島根半島から北へ40kmから80km離れた日本海上の広い範囲に点在する180あまりの島々よりなる隠岐諸島の主島、島後(どうご)は、日本の離島で14番目に広い(沖縄本島を除外した順位。また、北方領土に属する島々を除いた場合は11位となる)大きな島だ。出入りの多い海岸線に囲まれているが、大略すれば円形の島で、平均の直径は18km内外である。島内は非常に起伏に富んでおり、平野部はごく少ない。また島の全域が島根県隠岐郡隠岐の島町に属し、人口は約13000人を数える。
島後を南北に貫通する形で一般国道485号(隠岐の島町〜松江市)が指定されている。島後は数少ない国道を有する離島である。
島後における国道485号のうち、島の中心市街地であり役場やフェリーターミナルもある西郷(さいごう)から、中央分水嶺を越えて北部の中心地である北方(きたがた)付近の郡(こおり)に至る区間は、明治期以前からの長い歴史を有する島の大動脈である。
この伝統ある峠の名を中山越というが、現在の地図にその名を知る手掛かりはなく、全長699mの五箇トンネルが峠の下を貫いている。
五箇という名は、平成16(2004)年に合併して隠岐の島町になるまで峠の北側を占めた五箇村(ごかむら)に由来している。
今回、隠岐での“島行が”レポート第2弾として(第1弾はこれ)取り上げるのは、国道485号五箇トンネルの旧道にあたる、中山越の道である。
ただし、旧道に国道485号だった時期はない。
@ 地理院地図(現在) | |
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A 昭和47(1972)年 | |
B 大正元(1912)年 |
探索に先駆けて隠岐諸島全域の旧版地形図を入手し、地図に描かれた道路の変遷を確認した。
その成果として、中山越ではこれまで少なくとも2度のルート変更があったことが読み取れた。
@は最新の地理院地図である。
峠部分は五箇トンネルによって結ばれていて、北側には一部旧道らしい道形があるが、南側には見当らない。
Aは昭和47(1972)年版で、「中山トンネル」の注記を持つ短いトンネルで峠を貫いていることが分かる。このトンネルは@には影も形も消えており、廃隧道と化している可能性が高い。探索のターゲットである。
だが、探索の対象はこれではない。
次に現地を描いた最も古い地形図を紹介する。
Bは大正元(1912)年版である。
峠がちょうど2枚の地形図の境界にあたっていて、画像のように切り出して繋ぎ合わせないと非常に見辛いが、Aよりもさらに短い隧道が頑張っている! これは明らかにAとは異なる隧道と思われた。
というわけで、歴代の地形図のチェックから、この場所(中山越)では、少なくとも3世代のトンネルが活躍している。
現在のトンネルは「五箇トンネル」、先代は「中山トンネル」。ここまでは地図の注記から分かるが、Bにある先々代とみられるトンネルには注記がないので、「初代・中山隧道」と仮称したい。
このように3世代以上のトンネルが掘られた峠は、全国的に見ても、それほどありふれた存在ではない。
離島という本土に比べて何かと制約が多い立地であることも考えれば、この島における中山越の伝統的な重要性の高さが窺い知れるというものだ。
資料名(データ年) | 隧道名 | 路線名 | 竣功年 | 全長 | 幅 | 高さ |
平成16年度道路施設現況調査 (2004年) | 五箇トンネル | 一般国道485号 | 昭和59(1984)年 | 699m | 7.5m | 4.5m |
道路トンネル大鑑 (1967年) | 中山隧道 | (主)西郷五箇中村線 | 明治35(1902)年 | 151.2m | 3.5m | 3.5m |
続いて、これまたお馴染みの手順として、『道路トンネル大鑑』と『平成16年度道路施設現況調査』という新旧2世代の「トンネルリスト」をチェックしてみたところ、右図のようなデータが明らかとなった。
これにより、現在の五箇トンネルが昭和59(1984)年に竣工していることがまず分かる。なお、国道485号は平成5年の指定なので、開通時点ではまだ国道ではない。
そして、先代の中山隧道とみられる『大鑑』のデータには、驚きがあった。
竣工年、なんと、明治35(1902)年?!
………おそらくだけど、これって初代のデータと、2代目のデータが、ごっちゃになっていると思う。
この『大鑑』のデータは、基本的には先ほどの地形図Aに登場していた2代目隧道のものだと思う。特に長さとか、路線名とかは、間違いないだろう。
一方、地形図Bに描かれていた初代の隧道は確かに明治生まれだと思うが、それが明治35(1902)年生まれなのかもしれない。
『大鑑』のデータに違和感はあったが、この資料には誤りも良くあるので、とりあえず現地探索へ行ってみよう。
どうせ私が島後へ行けば、この峠を越えないという選択肢はないのである。
“山行が”でも珍しい、離島の国道探索へ、いざ出発!!
隠岐……明治35年………………
最近山行がに登場した、明治36年に八丈島島司へと転任した人物は、たしか隠岐島司からの転任だったような……。 まさか……。