2011.1.2 13:25 《現在地》
これは一体何だ?
……隧道は分かるよ。
難しい岩場を隧道で貫通しようというのだろう。
とても助かるし、おそらくこれが古地形図にも描かれていた2本の隧道の1本だろう。
だが、であるとすれば右の道はなんだ?
というか、それは道なのか? 自然地形?
いや、どう見ても自然地形では無さそうだ。
隧道とはまるで“旧道”のような位置関係だが、旧道が存在するほど歴史の深い(古いという意味ではなく長期間使われた)道だったのか? そうは見えない…。
うう〜〜ん! 旧道の行き先を確かめたいけど………怖い。 斜面怖い…。
やった。
ベストを尽くした。
大袈裟かもしれないが、この数歩は私にとって勇気が要った。
ただでさえ危険な道なのに、踏破という最大目標から見れば余計でしかないことでリスクを負うことが嫌だった。
でも、偽りなく道に見える場所が気になって仕方なかったし、もう2度と来ない予感がしたので(←重要)、踏ん張ってみた。
そしてそのお陰で、こんなよい眺めを得た。
おそらく左岸道路をこういうアングルで見られる場所は、ここにしか無いと思う。
それくらい、左岸道路は客観視点で俯瞰しづらい立地である。
せいぜい遠く離れた対岸の県道から見上げることくらいしか出来ないので、このアングルは貴重だと思う。
…道はまるで、腰巻きのように岩場に巻き付いていた…。
で、ここへ来た肝心の目標。 〜これは旧道だったか否か〜
なんだが、これはさすがに道があったとは考えにくいだろう。
左の写真は、冒頭の写真にある「旧道?」の矢印の地点に立って、その進路となるべき斜面を撮したものなのだが…どうやっても道は付けられない地形だ。
ここに超無理やりに桟橋を架けるくらいなら、最初から隧道を選ぶであろう。
(じゃあ、なんのための道形であったかについては、回答を保留したい)
いやはや、これは本当に隧道サマサマであったな…………はっ!
隧道は貫通してるんだろうな?!
万が一閉塞していたら、この先へ進むことは……。
坑口の外見はまさしく“岩窟”であり、それ以上でもそれ以下でもない。
凍てついた坑門から垂れ下がった氷柱が、あまりの寒さに乾いたナイフのように尖っている。
おぞましい廃坑の気配が、光の全く見えない闇の奥から漂ってきていた…。
だが、ひゅーひゅー来ている! 風が出ている!!
隧道から吹き出してくる悴(かじか)む風を、こんなにも嬉しく思ったのは久々だった!
貫通の確信を胸に、第1号隧道(仮称)への入洞を開始!!
洞内から吹き出すように溢れてくる風に興奮し、その事には触れずに入洞したが、
見ての通り、この坑口は崩落した土砂によって埋没しはじめている。
完全閉塞までにはまだ余裕があるが、まとまった量の土砂が落ちてくれば一挙に閉塞する可能性もある。
まあ、坑口前に土砂を堆積させる余地自体が少ないので、そういう意味では比較的恵まれた環境なのだが…。
そしてこれが洞奥方向。
風は抜けているのだが、光は全く見えない。
そして坑口同様、内部も完全に素掘であり、ゴツゴツした岩が露出している。
また、普段目にする様々な隧道と較べても際立って断面が小さく、高さ2m幅1.8m前後だろうか。
まさに人道用と呼ぶに相応しい断面のサイズであり、「この道は車道だろう」というこれまでの見立てとは、
些か相反するものがあった…。
そして洞床。
黒ずんでいる物は落ち葉や枯れ枝の成れの果てで、強風で入り込んだまま、非常に緩やかな速度で土に変わろうとしているようだった。
しかし基本的には綺麗な状態で、水が溜まっているでも、瓦礫が積んであるでも、ぬかるんでいるでもなく、歩きやすかった。
そしてこの歩きやすさは、洞床に意図的に砂利を敷いた結果であると思われた。
壁面も洞床もしっとりと水気を含んでいたが、目に見えるほどの滴りは無く、風が抜けているためにムッとした感じも曇りもなかった。
普通ならば気持ちの悪い廃隧道なのだろうが、常に命の危険を感じるような野外に較べ、四方に安定した壁があるというだけで、洞内はむしろ居心地がよく感じられた。
このまま、ずっと地中を進んでくれたらイイのにな……。
外の光が見えなかった理由が分かった。
隧道は、かなり気ままにカーブしていた。
それは定規で設計されたカーブではなく、人間が思うに任せて掘り進んだ、そんな昔の坑道のようであった。
入洞直後に右へ忙しく30度くらい曲がった後にも、緩やかでキレのない右カーブが続いていた。
しかも、
…なにやら先の様子が……。
2つ同時に驚かねばならない、この嬉しさよ!
手前の洞内分岐?! + 奥の明かり窓?
やはりこんなけしからん場所にある隧道だ。
ただ通りぬけて終わりと言うわけには、どうしても、イかぬらしい。
半瞬迷ったが、まずは右から攻略することにした。
なにせ、右を向いた私の少し先には、はっきりと出口が光り輝いていたのだ。
習性に従う自然な動作で、私は光へと向けて歩き出していた。胸にはカメラを構えたまま。
おっ! 県道が見えるぞ…。
!STOP!
洞外に道が全く無い!!
こ、こんなに危険な横坑、そうそうあるもんじゃねーゾ!! せめて何か注意書きくらい!!
明かりの元へ一歩踏み出せば確実に転落死する。
そんな、隧道利用者にとっては罠でしかない、危険極まる横坑であった。
なぜこんなものがあるのかだが、これは隧道の進路(地表との距離)を図るための、測量用の横坑であったと思われる。
立地的にズリ出しや換気用、明かり取り用とは思われないのである。
この横坑には、極めて原始的手法で行き当たりばったりに建造されてしまった隧道の
後ろめたさのような、そんな微妙な空気が漂っていた…。
進むべき道が違っていたことを理解した私は、ひとしきり“絶壁の窓”から顔を出して周囲を見渡した後、またも背中を少し丸めて元の地中へ…。
今度は分岐を直進し、明かり窓らしきところから漏れている白い光を目指して歩いた。
相変わらず隧道の断面は極めて小さく、身長172cmの私でも窮屈さを禁じ得ない。
多少頭を屈めなければ接触するのではないかと思われる場所もあった。
ざっくざっくと洞床の小砂利を踏みしめる音が間近な壁に反響して少々喧しかったが、手の届く場所にある壁が心強く有り難くもあった。
明かり窓らしき場所に辿りついたが、やはりここからも外へ出ることは出来ない造りであった。
先ほどの横坑よりは幾らか“余地”があるようだったが、壁が迫りすぎていて人間がへつり出る事は極めて難しい。自殺行為と言っても良いかも知れない。
なお、ここからも県道がよく見下ろせた。
川の対岸にあるものが、ほとんど真下に近い位置にあるように見えるのが恐ろしかった。
しかしこちらから見えると言う事は、注意していれば県道側からもこの穴が見えるはずである。
夕暮れ、この窓からにょきっと手が出て車の方に振られたりしたら、気持ち悪いだろうナァ…。
入洞から20mほどで最初の横坑があり、それからもう20mほどで、今度は“横坑”というか、
本坑がうっかり地表に接してしまったかのような態の鋭角さで、一瞬地表に横面を出した。
この二度の地表との距離測定を元に本坑の進路は三度反抗して、今度は目で見ても容易く分かるほどの急カさでU字の線形を描き出す。
半円に近いほどのカーブであった。
それは、車両の走行性などというものとは全く無縁な、おおよそ人間が歩行する速度をベースにしたとしか思えぬ、行き当たりばったりな線形だった。
いったいこんなものが天下の“東電”の仕事なのかと思ったが、もちろんそんなわけがなかった。
この道の正体は………。
第1号隧道の全く退屈のない探索にも、遂に終わりの時がやって来た。
全長は5〜60mといったところであろう。
突然に “ポッ” と出て来た出口。
直前のカーブがきついために、いきなりこんな近くに出口が現れて驚く。
だが今度は手前に分岐もないから、正真正銘の出口である!
貫通できることを風だけでなく、この目でも確認出来て、やはりホッとした。
これで私も、次なるフィールドに……!
↓↓↓
FLY OUT!!
は、絶対厳禁!!
飛び出“死”禁止!!!!
幾ら外の光が嬉しくても、ここではそろりと壁に伝いて歩くなり。
1メートル以上悦び躍れば、100の確率で死ぬるなり。
面白いけど、酷い“行き当たりばったり”な隧道だったなぁと思う。
おそらく、このGIFアニメみたいな展開だったんじゃないかなぁ…。
微笑ましいなぁ…(←必死だろ!!)
外へ出た。
そこに間髪無く、飛び込んできた眺め!
↓↓↓
うわぁああああ!!!
地形図には無かった隧道が、あるとしか思えぬ陰影!!
しかしまだ少しばかり遠い! “青崖”よりは手前だが…!
あああああ! 生きて、行きたい!!
ハァハァ…ハァハァ…。
13:33 《現在地》
第1号隧道を潜り抜けた直後も険しい岩場で、そこでぷっつり道が落ちていれば「それまで」だったのだが、何かの力が働いたのか必然であったのか、そんな不運はおこらず、逆に地形は一時的に牙を収めつつあった。
小さなガレた谷の向こうに、青々と茂る杉の植林地と平坦な道が続いているのが見えた。
その周囲の斜面だけは今までなかったほどに緩やかで、下の方の川縁まで決して甘くはないだろうが、とりあえず転落の危機からは解放されそうだった。
…いいね。
そしていよいよ目前に現れた、ガレ谷。
このようなガレ谷を渡るのは既に三度目で、谷自体の規模はこれまでで圧倒的に大きいと思うが、その傾斜は緩やかであり、ほとんど踏破の問題にはならないレベルと一瞥された。
よしよし! これならばラクに、この先の少し安全そうなエリアに進むことが出来そうだ。
良かった! ツイてきたかも。
ん?
うわあぁぁぁぁ…
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