主要地方道小出奥只見線 <シルバーライン> 第二回

公開日 2006.08.26
探索日 2006.08.24

登りながら曲がりながら潜りながら

隧道スターマイン


 ゲートから200mほど進むと、早速にして1号トンネルが出現。
プラスチック製の簡単な銘板が掲げられている他は、至って殺風景な坑口の様子である。
特にトンネルをウリにしている観光道路らしい様子は見られない。

 それはさておき、記念すべきこの一本目の隧道の正式な名称は「1号トンネル」。
当初はダム管理道路のトンネルとしてこの名前だけで足りていたと思われるが、観光道路化を契機に親しみやすい日本語の名称「折立」を付与したのだろう。
ちなみに、折立は周辺の字名で、他の隧道はほぼ隧道周辺の沢名などから名付けられている。


 全長235.7mと、長くもない1号トンネルであるが、長方形断面のスノーシェッドから入ると間もなく本来の地下部分となる。
この断面の形状が特殊だが、これはこの先の他の隧道も同様である。
よく見る馬蹄形や半円形の断面ではなく、扁平な曲線を描く天井を垂直の側壁が支える形状である。
力学的に決して優秀な隧道断面ではないと思われるが、なぜ全ての隧道がこのような断面に揃えられたのか、不思議なところである。
 



 直線のトンネルだが勾配は結構きつく、これもまたシルバーライン前半の各隧道にほぼ共通する特徴である。
 残念ながら、私はちょっと人目を憚りながら走行しなければならない立場なのだが、完全に一本道の隧道内において逃げ隠れする事は不可能。
ただただ追いつき追い越していく車の邪魔にならないよう、危険を感じさせないように出来る限りのオーバーアクションで存在をアピールするより無かった。
具体的には、手持ちのSF501を車の接近に合わせて点灯させ、地面や天井を盛んに照らすのだ。
ドライバーが早めに光に気がついてくれれば、余裕を持って回避してもらえるだろうと考えた。
また、車が追い越していくときには、必ず停止することも忘れなかった。
しかし、それだけしても実際には、思いのほか頻繁に大型車が通過するので、決して安心できる状態ではなかった。
また、いつ管理者や警察官によって制止を求められないとも限らなかった。


 最初の隧道だけにもの凄く緊張していたが、特に何事もなく通過出来た。

 …それはそうだ。
 ただの隧道だもの。

 妙に力んでいる自分が、少し可笑しかった。
1本目を数台の車に追い越されながらも無事通過できたことに少し安心し、行く手に2本目がすぐに現れた時にはもう、楽しめる気持が出来始めていた。



 「西ノ沢トンネル」こと2号トンネル。
今度はそのまま坑口が地上に接している。
銘板記載の全長は169.7mと、1号よりもやや短い。

 この隧道の坑口前には、コンクリートブロック製の頑丈そうな小屋が建っている。
そこには「西の沢電気室」と札が取り付けられており、どうやらシルバーラインの道路照明(主にトンネルの照明)に関する変電設備のようだ。



 短い隧道だが、全体が大きなカーブとなっており、見通すことは出来ない。
このシルバーラインの隧道群の特徴としては、先に述べた特異な断面の形状の他、照明が全て中央一列であることや、路面が全てコンクリート鋪装であること、勾配やカーブといった道路線形がトンネルと明かり区間とで隔たり無い事などが挙げられる。
このうち最後の特徴については、今後さらに強烈な具体例と共に紹介できるだろう。



 隧道内の設備としては、全線に亘って消化器・非常電話が設置されているほか、長大隧道に関しては車両転回所や待避所も存在する。
ただし、避難通路が設けられている隧道はないようだ。
その他、現在は使われていない設備として、内壁側面の所々に右写真のような、縦1m×横2m×奥行き70cm程度の凹みが散見された。
滑り止めの砂でも置いていたのだろうか。
或いは別の用途があったのだろうか。



 近接してはいるが連続ではなかった1・2号トンネルに対し、次の3号は2号内部から既に見通すことが出来る。
 現在時刻は午前6時37分で、出発から約10分を経過。
幹線道路だという意識ではなかったのだが、平日朝にしては通行量が少なくない。
数分に一台以上のペースで追い越していく。
県外ナンバーもかなり多いほか、ダムに出勤するっぽい長岡ナンバーのバンや、暗渠のパーツを荷台に満載した中型トラックなどが目立った。



 続いて3号トンネルとなる「神山トンネル」。
全長は76mとこれまででは最も短い。
出口が左にカーブしつつ開口している他は、これまでで最も凡庸な隧道である。
「神」の字を預かるにはちょっと役不足を感じさせる隧道だ。



 ここで少しまとまった明かり区間が入る。
こんな書き方は変だと思うかも知れないが、この道においては確実に隧道の割合の方が多いので、明かり区間の方が特筆に値するのである。
 試しに、ちょっとこれまでの隧道と明かり区間の距離を計算してみると…
全長1200mに対し、隧道が400m強である。
 …あれれ。
別に騒ぎ立てるほどの割合じゃないじゃない?

 そう思っていると、この後で鼻血でます。確実に。


 それよりも、この道の明かり区間はたった4500mしかない事が入口の標識でもう明らかだったのに、最初の1200mの段階でその明かり区間を800mも使ってしまっている事の方が重大である。
たとえるなら、1ヶ月分の食糧しか持たず無人島に漂着したのに、最初の1日半で5日半分もの食糧を食べてしまった状態と言える。


 そのうえ、次の4号トンネルまでの間で、さらに400mも明かり区間を使ってしまった。
平均勾配5%程度の安定した上り坂の先、片側交互通行の信号機と一緒に現れた4号トンネル。
またの名を「猿沢トンネル」全長100mだ。

 信号機は、なんともまったりゆったりと、2分半毎に交互通行をさせていた。
現場はトンネル内なのか、その先なのか、見通せない。



 声なきゴーサインに促され、一人スタートを切る。

 短い4号だが、相変わらず一様に上り勾配が続いており、思うように速度が出るわけではない。
隧道を抜けると、複雑な工事用足場が近未来的な景観を見せる工事現場へ出た。
どうやら法面が崩壊し、これを復旧する工事をしているらしい。
次の5号トンネルまでの短い明かり区間が1車線通行となっていた。



 5号トンネルである「駒見トンネル」は、全長37.3mと全19本中で最も短い隧道だ。
しかし、急カーブの頂点に覆い被さるような隧道故、これほど短くとも出口は見えない。
また、車長の長い車を考慮してか、坑口は大変幅広になっている。
このような変形に適する為に採用された、蒲鉾形の変則断面なのかも知れない。
この先も似たような幅広の坑口が何度か出現する。



 あれ? 50m足らずの隧道のはずが、中に入るとぐいぐい左に曲がっていくばかりで、出口など無いじゃないか!

 騙されたような気持になるかも知れないが、実は写真にも写っている横穴で隧道が区切られており、あの先は6号トンネルとなっている。
ただし、6号には少なくとも進行方向上に銘板が無く、ドライバー10人中10人が5・6号は一つの隧道だと勘違いするに違いない。
5号と6号の間隙は断面も長方形で紛れないスノーシェッドなのだろうが、前後の隧道と同じように暗いので、区別は付きづらい。



 6号トンネルは「真平トンネル」ともいい、全長は118mである。
その出口もまたさらに次の7号と真新しいスノーシェッドで繋がっており、極端に存在感の薄い6号トンネルである。

 いよいよ、トンネルの連鎖が止まらなくなってきた。
それと同時に、私のボルテージも否応なく高まっていく。
この鼓動は、ひっきりなしに下半身を運動させているからばかりではないだろう。
イクサイトしてきた!



 なんとなく胸にちくりと刺さってくる隧道名。
子細は聞かないでくれ…。
…7号トンネルは「吹上トンネル」がサブネーム。
全長は63.6mと、これも短い。

 それにしても、どの隧道もよくもまあ、曲がっていること。
大概の道というのはトンネルや橋は出来るだけ真っ直ぐで、それらを繋ぐ地上部分がカーブして融通を利かせるというイメージだが、このシルバーラインは道のラインが初めにあって、これが地形と緩衝したらそこにそのままトンネルを被せているようなイメージだ。
それくらい、カーブと勾配とトンネルは密に融合している。



 7号は特に勾配が厳しめで、全隧道内で唯一、コンクリート鋪装に円形の滑り止めが刻まれた特殊鋪装となっている。
また、カーブもキツイので、蛍光ガイドラインが側壁に取り付けられている。

 そんな隧道を越えてもなお、いよいよ勢いづいてきたらしいシルバーラインは容赦をしない。
8号がすぐそこで手ぐすねを引いて待っているではないか。
どんと来い!



 「小屋場トンネル」こと8号トンネルもまた全長73.3mと短い。


 そして、この坑口傍の内壁には、錆びかけた「2.0KM」ポストが取り付けられていた。
ここに来て、ようやく全線の11分の1である。
しかし、19本の隧道のうち、既に7本までが背後に消えていった。
このペースは、いったい何を意味しているのか…。
と言いますか、正味の話し、後にはどんなに長い隧道が待ち受けているというのか!



 8号トンネルの出口側もまた、真新しいスノーシェッドに守られていた。
かなりの勾配を伴ったまま、美しいカーブがさらに次の隧道へと誘う。
おまえ(シルバーライン)、少しは後先を考えて隧道を配置してる?
私のそんな心配を他所に、本数の上では過半に達そうとしているぞ。
本当にこんな道があと20kmも続くのか?!
もう数本の隧道を抜けたら、呆気なく奥只見ダムが現れたりしないのか?
20kmという距離は、相当な物だぞ。




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 欠けた銘板が印象的な9号トンネル。
サブネームも耳に残る変な語感で、「トトが沢トンネル」という。
トドじゃないよね。トトって? 父親のことか?

 さて、この隧道においては、これまでの8本では発生しなかったイレギュラーが!
はじめて、銘板の破損のせいで延長が分からないのだ。
しかも、これまでのどの隧道以上に闇は深く見えたし、坑口前の路面を濡らす水の量もこれまでとは比較にならない。
も、もしかして、
長いの来ちゃった?!


 坑口から天井に沿って一直線に続くナトリウムオレンジの光芒。
その連なりは、これまでのどの隧道よりも長い延長を感じさせた。
そして、その光芒線の行く手には、白い日の光ではなく、また黒い側壁でもない、不思議な赤い光りが灯っていた。
その赤い寂しげな色は、まるで蛍のようにゆったりとした間隔で、明滅を繰り返していた。

 近付いてると、それは壁に規則的に配された赤色の電球だった。
そして、その全体では進路を左へ促す矢印の形を示す。
ドライバーは薄暗い隧道の中、これを見てハンドルを切るのだ。


 シルバーラインならではの光景に心拍数がぐんと上がったが、さらに特異な光景が近付いていた。

 内壁に唐突に現れた、扉。
上には、まるで病院の手術室入口にあるような蛍光灯入りの銘板が設置されていたが、電球が切れているのか、薄汚れているせいか灯りは無かった。
それでも、「松倉電気室」の文字を読み取ることが出来る。
扉自体にも、「立ち入り禁止」「高電圧6600ボルト」などの注意書きがあった。念のため扉に手をかけてみたが、鍵が掛かっていた。

 ここは、下から数えて2ヶ所目の電気室だ。



 カーブを曲がりきると、遠くに出口が見えていた。
覚悟したほど長い隧道ではなかったようだが、これまでのどの隧道以上に隧道らしい、一本だと思った。
この隧道には、やがて延々と味わう羽目になるシルバーライン隧道の2大要素、“路面ウェット”と“濃霧”があった。
まとわりつくような霧と、上と下からひっきりなしに跳ねる水、ナトリウムライトがそれらに乱反射した甘ったるい色…。
この道を訪れた誰もが記憶する、特異な隧道景観である。



 9号トンネルの延長は、反対側坑口の銘板によれば、395.7mである。
これまででの最長だ。
だが、行く手の距離と残りの隧道本数を考えれば、もはやこの程度の長さの隧道でどうこうなる訳はない筈だ。
そう遠くない未来、シルバーラインはその本性を現すのだろう。
束の間の平穏は、あと隧道にして何本分なのか…。
私は、いまだ本性を見せようとしないこの道に、畏れを感じた。
こいつらは、私を徐々に慣れさせようなどとしていない。
突然、奈落の闇へと突き落とすつもりなのだ……。



 今回紹介した区間の地図は左の通り。
等高線に沿うように蛇行しつつ高度を稼ぐ道を覆い隠そうとするかのように、隧道達が連なっている。
地図上にこんな風に描かれている道路を、私は他に知らない。

 もし、シルバーラインを花火大会に喩えるとしたら、最序盤にあたる今回の区間は、宴の始まりを派手に告げる連発花火“スターマイン”である。
そして、その後に期待されるもの…。
それは、目を瞠るような尺玉の応酬ではないだろうか。
シルバーラインもまた、誰もが目を剥く(クワッ)ような壮絶な景色を準備して、私を待ち受けていたのである!


 (オマケの動画:帰路8号隧道〜5号隧道まで…3.4MB)

シルバーライン 残り、 19.0km
うち隧道残り、17.0km