一瞬にして――




光に手が届く。

隧道に入るまではほとんど聞こえなかった波の音が急に大きくなった。
「大岩」を貫通し、外洋側に脱出しようとしていることを予感した。

隧道は全長16m程度に過ぎないが、全体が推定40度程度の石段であり、
これによって出入口間に約10mの高低差を生じているものと推定される。

ざっざっざっ…

お馴染みの効果音を脳内再生して出口へ。

ああ、光満ちる。




視界の半分以上、険阻な岩場に満ちた。

どうやら我々はまだ、「大岩」のてっぺんに辿り着いた訳ではないらしい。

どう見ても、これはまだ途中だ。まだ岩場にはだいぶ上がある。

自分たちがどんな場所に出て来たのか、周囲を見回した我々に、

“さらなる衝撃が!”





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