2010/4/21 14:47 《現在地》
いまから1時間前に、私はこの地点から生まれて初めての“ナマ”無想吊橋を見た。
そして当然のように心を支配され、林鉄の事を、しばし忘れてしまったのだった。
しかし、今度こそ“林鉄の時間”だ。
足元に広がるこの草木も育たぬ強烈な岩場の下に、それは横たわっているはずなのだ。
私が踏破すべき対象が…。
路肩から身を乗り出し、怖々と見下ろしてみた。
すると……。
無理だな、ここは。
こぶのように膨らんだ崖が邪魔をしていて、路盤は全く見えない。
ここは流石に、アプローチには不適である。
林道を戻りながら、下に降りられそうな場所を探していこう。
14:51 《現在地》
50mほど戻った所から、今度は起点方向の谷底を覗き込んでみる。
先ほどよりは「常識的な」斜面だが、やっぱり崖が目立つ。
さあ、ここに肝心の軌道跡は、
見えるのか? 見えないのか?
見えた!!
見えてしまった…。
あれは、往路に気付かなかった路盤だ。
5号隧道から終点に至る区間の中では、初めて見つけた路盤でもある。
嬉しいのは間違いないのだが…
がっ
がっ
高すぎるぅぅ…!
この場所も、ちょっと下降には不適か…。
もう一押し欲しい!
14:57 《現在地》
さらに100mほど戻る。
すると林道は、痩せていても一応は樹林帯と言えるようなエリアに入る。
そしてそこにあったのが、見覚えのある「8kmポスト」。
ここで改めて軌道跡のある谷底を見下ろすと…
これならば、イケル!
ここで決断。
正直、これだけの高低差はまだ精神的なハードルが高い。
しかし、どこかで踏ん切りを付けてチャレンジしないと、いつまでたっても“見てるだけ”で終わりかねない。
ここはチャレンジしドコである。
下降開始!
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路盤は見えているか! 残りは30mか!
下りは確かに肉体的には楽であるが、1秒ごとに生還への負い目は増えるばかり。
しかも、私の身体は既に疲労の塊で(この探索は4日連続の最終日だった)、
ここをまた登り返すなんて、考えたくない苦行だった。
下りながら、歯を食いしばっていた。
15:02 《現在地》
しかし、リスクを冒した甲斐があって、
私は無事に路盤へ着いた!
この4月21日の探索においては、約2時間10分ぶりの軌道跡への着地であった。 (2時間10分前はこのへん)
林道からは、高低差にして30m近く低い位置にあった軌道跡は、想像していたよりもしっかりとした道幅を有していて、藪も無く、廃道としては十分歩きやすい部類にあるように見えた。
さっそくここを基地にして、前後へ「踏破区間」を広げよう。
まずは、終点方向(奥)からだ。
むぎゃ〜!
まあ、ある程度予想していたことだけど…
下降地点の50m終点側から先は、完全に路盤が欠損!
これほどあからさまに「踏破不可能」で居てくれて、むしろ嬉しい。
葛藤無く引き返すことが出来るのだから。
ちなみにこの欠損部は尾根にあたっており、その裏側が、無想吊橋上から見た【ここ】だ。
ここでUターン。
15:04 《現在地》
下降地点から今度は起点方向へ歩き出す。
路盤は依然として鮮明さを失っていない。
一般的な軌道の倍近くも道幅が広いように感じられるが、このように崩土が絶えない地形のため、山側に幅の広い余地を設けていたのだと思う。
この山側は無普請であるが、路肩側には丸石練積の頑丈な擁壁が続いていた。
そしてその先は、ワクワクするような日陰の気配が……
ガッツリ切り通し!!
現在地は【ここっ!】
この裏側は、どうなっている?!
やべ。 シチュエーションがイイッ!
テンションが上がってきた。(既に高かったのにもっと!)
ここでちょっと注目したのは、路肩工だ。
この路肩工、軌道跡としては余り見ない場所打ちコンクリート製のものである。
丸石練積よりもさらに現代的な…というか、現代の施工法である。
逆河内支線は昭和35年から37年までに建設されており、この地点を含む終点から1156mについては、37年の施工である。
これぞまさに、全国森林鉄道中の最末期に建設された事実を感じさせる風景だった。
(ちなみに廃止されたのは昭和43年だから、逆河内支線は非常に短命な路線だった。)
下降前に「当面の踏査目標」としていた区間の終点である、5号隧道(仮称)西口の埋もれている谷が前方に近付くと、直前の調子の良さが幻だったかのように一気に路盤状況が悪化した。
この、あらゆる地上物が斜めになっている光景を目の当たりにした私は、たちまち心理的なグロッキーになり、法面を見上げては2〜30m上に控えているはずの林道を探していた。ほとんど無意識のうちに。
足腰に相当疲労が来ていたから、本能的に踏ん張りを要する斜めの斜面横断を避けたがったのである。
(体力的に元気な時ならば、水平移動で突破する方策をまず考えただろう。)
しかし、実際には選択の余地はもうほとんど無かった。
頭上の法面が余りに険しく、ここから直に林道へ戻ることは出来なかったのだ。
避けたかったトラバースを、やむなくはじめることになる。
いつ落石に頭を割られても文句が言えない、恐怖のガレ場斜面。
肩で息をしながら、普段よりも頻繁に足を止める。
そしてその都度、上に顔を向けて落石に警戒した。
そんな慎重にならざるを得ないトラバースを続けていくと、前方にひときわ険しい岩尾根が見えてきた。
巻くような迂回の路盤は見あたらない。
東口だけが確認されている5号隧道の西口は、あの突き当たりだったのだと分かった。
残念ながら、埋没は林道側から既に確認されていた物件だが、正面から見たのはもちろん初めてである。
それとひとつ救いがあったのは、だいぶ軌道跡と林道の高低差が詰まってきたことだった。
ここからなら、下降地点を登り返すよりは遙かに楽に、林道へ復帰出来そうだ。
15:18 《現在地》
5号隧道西口は、単純に林道の路肩から続くガレ場斜面に呑み込まれてしまったのか、
或いは、この瓦礫の山に坑門ごと押し潰されてしまったのか。
坑門のいかなる部分も確認する事は出来なかった。
そして、これで所定の「当面の踏査目標」を完遂したので、
そのまま2分かけて林道への復帰を行った。
林道から見下ろすと、まるでアリ地獄のようなガレ場斜面であった。
数分前に私が辿った軌跡も、たくさんの瓦礫と一緒に地獄へ消えて、もう見えなくなっていた。
命削る復路は次回、
往路最大の難関 “源平クズレ” に分け入って…
↓↓↓
禁断のアタックを敢行!(予定)