2014/9/14 7:14 【周辺地図(マピオン)】/《現在地》
10年前と全く同じスタート地点。
ここへ来たのも、またきっかり10年ぶり。
錦秋湖の南岸を走る峠山林道(一部砂利道)が“謎のトンネル”に入る手前の広場に車を停め、細田氏と長靴などの探索準備を整えた。
気温は15℃を下回るくらいまで下がっている。
ここ最近、いよいよ北東北の空気は秋らしさを帯びている。
奥羽山脈の真っ直中に横たわる錦秋湖であればそれはなおさらで、きりりとした寒さが探索の朝の爽快な気分を引き立てた。
10年前は同行しなかった細田氏が早速歓声を上げた。私もまたそれに倣う。
数字の上での低水位と、実際に目にする低水位とでは、やはり感動が全然違った。
ダムの水位が下がると興奮するというのは、オブローダー気質の最たるものであろう。
スタート地点から湖を眺めると、緩やかに傾斜する斜面の向こうに泥色の大地が広がっていた。
この大地こそが大荒沢集落および大荒沢駅の旧在処で、大地の向こうに細く見える泥色の湖面が、本来はこの大地すべて覆い隠す錦秋湖である。
また、対岸の目線より高い所を国道107号が通じているが、低い朝靄に隠されていて見えなかった。
スタート地点から西方向に斜面を下る小径があり、それが湖畔へのアプローチの第一歩となる。
一応車が通る事が出来る小径を50mほど(高低差は10mくらい)下ると、線路が現れる。
これはJR北上線で、この線路と並行するようにして道は終点を迎えている。どうやら保線車両が進入するための小径のようだ。
この地点は、昭和37年に国鉄横黒線が付け替えられた当初、大荒沢駅を引き継いだ大荒沢信号所が置かれていた跡地だが、昭和45年に同信号所は廃止されている(この間の昭和41年に路線名は北上線に改称)。
ここには踏切も踏み跡もないが、どこかで一度は線路を渡るよりないので、適当に渡って向かいの草藪に突入!
線路下の草むらに潜入。
ここまで来ると泥色の湖底がもう間近に見えるのだが、背丈よりも高い灌木帯が行く手を遮っており、ここからがまだ結構難関である。
しかし、この難関さえも今は楽しい。
この先にまともな道が無いことが、湖底世界の神秘性を担保していると思えるし、ここは10年に一度だけ行き先が生まれる夢幻の通路なのである。
我々が激藪突入への覚悟を新たにしている最中、背後の線路が俄に騒ぎだし、それからまもなくグリーンホワイトの列車が駆け抜けていった。
鉄ちゃんである細田氏は、子供のように見送っていた。
「細田よ。
現実との別れは済んだか。 ここからは非現実の現実だ。」
いざ、湖底への最終降下を開始する!
灌木の斜面をケモノのように全身を使って突き進む。
まだ灌木帯の半分くらいしか来ていないが、結構傾斜があるために進路を見通せるのが救いだ。
ここで上流方向に視線を向けると、灌木帯の上限の少し上に現在線のトンネルが見え、
一方で灌木帯の下限の辺りに、旧線のロックシェッドの入口が僅かに見えた。
ダムの通常運用における渇水期の水位は、例年あのロックシェッド辺りになる。
ちょうどそんな時にここを探索したのが、13年前のこのレポートである。
そして、反対の下流方向には、
細田氏が訪問を夢にまで見たという、あの構造物が ! !
大荒沢ダム出現!
が、
ここで細田氏にとっては特にショックな事実が判明。
今日のまだ下がりきっていない水位では、ダムは10年前の
レポートのように、地続きにはなっていなかったのである。
これでは、私も彼もダムに潜入することは不可能である。
スマン細田。ダム上陸の為の水位が、そこまでシビアだとは思わなかったんだ…。
7:24 《現在地》
出発から10分、湖岸と湖底との境界線に到達。
うっすらとでも草が生えている場所が湖岸で、その先の不毛の土地が湖底である。
この明確な違いは、湯田ダムが設定している最低水位(海抜215m)を境にしている。
その線よりも上部は、土に含有された植物の種子が死滅しない程度の頻度で地上に出るので、その際に無事発芽し、そこで生命環を完結させている。
一方で最低水位以下は、十年に一度というほんの僅かな期間しか地上に露出しないので、土中に生きた種子がほとんど無いものと思われる。それゆえ不毛なのである。
この日の水位は、海抜210mであった。
つまり、この湖岸線よりさらに5m水位が下がっていた。そしてその5mの差が、全湖底の9割以上を露出させる状況を生んでいたのである。
見えたッ!大荒沢駅 !!
まだここから500mくらいは離れているが、10年ぶりにその姿を見る事が出来て大興奮!
ダムの方は残念だったが、駅にはなんとか辿り着けそうだ。
そしてこの光景、やはり見慣れるようなもんじゃない。
そんな甘いもんじゃなかった。
“湖に沈んだ鉄道旧線”は他にもあるが、湖底にこんな立派な駅のホームが残っていて、
しかもそれを想像するのではなく、実際に上陸する機会が得られるというのは、もしかしたら日本唯一
……なのかもしれない。
湖底エリアへ進入。
斜面には河原のような砂利があるので問題無いが、その先のほぼ平坦な、“いかにも湖底”な場所に入ると、泥が地面を覆っている。
このことは10年前にも経験しているので十分把握していたつもりだが、その実際の恐ろしさとの再開も10年ぶりなわけで、やはり一筋縄ではいかないのであった。
ましてや細田氏は、この湖底は初めて来るのであって、
ああっ、 そんなにズケズケ行ったら……
(彼の前に見えている横に広い平らな場所が、旧線の路盤跡だ)
ほら〜!!笑
そうなるからね♥
次回、
この路盤を辿って、幻の駅への“上陸”を目指す!