廃線レポート 白砂川森林鉄道 第5回

公開日 2023.11.27
探索日 2021.05.15
所在地 群馬県中之条町

 “ミウラ沢”にも美しい滝が待ち受けていたが……


9:19 《現在地》

ホウゾウ沢を越えミウラ沢へ迫ろうとした私だが、軌道跡はその手前、スタート地点から3.7km付近において、唐突に現れた垂直の絶壁によって、敢えなく“切断”されていた。
その状況を確認した私は、先へ進むために白砂川の河床へ一旦下りるという、本日2回目となる“下巻き”を行うことを決定した。

ただ、軌道跡から安全に白砂川に下りられる場所は限られており、“撤退地点”から100mほど戻った(少し前に休憩をした)“隧道2”の東口から迂回を始めることにした。
この場所は軌道跡の下に、40度ほどの傾斜を持つ平滑な崖錐斜面が広く河床近くまで続いており、比較的安全に下りられそうに見えた。




軌道跡と河床の高低差は、依然として30m程度ある。
見通しの良い斜面を、不安定な転石に気をつけながら慎重に下降する。
その途中で振り返って撮影したのが、この写真だ。

たまたまこのように迂回を強いられる展開がなければ、わざわざ見る事のなかった景色だが、内部を通過するだけでは気付きづらい“隧道2”の壮大な一面が感じられる、素晴らしい眺めである。
なお、赤矢印の位置には洞内に通じる小さな横穴があった。




あと一息で白砂川の河原に降り立つ。
前に河床まで下りるのは、葦谷地手前の大崩壊地だったから、2km近くも前だ。時間にすれば3時間近くぶりである。

この間も険しい場所は少なくなかったが、振り落とされずなんとか軌道跡にしがみ付いてきた。そしてその努力の成果として、数え切れないほどの橋の跡と2本の隧道跡を既に手中に収めている。今日の探索は、仮にここで打ち切ったとしても、文句なく大きな成果を上げていると思う。とはいえここは任意に打ち切る選択肢もない、周囲より孤立した中間部だ。引き続き、白砂川大橋までの踏破を目指すぞ。

ところで、久々に近づいた水面は、映す空が完全な灰色であるにも拘わらず、不気味なほどに青みがかって見えた。単に深いだけでなく、何か特殊な水の成分の影響がありそうに思う。そのくらい強烈な青みを帯びている。



9:22

久々の本流は、だだっ広い砂利河原だった【前回】とは、別の川のように姿を変えていた。

渓流としては、まだ広々としている方だとは思うが、両岸の緑が覆い被さるように空を狭めている。

豊かな森に発する清らかな渓。沿川に道がないことで人目から遠ざけられた、静かなる谷。



9:24 《現在地》

河原をわずか2分ほど上流に向かって歩くと、早速頭上に見えてきた

軌道を絶つ垂直の崖壁。

奥の白っぽい壁が、路盤のある高度を遮ってしまっている。
そしてこの地形は、やはり直前の“隧道2”とよく似ていると感じる。
垂直の崖と、その周囲と下方に広がる広い崖錐斜面の組み合わせだ。

ここから崖錐斜面を登って、白い崖の直下に向かう。
出来るだけ軌道跡の見逃しを減らしたいので、先ほどの【断念地点】
直接目視できるところまで登ってみよう。



9:28

ふぅ〜 疲れたー。

見通しの良い崖錐斜面は、下りるのは早いけど、登ると案外つれぇぜ。(分かってたけど)

さっき撤退地点(路盤の在処)からこっちを見下ろして【撮した写真】を見較べながら、その場所を推測する。

単にこの岩場を迂回するだけが目的なら、苦労してここへ登ってくる必要はなかったのだが、
それを敢えて選んだ最大の目的は、この岩場を前に忽然と姿を消してしまった軌道の行方探しだ。
ここが終点でなかったとしたら、通過方法は次のどちらかしか選べない地形だろう。

  1. 隧道
  2. 桟橋

隧道なら、坑口が地上における唯一の痕跡になるだろうし、
桟橋なら、崖の壁面に打込んだ橋杭の穴が残る可能性が高い。
それらの痕跡を見出そうというのが、この崖に近寄った最大の目的だった。



だが、

どちらも、見当らない。

軌道跡の高さにある垂直の壁面を、それこそ孔が開くほど見上げてみたが、

この崖に人為的に手を加えた痕跡は、全く見えない。

ということは、消去法的に隧道か?!

実はこの崖が軌道の廃止後に大きな崩壊を起こしていて、
橋の痕跡を持っていた元の崖面を完全に喪失している
ような可能性も、もちろんゼロではないのだが…。



ここから私は、崖錐上部を上流方向にトラバースして進んだ。
再び軌道跡が現れれば真っ先に発見できる高度をキープして進もうとしたのだ。
だがこれは(河床付近を歩くのと比べて)かなり骨の折れる移動となった。
崩れた瓦礫が積み重なった斜面である崖錐は、もともと崩れやすいうえ、仄かに濡れた落葉が表面を覆っているのでどこを踏んでも滑りやすく、思うようなペースでは進めなかった。




9:33

それでもなんとか下りずに進むと、30mほどで、それまで垂直の岩壁が支配していた高度は、グズグズの岩崖へ置き換わった。
その辺りから、ぼんやりとした軌道跡らしいラインが見え始め、さらに黄土色をした土の崩壊地を越えると、軌道跡は完全に元の高度に復元した。

しかし、その過程に、期待したような隧道の坑口は、現れなかった。
結局、この一連の崩壊地の前後ともに隧道の坑口はなく、かといって桟橋があった証拠もなく、通過方法の痕跡を全く見いだせないまま、軌道跡がその先にもあることだけが確認できた。



9:35〜9:39 《現在地》

この通り、軌道跡復活!

チェンジ後の画像は、振り返って撮影した。

最近はあまり見なくなっていた土の崩壊地が目立って見えるが、
その右奥にも軌道跡らしき平場があるので、隧道の埋没地ではないと思う。
となると怪しいのは、垂直の崖に隣接するグズグズ岩崖地帯かと思うが、
そこは先ほど通過した際に、坑口は残ってないと判断した。
まあ、完全に埋没してしまっていれば、それまでだが……。

私としては、よく似た地形である“隧道2”の在処との対比を最大の根拠に、
この岩崖の通過手段は、埋没した“隧道3”であった可能性が高いと考えている。
本編ではその推測を以てこの地の調査を終え、先へ進むことにする。

小休止後の9:39、軌道跡の前進を再開!



もう、何難・・去ったか、数え切れないほどだが、次はミウラ沢である。

このミウラ沢も、もちろん事前情報は何もないのであるが、地形図から読み取れる険悪さはホウゾウ沢にひけを取るものではなく、そのホウゾウ沢の実態を見た直後の今であれば、続くミウラ沢を侮ることは絶対にない。

さて、気付けば既に軌道跡、本流の谷より脇へ逸れ、ミウラの谷に入っている。
広い本流から離れると、足元が暗くなるのでひと目で分かる。
どこでミウラ沢を渡って本流沿いに復帰するかに注目だ。橋がどこかにあったはずだが、出現が早ければ橋は高く、遅ければ低いものになるだろう。どうせ架かってはいないだろうが。




ミウラ沢を見下ろして撮影した。
まだまるまる30m近い比高がある。直ちに橋を架けたらとんでもない規模になるので、ある程度この比高が小さくなるまで、軌道は沢沿いを遡行することになりそうだ。
とりあえず、こちら岸は土山が優勢で、そこまでは険しくないが、その割に元気の良い水の音……いや、滝の音が間近に聞こえている。ミウラ沢にも滝がありそうだ。

そのうえ、大きな問題として――




――対岸の路盤が崩れている!

樹木が邪魔で、写真だと補助線を入れてもほとんど見えないかと思うが、肉眼で微妙に角度を変えながら何度も見ると、対岸の軌道跡の崩壊が見えてしまったのである。

もっと近寄ってみないと、歩けるかどうかの判断はできないが、この位置は歩けないと分かった時が面倒だ…。
この先の展開を想像するに、まだしばらくミウラ沢の左岸を遡行し、どこかで橋跡を見つけたら徒渉して対岸へ。そして対岸を同じくらい歩いた所で、この見えてしまった崩壊地に差し掛かるはず。
もしそこが歩けないと、またミウラ沢に下りる羽目になるだろう…。
私の体力も時間も、もちろん無限ではない。正直、疲れは感じ始めている。



9:46 《現在地》

滝を発見!

そこまで高い滝ではないようだが、滝の下に大変大きな滝壺があり、
また滝の上流は水流が絞られて狭い峡門となっている。沢通しを歩けない。
こちら岸の軌道跡は、この滝を直接見ることなく自然に上を巻いて越えてしまうが、
対岸の軌道跡は、滝の上に前述の崩壊地があり、いかにも通過困難の様相だ。

さらに!



滝のすぐ先では、足元に続くこちら岸の軌道跡も大規模に崩壊していた!

チェンジ後の画像が、その崩壊地を拡大したもの。
土山の崩壊斜面だが規模が大きく、傾斜もキツい。
しかもこの場所からミウラ沢に下りることも、滝があるため容易ではない。



ミウラ沢を渡る橋、“橋13”の橋台を、崩壊地越しに目視で発見!

橋台自体は、苔に全体を覆われた平穏そうな姿で残っているが、
その前後の軌道跡が崩落していて、容易く近寄り難い状況だ。
ここを通らねば先へ進めない状況なら、どうにかして攻略しただろうが。



ミウラ沢を取り巻く軌道跡の崩壊を、地図上に×印で表現した。
同沢を渡る“橋13”の前後に規模の大きな崩壊がある。
そして滝があるために沢通しの移動が難しいという複合的な悪条件だ。

特に対岸の崩壊地は険悪だが、ここを越せないと大幅な手戻りを余儀なくされる状況。

考えた末、ここはチェンジ後の画像に示したようなショートカットを敢行することにした。
できるだけ軌道跡を忠実に辿りたいが、目視では沢を取り巻く軌道跡の全体が確認でき、
そこに隧道などの重要な見落としはないと判断したので、ショートカットを選ぶ。

が、これも決して楽な行程ではなかった。



9:52

“ミウラ沢の滝”(仮称)と、ご対面!

高さ5mほどの直瀑で、奇抜過ぎるホウゾウ沢の穴滝とは対照的な実直な滝。
青い水を満々と湛える深い滝壺を舞台に、崖に取り囲まれた滝下全体が
観客席を思わせる、1つの景観として完成された滝という印象。

この滝を取り囲む両岸の2つの崩壊地と、滝そのものを迂回するべく、
この滝下を通って、対岸路盤へとショートカットする。



ぐぬぬぬぬ!

対岸からも、ある程度見て知っていたつもりだが、

ミウラ沢右岸の斜面がマジで険しい!

崩壊地を迂回したはずが、この険しい崖をよじ登る羽目に。



簡易アイゼンの爪にも頼りながら、激急の土斜面を息も絶え絶えよじ登る。
岩が露出している部分を避けながら、身体を支えてくれる疎らな樹木にも頼りながら、
心の中では「うおーーーーー!!!」とか叫びながら、黙々と苦闘すること


―― 8分後 ――



滝壺をこんなにも遠くに見下ろす高所にて



10:02 《現在地》

ミウラ沢右岸上部の軌道跡へ復帰ッ!!!

“隧道3”擬定地点から続く連続の下巻きで一気に疲れさせられた!! 特に今のはキツかった!

そしてここから振り返って見た、いま迂回によって回避した滝上の軌道跡は、
ズルズルの岩斜面に支配されており、その通過は極めて困難かつ危険に思われた。
まあ、今のショートカットも、ちょっと選択が直情的過ぎたか、安全という意味では
全く良いルートではなかった気もするが……。 と、ともかく、

ミウラ沢を辛くも突破、先へ進む!



 白砂川の大ボス 現る?!


10:03〜10:09 《現在地》

ミウラ沢を辛くも突破し、再び白砂川本流沿いに移るところに、写真の切り通しがあった。
この辺り、序盤を彷彿とさせるような土山が優勢である。
そして、この時点で探索スタートから5時間が経過し、午前10時をまわった。この間に踏破した軌道跡は約4.2kmと推定される。もっとも、素直に路盤が通れず迂回しているところも複数あるので、歩いた距離は既に5kmくらいになっているだろう。

ところで、いま私が歩いている辺りはもう既に、この林鉄の最終的な廃止年度とされる昭和32年より前に部分廃止された区間であると思う。
導入で白砂川林鉄の沿革を紹介しているが、昭和16年に全通し9337mとなった後、昭和24年に(おそらく終点側が)4960m廃止されているのである。
そして現在地は既に、起点から4960m以上進んでいると思われる(私がスタート地点から踏破した距離は4.2kmほどだが、スタート地点から起点までが1km近くあるはずなので)。

ただ、ここまで特に部分廃止時の終点らしい場所は気付かなかった。いつの間にか、廃止の早い区間に入り込んでいたという印象。また、今のところ廃線跡の状況にも大きな変化は無さそう。まあ、部分廃止と最終廃止の時間差は約8年であり、その後に等しく経過した60年を超える時間と比べると、さほど大きな差はないのかもしれない。


切り通しで小休止後、再出発。

なお、この写真に私が自分の手を入れて撮影しているのには、理由がある。
休憩明けで出発する時は、必ず自分の手を入れて進行方向を撮影するようにしているのだ。こうすることで、あとで写真を見返した時に、休憩場所や休憩した時間が分かり易くなる。レポートをする前提で写真を撮影しているので、こうした小さな工夫で記憶の補佐をしている。

そしてこの休憩明けの直後、私は1本の動画を撮影していた。
その動画は、おそらく読者諸兄が思っているような内容ではない。
むしろ、探索中にそんなことを考えていたのかと、オブローダーとしてのヨッキれんにストイックな期待を持っている人には少し落胆される内容かも知れないが……、とにかくちょっと見て欲しい。長くはないので、最後まで見てね。
(↓↓↓)




サービス開始以来ずっとプレイを続けている「ポケモンGO」には、コミュニティデイという期間限定イベントがあり、
この探索日(2021/5/15)の10:00〜14:00は、チルットが大量発生していた。
普段はごく低確率である色違いのチルットの出現確率も高確率になっており、それを欲する私は、
イベント終了の14:00までに、auの電波が通じる場所へ辿り着きたいという、本来の探索に関係のない行動目標を(隠し)持っていた。

そんな、レポート読者にとっては相当どうでもいい情報を、

わざわざ動画に吹き込んでいる最中に、空気を読まず、

突然出現しやがった!!!!



本日初の枕木が!!!

ここまでの展開でも、さすがに林鉄の存在自体は疑いなく信じられるかと思うが、
一応初めての“林鉄であった物証”といえる発見であり、とても嬉しい!

しかし、ここまで軌道跡を4km以上歩いて、枕木を見たのは初めてだ。レールは未だ皆無。
おそらく廃止時に撤去したのだろうが、ここで急に枕木だけ現れたのは、なぜなのだろう。
深い意味はないかもしれないが、廃止が早い区間に入ったことと関係があるのかも知れない。

そしておそらく、この枕木にレールが敷かれていた最後は、昭和24年という随分と大昔の話なのである。
それも10年足らずしか敷かれてはいなかったはず。そんな稀少なレールを支えていた枕木が、
半ば朽ちつつも、こうして地表に列をなして並んでいるのは、古きを愛する私にとって感激の眺めだった。
またひとつ、良い思いをしてしまった。苦労している甲斐もあるというものだ。



10:10

いや〜〜、いいですねぇ。

もはや木片と大差ない風体と成り果てた枕木だが、それがあるだけでこんな平凡な直線の軌道跡でも、一気に華やいだものに見える。
地形的には、軌道跡と周囲の境が曖昧なところだが(左側は崖なんで明瞭だけど)、枕木のお陰でこの崖の縁を通っていたとはっきり分かる。よく見ると、右側の地面よりも少しだけ高くなっていて、築堤だったことも分かる。




10:11

ぬぐぐぐぐ…

枕木出現に大喜びした僅か1分後、路盤は初めて、地面を隠すほどの笹藪に行き当たった。ここまで不思議と下草が少なかったこの山だが、ここでついに変化の兆しか。
ここは白砂川に面する河岸段丘のような平坦地で、本来なら容易く前進できる場所だと思うのだが、藪の濃さを避ける術がないことと、藪のためにそもそも軌道跡の位置が分かりづらいために、急に面倒な場所になってきた。



10:14

ぐぐぐぬぬ!

すぐに笹藪の高さは背丈を超えてきた。
ただ、そこまで茎が太くはなっていないので、比較的容易に押し進める。
どちらかというと、軌道跡を隠してしまっていることの方にストレスを感じる藪だ。

そして、結果的にここの軌道跡は、最初に枕木を見つけた直線から、
大きく曲がることはなく、ほとんど真っ直ぐ平らな所を通っていることが分かった。
写真は、笹藪を直進する浅い掘割で、凹凸が微かに見えると思う。



10:20 《現在地》

藪キッツい!

平坦なところから再び険しい川崖へ遷移していく場面だが、相変わらずの笹藪に加えて、倒木や、倒木と運命を共にした太いツタが散らばっていて、天然の檻のようになって通過を邪魔している。
そんなところが、とりあえず見渡す限りといった感じで続いているので、ずっと藪がなかったことに甘えていたせいもあって、少々ゲンナリしてしまった。
せっかく枕木が残っていそうな区間なのに、藪のせいで最初しか確認できなかったし。




倒木のせいで森の空が開けていて、白砂川の対岸の山が少し見えた。

雨雲なのか霧なのか微妙な白い靄に薄らと隠されているあの対岸の山の上には、関東地方で最も山深そうな別荘地が存在する。野反湖パークランド和光原といい、数キロ四方の広大な林間地に整然と区画がされているのが地図から分かるが、航空写真等で見ても建物は疎らだ。しかも冬期は辿り着く唯一の道路が冬季閉鎖されている。

白砂川と別荘地のある大原の台地は隣接しているが、200m以上の高低差があり、直接行き来する道もない。
あんな白煙の中に、別荘とはいえ人が居住しているのだと思うと、なんだかゾクゾクしてくるな……。



……いや、このゾクゾクは少し寒くなったせいだ。
濡れた笹を掻き分けたので、身体全体がしっとりと濡れてしまった。
相変わらず小粒の雨が時折パラつく、微妙な空模様である。

軌道跡は、廃止の早さのせいだけでもないと思うのだが、
濃い笹藪がデフォルトのようになってしまったようだし、
ミウラ沢を境にステージが変わったという感覚が強い。

行程の上では既に後半戦に入っているが、まだまだ一筋縄では行かなそうである…。



10:26

15分近く濡れた笹藪に苦しめられたが、この振り返った切り通しを最後に、突破した。
久々に藪に邪魔されない路盤を見たが、残念ながら枕木は見当らない。
落葉と土に埋れているだけかも知れないが。


(←)
そしてこれが進行方向だ。
この軌道跡ではむしろこちらの方が見慣れた感じのする険しい川崖の地形が再開する。

ただ、この先の路盤の状況には大きな懸念があった。
チェンジ後の画像を見て欲しいのだが、地形図にはこの先の左岸に大きな崖の記号があり、水面から70mほどの高さまで崖に呑まれたような表現がされている。
軌道跡は水面から30〜40mの高さにあるので、地形図の通りなら、崖に呑まれているはずだ。

既にこの時点でかなりの険しさを感じる景色であり、不安だ。



10:27

橋の跡があるな。
順番に行けば、「橋14」となるのか。
廃止が早い区間を明確に自覚してから迎える最初の橋だが、険しそうだ。

ただ、地形図に描かれている“大崖”は、まだこの先だろうな、おそらく。
橋の先には、まだしっかりとした路盤が続いている様子が見える。問題は“あの先”か…。



10:28

ぬわーーー! ヤラレター!!

難所の前の前哨戦程度と思った「橋14」だったが、正面突破出来ない!!

急峻なルンゼのような地形になっていて、所々に岩があり、土も混ざって、悪い。
手掛かりとなるようなものがなく、足場となるケモノ道も全くないので、正面突破は危険すぎる。

となると……



下巻きしかないな。

河床までは降りずに渡れそうだ。
正面突破出来れば1分もかからないところで、この迂回は面倒だが、無茶は出来ない。

迂回開始!



10:31

水面までの高さの半分くらい、20mほど下ったところで、ルンゼを越える。
見上げた架橋地点には石積みの小さな橋台しか残っていないが、
こんな方杖橋があったかもしれないと、想像して描いてみた。



(←)
今度はいま下ってきた分だけルンゼの対岸をよじ登るわけだが、崖が所々にあって、どこでも登れるわけではなかった。

(→)
路盤よりも低い高度から、上流方向を撮影。
樹木が多くて分かりづらいが、葉陰に茶色っぽい岩崖がうっすらと透けている。地形図にある大きな崖は、確かに存在しているようだ。軌道跡が無事越えていることを祈るよりない。



10:33

まだ迂回中。登りやすい斜面がなかなか見つからず、道なき斜面のトラバースを余儀なくされている。
だが、それももう出来なくなった。この先、異常にスッパリと切れ落ちている。眼下には湖のように青い白砂川。
地形図が描いている“大崖”の縁に達したということらしい。

軌道跡へ復帰するべく、この崖の縁に当る尾根状の急斜面をよじ登ることにする。



10:35

滑りやすい砂混じりの急斜面がキツく、手こずっている。
地道に軌道跡まで登るよりないが、登ったところで、先行きは大いに不安だ。
眼下の崖が、軌道跡を絶ちきってしまっている予感がするのである。
少なくとも、地形図はそのように描いているわけだし……。

チェンジ後の画像は、同じ立ち位置から白砂川の上流方向を撮影した。
○印のところに、緑のヴェールから突出した岩場が見えていることに気付く。
地形図からは存在が予期出来なかった、初めて見つけた岩場だが……



うわ……ワルい…。

これはなんとなく、大ボス感がある……。

(チルットは棲息してなさそう…)

私の目には、明らかに軌道跡の高さにかかっているように見えるのだが、
どうやって通過しているのだろう……。もう“アレ”しか手はないと思うが……。

地形図にはこの先、あんなに突出した岩場の存在は描かれていなかったと思うが、
とにかくいま立ち向かっている難所が最後の難所というわけではないようだ。

恐ろしくもあり、また楽しみでもある凄まじい岩場を発見しつつ、
ただいま越えるべきは、まずは眼前の難所である。



10:36 《現在地》

やっと戻ってこられた! 軌道跡!

「橋14」から100mほど先の路盤に復帰した。
この場所の路盤は広々としていて、とても明瞭だ。
この調子で、なんとか“大崖”を越えて欲しいところ。
いまの迂回もキツかったし、連続の迂回は嫌だ……。



こちら進行方向。

10m先は大丈夫そうだが、

20m先から崩れていそう……

………………

……………行こう!

私の願いは、きっと……!



10:37

無理。

願いは、聞き届けられず。

いま迂回した「橋14」と同じかそれ以上に険しい斜面が、見える範囲に続いている。

隧道のような逃げ道を探してみたが、もちろんそんな甘くない。

いつ崩れたのか知らないが、地形図通りの大崩壊地だ。

軌道跡へ復帰した私の努力をあざ笑うかのような、無情の展開。



…………

……戻るしかない。

今度こそ、河床まで……

叩き落された!