隧道好きならば名前くらいは聞いたことがあるかもしれないが、どこにあるのか分からない人も少なくないだろう。
この奥只見シルバーラインや奥只見ダムというのは、新潟県の東の端で、福島県の西の端、越後山地の山奥にある。
文字通り福島県只見町の奥にあるのだが、只見川に連なる巨大ダム群と険しい地形がため、只見町中心部へ繋がる道は一切無い。
奥・只見といいながら、只見町から来ることが出来ないというのは、この地の特異な険しさをよく現している。
奥只見ダムへの陸路上のアプローチは新潟県魚沼市小出(こいで)から東進、湯之谷温泉よりシルバーラインにて達するより無く、他には福島県檜枝岐村から湖上遊覧船を経由するコースがあるのみだ。
私は今回の調査において、そのリスクを少しでも減らすために、終点であり絶対の行き止まりとなる奥只見ダムに車を手配し、湯之谷入口からの登り片道調査を実施した。
8月某平日午前6時15分。
私は遂に念願のシルバーライン攻略を目的として、その入口にあたる魚沼市湯之谷温泉近くの国道352号線上にあった。
2輪禁止というのを事前に知り、あまり人に見られて良くない調査になりそうだったので、平日の朝早い時間を狙って来た。
この辺りの事情もまた、塩那道路攻略前の変な緊張感を彷彿とさせた。
写真は分岐地点の1kmほど手前の様子。
まだシルバーラインという、日本の道路特異点の入口を匂わせるものは何も存在せず、至って平凡な道路風景であった。
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しかし、見通しの良い山村部の分岐にしては異例の早さで分岐の予告標識は現れ始めた。
最初の標識は、その400m手前であった。
この段階で、左折の県道50号が特異道路である事を匂わせるものはまだ無い。
強いてあげるなら、国道の行く手が枝折(しおり)峠、左折県道の行方が枝折峠の先の檜枝岐(ひのえまた)となっている点にやや違和感を覚える。
これは県道(シルバーライン)が枝折峠のバイパスとして機能していることを意味しているのだが、県道に補完される国道というのもまた、我々道路趣味者の好きな対象である。
いずれ本格的に違和感を覚えるのは、この200m先以降続けざまに現れる標識からだ。
分岐まで残り200mにも再び大きな青看が現れる。
直線なので既に分岐は十分に目視できるのだが、今度は400m地点の標識とは趣が異なり、はじめて「奥只見シルバーライン」の表示が現れる。
これは、既に有料道路ではなくなって28年も経つとはいえ、なおこの愛称名でガイドする地図や観光書籍類が多いことをうけての標識だろう。
また、シルバーラインの実情を知らないドライバーには何を言わんとしているのかよく分からないだろうが、「危険 トンネル内事故多発」という意味深な標語はこの後度々現れる。
残り100mと思われる地点にも、再び青看が設置されている。「トンネル内事故多発」看板も再び。
今度の青看は明らかに、ドライバーを国道に行かせまいという作為に満ちている。
「峠道路・時間一方通行・急カーブ 転落死亡事故多発」などと、もろ脅し文句が並んでおり、お前はドライバーに後ろめたさを覚えさせる林道かと突っ込みたくなる。
しかも、奥只見シルバーラインの文字の下には可憐なミズバショウが意味深に描かれている。これは実はプロパガンダで、暗に尾瀬へ行くにもシルバーラインが安全ですよと言いたげだ。
それぞれのラインの描かれ方の太さの違いも見逃してはいけない。
そしていよいよ分岐地点を前にして最後の青看は、これまでの情報を集大成とした立派なものだ。
直進の国道はまるで峠が終点であるかのように詐称されているが、それでも通り抜けようとする者を威嚇するかのように、隣の小さな青看が無茶な事を言う。
「5km先より 急カーブ連続24km」
…ちなみに私はまだ未体験だが、この脅しは本当らしく、国道352号線は相当の“酷”道だそうである。
しかも、この国道も二輪車禁止であり、このエリアはほんと二輪車泣かせである。(どうやっても二輪車では県境の向こうには行けない規制だ)
そしてこれが、一風変わった分岐地点。
狭い場所に高速道のインターチェンジのような構造が設けられており、信号はない。
おそらくはかつて有料道路だった時代の名残の一つであろう。
中央には滅多に見ることのない「安全地帯」の標識に、工事現場以外ではやはり見ることの少ない「指示方向以外進行禁止(左・右)」の標識が並んでいて目を引く。
また、その奥の綺麗な看板が「尾瀬は左」と、やはり国道をないがしろにシルバーラインに誘導している。
現在は分岐地点直前のロードサイドパークだが、有料道路時代には関連した駐車スペースであったろう、「みみずく駐車場」。
中央にはその名を象徴するみみずくと思われる巨大な鳥の像が、我々を見下ろしている。
この奥の、普通にシルバーラインに入ったのでは見られない位置に、なぜか通行上の注意書きの立派な看板が設置されていた。
(次の写真)
シルバーライン内、特にトンネル内における安全装備の案内が主であるが、その序文はこの道路の特徴を最もよく現している。
奥只見シルバーラインには合計19のトンネルが連続し、総延長22.6kmの内トンネル延長18.1kmあります。安全運転に十分心がけてください。
どうやら、こいつ(シルバーライン)は、自分が特異であることをしっかりと自覚しているようだ。
これで普通の顔をされていても怖いが、トンネルが多すぎるから気を付けろと言うのは、ありそうで余りない注意書きだ。
ただ、冗談抜きで本当に多いのだから、そんな注意も必要なのだろう。
ここまでの僅か400m間の脅しラッシュで、多くのドライバーの気持ちはかなり追いつめられていると想像される。
特に、はじめて来たパパドライバーなどは、この危機感につけ込んだ、スタンドの巧みな戦術にはまんまと引っかかることだろう。
おっとごめん。言葉が悪かった。
私の調べでは、国道を行く場合、この先77kmもスタンドが無いようなので、真面目に、ここで給油した方が良さそうである。
シルバーライン経由でも、50km以上はスタンド無しである。
あッ、自動二輪(原付含む)の通行止め標識だ。
ドキッとしたが… ま、 まだセーフ、 セーフ…。