7:24 《現在地》
突入してしまった!
水没林道へ突入してしまった!
まずは、次の動画を見てください。
↓↓↓
地上の路面に刻まれていたものと同じ轍の模様が、
ゆるく流れる水面の下にも続いていた。
確かにこの道は陸にあったもの。 だが今は水の中。
この展開について、私は色々と皆さまにお伝えしたいことがある。
まず、私はこの林道が水没している状況を見て、正直、「おいしい」と思ったことは事実である。
私は、この道を通って樫山へ行く事が目的というよりは、この道そのものを楽しむこと、そしてさらに付け加えるならば、その「楽しさ」を発信する事が一番の目的である。
その上で、この道ならではという最大の特徴であり魅力が、水面との比高の小ささである以上、それを最も適切に表現出来る状況と遭遇したのは、「おいしい」と言うより他に無い。
だが、「おいしい」からと言って、闇雲に突入したわけでは絶対に無いのである。
命を粗末にしているとか、そういう風には思って貰いたくない。
確かに、こんな状況の道を自転車で走るというのは生まれて初めての体験ではあるのだが、かといって運否天賦の勝負を仕掛けたわけではないぞ。
生きて帰らねば「おいしい」場面もそれまでだということを、ちゃんと心得ている。
私は、路上の水深や、流れの速さを確認した上で、相当慎重に「突入」という決断をしたのである。
50mほど先に、ほとんど路面が水上に現れそうな場所がある。
そこまでは、問題無く行けるものと判断した。
その先はまだ分からないが、あの浅い場所で進退を再度考える。
よし。 大丈夫だ。
だが、さすがに動画を撮影するための片手運転は危険な状況だったので、撮影は途中で終了せざるを得なかった。
とにかく、フラフラするのは絶対にまずい。
たった2mくらいしかない路肩を割って「青みがかった世界」へと押し出されたら、多分生きて帰れない。
安全のために、タイヤを常に水流に対してまっすぐ向け続けることと、タイヤの浮力がイタズラしないよう体重をかけ続ける(つまり乗車し続ける)ことを心がけた。
水流に対する抵抗を最小限に抑えて安定姿勢をとることが渡河の基本であり、これはその応用である。
無論、徒歩で進めないほどの水深や水勢ならば自転車も無理だが、今回は自転車を置き去りにして進む事は考えられなかった。まだまだゴールは遠いのだ。
そして、自転車ありの場合、ヘタに降りて押して行くよりも、乗ったままの方が安全と判断した。
よし!!
とりあえず、少し安心出来るところまで来たぞ。
ここからしばらくは、押し流される心配がまるでないくらい、路上の水は浅い。
少しは落ち着いてこの風景を、日本唯一かもしれないこの道路の風景を眺めていたくなった。
なお、川はほとんど音を立てずにサラサラと流れ続けているが、この場所には“瀑音”があった。
どういうことかと言うと、この右側に…
滝がある。(笑)
何が「(笑)」なのかと思われるかも知れないが、なんか可笑しい。
だって、元もとこの場所って、滝の水が路上を横断して川に注いでいたってことなんだよね?
つまり、洗い越しというやつだ。
でも、今はもう「そんなの関係ねえ!」状態になっている。
滝が川に直接落ちていて、道路はその川の中にあるという、不思議な状態。
こんな風景、間違いなく、見たことねえ!(笑)
楽しそうに見えるだろうが、
実際、楽しいと思ってしまった。
でも、ふと振り返ったこの眺めに、首筋を濡らされた。
青みがかった流れは、あまりにも近くにあった。
やっぱり、こんな不安な場所は長居すべきではないなと我に返る。
今はまだ、生還が約束された安息ではなかった事を思い出す。
上流で何が起きているか知れない。この先の水位もよく分からない。
万が一、今より水量が増えてくれば、ここから身動きが取れなくなる危険さえある。
また、巨大な流木が流れてきて、進路を阻まれるかも知れないし、何があるか分からない。
前進、再開!
いよいよ、ゴールらしき場所は見えている。
道が陸へ上がっていく所まで、残りあと200mくらいと思う。
そして、しばらくは浅い。最後まで浅ければ、俺の勝利が確定だ。
突破出来たら、自分を褒めてやる。私の中で、伝説になる。
が、深い!
また、深くなって来やがった!!
しかも、流れの勢いが前より強い。
おそらく、河心がこっちに寄って来ている。
こ…… こ…
……怖い。
ヤバイヤバイヤバイヤバイ!!!!
これ以上の深さは、ヤバイ。
しかも、今、自転車から降りたら、多分ヤバイ。
私だけなら(まず)立っていられるが、浮力を得た自転車が
流れを横に受ける形になったら、倒されてもっと強力に引っ張られるという地獄の展開が目に浮かぶ。
この水深と、水勢は、自転車から降りてしまうと再度乗れなくなる危険もある。
(自転車に乗るときは必ず不安定なポーズになる)
自転車を漕ぐ足は、ご覧の状況。
ペダルが上に来ているときでも、水に浸かりそう。
自転車の心臓部ともいえる部分が、完全に水没した。
車輪も半径以上水没しており、ハンドルにもの凄い重さを感じる。
私が15年前の体重しかなかったら、本当にやばかったかも知れない。
ちなみに、長靴を履いていたが、もう完全に水浸し。
大事の前で小事に構ってられない。
それにしても気持ち悪い、路肩。
こんなにうっすらとしか見えない生と死の境界線は嫌だ。
でも、絶対に目は離せなかった。
なにせ、水中で路肩が決壊していて、道が深みになっているかも知れない。
路肩の状況確認は、絶対必要なポイント。
もし、ガードレールがあったら、このくらい水没していても、さほど怖くないのだろうが、
そんなもの、この道ではあっという間に流木で壊されるだろう。
この水没道路には、直角切れ落ちの路肩しか許されなかった。
主役は川で、道はおまけ。そんな侘びしい間借り住まいの状況だった。
2度目の動画撮影。
最も深いと感じられた場所を、少しだけ過ぎた辺りで撮影した。
実際に深さはそう変わらないが、水の勢いは生き物のように変化した。
とりあえず、一番きついところは越えたと思う。
…もう戻りたくないよ、これは…。
そして、遂に、
ラスト50mばかりに!!
これはもう、行くしかないでしょ!!!
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7:30 《現在地》
突破した!
約10分間の水没走行で、500m樫山へ近付いた。
無事突破したついでに、重大な事実を告白する。
突破した今になって思えばだが、私はひとつ重大な事を見落としたまま突入していた。
あの深さでは、自転車の方向転換が容易くないという事実。
つまり、突っ込んだが最後、引き返し難いということを見落としていた(笑)。
これはいい勉強になったが、こんな知識の再利用場面はないだろうな。
……ともかく、私の勝ちだ。
命も自転車も川へ落とさずに、ここを越えた。
そして、越えてきた道を改めて振り返ったとき、
果てしない興奮と安堵から、声を出して笑っていた。
端から見たら相当気持ち悪いが、絶対誰にも見られてないハズ。
それにしても、もしこっち側から来たら、絶対この先には行かなかったろう。
ダムに近付く下流はもっと激しく水没していそうな気がするし、なによりも、
流れに乗って下ったら戻って来られなくなるという可能性を、もの凄く恐れたはず。
今度こそ、大丈夫だよね?!
もう二度と水面に近付かないでよ〜!!(懇願)
大丈夫そうだ!!(確信)
先は、明るい!
私がここへ辿りつくタイミングを待っていたかのように、
丸一日以上ぶりの太陽が、雲を裂き、山河を照らし始めた。
なんという奇蹟的な場面転換。我ながら、凄いツキに恵まれたな。
水魔の牙が見え隠れする陰鬱たる渓間に、勝者を照らす光が満ちる!
…あれ? これもしかしてエンディング行くべき? (笑)
いや〜 すごい道だったなぁ…。
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