ミニレポ第278回 岩美広域農道 高住末端 前編

所在地 鳥取県岩美町
探索日 2022.06.08
公開日 2023.10.08

青看に浮かんだ亡霊誘う、霊の道


2022/6/8 15:10 《地図(広域)》《地図(拡大)》

鳥取市と兵庫県境に挟まれたところにある岩美郡岩美町(いわみちょう)は、漁村と農村と山村が調和した長閑な町だ。
ここ高住(たかずみ)は、山陰線の岩美駅がある町の中心部から4kmほど南に位置する農村で、小田川の河谷平野に立地する。

川沿いを県道37号岩美八東線が通じており、これが昔から地区を縦断する唯一の幹線道路であったが、最近新たに横断方向の幹線道路が登場した。
それが、平成29(2017)年11月22日に、昭和57(1982)年度の事業着手以来、晴れて35年ぶりに開通した岩美広域農道である。

事業主体である鳥取県の公式サイトに掲載された開通時のプレスリリースには、「岩美広域農道は、鳥取市国府町の一部と福部町および岩美郡岩美町の営農団地と各種流通施設を結ぶ広域的な基幹農道として昭和57年に事業化され、平成29年11月に全線開通となりました。「美野梨(みのり)ロード」の愛称の通り、この農道が地域振興の礎として末永く利用されることが期待されます」と紹介されている。

写真は、高住にある県道と広域農道の分岐地点の青看だ。青看に新しさを感じる。


丁字路になっている交差点から農道側を覗き込む。
川沿いの平坦な県道とは好対照に、躊躇せず真っ正面から山越えに挑んでいく姿は、いかにも広域農道の典型だ。

とはいえ、その事業期間の長さを物語るように、路面の“色”は青看ほど新しくは見えない。センターラインも絶え絶えじゃないか。
昭和の終わりに始まった事業を平成が引き継いで、その終わりにようやく県の言う“全線開通”へ漕ぎ着けたのである。当然、このように麓に近い部分の建設からは時間も経過しており、いつまでも新しい姿では居られなかった。

ここで少しだけ説明補足。
日本各地の中山間地を快走する2車線道路としての姿がよく目撃される、「広域農道」とはいったい何か。
一般に「農道」と総称される道路の法的な位置づけは、道路法の道路ではない道路のうち、土地改良法が規定する土地改良事業の中で整備された農業用道路をいう。全国にこの種の農道は約17万キロあり、道路法の道路(122万キロ)に次いで多い(林道は約14万キロ)。

農道は、それを整備する事業によって広域農道、基幹農道(旧・農免農道)、一般農道の3種に大区分され、最も広域的に利用される大規模なものが広域農道だ。正式には、広域営農団地農道といい(事業名は広域営農団地農道整備事業)、複数市町村に跨がるような広い地域を一つの農産地として一体的に整備する、都道府県による広域営農団地整備計画の基幹施設と観念される。地域内に点在する中小農地を連結することで、大型農業機械の導入や集荷の効率化を行い、農産地としてのブランドを強化しようとする狙いがある。


あ〜〜ら、楽しそうな地図♪

入口の脇に手書き感満載のイラストに彩られた可愛らしい絵地図が飾られていた。
1畳分はあろうかという大きな看板で、画像の左上の「岩常」と書かれている辺りが、現在地だ。そこから農道は始まり、「蔵見」「久志羅(くじら)」「上野」を経て、右下の「美歎(みたに)」に終わっている。
右上には、「岩美広域農道」という路線名と、その愛称である「美野梨ロード」の名前も見える。このイラストの原図は、開通時のプレスリリースにも掲載されており、事業主体である鳥取県のオフィシャルである。

このように、表面上には楽しさしか感じられない看板なのであるが……

チェンジ後の画像のように、看板表面の凹凸を強調する加工を行うと(これはイタズラなホラー演出ではない)、実は下地に別の看板が隠れていることが透けて見える。

隠された下地の看板には、その最上部に大きな文字で、「広域営農団地農道整備事業 岩美地区」と書いてあり、後は一面に地図が描かれている。だが明らかに絵地図ではない、もっと空白の多い事務的な略地図である。
残念ながら、下地の地図を綺麗に書き出してみることはできないが、そこには……

この広域農道が、“全線開通”の言葉の裏に隠したものが、描かれている可能性がある。

岩美広域農道、県は“全線開通”を謳っているものの、実際には……。

……というのが、今回のお話し。



右図は、岩美広域農道の全体を描いた地図だ。

鳥取市と岩美町を山越えに結んでおり、沿道には鳥取県を代表する果樹である梨の果樹園のほか、スイカ畑などの農地や牧場がある。また、鳥取市街地を山側から迂回する数少ない道路の一つであり、沿道の牧場や古墳、城跡などの観光的資源へのアクセスルートとしても期待されているようだ。

現在地の岩美町高住は、その終端にあたるように見えるのであるが、現在地周辺を拡大したチェンジ後の画像を見て欲しい。

拡大図には、青く着色した太い広域農道と県道37号の合流地点から、少しだけ県道を南下した先で分岐して東の山へ入っていく、それまでの広域農道と同じ幅で描かれた、行き止まりの道が描かれている。私が青い破線で着色した部分だ。

察することに長けた人でなくても、これは、「あ、(察し)」となるのではないだろうか。
私はそうなったから、訪れたのである。

いまから、この行き止まりとして描かれている道へ踏み込んでみたい。
まあ、凄く短そうだけどね。



前述の丁字路から県道を50mばかり南下すると、地図上では短い行き止まりの道として描かれている、私が広域農道の未成区間ではないかと疑った道の入口が早速見えてきた。

それも、違和感マシマシの青看を携えて!

なんなんだこの青看の無駄に広い青い原野はwww

しかも、さっきの青看と同じくらいは、新しそうな雰囲気がある。
一連の広域農道絡みのアイテムではないかという疑いが、濃くなった。
そして、この不自然すぎる青看もまた……

�� ジーーーッ と見ていると…。



隠しごとを、隠し通せない!

妙に広い“青い原野”には、青看修正用の青テープで覆い隠されている部分があり、光のあて方によって、その隠された文字の微妙な凹凸を読み取ることが可能だった。

これは、“オブローダー四十八手”の21番技、『ハイド・アンド・シーク』と呼ばれている。

チェンジ後の画像に、その読み取った“隠された内容”を表示した。
左折する道を隠しているだけでも怪しいが、地図上では明らかに【短い行き止まり】に、3つもの行先が表示されていることも、ますます怪しい。

将来の開通を見越してあらかじめ青看を作っておき、開通時にシール部分を剥がして使おうという魂胆だったのではないだろうか。
遠くない将来に開通する見通しがある場合は、そうすることで青看を交換したり2枚作成する手間が省けて良いのである。


が、実際には上記の太字の部分の予測よりも複雑であるようだ。

右図は、青看に隠されていた左折の道の行先である「国道9号」「荒金」「院内」の位置を表示したものだ。

私は当初、短絡的に、この地図に“赤い点線”で描いた部分には広域農道の未開通区間があって、それを青看は隠しているのだと考えたが、実際に隠されていた3つの行先を見る限り、青看が隠したルートの想定は、チェンジ後の画像に赤線で示したものであったようだ。

つまり、目の前の交差点を左折して小田川を渡り、直後に今度は右折して、現県道の対岸に並走する町道(バス路線でもある)を経由して「院内」で県道197号に出合い、そこから同県道で「荒金」を経由して「国道9号」へ出るという経路だ。

この一連のルート自体は普通に通れるので、わざわざ青看を隠す必要も無さそうに思えるが、それでも何か事情があって隠しているのだろう。
もっとも、過去に一度でも隠された部分が公開されていたかは不明である。ストビューでは私の探索より8年前の平成24(2012)年の画像を見られるが、既に隠されている。

……というわけで、単純に広域農道の未開通区間を隠すための青看ではないようだが、ここを左折した道が広域農道の未成区間だという私の疑いが消えたわけではない。
というか、それらしい末端は山を挟んだ国道9号側の岩井地区にもあるので、そのこと自体はかなり確信に近いものがある。

まあ、とりあえず左折して道の続きを見ていこう。近い末端まで!



青看では隠されている左折の道は、小田川を渡る橋から始まる。
架かっているのは何の変哲もない2車線の道路橋で、銘板によれば竣工は平成8(1996)年、橋名は高住橋という。そして現在は町道高住院内線の橋として管理されている。とりあえず、広域農道の一部であるような痕跡はない。

そして、またも脱線を余儀なくされるが、橋のすぐ下流側に旧橋の親柱2本が橋台とともに放置されているのを見つけた。
旧橋も橋名は高住橋で、竣工は昭和32(1957)年2月であることが刻字により判明。見たところ、幅2mほどのごく狭い橋だった模様。桁は撤去されていて現存しない。




15:15 《現在地》

高住橋を渡り終えた先は十字路で、青看が隠そうとしていた経路はここを右折する必要があるが、今度は青看もないので、土地鑑のないドライバーのほとんどが直進してしまうと思う。(一応、右折が本線である事をアピールする点線があるが、主張としては少し弱い……)
で、何も知らずに直進した結果がどうなるかと言えば、私のこれからを見ていて欲しい(笑)。

直進の道……、
めっちゃ広域農道っぽいですね!(笑)
見慣れた上って行き方をしている。



体感8%程度の急坂が夏色の森に吸い込まれていく。
道幅は2車線だが、センターラインは掠れきってもう見えない。
地図だと高住橋から500m足らずで行き止まりのように見えるが、
特に封鎖や行き止まりの予告はない。なんとも平然としている。



振り返る県道分岐地点。
仮にこの道が国道9号に通じていたら、もっと遙かに多くの人が、この景色を見ただろう。



高住橋から見通せていた最初の200mほどを登り切ると、道はその上り坂を維持したまま右に大きくカーブしていく。
このカーブは、山の地形をかなり掘り込んだ作りになっている。
こういう直線的な土工の多い作りは、広域農道っぽい。歩道がなかったりするのもそうだ。

さらに……


……これ!

このデリニエータに書かれた「鳥取県」の文字も、広域農道として整備された事を示唆するアイテムの一つだ。

デリニエータにはときおり道路管理者名が書かれており、都道府県名があれば、都道府県が管理する道路であることを示唆している。具体的に都道府県が管理する道路としては、道路法の道路であれば国道(指定区間外)と都道府県道があるが、農道の中にも都道府県が事業主体であるものがあり、広域農道の事業主体も都道府県である。他に漁港道路や港湾道路などもある。
もっとも、都道府県が整備する農道のほとんどは、開通時点で地元市町村へ管理が移管される。それでもデリニエータの設置は建設時に行っているせいか、広域農道のデリニエータにも都道府県名が書かれていることが多い。(「広域農道」と書いてあるケースもよく見る)。

少しややこしくなったがまとめると、デリニエータに都道府県名があれば、国道(指定区間外)か都道府県道か広域農道である可能性が高いということだ。
したがって今回のような状況では、広域農道である可能性が一番高いのである。
デリニエータからの推理も結構奥深くて面白いでしょ?笑



15:19 《現在地》

入口から300mほど上っていき、私がスマホにインストールして旅に持ち歩いている
スーパーマップル・デジタル最新版の地図上では、
道が唐突に途切れるまで、残り100m程度、あと左カーブひとつ分だけとなった。

だが、依然として路上には行き止まりを示唆するようなものはなく、
その代わりのように、「右つづら折りあり」と「幅員減少」の警戒標識が揃って現れた。
どうやら、地図とは違う、行き止まりではない“明るい未来”が、用意されているっぽい?!



だがこの直後、

私は心霊現象に見舞われる!



センターラインの消えた2車線道路が坂を上っていく。

直前に警戒標識が予告していたとおり、道幅が狭くなる。

と同時に、坂が下りに転じるように見えた。



そう、見えたのだが……




15:20 《現在地》

みんなには、この先の道は、どう見える?

私には、2本の道が見える。

現実の道と、幻の道が、上と下に重なって見える。

↓↓こういう風に↓↓



それは、不思議な光景だった。

現実の道は、ここまでの2車線幅も上り坂も放棄して、燃料切れの飛行機みたいに下降を始める。
その現実と重なるようにして、これまでの2車線幅と上り坂を堅持した半透明の幻の道が、
さながら道路の霊体のような姿となって上り続けていることを私は知覚した。

右手に見えますガードレールも、霊体だなぁ……。お空へ逝ってる…。



道の霊が見える気がするので、辿ってみよう……。



15:22 《現在地》

微妙に生きてる? この霊www



続く


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