小坂森林鉄道 濁河線 第16回

公開日 2016.7.18
探索日 2013.5.03
所在地 岐阜県下呂市

初めて見た、“最も林鉄らしい”形式の木橋!!


2013/5/3 8:00 《現在地》

林道交差地点から250mほど進むと、半壊した巨大な丸太橋が現れた!

一目で私の目は釘付けにされた。
その橋が、半壊ながらも“架かって”いたからではない。
その橋が、見馴れぬ(異様な)風体をしていたからだ。

これまで、元のカタチを想像出来る大破や中破のものも含めれば、相当数の木橋を目にしてきた私だが、この橋は一目でそれらとは違うと思った。
これまで見てきたどの橋とも違う“形式”ではないかと、そう感じた。

私が知る限り、林鉄で利用された木橋の形式は大きく分けて4種類があったようだ。
圧倒的に多いのは、先ほど現存しているものを見たばかりの単純な桁橋(単純木橋)である。
そして私が見たことのある二つ目の種類は方杖木橋というもので、やや規模の大きな木橋に用いられる(定義の木橋もこれだ)。
残る三つ目と四つ目は、残念ながら写真の中でしか見たことが無いのだが、木造トラス橋ティンバートレッスル橋という種類である。


特撰 森林鉄道情景』より転載。

木造トラスというのは名前から簡単に想像出来ると思うが、ティンバートレッスルとはどのようなものなのか。
次の写真を見て頂きたい。

これが、ティンバートレッスルだ!

写真は、静岡県浜松市(旧水窪町)の水窪森林鉄道奥地の作業軌道にあった3段式のティンバートレッスルだ。
見た目は複雑だが構造は単純で、前記の“単純木橋”を2段以上重ねることで必要な路盤の高さを確保したものを指す。

ワイルドな見た目からして、いかにも長持ちはしなさそうだが、実際もその通りであったようで、多くは短期運用の作業軌道に用いられた。そして運用終了後は解体し、次の場所に組み立てられることが多かったようだ。林鉄以外では、やはり短期運用の工事用軌道などでも用いられたことがある。

木材をふんだんに用いたティンバートレッスルはこそ、最も林鉄“らしい”姿をした木橋であり、古写真の中でしばしば私に憧れを持って見つめられてきた形式なのだが、この上部軌道終点間近で出会った半壊の丸太橋は、その極めて貴重な遺構である可能性が高いと考えている。

今から、その根拠を示そう。



本橋が存在する地点は、地形図には谷としてもほとんど描かれていない小規模な凹地であり、水は流れていない。
地形は比較的険しいが、人間は無理に橋を渡らなくても、上流側に迂回して進むことが可能である。
僅かに踏み跡もある。

この迂回路を使うことで、自然と橋の側面を眺める事が出来るのだが、そうして見ると、半壊しているとはいえ、これが普通の木橋とは明らかに違うシルエットであることがよく分かる。




滅多に見ないほどの太い丸太が4本、谷を渡るように架けられているのが見えるだろう。

通常の桁橋であれば、この4本は全て同じ長さの主桁材ということになり、同じ高さに架かっていなければならないのだが、本橋の場合、明らかに下の2本と上の2本は長さと高さが違うのである。

つまり、下の2本の上にもかつて橋脚が存在し、上の橋脚は両岸だけで無く、その橋脚によっても支えられていたと考えられる。
そうでなければ、下の2本にはまるで存在意義が無いということになってしまう。

残念ながら、ただの1本として上下の桁を結ぶ材が残っていないため、“半壊”というより他は無いのだが、それでもこの4本の太い丸太の位置関係からして単なる桁橋や方丈橋とは考えにくく、規模的にトラスでも無いはずだ。

これぞ、私が初めて目にしたティンバートレッスルの遺構!



このまま“迂回路”を使って先へ進んだのかといえば、そうではなかった。
私は最初にこの橋と出会った袂に戻り、改めてこの丸太を渡ることにしたのである。

本橋の丸太は尋常で無く太いものであり、完全に耐用年数を超えて中破している橋の一部ではあるが、がっちりと両岸に食い込んだ丸太自体は、人の体重程度では微動すらしなかった。
さすがに濡れていたら滑りそうなので自重しただろうが、今は白く乾いているし、これまで私が「こんな事がいつかあるかも」と期待しながら鍛えてきた野生の平均台技術を、やっと披露する機会が来たと思ったのだ。

ということで、(自分的には)悪ノリとかそういうのではなく、純粋に先へ進む目的で、この橋の主桁を使うことにした。
また副次的成果として、こうして桁の上から見下ろすことでティンバートレッスルの特徴的な2段構造がよく見えた。
次の渡橋動画を見て頂ければ、皆さまにもそれが良く伝わるのではないだろうか。





左図はティンバートレッスルの構造を色分けで示したもので、赤い部材は現在なお(やや傾いてはいるが)健在な下段の桁である。
対して青色の部材は上段の桁で、黄色の位置にレールを敷いていたはずだが(枕木は描写を省略)、これらは本来あるべき場所に無く、私が渡った丸太を含めて2本とも移動してしまっている。

その理由は、下段の桁の上に立って上段の桁を支えていた橋脚が全て脱落してしまったせいだろう。
両岸の木造だったと思われる簡易な橋台だけでは、この太く重い丸太を支えきれなかったものと考えられる。
それでも、これら4本の丸太材の強度は目を見張るものがあると思う。見た目的にもさほど腐朽した様子がなく、触感も堅い。非常に高品位な木材であったと思うし、このような太く重い1本物の木材を利用した技術の高さにも驚かさせる。

なお、ティンバートレッスルを真上から見た場合、下位の桁よりも上位の桁の方が内側に架かっていて、末広がりの断面となる事が多いが、本橋もそうだったようだ。
また、通常の桁橋だと横に並んだ主桁材の本数は、経験的に3本以上であることが多いが、本橋は2本しかない。
この2本という数も、ティンバートレッスルらしい特徴といえそうで、今後の探索の参考になりそうだ。



渡り切ってから振り返りに撮影。

いやはや、本当にこの上部軌道における収穫の多彩さは、過去の林鉄探索で例を見ない。

レール、橋、隧道、廃車体という、“4種の神器”を完備するのみならず、新種の遺構まで見せてくれた。

そんな路線の終点が迫っていることが、私は残念でならなかった。



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終点の予兆


ティンバートレッスルを越えて進むと、再びレールは地面の下に消えてしまった。
土砂の堆積がだいぶ進んでいるが、大きな崩壊は無く、比較的ペース良く進む事が出来た。
しかし、終わりが惜しいと心から感じている今では、難所であってもいいから、終点への到達を引き延ばすものが現れて欲しいとさえ思った。




また木橋が現れたぞ〜!!

規模としては、前の橋よりは小さく、前回紹介した現存木橋よりは少し大きいくらい。

残っていても不思議では無い条件であったが、残念ながら本橋は大破しており、残骸も大部分は重力に引かれて濁河川まで落ちてしまったのか、あまり残っていなかった。
片方のレールだけは、何事も無かったかのように空中を渡っていたが。

それにしても終点を間近に控えて、木橋が連続して架けられていたようだ。私にとっては、ちょっとした“楽園”に思える。



この橋はトレッスルではなく普通の桁橋だったようだ。
谷には2本の橋脚が立っていた形跡と、渡り切った辺りには僅かながら往時の桁が残っていた(→)。

直下の地面からの高さはさほどでは無いのだが、片側は濁河川の広くて深い谷に開けているため、実際に渡れたら、橋上の眺めはスリリングだったろう。



2連続の木橋を終えて進むと、自然と期待した“次の橋”は無く、再び現れた小さな谷は平面交差(?)で越えていた。

林道交差地点からここまで、橋以外にはレールが路盤上に出ている場所があまり無く残念に感じていたのであるが、この小さな谷と交差する所からは、再びまとまった長さのレールが露出してくれていた。右の写真はその一部だが、手前の左カーブから奥の右カーブへS字の線型が美しい。

敷かれたレールも、今や私にとっては2日も連れ添った見馴れたもの… なんて言えるのが、とても幸せなことだった。
この探索をするまでは、こんな機会が来るとは思っていなかった。
そして、もしも林道から軌道跡を探索したとしたら、この地点は初めて敷かれたままの長いレールと出会う“歓びの現場”になるだろうなどということを、得意げに、先輩風を吹かせる心境でもって考えるのが、楽しかった。(少しいやらしいかな? やらしいな、笑)




敷かれたままのレールが露出するようになってから50mも行かないうちに、いよいよ、終点を予感させるものが現れ始めた。

それは、カーブ外側の笹藪に寄せられた一塊のレール群。
間近で観察してみると、それらは(おそらく全て)ポイントと関係するレールであった。

昨日からの一連の探索でポイントは何ヶ所かで見たが、次に見るのは終点界隈だろうと考えていただけに、「いよいよ来たか」と思った。
ポイントのレール一式がここに寄せられている理由は不明だが。

――と思ったら、




8:13 《現在地》

すぐ先にポイントがあった!

林道交差地点から550mほど進んでおり、畑さこ沢まで、残り300mに迫っている。

小坂森林鉄道の路線網の中でも一番遠くまで伸びていた濁河線の終点停車場が、遂に現れそうだ!

名残惜しいけど、仕方ないよね!



久々に目にするポイントだった。
レポートの中では、第10回に登場した中間停車場と思われる復線区間以来か。(濁河川を渡った直後にも複線があったっぽいが)

もちろん、操作レバー(ダルマ)もしっかりと残っていた!
ただし、ポイントのトングレールと操作レバーを物理的に繋ぐ金属棒が、土の中で蕩けて破断しているようで、ポイントを実際に操作することは出来なかった。
それでも外見的には完備されたポイントである。出来れば周辺の落ち葉を掃除して、より現役の光景に近付けたいと思ったが、一人でやると時間がかかりそうなので結局諦めてしまった。



何だか二手に別れるのが名残惜しいかのように、

なかなか離れていかない左右のせんろ。
(一番名残惜しいと感じているのは私だろうが)

そして、やっと別れたせんろは、微妙に高度差を付けて離れていく。

分岐の後、少しのあいだ複線として並走して仲良く終わりと予想していたが、そうではないのだろうか。

もしかして、 もしかしてー?!



おおーーー! これはどうなってるんだ〜?

これはまだ、“単純な終点”では無いかも知れない?!

どどどどっちを選べば良いんだ?!!


もちろんどちらも探索するつもりだが、これは贅沢な悩みだ〜! ウヘヘヘヘ…