神岡軌道 猪谷〜神岡間 第16回

公開日 2010.11.14
探索日 2008. 7. 4

軌道跡探索番外@ 二ツ屋の旧国道跡


2008/7/4 10:20

特盛りの緑を掻き分け、さらに闇の中を二度泳ぎ、立ち入れない隧道を二つも見つつ、約30分の激闘が幕を閉じた。

すなわち、今回の神岡軌道探索の中でも重大なターゲットとしていた3箇所のうちのひとつ(2箇所目)、「二ツ屋〜吉ヶ原」を辿り終えたのである。

現国道41号の二ツ屋橋と割石橋の間の旧国道は、これらの橋を通らずに、高原川の左岸を素直に通過していた。
神岡軌道も同様で、旧国道のすぐ上に「第13号隧道」〜「第16号隧道」(いずれも仮称)を掘って抜けていた。
前回の激闘の成果である。

今回の我々は、廃線跡の踏破から少しだけ離るが、旧国道を使って二ツ屋橋に戻る。
2人の自転車をそこに置き去りにしているので、戻るしかない。
もちろん、現道を使って戻れば楽なのだが、敢えて廃道をゆく。




が、その前に補給を…。

この日の気温は、朝の時点で早々に真夏日を確定させていた…。

まだリュックの中には温まり切ったドリンクはあるが、
こんなところに自動販売機を見つけたとなれば、
飛びつくに決まっている!


だがこの決断が、
永冨氏に重大な災厄をもたらした。




永冨氏がコーラを買おうと百円玉をコイン投入口に近付けると、

なぜかそれは氏の指先から零れ、地面に落ちた。

チャリンと言う音に、意味もなくにやりとする私。

だが次の瞬間、

あまりに神がかった展開に、私は戦慄を覚えた。

なぜかように非情な現実が、彼の身の上にばかり起きるのだ!




コイン投入口の近くで零れた百円玉は、直下に落ちて消えた。

消えた先には、500円玉と同じくらいのサイズの穴がひとつ。

まさかと思い、光で照らした穴の奥には百円玉が。

穴は自動販売機の基礎となるコンクリートの土台に空いているもので、
自動販売機自体を動かさぬ限り、回収することは不可能である。

氏が次の百円玉を取り出したことは言うまでもないが、その表情(かお)は…。



真夏の日射しには似合わぬほど、哀れだった。





さて、傷心の現場を後にして、自転車目指して帰路をとる。
帰路とは言いつつ、先ほど通った軌道跡は思いのほかトンネルを多用してこの区間を抜けていたため、すぐ下にある旧国道の現状はほとんど分からないままだった。

距離は短く(約800m)、通れないことは無いと思うが、序盤は特に激藪の処理に苦労しそうだ。
そして中盤から終盤にかけては、川べりの絶壁を如何に突破するかが課題になるだろう。

写真は進行方向を見ており、奥の山肌に沿ってほぼ目線の高さを通っていくことになる。
藪と森が深すぎて、道は全く見えないが…。





マジでこれ行くのか…。

藪が深いなんてもんじゃないぞ。


おぞましい……。




クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、
クズの嵐!


クズの本当に凄まじい繁殖力。

ちなみにこれは振り返って撮影した写真で、中央の溝みたいになっているラインは、私が通ってきた跡である。
そこにはまだ永冨氏が“埋まってる”が、全然見えていない。
直射日光の下のうだるような熱さも相まって、進行のペースは極度に低下。
いつ終わるのか予想も付かない消耗戦となったクズの嵐だったが、幸い力尽きる前に終焉はやってきてくれた。




クズの嵐は木々の登場と共に終わり、川と山が近付いてくる中で、自分たちが旧道の路盤上にいることをやっと確認できた。

と同時に現れた、一軒の廃小屋。

正体は不明。

旧道はこの廃小屋の脇を掠め、急速に勾配を強める右山左谷の地形に組み込まれていった。
依然として路上は緑一色であるが、日影の存在が我々を少しだけ慰めた。





旧国道から見上げる、神岡軌道の線路跡。
おそらく14号隧道と15号隧道の間の路盤が、2段になった石垣の上に緑色の平場として見えていた。
両者の距離はほとんど高低差で、7mくらいある。

石垣は自然石の空積み(目地をモルタルなどで充填していない積んだままの石垣)で、旅客を扱う鉄道と天下の国道、この両者の安全を担保する構造物としては如何にも頼りなさげだが、日本の風土が長い年月で植え付けたすばらしい美しさを伴っていた。
ようやくこの旧道を辿る苦労が、少し報われた気がした。

ちなみに“2段”になっているというのは、上の段を鉄道が、下の段を道路がそれぞれ受け持っていたと言うことなのだろうか。
考えすぎかも知れないが、この程度の高さの石垣で敢えて2段になっている理由が思いつかない。




10:36 《現在地》

きた来た!

割石橋と二ツ屋橋のほぼ中間地点で、頭上にトンネルの坑門が出現。
坑口前に木製の電柱が立っている姿は、約30分前に通り抜けた「14号隧道」南口である。
こうして見上げてみても、如何に急な斜面にトンネルが掘られているかがよく分かる。

そして前述したとおり、この第14号トンネルは神岡軌道の隧道では有数の300m近い長さがあり、難所の核部を一挙にくぐり抜けている。
対する旧国道は同じ難所を、やや低い位置で“明かりのまま”、通り抜けねばならない。

その荒廃の度合いは、対岸からすでに目視で確認されていたが、実際に通り抜けられるのかどうかをこれから確かめることになる。
最悪どうしても無理ならばここまで引き返してきて、トンネルを利用することになるだろう。




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先ほどまで鉄道が通っていた高さを見上げてみても、もうその姿は無い。

今は屏風を立てたような岩肌に置き換わっている。

あの中に、闇とカマドウマとコウモリと、心地よい冷気に覆われた空間が眠っている。
今の我々には、普通ならば不気味であろう廃隧道でさえ、居心地の良い場所のように感じられた。
まして通り抜けが出来るなどとは、幸せであろう。

対してこちらは、これから戦いにいくのである。

「自らすすんで」戦いに行くわけだが、そんなことも棚に上げ、孤立感から来る先行きへの不安を強く感じていた。



なにやら行く手が明るくなってきた。

廃道での“明るい場面”は、大抵良くないことが起きる。
ことさら藪が深かったり、鋭い崖が切れ落ちていたり、道そのものが無かったり…。
稀にそうでないこともあるが、大抵の明るい場面は、危険信号だ。

今回もきっと…。






やっぱりだよ!

ほれみたことか!

今いるのは、【このあたり】だろうか。

対岸から見ても明らかだったように、道がまるっきり斜面に変わっていた。
幸いにして何とか辿りうる勾配だが、危険な状態。

さらに進むと、ついに緑も途切れ…。




最大の難所に…!

眼下には、日本の川ではないような黄土色の流れ。(上流で何が起きているんだ?)

それは近くに見えて、実は結構遠い=高い。
20mくらいはある。
しかもこれが嫌なんだが、ガードレールもない路肩から下は本来の擁壁が生きてるので、ほとんど直角に切れ落ちている。
ズルズル滑っていってあそこを越えれば真っ逆さまだ。
とても怖い。
左の写真で言えば、永冨氏がいる場所はかな〜りギリギリである。




しかし、こんな場所だけに許された“特権”もある。

特権発動!




明るい難所=景色が良い!!


ここもバッチリその法則に適っている。

雄大な高原川の蛇行の先に、近代土木の力を見せつける二ツ屋橋が架空。
その背景は、別の意味で土木の力(執念)を見せつける“高崖の道”である。

あの二ツ屋橋まで行けば、今回の試練は終了だ。
あと300mくらいある。




同じ地点で一歩も動かずに、今度は反対方向を撮影。

こちらもまた絶景かな。

こちらには割石橋が架かっている。

青と赤、トラスとアーチの兄弟橋。





瓦礫の危険な斜面か、或いは不快な激藪か。
この旧道には、それ以外に選べる場面はないらしい。

崖の中腹で緑を掻き分けている最中、今度は私に災厄が降りかかった。

おでこの生え際あたりを、アブらしきものに刺され(噛まれ)た。
イテッと思って咄嗟に手で払ったときに、アブのような影が逃げ去るのを見た。

そこは最初痛がゆかったのだが、まもなく顔面の皮膚が自分の身体ではないような、部分麻酔をかけられたような感覚になった。少し寒気も感じた。
一時はもっと重篤な変調が現れるのではないかと心配になり、万が一動けなくなる前に廃道を脱したいという焦りを感じたのだが、幸いこれ以上は悪化せず、数時間後にはかゆみも治まった。




虫さされの件で内心焦りながらも、落ちたら助かるまいと慎重に歩を進めねばならなかった、難所の後半戦。

獣さえもこんなところを通ろうとは思わないらしく、ケモノミチも見あたらない。

或いは彼らが踏み跡を残す以上のペースで、新たな崩壊が起きているのか。
どちらにせよ、不安定なガレ場斜面は、トンネル内にある廃線の何倍も危険な行路であった。


そして右のガレ場を通過中、自然に見上げるとそこに…。




10:47 《現在地》

第14号隧道の南口が出現!

「おかえりなさい。」

これでようやく難所の突破が確定的になった。




鉄道が上に復活すると、途端に旧道の路上は落ち着きを取り戻した。

前半のクズに代わって今度はススキの藪が深いが、難所突破の安堵感からか印象は薄い。
或いはこのあたりではずっと額を押さえて歩いていたので、視覚からの印象が薄かったのかも。



そして次に現れたのは、石垣上の見覚えある坑門。

井桁に積まれた木材は、第13号隧道南口に違いない。

ここまで来れば、ゴールはもう目と鼻の先。
短い隧道を迂回するだけの距離で、ゴールだ。

ちなみにこの区間内で、旧道跡と廃線跡を容易に行き来できるような通路はなかった。




10:52 《現在地》

無事帰ってきた。主を待つ2台の元へ。

行きに約30分、戻りも約30分を要する、距離は短くともたいへん厳しい行程だった。

だが、間髪を入れず次回からは、さらに警戒すべき “最後の難関” である。


長かった今回の探索(2日目です)も、ようやくクライマックスへ…。




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