2012/2/14 14:12 【現在地(マピオン)】
三陸海岸の北行縦断という、長い長い旅路。
その終わりがようやく近付いてきたことを実感したのは、数百キロぶりと思える、この広大な白砂の海岸線であった。
ここは野田村の景勝地、十府ヶ浦である。
昨年の大津波では野田村も大きな被害を被っており、特に十府ヶ浦の後背地である村の中心市街地の被害が大きかった。
写真にも未だ癒されぬその傷跡が散見されるが、今は遠くを見て欲しい。
特に、“矢印”の辺りの海岸線を。
前説で乳房にたとえた半島は、海上に長く伸びたあの出っぱりの全体であり、「平坦な台地と急な海崖」の地形が、ここからでも十分に見て取れるだろう。
次は、“矢印”の辺りを望遠で見てみよう。
この眺めこそ、当初の予定になかった「久喜トンネル」へ足を伸ばそうと思った、取っかかりだった。
まだ遠くて分かりにくいとは思うが(直線で約6km離れている)、海岸線にある巨大な岩塔のような地形の基部に、
途切れ途切れの洞門らしき人工物が見えている。
そこにあるのが普通のトンネルだとしても、近付いたら
相当に壮観な眺めが期待出来るのではないかと思った。
地図では特に景勝地や観光地を示すような記号もないが…。
野田の街中で国道45号を右に外れ、県道217号野田港線を経て、県道268号野田長内(おさない)線へと進路を取る。
この県道は半島を周回するようなルートになっているが、北側には未改良の区間も多くあり、交通量はあまりないようだ。
さて、野田の街を離れること約3km、行く手に巨大な門扉が現れた。
その奥には斜面に這う多くの屋根が見えており、久喜トンネルの最寄りである久喜集落へ着いたようだ。
ということは、ちょうどこの辺りが野田村と久慈市の境でもあるのだろう(久喜は久慈市に属する)。
三陸の海岸線にある集落では、これまでの多くの津波災害の教訓から、ほぼ例外なく巨大な防潮堤が築かれているが、この「久喜漁港海岸保全防潮堤」も相当に大規模なものであり、海岸線から集落を完全に隔離している。
私は思わず、門扉が無慈悲に目の前で閉ざされる場面を想像してしまい、少しドキドキした。
“久喜シェルター”もとい門扉侵入の直前へと、少しだけ場面を巻き戻す。
そのとき海岸線の県道から見えた車窓は、このようなものだった。↓↓
いよいよ、尋常ならざる“切り立ち方”を見せる岩場の様子が鮮明である。
そして、その基部をおっかなびっくりな感じでくぐり抜ける、トンネルの存在も明らかである。
地形図からこれほどのインパクトを想像するのは、無理な話であった。
なお、左側に見えている巨大なコンクリートの壁は、久喜集落を護る前出の防潮堤である。
また、トンネルの右側で“裸”なのは久喜漁港である。
トンネルは集落と漁港を結ぶ、行き止まりの道にあるのだ。
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防潮堤は確かに頑張ったようで、久喜の集落内における津波の被害は、野田のそれよりも軽微であることが見て取れた。
とはいえ突破は許したのだろう。最も低地やそれに次ぐ家屋は大破したらしく、大半更地化していた。
また、3段目くらいの宅地にあっても中破を免れなかったのか、外壁修理の工事中であった。
私は集落を半ばまで過ぎた辺りに車を停め、探索の基本スタイルである“山チャリスト”へ変身した。
今回のような移動範囲が明らかに狭い探索でチャリを使うのは、小回りを効かせるためである。
14:48 チャリ探索開始 《現在地》
津波により荒廃した山裾と防潮堤の狭い隙間の道は、ほぼ直線的に東へ続いている。
その突き当たりには、6km手前から私の目を奪ってきた、巨大な岩の塔のひとつが見えている。
久喜トンネルは、あそこに穿たれているはずである。
後もう少し進めば、その全容とは行かないまでも、一端は確実に明かされるだろう。
わくわく…
閉門?!
坑口前の門戸が閉ジテル!
廃隧道だぞ、これ。
予想以上に‥…アツいかも…。
銘板が見える。
「久喜トンネル」というのは、昭文社の道路地図帳に出ている名前の通りであった。
だが、既に廃止されているというのは、全く想定外だった。
とりあえずここから見えている西口については、大きな傷みは見えないものの、
二灯式の信号機が取り付けられているのが、如何にも物々しくて…。
末期的な何かを感じさせている。
いったい、なんのための信号機だったのか…。
トンネルは、坑口前にある大きな鉄の門扉が施錠のうえ封鎖されていた。
しかし、坑口自体は開口しているようだった。
すぐにでも飛び込みたかったが、もし反対側が普通に開口しているのであれば、
無理にこれを侵す必要はない。今は人の目もある。
まずは、地図に描かれていない“現道”を通って、反対を目指すことにしよう。
さすれば自ずと見えてくるだろう…。
トンネルの全体像も、攻略の算段もな。