廃線レポート 早川(野呂川)森林軌道 奥地攻略作戦 第18回

公開日 2025.12.30
探索日 2017.04.14
所在地 山梨県早川町〜南アルプス市

  ※ このレポートは長期連載記事であり、完結までに他のレポートの更新を多く挟む予定ですので、あらかじめご了承ください。


 確定的“身の毛のよだつ処の沙汰ではない”区間へ…!


2017/4/14 10:58 

約5時間ぶりに、カレイ沢の“横断地点”へ戻ってきた。

この地点よりも起点側の探索を完遂したので、カレイ沢を横断し、終点側の探索へと進む。

なお、現時点での探索の進み具合は、今朝出発時点の想定というか、希望的観測といった方が相応しかったかもしれないが、そこから1時間ほど遅れていた。
が、探索の成果自体は、敷かれたままのレールや複数の隧道など、大変に好成績である。
懸念されるのは、疲労の蓄積が進んで爪先を中心に足の傷みが無視できないレベルになってきていることだが、
何にも増して、次の区間の難度が懸念される。

次の区間はいよいよ、観音経(かんのんきょう)だ。

もうこの地名からして、踏み外した先の不吉を予感せずにはいられないが、机上調査編にて紹介した『風景』(昭和18年11月号)の記述 “中でも奥地である表観音・裏観音・猿なかせ等は最難所として幾多の犠牲者をも出している。風光は実に壮快凄絶にして身の毛のよだつ処の沙汰ではない・・・・・・・・・・・・・・・ に登場した「観音」(表観音か裏観音かは知らないが…)と思われる区間である。今までだって十二分に身の毛がよだちまくったのに、まだこれ以上よだつというのか?!

さらに、再三再四述べているが、次の観音経区間は、こちら側から見て“最後の部分”(通常は南アルプス林道側から見て入口の部分)が、確定で通過不能である。
私自身はまだその実景を見ていないが、今探索の原点である平成10(1998)年発行『トワイライトゾーンマニュアル7』掲載のモノクロ写真や本文の内容から、通り抜けられないことを理解していた。私ならもしかして……なんてことを考える余地のない、絶対的通過不能であったので、次の区間はどこかで引き返すことが確実だ。行けるだけはもちろん行くが、無理をしても突破の可能性はないので、安全に引き返すことを念頭に行動していく。

一応私の中では、ここまでは行きたいなというイメージはあったが、実際に辿り着くか、辿り着かずに引き返す時までは黙っていよう。


(次到達目標)
観音経 南アルプス林道 まで (推定)1.4 km

(最終到達目標)
深沢尾根 軌道終点 まで (推定).5 km




5時間前にも見た景色だ。
その時は、軌道跡の存在について半信半疑であったから、存在している軌道跡が見えなかった。

……と言いたいところだが、軌道跡がこの場所へ来ていることを確信している状況になっても、やはりこのカレイ沢横断部分の軌道跡は、全く痕跡を見出すことが出来なかった。もともと谷の周囲が崩れやすい地質であったことや、複数の砂防ダムの建設など、要因は複合していると思う。

そんなわけで軌道跡は見えないが、それがあったであろう位置は、ここまで辿った路盤の延長線上ということで推理出来るので、その推定ラインをなぞるイメージで谷を渡り、初めてカレイ沢右岸へ入った。



カレイ沢の流れの傍らに、雪山用のアイゼンが片足分だけ落ちているのを見つけた。
隧道内のシュラフに続く、軌道跡で偶然遭遇した先行者の名残りである。
とはいえ、このような装備が必要になる季節に登山道のないカレイ沢へ迷い込むなどというのは、おそらく誰にとっても自殺行為であるから、この場所で脱ぎ捨てられたのではなく、上流から雪崩か何かで流れてきたものかも知れない。
それでも、装着者が無事だったのかは気になるところだが…。



11:08

案の定、右岸へ渡ってからも、軌道跡はなかなか姿を見せなかった。
カレイ沢の右岸は左岸以上に荒れ果てた広大なガレ斜面であり、軌道跡があった谷に近い高度には樹木もほとんど生えていない。
当然、路盤は斜面と完全に同化しており、それが存在していたことの唯一の証しは、所々に現われるレールの残骸であった。

チェンジ後の画像に写っているのがそうしたレールで、この写真の場面だと、レールの右端だけが、かつて路盤であった位置に維持されている。
こういったものから軌道跡の位置を察知しながら、しばらくは本当に全く平場のないガレ斜面の横断が続いた。



11:10

横断してきたガレ場を振り返って撮影。
危機を感じるほど急な斜面ではないが、この何も残って無さは、落胆を通り越して、むしろ潔いとさえ思えるものだ。
上部に南アルプス林道が並走している区間であることも、路盤荒廃の一因かと思う。

チェンジ後の画像は、同一地点から撮影した進行方向だ。
河床との高度が出て来たおかげか、上部に並走する南アルプス林道(直接は見えない)がトンネルで“いなくなった”おかげかは知らないが、ようやく路盤が復活しそうな雰囲気がして来た。
樹木の存在は、路盤復活のサインである。



11:15 《現在地》

しかしそれからもなかなか確信を持てるような路盤の痕跡が現われず、結局はカレイ沢横断から15分後、たっぷり150mも前進したところで、ようやくこの写真の場面に遭って、路盤との再会を確信できた。
レールこそ行方不明だが、この法面の削られ方は、間違いなく人工的。
軌道跡の続きとみて間違いない!

やっと道を歩けるぜ!



11:16

さらに1分後、バッチリ良い感じになってきた。
というか、ここは珍しく広い。
待避所か、積込場かは分らないが、複線区間だった感じがする。
全体に風景が破天荒すぎて、林業という実務に使用されていたという使用感の乏しい路線だが、こういう複線とかがあると少しだけ実感が湧く。

この調子で、進んでいってほしい。
どうせ最後は進めなくなると分っていても、少しでも進める区間が続いていてほしいよ。



複線らしき幅広路盤を通せんぼする巨大な倒木に、巨大なサルノコシカケが生えていた。
ひと撫でして潜る。

したらば……



11:17

あっという間の複線終わり。

代わりに本領発揮、本性発露とばかりに、極めて鋭く切り立つ岩場に行く手を阻まれた。

路盤はそこを横断している。

巨大な倒木が、路盤の一番狭いところに鎮座しているのが嫌らしい。



11:18

ヤラレタ!!!!

巨大な倒木に遮られていて、それを潜るまで全く見えなかったのだが――



路盤は完全に切断!

対岸路盤に繋がったまま、崖下まで落ちてしまったレールの先を目で追うと、あまりの高度感に足が竦んだ。

そもそも、今立っている場所が大きすぎる倒木に背中を押されるような感じの場所で、本当に押されやしないかと怯んでいる。

ここで過去に何が起きたのか、落ちたのか削れたのか分らないが、どちらにしても、

ここは正面突破が不可能だ!

右岸に渡ってわずか250m足らずだが、早くも進退を問われることになってしまった。



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