2014/3/27 7:00 《現在地》
前代未聞の穴あきダム(しかもその穴を林道が通過する構造)としての姿を晒した小匠ダム。
いま、睨みを利かせる巨大な“ギロチン”に背路を渡し、私は愛車だけを伴って、無人境と化して久しい上流部へと突入する。
だが、この先も当分は小匠ダムの影響を避けがたいだろう。
というのも、しばらくはダムの湛水によって容易く水没する“湖底エリア”を行くことになるのである。
これもまた、道路のシチュエーションとしては、はじめて体験するものといえる。
ほとんどは、ダムの湛水によって水没した道路は、そのまま「廃道」になる。
未体験が、さらなる未体験に繋がっていく…。
ダムをくぐって進むと、まず目に飛び込んで来たのが、険しい法面に立てられた鉄製の水位標だった。(←)
表面に目盛と数字が描かれ、ダムの湛水位を観察出来るようになっているようだが、周囲は普通に木々が成長していて、浸水が頻繁ではないことを物語っている。
しかしそれでも、ダムの閉鎖時には確実に水没するのである。
直近では、平成23年の台風12号時に満水まで貯水した。(前回、この時には貯水が行われなかったという証言を紹介しましたが、実際は行われていたようです→【参考】)
それでは、満水時の湖面は一体どの程度の広がりを持つのだろう。
海抜約25mに立地する堤高37mの小匠ダムの貯水位を海抜50m附近と想定し、その等高線に沿って湖を描いてみたのが右図である。
川の両岸は険しいが、河床の勾配は極めて緩やかであるため、2〜30mの水位上昇であっても、驚くほどに細長いダム湖が出現することが分かる。
具体的には、小匠川本流沿いにダムから3km上流までが湖と化し、高野川沿いではそれ以上である。
そして、これらの川に沿う林道もまた、2km以上先まで余裕で水没するようである。
ちなみに、ダムの穴がある現在地は、水深15m以上の深さになると思われる。
例の“ギロチン”が水圧に耐えられるのかという疑問を持つが、きっと大丈夫なのだろう…。
ダムから50mほど離れて振り返った。
奥に“ギロチン”と穴が見えなければ、どこにでもありそうな林道上の一風景である。
だが、この鬱蒼と茂る緑の木々が、確かな轍を刻んだ砂利道が、共にダムの一挙動によって、一昼夜も経ずに深水へと溺れるのである。
閉門の運用には最大限の注意が払われているとは思うが、林道上に人や車(特に停車車両)などが残っていても、大局的な災害防止のために閉門は行われるのだろうか。
それはないとしても、気づかれないままに閉門されたらと想像すると、怖ろしい。
同位置で進行方向を撮影。
そこには小匠ダム湖というべき、白緑色の水面が広がっていた。
そして、湖面へ落ち込む林道路肩の斜面にはブルーシートが敷かれ、周辺に数台の重機が停止していた。
湖上には流路調整用と思しき土嚢の列があり、ここが何かの工事現場であることが見て取れたが、なにやら様子がおかしい気がする。
素人が一見した印象に過ぎないが、今朝までの雨による水位上昇が想定外で、土嚢で守っていた現場の一部が水没したような雰囲気があった。
また、直前に私を追い抜いた(手本を見せた)軽トラの姿もあった。車は路肩ではなく、道の中央に止まっていた。
軽トラの男性は今日一番の訪問者で、タッチの差で私が二番手だった。
煙霧に霞む、小匠ダムの不気味な姿。
軽トラから降りた初老の男性は、ここの現場監督だろうか。
破堤してしまったらしき土嚢の山を、腕組みでじっと見つめていた。
彼は背後を通りすぎた私に声を掛けることも、逆に私が何かを問うこともなく、
同一フィールドを舞台とした仕事と遊戯とは、交奏せずに別れた。
雨上がりの今朝は、この土地にとって少なからず「平常時」ではないのかもしれない。
遊戯の舞台として利用するなら、いつも以上に気を引き締めて臨む必要があることを、彼は教えてくれた。
7:03 《現在地》
ダムから500mほど進むと、またしても非常事態を思わせる風景が現れた。
小匠川の水面は流れを取り戻しているが、その緑白色の水面は大河のように悠々としていて、遠目には湖面とあまり違いがない。
そしてその流れを横切るように、1本の人道橋が架かっていた。
本来は架かって「いる」と言うべき所だが、橋はまるで水面上に浮かんでいるかのように浸水していた。
もともとそういうことを想定した橋なのだろうが、人道橋らしき華奢な橋が水面に浮きつ沈みつしている姿は、心安からぬものがあった。
なお、この橋は地形図にも描かれている。
林道が開通する前に山越えで樫山へ通じていた古い生活道路の名残ではないかと思われる。(現存する橋はさほど古いものでは無いだろうが)
少し寄り道だったが、折角なのでこの水没しかかっている橋に近付いてみた。
橋は林道から脇道に少し入って川縁まで下った所にあって、ご覧の通り、工事用の足場を組み立てただけのような簡易な“鉄板橋”だった。
この撮影時点でも橋の一部が、15cmほどの深さで川水に没していたが、少し前まではもっと水位が高かった気配があった。
君子危うきに…などと言う気は無いが、まだ濡れるのはさすがに嫌なスタート直後なので、水没橋の完抜は遠慮しておいた。
(正直、河中の橋の状況が全然分からないので、渡った途端に流失して溺れることを恐れたというのもあった)
また、橋の中ほどに憐れな漂着者の姿を認めた。
橋に引っ掛かったテグスのようなものが背びれに絡まり、烈しい水流のために水中の“鯉のぼり”となってしまった、体長30cm近い大きな淡水魚である。
私がテグスに手をかけると、ビチビチと健在さをアピールしてきたので、気の毒に思った私は、彼をテグスから解放してやった。
そのままアリガトウともポニョとも言わず緑白の水底へと消えていったが、いつか私が水に嵌ったときに助けてくれよな。
林道へ復帰し、前進を再開しようと先を見て…
………え?
ま さ か
そ ん な ま さ か ?
スポンサーリンク |
ちょっとだけ!ヨッキれんの宣伝。
|
セーフ!
セーフティ(安全)ではないかもしれないが、
とりあえず道はセーフッ!!
一時、確かに道が河中へ消えていくように見えたものの、
実際はガクッと急坂で下った後、水面のすんでの所で、
ご覧のような、水平を描く道路があったのである。
7:09 《現在地》
しかしこれ、本当に水面に対するセーフティリードは皆無に近い。
今の水面がそれなりに増水しているだろうとはいえ、これだけの大きな川との高低差が現状では1〜2mといったところ。
これは極めて異様な道路風景。
なんか、こうして見ているだけでも、溺れそうな息苦しさを感じるし、現にダムが湛水を行わなくても、ちょっと増水すれば、容易く水没しているだろう事が、路傍の緑の寒々とした雰囲気からも感じられた。
まるで、大河の畔に刻み付けられた獣道のような頼りなさだ。
ここだって、ほんの数時間前までは本当に水の底だったのではないか…。
さらに、ここの道幅は今までになく狭い。
コンクリート鋪装があるが、これは頻発する水没に対する、せめてのお守りといったところか。
考えてみれば、道は現在の地形図で“破線”にて描かれている区間にもう入っていて、仮に廃道となっても文句を言える状況ではなかったりする。
しかし、今本当に恐れるべきは、この先この道が、たった1m前後しかない水面との比高を無事に死守してくれるかどうかである。
この1mという数字が、予め計算されたものだったならば、良いだろう。
だが、どうせダムに水没する道だからというわけではないと思うが、ここには一般的な道路のような「水没ダメぜったい!」という意識があまり感じられない気がして…。
まだ、そんな危うい路面の乱高下があっても不思議ではない、怖さがあった。
頼むぞ! この1mは死守しろよ!
お読みいただきありがとうございます。 | |
当サイトは、皆様からの情報提供、資料提供をお待ちしております。 →情報・資料提供窓口 | |
このレポートの最終回ないし最新回の 【トップページに戻る】 |
|