2008/1/3 16:20
本レポート最終回のサブタイトルは「道路の妖怪 現る!」である。
私の大好きな、妖怪。
一体、どんな道路の妖怪が現れるというのか。
まさか鬼県令・三島通庸? はたまた怪老・星野五郎平か。
背後から現れた軽自動車は、タイヤの幅と同じだけしかない下り坂で驚くべき運転技術を見せつけた。
動画を撮りながら追いすがる私をいとも容易く振り切ると、蛇行する坂の向こうへと消えていった。
これもある意味“妖怪じみた”ハンドル捌きとは言えるが、本物の妖怪ではない。
前進を再開するのに、ペダルを漕ぐ必要は無い。
ただブレーキレバーをゆるめるだけで、後は如何様にでも速度は出せた。
だが、走り始めてすぐに重要な地点に達した。
都道を跨ぐ急傾斜な橋。
その正体は、御岳登山鉄道(ケーブルカー)の単線軌道が通る「中の茶屋橋梁」である。
御岳山からの都道の下りは、ケーブルカーの線路からさほど離れない位置を終始蛇行しながら通るが、交差するのはこの一箇所のみである。
御岳登山鉄道の平均勾配22度26分という数字は、関東地方で営業中のケーブルカーで最も急である。全長1107m高低差423.4mを、おおよそ6分で結んでいる。
観光客はもちろん、宿坊の多くの住民もこのケーブルカーを日常の足としているそうだが、その歴史は古く、昭和9年の開業である。
ちなみに、最急勾配は25度10分あり、これを道路勾配として馴染みの深い「%」に直すと… 47%!
こんな直線登りは、いくら健脚な江戸時代の人だって無理だろう…。
それゆえ、当時からこの都道に近いグネグネ道が利用されていたのだと再確認。
16:22
時々現れては由緒深い地名とユーモアある解説をくれる標柱。
今度は「なかみせ」である。
この平仮名の地名から意味を想像するのも楽しいが、すぐ背後にある「中の茶屋橋梁」が答えである。
ケーブルカーが営業を始めるより前ここには茶屋があって、急坂に喘ぐ旅人をいやしたという。
いま地図を見ても、確かにこの海抜700m付近は道中唯一の緩斜面となっている。
なかみせ通過。後半戦開始。
残りは約1.4km。高低差300mだ。
急に画像が明るくなったのは、デジカメの撮影モードを「高感度モード」に切り替えたためである。
愛用するLUMIXシリーズにはこれがあって重宝する。
かなり細部は荒れてノイズも乗るのだが、それでもフラッシュを使うよりも遙かに自然な画像が得られる。
しかし、相手は夕暮れ。
高感度モードで抗うにも、限度がある。
速やかに下山したい。
もう少し道は広くできそうなところも、舗装路面はあくまで軽自動車の幅のままである。
しかし、貴重な杉並木を保護するためにはやむを得ないのだろう。
アスファルトの下でも元気に育てる木はない。
ごらんのように、現状でさえ杉の一部は根元の土砂が流出し、その根が浮き上がりすぎている。
当然倒木の危険性が増した状態である。
このカーブを見て欲しい。
大きなカーブである。
その名も、「おおまがり」
昔の都民… いや江戸っ子? それも違うな。
武蔵国民とでもいうべきなのか。
いずれにしても、 彼らはとても素直であったらしい。
その先に見えるのは、ケーブルカーの線路だ。
青空号と、日出号。
大人片道570円。
この坂を歩く辛さを思えば、乗ってもいいかもにゃ。
「おおまがり」の説明文にはこうある。
「ふもとから、くねくね道が続いてきましたが、この辺りは大きくゆるやかに曲がり道が続きます。」
どうやら、見下ろした先にあるこの“くねくね道”。
あとは最後までずっと続くようであります…。
しかし、地図から読む残りの距離は800mほど。
だが「なかみせ」から「おおまがり」へと下りの勢いが衰えていたため、残す高低差はまだ220mもある。
これを単純に計算すると、必要な平均勾配は27.5%?!
ちょっと異常である。
きっと、地図にないカーブがまだいくつも隠れていそうだ。
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16:30
さあ、始まりました!
全国の急坂マニアの皆さん!!
これは… 完全にブレーキを握っても制動不能!
嘘だと思うなら、ここに貴殿の良く整備されたチャリを止めて跨って見て欲しい。
絶対動き出すから。
下手したら、つんのめって前転するから。
それもあって、静止はとにかく出来ない。
別にする必要もないのだけれど…。
いやー。
本当にこの道を下りに使って良かったー。
もし登ってたら、この辺に心臓を吐き出していたと思う。
つうか、この道を走るマラソンがあるって、本当かよ…。
参加する人たちは、一体何に取り憑かれてるんだろう。
やはり妖怪なのか…。
「九十九折り」では生ぬるい!
これは、
スーパーξ道だ!
なお、「ξ道」は山行が読者さんが教えてくれた、九十九折りの新表現。
とても気に入りました! ありがとうございますー。 読みは、「クサイ道」。
写真は右カーブばかりだが、左カーブももちろん間に挟まっている。
ただ、数が多いので適当に端折っているだけ。
予告?通り、「おおまがり」から先は最後まで全部“くさ”かった。
本当に凄まじい道だと思うのだが、所々、ケーブルカーにも負けない急坂になっている部分を、私は見逃さなかった。
ちょっと、車道としては有り得ない勾配の箇所とは…。
ここだッ!
…これは、インチキですか?
いやいや いや。
マジだって。
ここに立ってみたら、転んだもん(笑)
ケーブルカーの無かった時代、どうしても楽に参詣したい人は馬に乗ってこの山道を登ったのだという。
馬にとっては、本当に災難であった。
あ、 オレの妖怪アンテナに反応が…。
な〜〜〜ん だこれは?
大きな九十九折りの内側に、
小さな九十九折りが収まってる…。
実はこれ、
新道と旧道なのである。
新道がいつ出来たのかは分からないが、さほど最近の事では無さそうだ。
古い石垣が現道沿いにも続いている…。
さあ、どっちへ行く??
普段の行動則どおり、ここは旧道へ。
さすがにこの旧道、軽自動車であっても入れないであろう。
カーブがきつすぎるうえ、杉の木や電柱、石壁などが、それぞれ“いい位置”に置かれている。
そしてこの異様な親子カーブの正体は、妖怪だった。
なんていう妖怪だと思います?
ぬらりひょん?
正解は、 |
でした! |
「古名由来」
道(旧道)を眺めてみてください。くねくね・うねうね曲がり道。
何みたいですか?
大蛇? ミミズ? 酔っぱらい?
昔の人はこの場所を「ろくろっ首」と呼びました。
昔の人も「九十九折り」をなんて呼ぶか、悩んだのだろう。
そして名付けた「ろくろっ首」とは、妖怪オタクじゃなくても知っている、なかなか上手い命名。
以上、御岳山の都道に出没する妖怪でした!
こんな道でも、カーブミラーに都道の証しは欠かさない。
ん?
坂の上から、何か青いものが走ってくる!
それが子供だとはっきり認識されるまで、恥ずかしい話だが、
すごい… …焦った。
子供は跳ねながら、あっという間に坂の下へ消えていった。
あれ子供… だよね?
…眼下に、しばらくぶりの普通車を見る。
ようやく下界に降りてきたのだ。
16:43 《現在地》
鳥居だ。
日の出山の交差点以来だ。
海抜400m。
都道の一般車両通行止め区間を走破し、これで下界へ脱出となる。
腕がつりそうだった。
後ろのブレーキパッドは完全にすり切れており、帰宅後すぐに交換を要した。
ともかく、なんとか真っ暗になる前に下山できたのは良かった。
この看板一枚の他に、一般車の通行止めを実力で阻止するものはないが、事情を知っている誰もが突破しようとはしない。
また、許可車とはいえ実際には軽自動車しか通れないことの案内もないが、まあ、その辺は許可されるときに言われるのだろう。
…たぶん。
くれぐれも、青や黄色のパトランプのようなものを取り付けて、勝手にアタックするのはやめてくださいね。
どうなっても知りませんからね。
実際、何人も落ちてるそうですから…。
鳥居の外に架かるこの石欄干のコンクリート橋の名前が振るっている。
禊(みそぎ)橋
この橋の外は正真正銘の俗世。
後は平凡な2車線都道が、終点であるJR御岳駅まで続いていた。
帰りは駅から輪行で帰宅。
正月3日にこんな事をした今年。
案の定、道づくしの一年になりつつあります(笑)。