廃線レポート 早川(野呂川)森林軌道 奥地攻略作戦 第11回

公開日 2023.07.29
探索日 2017.04.13
所在地 山梨県早川町〜南アルプス市

  ※ このレポートは長期連載記事であり、完結までに他のレポートの更新を多く挟む予定ですので、あらかじめご了承ください。


 見上げた隧道



まずは、全天球画像で、現状を共有したい。グリグリして確認だ!



2017/4/13 14:54 

前回最後のシーン、「隧道ガガガガガ!!!」と私が絶叫したところで終わったが、改めて状況を整理しよう。

こういうことになっていた。→

目の前に現れたのは、遙か上方よりミヤタ沢の谷底にまで落ち込む巨大なガレ場。
そこで路盤は一端途切れてしまうが、同じ高さの対岸へ目を向けると、垂直に近い岩山の中腹をL字に削った道の続きが目についた。
進むべき進路が明らかとなり、これでひとまず一呼吸。

次に私が探したのは、先ほどから時折現れ、進むほど近づいてきている“上段の路盤の続き”だった。
一刻も早く「尾根F」へ辿り着きたい私が、いま最も待ち望んで止まないものがそれだった。私を「尾根F」へ導いてくれるはずの“上段の路盤”。

目をガレ場の上部へ向けていくと………… あった! 路盤……

じゃなくて、隧道があった!!!


なんと、この先のどこかで切り返して一段高い位置に戻ってきた路盤に、隧道があった!
隧道があること自体嬉しい発見だったが、このような絶壁と呼べるような地形に上下の路盤が並んでいて、それら同時に眺めることができ、しかも途中に隧道あるなどという格好良すぎる線形は想定外であり、本当に堪らなく興奮する発見だった!

地図上で表現すれば、右図の通りである。
ここまで辿ってきた路盤を太い実線で、先ほどから時折上に見えている“上段の路盤”の位置を、細い破線で描いている。

路盤はこの先で険しい岩場を通過し、おそらくミヤタ沢で切り返した後に、同じ岩場の上部を今度は隧道で潜って、ガレ場に帰還してくるのである。
わざわざ隧道が必要なほどの険しい地形に突入してから切り返す意図はよく分からないが、当然いろいろなことを検討して編み出されたルートなのだろう。

本当に目の覚める発見だ。
このところしばらく極端に難しい場所がなかったことや、蓄積した体力面と精神面の両方の疲労から、少しばかり中だるみを感じながら歩いていたところだったが、こんな激アツ線形とサプライズ隧道の出現には一発で覚醒した。
時間のぎりぎりまで諦めず正直に路盤を追跡してきて本当に良かった!
途中で面倒になって上段にショートカットしていたら、絶対に見逃した場所だった。



ガレ場を見上げると、15〜20mくらい上にぽっかりと口を開けた坑口が見えた。
奈良田以奥では通算5本目の隧道、本日としては3本目の発見となる。

ただ坑口が見えるだけで、前後の路盤は全く窺い知れないが、手前側はガレ場に埋れているのだろう。
隧道の奥がどうなっているかはまだ分からない。貫通していることを願うばかりだが、最悪もし閉塞していても、先へ進むだけなら無理矢理このガレ場をよじ登れば果たせそうだ。
それが分かるために、少しだけ(これまでに出会った隧道たちよりは)気持ちに余裕を持って風景を観察することが出来た。




ガレ場の横断をスタート。

少し気になるのが、いま向かっている“下段の路盤”と先ほど見つけた“上段の隧道”の間にも、人為的に岩場を削って作ったようにも見える段差があることだ。
“上段の隧道”より5mほど低い位置に、ラインが見えている(点線の位置)。

自然に目についたので意識を向けたが、地形的に辿り着くことができない位置なので、本当に人工的な地形であるかも含めて確認出来なかった。
まあ、前後にこの部分と結びつく構造物がないので、自然地形の可能性が高いのだろう。隧道が建設される前の旧線跡といわれればギリギリ信じたくなる立地ではあるが、使用期間わずか3年の軌道に旧線というのもな…。



写真中央に見える岩棚が路盤の続きだ。剥き出しの鋭さがある。
ここまでに突破してきた難所の数々と比べれば問題にならない難しさだが、険しさを感じさせる見栄えの面ではトップクラスだと思う。

特に隧道がある岩山は、巨大な釣鐘状をした一枚岩の表面各部に面白く捻れた巨木が根張りをしているという、とても絵になる景色だった。
交通の便があればいっぱしの景勝地だったかも知れないが、この軌道の利用者以外ではまるで知る人の無さそうな立地にある。

チェンジ後の画像は、ガレ場から足元の谷底を見下ろして撮影した。
30mほど下にミヤタ沢の広く明るい谷底が早瀬のノイズを響かせていた。
写真の右上部には直前に辿ってきた路盤も見えている。




15:00

ガレ場を横断し、上に隧道が掘られている巨大な岩山の中腹へ取り付いたこのタイミングで、ついに時刻は15:00に。
これまで何度も表明しているとおり、今日は15:00時点の到達位置を目安に、このまま夜叉神隧道を目指して山中泊を行うか、今朝のスタート地点である奈良田発電所に戻って車中泊を行うかを選択するつもりでいた。

が、が、が!

ここでの判断は、もう少し保留して先へ進みたい。
ミヤタ沢へ直接降りられるこの場所は、帰還するには実に都合の良い場所ではあったのだが、明日の探索を考えた場合、今日のうちに少しでも探索済区間を増やしておきたい気持ちがあるし、残り時間的にかなり厳しくなっていることは自覚しつつも、まだ“今日の最高形”である夜叉神隧道到達を諦めたくない気持ちも強かった。

とりあえず、もう少しで待ちに待った切り返しは現れるだろうから、切り返した先の道の様子を確かめてから改めて判断したいと思う。前進継続!
臨機応変というか、なぁなぁというか…。



15:01

岩山を回り込んで上流側に出ると、そこにはまた大きなガレ場の斜面が広がっていた。
相変わらず右側はミヤタ沢に直接落ちているが、沢も物凄いペースで高度を詰めてきている。早晩追いつかれるに違いない。

問題は、路盤の行先だ。
前方の広い範囲に広がる安息角傾斜のガレ場には、今いる段だけでなく、切り返した先の上段の路盤も埋れているはずだ。ガレ場の幅如何では、肝心の切り返し部分も含めて埋没している恐れがあった。

軌道跡を忠実に辿ろうとすると、この明らかに発見の無さそうなガレ場斜面を続けて2回横断しなければならないことになる。
時間と体力の両面から余力がほとんどないものと自覚している現状で、この見るからにツマラナソウなガレ場を行き来するのは、辛いものがあった。

チェンジ後の画像は、同一地点より上方を撮影した。

残念だが、こちら側の坑口は埋れてしまっている可能性が高いだろうな。
このガレ斜面に埋め立てられていそうだ。
全然、坑口も路盤も見えなかった。

……ますます、先を見にいく気持ちが萎えたが…。



15:03

とはいえ、ここまで追いかけてきた切り返しを見ずに直前で引き返すのも癪に障ったので、
つまらないガレ場の横断を受け入れた。そして2分ほど進むと、ガレ場の端が見えてきた。

よし、よし! あるな!
上下2段の路盤の痕跡が、辛うじて見て取れる。
しかも両者の比高は10m以下に縮まっている。切り返しは間近である!
ただ、その肝心の切り返しがありそうな位置には、これまで以上に広いミヤタ沢の谷底が見える。

どうなっているんだ、切り返しは?



ガレ場の終わり付近で見上げた“上段の路盤”。
岩場を横断するラインが見える。いよいよ手の届く位置に来た。あと少しで切り返しだ!!


(→)

15:04 《現在地》

ガレ場を抜けてようやく“下段の路盤”も復活し、上下段が間近に並ぶ状況になった。
その比高は7〜8mといったところ。

あとは【前回の切り返し】のような大カーブ一つで繋げられそうな位置関係となった



ミヤタ〜〜!

お前なんてコトしやがる!

楽しみにしていた、というか執念じみた気迫を持って追いかけてきた2度目の切り返しは、

ミヤタ沢が作り出した馬鹿広いゴーロによって、おそらくあったであろう橋も築堤もカーブも、

何もかもが失われていた。



少し引いた位置から、2度目の切り返しがあったであろう一帯の全体風景を撮影した。

非常に大雑把だが、“点線の位置”辺りに切り返しがあったのではないだろうか。
特に地形としての痕跡がないのは、洪水や土石流で消え去ったか、もともと長い曲線橋で
接地せずに通過していたものか。残念ながら、本当に何も残っていない。
申し訳ないが、沢に入っても成果は薄そうなので、一足先にここでターンしよう。

ともかく、

14:13に通過した最初の切り返しから実に900mを逆走して辿り着いた、ようやくの軌道反転。
13:37に初めてミヤタ沢を横断した位置からは、沢沿いに300m、標高にして70m高い位置での同沢再会だった。
これだけ大きく迂回したお陰で、たった2回の切り返しでも、当初予測していた高度にかなり近づいてきた。

ミヤタ沢を切り返し、今度こそ「尾根F」を目指す!



15:06

直前に一度横断したガレ場を、逆方向にもう一度横断する。
上下段とも路盤は完全に失われ斜面と一体化していた。
正面に見える岩場には、既に反対側の坑口を【見つけている隧道】の東口があるはずだが、ガレ場に埋没している疑いが高い

と思っていたが、なんか岩に陰が見えねーか?! おい!




15:07 《現在地》

キター!

下段からは見えなかったが、上手い具合にガレ場から外れた岩陰に坑口が残ってくれていた!
本日3本目の隧道、西口に続いて東口も発見することができた!

そして内部は……(チェンジ後の画像)……キター!!
見事に貫通している!!
念願の切り返しから、まずは最先ヨシのスタートになったぞ! いやぁ、嬉しいなぁ。



サイズ感はこれまでと同様の小断面隧道。
ただ、天井が大きく崩れている場所があるせいで、この写真だと広めに感じるかも知れない。
全長も目測30mほどと短い。

完全に圧壊し埋没してしまったと見られるひとつ前の隧道以外の内部を見ることが出来た4本の隧道はいずれも、素掘りで、狭くて、短くて、乾ききっていて、崩れていて、そして、なんだかんだとしぶとく貫通している!!




こっ、これは!!

枕木だ!

ほとんど瓦礫と落葉で埋め尽くされている洞床だが、たった1本だけ、枕木とみられるものを見つけた。
見慣れた犬釘が突き刺さっているので、間違いないだろう。

レールは、見当らない。
このシチュエーションなら、意図的に撤去されたのでない限り、そのまま残っていたはずだ。
たった3年しか活躍出来なかった軌道跡、せめてレールだけは回収されて、どこかへ運ばれていったのだろう…。
日本が最も鉄に飢えていた大戦中に必死にかき集められたレールだろうからな……、血のレールだ。無駄に出来まいな。




全天球カメラで洞内を撮影。

相変わらずの近い天井、狭い両壁が感じられると思う。

隧道全体の保存状態としては、これまでで最も良好だと思う。まだ全然使える!

マジで誰も使わない位置にあるけど(苦笑)。




15:08

あっという間に出口へ迫る。

外がどんな場所か一応先に見ているお陰で、まだ気分がラクだが、

絶望感の強い外の眺めだ。

隧道の内部が、いかに安定した恵まれた場所であるかということを改めて思い知る。

外へ出たら戦いだ。




今にも土埃が吹き上がってきそうな荒れ果てた地上へ脱出。そこは一面のガレ場だ。

生きているのか死んでいるのかも分からない巨木たちが、その断末魔の姿を晒していた。

安穏とした隧道に別れを告げて、ガレ場を慎重に突破した。




15:11

横断成功!

最後にもう一度坑口を振り返って撮影した。

広い場所に切り返しのカーブを置きたくて、わざわざこんな険しい所を隧道で抜けてまで、ミヤタ沢に行ったのだろうか。
なにか小刻みな九十九折りを避けて、出来るだけ少ない回数の切り返しで済ませたい理由があったのか。
確かに、急カーブの数は少ないに越したことはないと思うが……、なんというか、険しい地形を全く恐れていない。
感覚が、麻痺してるようだ。私だけじゃなく、設計者も。



さて、こちらが進行方向だ。

隧道とガレ場のコンボは切り抜けたが、依然として険しい地形に身を置いている。
この先ずっと、滑落した先には“下段の路盤”がある状況にはなっているが、きっと落ちたら無事で済まないのである。
半死半生で下段の路盤に受け止められたところで、余り嬉しくもないだろう。

慎重に、進もう。 時間のことも、気になるが……。




“下段の路盤”を見下ろしながら、崩れて途切れ途切れとなった道をゆく。

あ、レールがある!

最初の切り返し直前の14:09以来、約1時間ぶりのレール発見である。
でもこれは敷かれている位置ではないな。
上段の路盤から滑り落ちて、岩場に引っ掛かった感じか。
とはいえ、確かにここが軌道だったことを物語るアイテムだ。嬉しい。




15:13 《現在地》

またレールがあるじゃないか!
急に出始めたな。しかも、初めて1本まるごとが見えている。
この感じいかにも、路盤から外されて持ち出されるはずが、そのまま置き去りになったような雰囲気だ。手に取ってサイズを確かめたが、お馴染みの6kgレールだった。程度がすごく良く全然まだ使えそう。

レールの発見もさることながら、2回目の切り返しを取り巻く難所地帯を抜け出したことにホッとした。
ここは下段でも通過した小さな尾根の上だ。この先に岩場はあまりないと思う。
あとはこのまま「尾根F」を目指すだけ!



いよいよ本日の探索も佳境へと入っていきますが、ここで皆さまに、この先に実際に待ち受けていた展開を次の3つから予想してもらいましょう! 正解は、必ずこのなかにある!

  1. 架かったままの木橋の出現
  2. 敷かれたままのレールの出現
  3. 前進不可能な大崩壊の出現

 奇跡と、最後の尾根 


2017/4/13 15:16 《現在地》

少し前の14:50に“下段”を通過した小さな谷を、“上段”の位置で見ている。
直前に連続してレールを見たせいで、もしかしたらとあらぬ期待を抱いてしまったが、残念ながら、再び姿を消してしまった。

背後に広がる青い谷の底に早川の本流がある。
また、左下にはミヤタ沢の対岸、ちょうど2時間前に通過した「尾根E」が見えた。
あの場所からは間近に見えた「尾根F」だが、未だに足元の軌道跡はそこへ辿り着けていない。まさかミヤタ沢の中にこれほど長い軌道が折りたたまれていようとは、想定外だった。




15:18

続いて14:47に“下段”を通過した谷の上部へ差し掛かった。
この軌道がこの谷を横断するのは13:44と14:47に続いて3度目である。
この高さまで来ると水は見えず、お椀のように窪んだ谷の表面を覆っている大量の落葉の下を潤しているだけだ。まさに源流の様相だ。

チェンジ後の画像は、実際に谷を跨ぐ部分の様子。
例によって軌道跡は直前で途切れ、谷を越えた先でまた忽然と現れるのだが……

……妙な気配を漂わせた倒木(?)が見える?




15:18〜15:24 《現在地》

架かったままの木橋の出現だ!

異論は認めない!

この木橋は、架かっている!!

はじめの1径間のさらに主桁1本だけではあるが、

橋脚に支えられて架空しているので、架かっている!



凄すぎる!

強運どころの騒ぎじゃない、この橋は豪運の宿り手である。

さすがの私も、まさかこの林鉄に架かったままの木橋があるとは、100%思っていなかった。
廃止は昭和20(1945)年だから、この探索時点(2017年)で、廃止から72年が経過していた。
これはもはや、木橋を構成する全ての木材が土に還っていても不思議のない時の長さだ。

にもかかわらず、ここにほんの1径間の1主桁だけとはいえ、自立した橋脚によって支えられて、
谷の空を3mほど跨いでいたのである。そもそも、橋脚がこれほど原型を止めていることが奇跡だ。



奇跡なのだ。本当に。

なにせ、この木橋を構成していた2径間目以降は、欠片の1つも残っていない。
落ちているどころでなく、完全に全て失われている。そんな中で1径間目だけが
“架かったまま”残されていることのレアさは、いったいどれほどのものか想像を絶する。

橋が残されるための良い条件は、現地の景色からもいくつか挙げられる。
日常的に水の流れの影響を受けていないこと。風が強く吹かない谷の中であること。
陽当たりがよく木材の腐食が進まなかったこと。そして、この地は高標高の割りに積雪が少ないこと。

とはいえ、ほぼ同じ条件に恵まれた架橋現場は、これまで数えきれくらいあった。
その中で、ここにこれが残っているのは、奇跡中の奇跡。
存分に手で触れて、出来れば私の“残機”を増やしてほしいという願いをかけてから離れた。



15:25

“奇跡の木橋”

二度と目にすることのないだろうその姿を、最後にもう一度振り返る。

嬉しい発見だったが、気付けば、貴重な時間を5分以上も費やしてしまった。
正直なところ、しばらくまとまった休みを取らずに歩き続けていたせいで、
油が切れたように下半身が重怠くなっていたから、歓びによって一時的に気が緩み、
自然と動きを止めた身体へ再び喝を入れて動き出すのに、大きな時間を要してしまった。



前回最後に戯れで出題した“展開予測3択クイズ”。
正解は、“1番”の 「架かったままの木橋の出現」 でした。



15:28

“奇跡の木橋”を後に、西日の中で微睡みを誘う静けさに満ちた山腹を黙々と進んでいく。
道はどこまで行っても緩やかで、上り坂を勾配を肌に感じるような場面は全くない。明確な数字は明らかでないが、ここで試算した内容を踏まえても、平均勾配は4%程度に抑えられているのではないだろうか。

勾配が緩やかであることは林鉄としての理想ではあるが、この早川林鉄の他にも山梨県内各地に存在していた県営林鉄の中には、全国の森林鉄道と比較しても驚くほど勾配がキツい、それこそ10%(100‰)の勾配が延々と続くような路線があった(杣口林鉄など)のに、なぜ早川林鉄がこれほど緩勾配に固執したかは謎である。

緩勾配であるということは、手押しよりも遙かに大きな輸送力を持つ機関車の入線を期待していたのかも知れないが、それにしては余りにも路盤は脆弱で隧道も小断面だった。
これは、将来的に路盤を改良することは出来ても、勾配を緩和することは別路線を作る以外ほぼ不可能なので、勾配だけは最初から高規格で作った可能性が考えられる。
この路線によって開発されるはずだった流域の木材蓄積量は特に膨大であり、建設当初は開通からわずか3年で使用中止になるなど考えていなかったに違いない。



15:32 《現在地》

再び大きく窪んだ谷を横断する。
そして奈良田橋からの距離は、ここでついに10kmの大台に!
当初の予測ルートだと、「尾根F」を9km地点で越えると見込んでいたので、見込みより1km以上も長く歩かされたことになる。

ともかく、この谷も14:0914:31と2度横断済で、これが3度目の横断である。
かれこれ1時間半も同じ谷の上と下を行ったり来たりしているわけで、途中でいろいろ発見はあって楽しめてはいるものの、正直うんざりする遅速ぶりだ。
それでもこの谷を越えれば、次に来る尾根は、待ちに待った「尾根F」である。やっと!




15:34

これまで2度横断している谷を見下ろしても、さすがにそれらしいラインは見えなかった。
ただ、目立つ地形がないから見えていないだけで、もし下段で煙でも焚けば一目瞭然に見えたことだろう。

最初にこの谷を渡ったところから、3度目に渡るここまでの高さの差は、おそらく60mくらいに過ぎない。
たったこの程度の高さを稼ぐために、1.5kmは歩かされている。これに1時間半近くを要した。
もしも道を無視して斜面を直登していたならば、15分くらいで済んだと思う。まあその場合は、隧道1本と木橋1本を見逃したわけだが…。



15:38

うおーーー!

うおーーー………………

見えてきたぞ、

尾根、えふが。 やっと。




レールをまた見つけた。やはり細身の6kgレールだ。

今度のレールも、路盤より少し低い斜面に1本だけ置かれており、撤去時に転がっていったのかな……。
拾って回収するのは簡単そうな位置だったが、放置されている。
作業者も疲れちゃったのかな……。

ところで、今回のレール発見だが、これまでのレールとは少しだけ違う部分がある。
それは、レールの端部に締結具が残されていたことだ。板状のパーツをペーシ、レールとペーシを固定するボルトナットをモールという。ペーシとモールのセットは、あるレールを次のレールと継ぐために必須のパーツであり、これがレールに残されていることは、(廃レール材のような転用ではなく)敷かれた状態で使われていたことを物語る。

まあ、このレールも撤去済のレールではあるようだが、ペーシとモールがあることで、敷かれていた状態により近い発見といえるだろう。




15:40 《現在地》

「尾根F」到達 と見なす・・・・

GPSで確かめた「現在地」の位置や高度は、依然として当初の予測ルートに対して50mほど低いものの、

この程度であれば、想定の範囲内の誤差と見なせるかと思う。

ここからさらに切り返して高度を稼ぐ様子も見当らないし、これでミヤタ沢と決別して、

早川本流沿いを北上する既定路線へと回帰したものと、そう判断したい!



「尾根F」の長閑な全天球風景。海抜1250mの明るい尾根だ。
軌道跡が横切っている以外の道形やピンクテープは見当らない。静かである。

当初は、奈良田橋より9km地点にあるものと予測していたこの「尾根F」だったが、
探索によって得られた実測により近い数字として、10.2km地点付近にあるものと訂正する。
この誤差により、私は予測より1.2kmほど多く歩かされることになり、1時間半近い所要増となった。
この“1.2kmと1時間半”は、探索の成果という意味では紛れもない“大成果”として喜ぶべきものだが、
15:40時点でこの場所に留まっているという事態を引き起こしたことは、問題だった。

当初は、15:00の時点でどこまで辿り着いているかを判断材料として、前進か撤退を選択するつもりだったが、
この迂回の最中は判断を引き延ばしてきたので、15:40の今、この場所で、進退を判断することとしたい!

この先の予測ルートが正しい場合、本日の最終目的地である夜叉神隧道西口までは、
残り1.7km程度と推測される。そして、本日の日没時刻は18:20頃と予報されているので
――
前進すれば、明るいうちに夜叉神隧道西口に到達出来るものと判断する!

異論を述べる仲間も、時間もないので、これで決定だ。




15:42

ただ今より、本日最終ステージへ、
突入!!


(本日最終目的地)
夜叉神隧道西口直下まで(推定).7 km

(明日最終目的地)
軌道終点深沢の尾根まで(推定).1 km