《 9:01 遡行開始から47分経過、480m地点 【MAP】》
よしゃよしゃよっしゃあ!!
8分かかりました!
魔の谷底から、とりあえずひと息付ける左岸の樹林帯に辿りつくのに。
しかし、これで何とか前進への再始動が出来そうだ。
恐らく、古老もかつてはこのようなルートで本谷を遡行したのであろう。
また、当時なれば何らかの目で見て分かるルートがあったのかも知れない。
今は全てが自力である。
間違いなく過酷だったが…
楽しくもあった。
自分たちの実力で一歩一歩清水国道へ近付いていくのは、たまらない興奮事であった。
後は、この“熱”が冷める前に、なんとかこの高巻きを成功させて先へ進みたい。
《 9:10 遡行開始から56分経過、520m地点 【MAP】》
高巻き開始から9分経過。
そこに道形はなかったが、積雪した山腹を適当にトラバースして進むことが出来た。
そして、谷の方向へと悉く傾いて育っている灌木を、高く足を上げて踏み越えるトラバースは、本当に疲れる作業だった。
積雪があるお陰で見通しには恵まれたし、灌木のお辞儀の角度も増していたと思うが、足元の地形がよく分からない事のリスクや、濡れ雪を踏み分ける足の重さに、そうしたメリットは相殺された。
幾ら小滝がうざくとも、基本的には谷底を歩いた方が楽だというのが、このトラバースを数分こなしてみた2人の感想だった。
自然、我々は再び河床へ下りれる場所を探しながら進んでいった。
トラバースさえも出来ない様な最悪の地形が現れないことを、祈りながら…。
《 9:15 遡行開始から61分経過、550m地点 【MAP】》
さらに5分後。
トラバース、マジキツイッす。
どうやら我々がトラバースを開始した地点から、本谷には連続で滝が現れているようだ。
トラバース中にもかなり登っているが、谷はそれ以上のペースで追いついてきた。
遂に標高1150mを越え、距離の上でも清水国道までの半分をこなしている。
実は私の中の本谷には、“そこまで辿り着ければ恐らくクリア”という場所があったのだが、それが近付いていた。
というか、地図の上ではこの辺りで本谷に戻れば、もうその場所に辿りついていそうだった。
音と気配から連瀑地帯を抜けたと判断した我々は、意を決して本谷の河心へ戻ってみる。
よっしゃあ!
行けるで!!!
《 9:20 遡行開始から66分経過、570m地点 【MAP】》
約20分続いた“試練のトラバース”に耐え、
我々は再び本谷河床に降りたった。
振り返れば、そこには明らかに連瀑を感じさせるV字スリットが口を開けており、
その背後は谷底の風景と言うよりは、空っぽかった。
晴れていたら、何が見えていたのだろう…。
空気が白いのは、雲の中に入ってしまったに違いないのである。
幸いにして今は雨も雪も降っていないが、もし降るならば雪だろう。
ここで当たり前の事を書くが、
寒い。
極寒とまでは言わないが、濡れた下半身はネオプレーンの保温性を通り越して、寒い…。
私もHAMAMI氏も、雪山で沢登りをした経験は無い。
つか、今シーズン初めて見る雪だっちゅーの!
11月3日に雪山を歩いたのは、結構レアな体験だと思う。忘れがたい体験だ。
少し、明るい話をしよう。
先ほど書いた“そこまで辿り着ければ恐らくクリア”の地点とは、何だったのか。
それを説明しようと思う。
昨年8月16日の第4次探索(テレビの収録のため十五里尾根ルートで清水峠へ日帰りした)は、前説でも述べた通り、今回の探索実行に直接繋がる情報入手の機会であった訳だが、それだけでなく、この日の前半は珍しく晴天に恵まれたことから、本谷の内部を観察するまたとない機会ともなったのであった。
この写真は、十五里尾根の登山道から撮影した本谷内部だ。
木が生えていない谷の中が、明け透けに見えている。
その河川勾配の激しさにまずは目が行くところだが、私はこれを見て別の事を考えていた。
この白さは、歩けそうだぞ。
…と、そんなことを考えていたのである。
白く見える本谷の上部は、ゴーロになっていると考えたのである。
…いや、「考えた」なんてもんではなく、
はっきりとゴーロが見えたと言って良い。
そしてゴーロならば、歩けるだろうと考えたのだ。
さらに空撮写真も、この“本谷ゴーロ説”を裏付けていた。
「現在地」よりも下流では谷底が細くしか見えていないが、上流は太く白くはっきりと映っている。
ここは大きな岩がゴロゴロと谷を埋めているゴーロに違いないだろう。
しかるに!
ここまで来たら(多分)清水国道に辿り着ける!!