道路レポート 東京都道236号青ヶ島循環線 青宝トンネル旧道 第5回

所在地 東京都青ヶ島村
探索日 2016.03.04
公開日 2017.11.18

「残所越」の峠を越えて、外輪山の外側斜面へ


2016/3/14 14:08 

突如遭遇した“謎の穴”の興奮がまだ冷めない状況だが、ここへ来た本題の旧道探索も、文字通りの山場としての峠を迎えている。
一旦仕切り直しをすべく、“謎の穴”の池之沢側坑口前に戻ってきた。

目の前には、(今一度通った)峠の切り通し。これまでの鬱蒼とした旧道にはなかった明るい日差しが、場面の転換を象徴していた。それと写真では伝わらないが、海風の強まりも忘れがたい味付けだった。




地理院地図では未だに都道の色で塗られている、この旧道。本当に都道なのかは分からないが、昭和60(1985)年に全長505mの青宝トンネル(現都道)が開通したことで、三宝港と池之沢を結ぶ路としての役割を終えたものと思われる。

三宝トンネルも、あの急勾配と狭さであるから、現代の感覚からすれば決して“良い道”ではなさそうだが、それでもこの旧道にあった峠越えを省略出来たことは大きな大きな進歩である。
池之沢からこの峠までは、約500mの距離で80mほど上った(決して緩やかではない)が、峠から青宝トンネルの三宝港側坑口までは、約750mで150m駆け下る。単純計算でその平均勾配は…… え? う そ?? 20%っ て、マジか!!
確かに20%くらいの坂道は車道にもたまにあるのだが、750mという長さの平均勾配というのは……、まあ、車道じゃないと考えるのが普通だと思う。現に 地形図だと破線の道 になっているし。スーパーマップルは車道表記だが……ともかく行ってみよう。それをするために、ここまできたのだからね。

なお、この峠にはちゃんと名前が付けられていたことが、後日の調査で判明した。 
地形図などにはなんの表記もないけれど、ここは「 残所越」 という。
読みは、「ざんしょごえ」ではなく、絶対に予想できないと思うが……「の こじょごえ」である(笑)。残念ながら地名の由来までは分からないが、なんとなく、平和そうな名前ではない……。

というわけ(?)で、これが “残所越” の切り通しだ。
風の通り道であり、両側の枝葉がわさわさと忙しなく揺れている。

周囲の外輪山が250m前後のピークを持っているので、ここは70mくらい低いことになる。
そのうち10mくらいは、人工的に掘り下げた切り通しの分だと思う。両側には本土の峠道でもよく見慣れた
谷積みの石垣が頑丈に守りを固めていて、なかなかの安定感である。
ただ、自動車ほどの大きさの岩塊がどっしりと道を塞ぐように転げているのは、
廃道アピールが強烈だ。絵にはなるが、恐ろしい。



峠の切り通しは長さが30mほど で、前後がクランク状に折れ曲がっている。写真は海側出口のカーブを曲がったところで、行く手を撮影した。
先ほどまで右側が山だったが、今度は左側が山になった。右は島の外、つまり海へ向けて解放された。

チェンジ後の画像は同地点で切り通しを振り返って撮影した。見事に切り抜かれているのが分かると思う。向って左側の藪の中に、既に探索した“謎の穴”が潜んでいるのだが、こちらから行くのは二度と御免である。




海キター!

さっきから、明るさと風とによって、存在を強烈にアピールしていた海が、久々に私の目に映った。ここ数日さんざん海は見てきたし、その機嫌にやきもきさせられてきたというのに、なんかテンションが上がる。
自分の足で峠を越えたという実感が、とても分かりやすかったからだろうか。
あるいは、この先の道への期待と不安感からか、いずれにせよ、私はとても興奮していた。

それでは今度こそ、峠から三宝港の方へ下っていこう。
これは前回最後も書いたが、地形図では破線にて描かれている区間に入ってからも、道は依然として車道の形を失っていなかった。
舗装はされていないが、道幅は1.5車線分くらいあるし、路肩にはガードレールが残っていた。

ただ、近くで見るまでもなく、このガードレールはボロボロだ。廃道でもなかなかここまで朽ち果てたガードレールを目にすることは、多くない。
そもそも、ガードレールというものが登場し始めてからの時間を考えれば、ここでは相当尋常ではない勢いで腐食が進んでいると想像できる。
理由はまず間違いなく、潮混じりの海風だろう。標高180m近い場所まで海の飛沫が上がっているとは普通でないが、この島なら、あり得そう。

ガードレールを観察しつつ、その下の崖を覗いてみたが、やはり急である。そこにこの道の下っていく先が見えることも期待したが、案外遠いらしく、樹木に遮られて存在を伺うことが出来なかった。


お おお! 海だ〜! そして地味に舗装が復活している模様。

池之沢の鬱蒼としたジャングルとは全く違い、路傍の木々が低いために、そして傾斜も急であるために、廃道化していて路上にもかなり緑が進入してきている状況にもかかわらず、路肩から海が見下ろせる場面が何度かあった。
この高度感が、気持ちいいけれど、恐い!

おそらくこの感覚は、ジェットコースターのスタート直後、ゆっくりと一番高い落下地点へ引っ張り上げられている時のそれに似ている。
このあと道は、どうなっちゃうのか?! 

とりあえず、 道は今のところ破綻を見せていない。
密な等高線を慎重に斜めに切って下りつつ、東の方角へと進んでいる。このあとで切り返しがあり、それから今いる下の辺りの斜面に電光型のギザギザを刻みながら一気に高度を下げていくというのが、この先の展開のようだ。地図にはそんな道が描かれている。
 

なにあれ! 三宝港、凄すぎ…!

あの見え方は、反則的だろ!
格好よすぎて、惚れちまうぜ。
あの港は、全く平らなところがない島の海岸に、本当に無理矢理に平らな陸地を造っていることがよく分かる。島の地形に対して、取って付けた感が半端ない。

来島者があの港を最初に見てしばしば「要塞」を連想するが、それは海上から見た切り立つ島を背負う姿が、島を外的から守る要塞のように見えるからだろう。私も同感だった。

だが、こうして陸上から見ても(当然ながら、この旧道からしか得られない貴重な眺めである)、やはり要塞という印象を持つ。
今度は、広大な海に向って睨みを利かせる、島の英雄的な姿がある。相手は大きいが、港の負けん気も強そうだ。島を背負う気概が感じられる。



再び灌木に身を隠すように続く道を下っていくと、今度は…

何かの機械の残骸があった。

大きなエンジンと、座席であったらしきシートが、目立つパーツだ。はじめは自動車かと思ったが、タイヤも窓ガラスも、ボディらしいものも見当たらないのは、いくら潮気で溶けるように朽ちたとしても、不自然な気がする。

もし自動車でないならば、集材機とか、大掛かりな巻上機(ウィンチ)のようなものだろうか。風化しすぎていて、ちょっと判別がつかなかった。いずれにしても、この道がなくては存在し得なかった遺物だろうとは思う。
この機械の正体について、皆様のお知恵をご意見を拝借したく、大きな画像を用意しました。我こそはという方は、是非チャレンジを。 →【大画像1】【大画像2】


14:10 《現在地》

峠を下り初めておおよそ3分、特に苦労することなく、最初の切り返しらしきカーブに到達した!
ここまで峠から約100mで、標高は15mくらい下がったかと思う。まだまだ、海は遠い。そして緑が濃い。

ここは山側の斜面がだいぶ深く削り取られていて、急傾斜の狭いところにカーブを入れようとした努力が伝わってくる。
それでもかなりアールのキツイカーブにはなっているが。

緑が濃いので、往事の道の姿を想像するのは案外に難しいが、今も島を席巻している軽トラが、今以上の唸りを上げつつ上り下りしていたのだろう。


切り返して、今までいた道のすぐ下に潜り込んだ。
樹木が這うように茂っているので、視界を得にくいし、自分がどんな場所にいるのかさえも、事前の知識がなければ把握が難しいだろう。

ひとことで言えば、ろくでもない場所にいる。知らぬが仏の現実だが、私は中途半端に知ってしまっているから、やはり悠長にはしていられなかった。
ここまでが“平均勾配20%”というほどは険しくなかったことが、むしろ、この先の劇的な“悪化”を予感させた。

それでも、ここまで“車道”の姿で来ている以上、最後まで車道として下るつもりだろうと思えるのことは、私にとって救いであり、楽しみでもあった。


さらに少し進むと、再び灌木の上に姿を出すことが出来た。
そこで振り返って撮影したのが、これらの写真だ。
海抜200mそこらとは思えないほどに飄然とした姿を見せる外輪山の尾根が、徐々に遠くなっている。

先ほど“謎の穴”の中で触れた赤茶けた露岩が、直前の切り返しのすぐ先に、強烈な崖として存在していた。そのことに、今さら気付く。
今そこで道が切り返したのは、あの崖地帯を避けるための英知であったのだと、気付く。

今回はたまたまこうして目に留まったが、この島の道はほかもだいたいはこんな感じに、険阻さとどうにか折り合いを付けながら、上手く乗りこなしているのだろう。道に限らず、この島にある全ての人為が、地形との折り合いの上に成り立っていると思う。土地の狭い島ならではだ。




ああ…、 なんか凄い場面がある予感…。

路上らしからぬ激しい灌木の向こうに、これまでになく、開けた気配が…!





飛び出した!

藪という名の守りから放たれ、島を取り囲む大海原の審判場に、ただ一人突き出された気分だ!

目の前には、まだ150mも低いところにある海面が、眩い陽光を浴びて輝いていた。

果てしなく、島影など全くない海だ。これはとんでもなく爽快だが、恐ろしくもある。




(動画で何かの“カカカカカ”って音が聞こえるのは、多分風のせいで何かから鳴っている)





あっ、本気出したな!
青ヶ島の道!

猛烈に無理矢理な感じで、急斜面に九十九折りをねじ込んできた!


ついに旧道は、地図上からも予感し得た険阻を見せだした。
計算上存在する20%台の下り勾配が、始まったと見える。

測定してはいないが、とにかくとんでもなく急であることは、見て分かる。
路面に溝が刻まれたスリップ防止舗装は、せめてもの良心か。

それにしても、辿り着くべき目的地をここで眼下に見せつけてくるという、
道路趣味者を昂ぶらせる手管の巧さも、神懸かっているのである!



振り返れば、こんな有様。

私はここから出てきたのだ。
この中に、今過ぎたばかりの切り返しのカーブが隠れている。
舗装された道路が、このふんわりとした外見の灌木藪によって、完全に外見を失っていた。

なるほど、こんなだからこそ、海上から見上げたときに、この道がまるで見えなかっ たのかー。
合点がいったことで、ようやく人心地着いた気がした。
あれだけ壮大に“見えなくても”、道があることがあるのだと実証されたのは、とても心強かった。



三宝港があるのとは反対側の海岸線の眺め。

崖にならずに済むぎりぎりくらいの急斜面が、定規を当てたみたいにまっすぐ外輪山の稜線から海岸線まで、落差200m以上も続いている。
そのまま深い大洋底にまで、この“山腹”が落ち込んでいるのだと想像すると、なるほど確かに巨大な火山だ。
そして、この絵に描いたような海の青さも納得だ。

こんな果て知らずの碧海には、海鳥さえも容易に通わぬ気配があるが、よく目をこらすと、島からさほど遠くない海上にたった一隻だけ、漁船らしき船影が見えた。次第に島へ近づいてきているようだ。
今日はとても波が穏やかだが、こんな広い海にあんな小さな船一隻だけで漕ぎ出すとか、正気かよ〜(怖)。



次回、 本気を出した青ヶ島。

(島への残り滞在時間 23:15)