2011/6/4 16:00 《現在地》
いったいここに、どんな道が存在していたのだろうか。
現地でその手がかりとなるのは、崖にへばり付くように設置された1本の橋脚と、ものの見事に破綻した落石防止ネットの残骸だけ。
だが地形が変貌しすぎていて、道路のカタチは、ようとして見えない。
そもそも、この場所が崩壊した時期が分からない。
旧道になったのは昭和49年だが、廃道になった時期についての記録を見たことがないし、廃道化したあとの崩壊の時期となってはなおさら分からない。
小谷村といえば、平成7年の水害に大きな被害が記憶に残るが、その時期なのかもしれない。
崩壊斜面を横断している最中も、姿を消した道路の痕跡を探そうと地べたに目を凝らした。
だが、そうして発見できたものは、ごく僅かだった。
写真の中央に写っている朽ち木の根のようなモノは、U字型をしたコンクリートの柱のようだった。
おそらくは、この頭上に架かっていた桟橋の残骸なのだろう。
また、左隅にはガードレールの支柱のようなモノが見える。
このあたりに橋桁の残骸が埋まっているのかも知れない。
しかしいずれにしても、ここまで破壊されていると、大規模な発掘調査でもしない限り、原形を復元することは無理だ。
当時の姿を記録した写真でもあれば、一発なのだが…。
崩壊斜面の横断については、あまり記録することがない。
歩いている場所が“道路”ではない、ただの山野の斜面なので、熱心に語る気にもなれない(本音)。
別に難しくはないが、枯れた下草が多いので滑りやすく、決して愉快ではないとだけ書いておく。
そしていよいよ斜面横断は残りわずかになり、“続きの路盤”があるだろう平場が頭上に近づいてきた。
しかし見ての通り、直接ここからよじ登る事は出来ない。
まだまだ、迂回が必要だ…。
さて、どこを突いてこの崩壊地から脱出しようか。
崩壊地とその周囲との間には、今なお活発に崩れ続けていそうな“鼠返し”の斜面があり、遠目にも懸念はしていたが、いざ近付いてみてもやはり、場所を十分に選ばなければ突破できそうにない。
最悪、ずっと川べりの方まで下らないといけないことになりそうだが、それって口で言うほど簡単じゃないし、上に向かいたいのに下へ下がるなんて、かなりのストレスだ。
なんとかガードの緩いところを見つけて、迂回を小さく路盤へ復帰したいものだ…。
ちなみに、姫川との高低差はこのくらいある。
路盤よりは20m以上も低いところにいるが、それでも川はまだかなり遠い。
だが、アルプスの高峰の隅々から集められた雪解けの水量は凄まじく、ここにいてもその轟音が耳を騒がせた。
だから、川はこんなに遠いのにも関わらず、ここで足をすべらせれば川に引きずり込まれるのではないかというような錯覚があり、また何となく急かされるような感じもあって、落ち着かない。
早く路盤という名の安定地に辿り着きたい。
こっ、これは!
ラ、ラッキーだ。
これは嬉しい。
崩壊地を渡る水道管が設置されている事から、何らかの横断ルートが存在することを想像してはいたが、おそらくはその答えと思しき1本の存置ロープを発見。
ありがたく利用させて貰うことにする。
これがないと、或いは気付けないと、かなり下まで迂回させられる羽目になっただろう。
よしよし!
と、内心既にほくそ笑んでいる。
いまいる場所は、崩壊地帯を囲む山腹の縁。
かなりの急斜面であり、踏み跡らしき物も見あたらないが、手がかり足がかりが豊富にあるので上っていくのは難しくない。
にやにや。
ここまで来れば、未踏路盤到達(まあ、直前に存置ロープを見てはいるが…)はほぼ決定的だろう。
いったいそこには、どんな風景が待ち受けているのだろう…わくわくがとまんない。
16:09 《現在地》
路盤復帰!
目の前にあるのは、道と言うよりただの草むらだが、その平坦さは明らかにこれまで無かった地形的特徴。
すなわち、路盤跡。
やった!
おおよそ50mの崩壊地の横断に、13分の時間を要した。
さすがに苦労したと言わねばならない。
しかし、今回の目標「未踏区間の踏破」達成のための、最初にして、おそらく最大の関門をこれで突破したことになる!
1年ぶりのリベンジに向けた大きな大きな前進だ!!
嬉しい!!!
攻略し終えた大崩壊地を振り返ってみる。
この瞬間は、いつでも征服欲が満たされて気持ちいい。
でも今回の気がかりとしては、ほぼ確実に、帰路もここを戻らねばならないと言うことだ。
“先”が分かってしまっている廃道は、正直気が重いものがある。
我ながら、それでも汗を掻こうと思える自分の廃道ジャンキーぶりが愛おしい。
それにしても、なんという道路亡き廃道風景だろう。
桟橋があったにしても、その明瞭な痕跡は橋脚1本のみ。
いったいどこからどこまでが橋であったのかさえ、定かではない。
この崩壊が現役当時に起きたものでないのは、幸いだった。
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16:10
休憩を挟まず、さっそく前進を開始
してすぐに、震えた!
一面の緑色の中に、見慣れまくったガードロープのバーが1本だけ突っ立っているのを発見したのだ!
分かってはいたことだが、間違いなくここは路盤!
長い孤独と叢生に耐え、私をずっと待っていた小さな遺構!
愛しい!!
路上はまさに緑の世界。
気温が高いので両腕を露出させて歩いているが、毛虫でも触りはしないかと、何だかゾワゾワする。
もともとが未舗装だったにせよ、砂利敷きの路面がこれだけ緑に覆われるためには、相当に長い時間か豊富な土砂の流入が不可欠である。
ここが豪雪地であることを考えると、主に後者によってこの“緑化”が果たされたものと考えられる。
その証拠として、こんなに緑は濃いが、明治時代などの古い廃道とは異なり、路上にはほとんど木は生えていない。
草がほとんどなのである。
昭和49年までは現役の国道だったのだから、大木が育つには時間が決定的に短すぎるのだ。
腰から胸くらいまでの丈がある草むらを掻き分けて進むこと、少々。
足元より間断なく聞こえてくる姫川の轟音とは異なるジャブジャブという水の音が、近付いてきた。
そして路肩というか、本来ならば道幅の中央くらいの位置から、滝となって姫川へ落ちていく水の流れが、見え始めた。
写真だと、本当にここに道があったのかと疑いたくなるような有様だが、間違いなく道はここを横断していた。
この水流と交差する路上には、水を溜めるドラムカンが置かれており、取り付けられたホースは崩壊地で見たものと同じだった。
どうやらここから取水するためのホースだったようだが、ドラムカンは既に土に埋もれており、水は全て外へ流れていた。
なんのための取水設備であったかも、今となっては分からない。
水場を渡ると、頭上が急に明るくなった。
どうやら比較的最近に、法面上部の木々が大量に路上へ滑落するような土砂崩れがあったようで、そのために森の屋根の一部が途切れていたのである。
お陰様で、路上に蔓延る雑草の背丈は、これまでで最高に高くなった。
と同時に、まだ完全に枯れきっていないが、おそらく今年が最後の年になるだろう大木が、何本も倒木となって通せんぼしているために、この数十メートル区間は小さな難関だった。
疲れた足を力一杯引き上げながら、絡みつく雑草や枝葉やツタを踏み越えて、進んだ。
今度は薄暗い道。
ようやく路上の緑も一段落。
ここでは、法面から崩れた瓦礫が茶色い崖錐を作っていた。
通路として好都合なので、落石のリスクは無視して、ここを通ることにした。
残る路肩側の半分は笹藪に埋もれており、入り込みたくない。
なお、この崩れやすそうな法面は完全に素っ裸(無普請)であり、路肩も特にコンクリートなどで固められている様子はない。
相変わらず、旧国道らしからぬ…テキトーな道だ。
一応、転落防止用のガードロープは存在していたようだが…。
これも既に支柱が大半失われ、所々にテンションのかかっていない“だらしない状態”になって、残っているだけだった。
その下は、緑が深くて川まで見通せないものの、ものすごい急斜面で落ち込んでいた。
さらに高くなった法面。
客観的な地形は今ひとつ計りかねるが、険しくないはずがない。
道幅も間違いなく狭まった。
そして、視界を遮る緑のために、路肩の正確な位置は分からない場所が多い。
この路肩がはっきり見えないというのは、意外に不安で不快なものである。
危険は危険として明確に見えていた方が、歩きやすい。
こうしてよく分からないカモフラージュがされると、必要以上に恐れて無駄な高巻きみたいなことをしがちである。
去年の探索で、下の姫川からこの旧国道を見上げた風景を思い出すにつけ、この先にさらなる難所が現れる公算が大。
その時に、この足元を隠す草むらの存在がどう影響するのか。
とっても不安なのである…。
高い法面から墜落して死んだのか、或いは逃げ場の乏しいこの場所で天敵に襲われたのか。
何かの動物の骨が落ちていた。
こういう嫌でも「死」を連想させるアイテムを廃道の不安な場面で見せられると、どうしても内心怯えてしまう。
私も例外ではない。
木々の隙間から、初めのうち見えなかった浦川(姫川の支流で、ちょうど外沢隧道の対岸付近で合流している)が見えはじめたのは、ゴールまでの距離を推し量る重要なヒントになった。
やがてこの路上にも再びの桟橋が現れ、最後には橋の失われた谷と、その対岸に前回到達の「外沢隧道」を見通せる時が来ると思う(そう願う)が、それ以外に客観的な進行度合いの目印になりそうなものは、特に想定されなかった。
地形図上では、あまり特徴のない破線の道で描かれているだけなので…。
この“なで肩”の路肩を見よ!
いったいどこまでが路上で、どこからが斜面なのか、よく分からない状況になっている。
これは路上に大量の土砂が積もり、全体的に斜面化してしまっているせいだが、ますます地形は険しくなってきていて、特に道路よりも下方の崖にその傾向が顕著であるため、道の真下に渦巻く激流が見える感じになって来た。木のカモフラージュも途切れがち。 おっかない。
だが、そんな危険地帯の岩場の上では、一匹のトカゲが気持ちよさそうにひなたぼっこに興じていた。
私が踏み越えるくらいまで近付いたところで、やっと驚いて逃げていった。
かわいいな。
16:18 《現在地》
トカゲが乗っていた岩の先には、巨大な土砂の山が出来上がっていた。
これを乗り越えなければ、当然先へは進めない。
しかし相手は草山ということで、滑り落ちたらどこまで落ちるか分からない怖さがある。
いよいよ、去年の私を遠望で戦慄させた難所も近いっぽい。
すごくドキドキしてきた。
そして、慎重にドキドキしながら、このススキの小山を乗り越えると…。
巨大なコンクリートの擁壁がっ…!!
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