千頭森林鉄道 逆河内支線 第E回 

公開日 2011.7.26
探索日 2010.5.6
所在地 静岡県川根本町

千頭(せんず)森林鉄道逆河内(さかさこうち)支線(全長3790m)の探索は、平成22年4月19日に1回目を行い、5月6日に補足として2回目の探索を行った。

当レポートの1〜5回までは、この1回目の探索の往路の模様であり、その結果右図のような成果を得た。
注目して頂きたいのは赤と紫の色分けで、赤い部分はさらに線の種類によって踏破状況が分かれている。

図を見て貰えば明らかなとおり、はっきり言って、往路の探索は単なる「触り」でしかなかった。
途中に隧道(5号隧道?)の坑口を発見、目視するなどの成果はあったが、路盤上には一度も立つことが無く(というか“出来ず”)、とりあえずの目的地である「無想吊橋」を目指したに過ぎなかった。
おそらくは紫色の辺りに軌道が敷かれているとは思うものの、それは推定であり、しかも終点の位置も確定するに至らなかった。

こんなんでは全然ダメだ。

このレポートの当回以降では、1回目の探索の復路及び2回目の探索の成果をフル活用して、出来うる限り「未踏を踏み」「未解明を解明する」努力をする。
私と(おそらく)皆様が待ち望む、本当の「逆河内線」のレポートは、ようやくここから始まる。

かの無想吊橋さえ、私にとってはこの廃線跡を解明する為の“通過点”に過ぎなかった。

…と、思えるくらいの成果があったかどうかは、皆様の評価に委ねよう……。





というわけで、今回から穴埋め式に“紫を潰していく”ワケだが、まずは終点を確定させよう。

終点については、1度目の探索の無想吊橋上にて初めて視認された。

無想のレポートを読み返して貰えば分るが、それはこの写真の場面である。↓↓↓

林道からは発見することが出来なかった軌道跡が、無想吊橋の旧橋跡のものとされるワイヤー群の
すぐ近くまで、絶壁を横断するような形で存在している様子が見て取れる。


次の写真は、この軌道の終点と思われる付近をとらえたものだ。


遠くの方では林道の下に並行して存在する軌道跡のラインであるが、写真中央の旧無想吊橋が架かっていた小さな尾根よりも手前側には、そのラインが見あたらない。
したがって軌道の終点は、“赤い矢印の先端”辺りではないかと思われた。

そしてこの終点へのアプローチ方法としては、林道から直接ガレ場の斜面を下って行くことが考えられる。

…というプランは、1回目の探索で無想吊橋を戻る最中に思いついたのだが、実際にこのルートで終点部分へのアプローチにチャレンジしたのは、2回目の探索のときだった。

(1回目は無想吊橋攻略直後で気が昂ぶっており、終点を確かめることを完全に忘れて帰路に就いてしまったのだった…)



それではこっから、

後半戦のアタック開始!




逆河内支線、終点への接近に挑戦!



2010/5/6 15:47 《現在地》 

日向林道の起点から約9km。
そこが軌道終点のほぼ直上であり、唯一のアプローチングポイントとなる。
前後は切り立つ岩場岩尾根であり、この場所だけが林道を巻き込んだ壮大なガレ場。
言い方を変えれば、(比較的)なだらかなスロープ状の地形なのである。

ここでアプローチ出来なければ、終点への接近はない!

その事を知れたのが、前回(一度目)の探索で無想吊橋渡橋に命を懸けた、その成果である。




なにせ、林道の路肩から、これから踏む込もうというガレ場を覗き込んでみても、そこに軌道跡のラインが見えるわけではない。
それどころか、なんら人為的な地形を見ることも無い。
そして、傾きつつある日射しにより陰影を深める峡谷は異常なまでに深く見え、そこに身を進める覚悟を鈍らせた。

しかも、そんな谷を跨ぐ橋の姿が、はっきりと見えるのだ。
この探索の後で、私の二度目の挑戦を受けることになる、【無想吊橋】の姿が。

あんなに大きく高い橋が、ここからだとあんなに小さく低くしか見えない時点で、この“逆河内”という谷の恐ろしさが分るというものだ。





これを、下れと…?

確かにここは、この周囲のどこよりも与しやすい斜面であろう。

だが、実際はつま先立ちを強いられるような急斜面だ。
少なくとも橋の上から見た遠景や、こうした写真で見るよりかは、急な印象を受ける。

谷底までの高低差は約150m。
ここからは、その暗い谷底が見渡せる。
そして目指すべき軌道跡は、それよりはだいぶ手前の、おおよそ60mほど下方と推定されていた。

目印は…

【旧無想吊橋の残骸】だ。




下って行くこと自体は、そんなに難しいことではない。

ただ、ガレ場と言うことで不安定な石がとても多いので、それに足を乗せて転倒することがないように注意する。
あとは、頭上や背後から追ってくる落石の存在にも注意が必要だが、これはまあ、多少の運も絡んでくる。
むしろこの一帯が落石の核なのだから、速やかにこのガレ場を通路とすることを止め、脱出する方が良い。

ことは慎重かつ速やかに進める必要があった。





30mほど下ってくると、前方のガレ場はやや細まり、左の小さな尾根と右の大きな岩尾根が両側を塞ぎはじめた。

そして、左の小尾根の先には旧無想吊橋の残骸が、右の岩尾根の先には無想吊橋が見える。
新旧無想橋を左右同時に見る事が出来る、おそらく唯一のスポットである。

また、無想吊橋の上からも見る事が出来た“もうひとつの谷を渡るもの”。
すなわち、索道関連と思われる単線のワイヤーの一部が、ガレ場を横断するように架空され、小尾根の樹林に消えていくのが見て取れた。

軌道跡は旧無想橋よりも上部に存在している。
したがって、そろそろ軌道跡のあるレベル(高さ)は近いはず。
私は左に進路を取った。




小尾根の上に辿り着いた。

おそらくこの尾根を真っ直ぐ進めば、旧無想橋の袂に辿り着くだろう。

そして旧軌道跡も、この辺りの高さであるはず。
だが、今のところそれらしい平場は見あたらない。
ここは私が下ってきた右側の大きなガレ場と、樹林に囲まれ遠目には目立たなかった左の小さなガレ場に挟まれ、とても軌道跡が原型を留められる環境ではないのだが…。

私は平場を求め、左の矢印の方向へ進み始めた。




ところで、現在地から右の大きなガレ場を通して岩尾根を見ると、少なくとも軌道がこの岩尾根の先へは通じていなかったことが分る。

どう見てもこの岩尾根を軌道が乗り越えるには、ガレ場を橋で横断して、さらに岩尾根に隧道を掘るよりないと思われるのだが、そうした痕跡は見られない。




小尾根左側のガレ場を横断中。
今のところ、軌道跡らしき平場を発見出来ずにいる。
さらに現在地より少し下には“縁”があり、それより下はガレ場ではなく絶壁になっているようで、自由に移動出来る範囲が狭まってきた。




小尾根の中央から少し離れると樹林帯が終わり、
その尾根の突端から対岸へ延びる旧無想橋のワイヤー群が見下ろされた。
またそれとは別に、先ほどガレ場で見た単線のワイヤーが、小尾根を越えて谷を横断していた。

どちらも、我々の通路にはなり得ぬ、孤高の存在だ。




ぐわわあああ…

早く軌道跡を発見出来ないと、大変なことになりそうだ。

闇雲に動き回るには、危険すぎるガレ場斜面が続いてる。

でも、旧無想橋と軌道跡は何らかの通路(歩道?)によって結ばれている必要がある。
この辺りの斜面に、そうした通路があったはずなのである。
私は、2週間前にこの目で見た斜面の景色を思い出しながら、乾いたガレ場に挑み続けた。






キタあ!

前方に、平場を発見!