新潟県道526号 蒲池西山線 第6回

公開日 2013.7.30
探索日 2012.6.01
所在地 新潟県糸魚川市


お待たせしました。

いよいよ、フィナーレに繋がる前の… クライマックスが始まるのである。

この道に与えられたクライマックスとは、どんな展開だと思うだろう? 予想して欲しい。

初回を見ている皆さんは、この西山側の大崩落(画像)…というか“山体崩壊斜面との戦い”こそがそれであろうと、そう思われるかもしれない。


…かく言う私も、全くそのように予想していたし、

むしろ、それ以外の展開というのは想像していなかったのであるが…


実はより一層強い印象を私に与えたのは、この既知である山体崩壊斜面ではなかった。

では、なにか?

予測して貰いたい。


…難しいだろうか?




“ヒント”といいつつ、半ば“答え”を、先にお見せしようと思う。


次の図こそは、

この後に私を待ち受けていた“尋常ならざる道路風景”を予言している。



「カシミール3D」の機能を使って地形図を立体表示してみたのが、上の図だ。


県道は、姫川右岸の急斜面に、車道の常識を超越するような激坂として描かれている。


そして現在地から、もう少し進めば、私はその急坂へと差し掛かるのだった。



― さあ、クライマックスの始まりだ。 ―




下り続けた県道の豹変


2012/6/1 7:10 《現在地》 

激藪の道が続いている。

もしも私が突然この場所に放り込まれたのなら、おおよそ道の確信を持ちかねるような激藪道であるが、既に西山廃村の“肥料袋の封鎖地点”から30分をこの藪と過しているから、慣れた景色であった。
しかも少し前から路面にコンクリートの舗装が現れていた。
急坂であるがゆえの部分的な舗装であろうか?

何度も言うように、今心配なのはこの先で前進不可能となって引き返してくる羽目になった場合である。
藪と過した時間は30分という「ほどほど」の長さではあったが、それは下り坂という“有利”を最大限に活かしての成績であることを重く認識していた。

この段階で私は既に、下る事への“気”疲れを感じていたのである。



コンクリート舗装の急坂区間はさほど長くはなく、それが終ると再び、前方にやや開けた土地が現れた。
この平らな土地が道の続きであったら、どんなによかったろうと思うが、まるで山の中で突然出会う地図にもない“沼”のような印象である。

アシが深く茂るこの平地の正体もかつての水田のようであり、道は縁を半周するように向かって右側の斜面を通行していた。

そしてこの部分の路上を覆い隠す藪がこれまでで最も深く、“私のアシ”を苦しめた。




千切られた緑の匂いを一杯に引きつれながら、次の風景に身を移す。
今度は植林の杉林が間近なところに現れて、少し安堵した。
道ではないとはいえ、杉林の中は自転車を引きつれて動き回るには比較的易しい。だから再び先ほどのような激藪が現れたら、杉林で迂回しようなどと考えた。

しかし廃村以降、出てくるのは藪に次ぐ藪ばかりであり、ぶっちゃけ道路自体は平凡な山道である。
ここが地図に書かれた県道でなかったら、私も敢えてリベンジなどとは考えなかったかも知れない。

…そんな風に思う少し気疲れムードの私を慰めるべく、道から小さなご褒美が与えられたことを、私は見逃していない。
それは道と杉林の境界の地面に何本か打ち込まれた、コンクリート製の用地杭である。
これの何が“褒美”かと思われるかも知れないが、苔むしたそれに刻まれた「新潟県」の文字は県道(や一部の国道など、県が管理する道路である事)の証しであった。



やった!

声と小さいガッツポーズが出た。

上の写真の場所から100mほど進んだだけだが、明らかに道の状況に改善が見られる。
これは西山廃村から廃道区間に入った直後と同じくらいの路盤の状態であると感じる。
正確に言えば、路面状況が改善したのは本来の道幅の中央の僅かな部分だけで、本来の車道ではなく、シングルトラックでさえもなく、車の通わぬ歩道として多少管理されている感じが出て来たのである。

改善のきっかけが何であるかははっきりしないが、おそらくはこの辺りから下で県道と並走する送電線の絡みではないだろうか。

これが初挑戦ならば、完抜勝利を確信しかねない場面であったが、まだ気を緩めてはいけないのを私は知っている。
現状の踏み跡にしても、まだどこから来ているのかはっきりしないし、県道の状況が進むほど改善するかは分からないのだ。
少なくともあと一回、大きな決壊が現れるハズなのだから…(この2年で復旧していれば別だが…)。



やったやった!

これは、「やった」(=敵を倒した)んでねーか?

まださすがに新しい車の轍とまでは行かないが、状況は急速に車道の度合いを深めている。
しかも常時下り坂なので、展開していくペースが速いのだ。

この写真の切通しの先のブラインドカーブなんかも、なかなか車道らしい良い雰囲気を醸しているなぁ。

そんな風に思いながら、曲がってみると……。




7:25 《現在地》【鳥瞰図】

場面転換がキタ!

これまでの余り見通しの利かない丘陵的山地から、日本の東西を分かつ巨大地溝帯(糸魚川静岡構造線)が具現化した姫川の峻酷な谷へ、劇的と言うべき場面転換が現れた。


……そうだ、

そうだった。

確かに2年前に私が敗走した山は、こんな風に険しかった。
藪の濃さではなく、崩壊の凄まじさに私はしっぽを巻いたのだ。

これでようやく私の中の“二つの県道526号”が、一続きの道として現れてきた。
残る問題は、この急斜面を如何に無事に自転車同伴で最後まで下りきるかと言うことであったが、今のところは道の状況も改善という一本道に乗っているようだった。

今はとりあえず、ここからの素晴らしい眺め(↓)を楽しんでおこう!




ちょっと日本離れした、どちらかと言えばスイスアルプスを彷彿とさせるような姫川越しの眺め。

(よく見ると緑の山の方々に鉄塔が立っているのが、“日本的”である。姫川は大電源地帯である。)

一際目立つ直近の岩山は明星山で、その奥の雪を頂く峰々が富山との県境線だ。

余りに山深いため、わが国の中で最も人通りが少ない県境の一つであろう。



遠くも良いが、ちゃんと足元も眺めておこう。


こっちもすごい。

↓↓↓



320 → 140

こんなに真下に見下ろせて、良いものだろうか?

まるで高層ビルの窓から眼下の街を眺めるような鉛直的アングルだが、
間違いなくこれは県道の車窓(路肩からちょっと下を覗いてみた)である。

現在地の標高は320mで、姫川谷底は140m付近であるから、
その高低差は180mにも達している。まさしく鳥の目である。


ここから分かることは…


こっから下、なんぼ急斜面なんだよ!




眼下の険悪を見せられても、なおも私は泰然と構えているところがあった。

今まで何度裏切られたか分からないのに、
まだ心の中で県道を信じていたからである。
(問題は例の崩壊だが、それはまだもう少し先の事だと思われた。)

この時点でもまだ、災害で封鎖されて藪が広がる前の県道は、
結構よくある“険道”だったろうと思っていた。
少なくとも、「不通区間」や「未開通区間」を持つ県道ではなく、
この道は車道として開通していた経歴があるはずだったから、信じた。

“廃道であること”以外に、そんな酷い事があるはずはない… と。




そしてまた新たな展開。

全てが下り坂であり、藪も浅くなった今、その展開は目まぐるしい。

現れたのは、これまでで一番キツい下り坂と左に抉り込むような切り返しカーブ。
道路線形としては“下”だが、まだ騒ぎ立てるほどのものではない。

そしてその頭上には、悠々と飛び渡る数条の送電線があった。
1分前に見下ろした発電所の建物が目に浮かんだが、
この次の風景でその長閑な連想も、

ふっとんだ。



この県道は、もともと普通ではなかった。

その事が初めてはっきりと認識されたのが、この場面、この景色、この下り坂だった。

写真だと十分に伝わらないかも知れないが、それでも言わせてもらう。

ここは山中に現れた“暗峠”のようであると。

(暗(くらがり)峠は、奈良県と大阪府の境にある国道の峠で、おそらく車道として解放されている国道としては日本一の急坂として知られている)

写真からも感じられる、ただの直線道路との違和感に気付いて欲しい。
例えば山の斜面を無造作かつ直線的に駆け下る送電線との綺麗な並走。

おかしい。



山の斜面を無造作かつ直線的に駆け下る送電線との綺麗な並走は、この場所だ(↑)。

県道526号の激坂区間が、遂に牙を剥いた。



送電線あるところに、鉄塔もある。

というわけで、行く手に見えてきた鉄塔だが、

肝心の道路はどこよ!?

まるでここは夏のゲレンデね。泳いでる私の目。



7:27 《現在地》

鉄塔が傾いているのではなく、おそらく私が傾いている。

この場所で“レベル”を保つのは、難しい。

それほど、地面と路面が一緒になって傾いている。

県道は、誰もが車道を是認しがたい急斜面で、私の前に、

ちていた。



ここで振り返ると、こんな感じ(↑)。

道っつうか、ゲレンデみたいでしょ。



そしてこの鉄塔下のカーブこそ、本県道の驚愕すべき場面だった。

↓↓↓


いた。

これを車道と偽って一般車両を通していたとしたら、この県道は鬼畜である。

糸魚川地域振興局は修羅である。


…いや、

通れるか通れないかと言われれば、

(車輌の馬力と車高が普通なら)一応は通れるんだろうが…。軽トラとか、軽トラとか…。



我が目を疑うほどの急坂に出会ったのは、

それこそ例の暗峠(画像)以来である。


ゲレンデみたいな所を直滑降してきて、送電線の基礎が邪魔をして真っ直ぐ進めなくなるや否や、

全くその場凌ぎを匂わせる感じで、直角に折れやがった。

市街地でなく山の中に直角カーブがあるというのも、明らかに異様である。

しかも直角カーブをしながら、その勾配は肉眼測定で暗峠の持つ公式(?)記録37%を超えている。
(間違いなく超えている…と思うが、測定はしていない。)

もちろんこの県道がスゴイのは、元もと開通していた車道だったからに他ならない。
これが最初から普通の!“登山道県道”であれば驚きはしないのだ。




そしてこのカーブの先はどうなっているかといえば…



こんなよく分からない事になっている…

愛すべき、体たらくだ。


そして次の写真はこの直角カーブ下側で、一番キツい。

いわゆる、“瞬間最大勾配”というヤツだ。

さあ皆さん、牛乳の準備を!(ふくよ)

↓↓↓


「立て板に水」ならぬ、

立て板に

全く淀みなく私の自転車が滑り落ちて来やがる(笑)。


一応、地面が変動して道の勾配が狂ったわけでないことは、
この辺りのコンクリート舗装(一応管理者も罪悪感はあるらしい)に亀裂などが無い事からも分かる。

また、この写真の勾配が嘘偽りの誇張でないことは、
背景に写る鉄塔がちゃんと鉛直であることから納得して貰えるはずだ。




見たことのない奇抜な道路風景に出会ったことで私は興奮し、チョウチョのようにカーブの周りをまわって撮影しまくった。

皆様におかれましては、少し飽きたかも知れませんが…

サイクリストにとって急坂道を克服することは永遠のテーマの一つであり、ここに車輌を持ち込んだ自分の判断を自分で褒めそやした。


もしこの道を逆走したら、どんなに辛いだろうなぁ…。
廃道(藪)でなければ、チャレンジしてみたい気もするけれど…。

ともかく、ただ今発見された“新潟の暗峠”に乾杯だ。




で、その先は……



私がもし地図を信じて入ってきた一般ドライバーだったとしたら、

「このクソ県道が!」

と罵っても良いよね。

今にも車ごと谷底に落ちそうな、

しかし引き返せない激狭激坂激濡道が、よたよた……。