廃線レポート 早川(野呂川)森林軌道 奥地攻略作戦 第22回

公開日 2026.01.15
探索日 2017.04.14
所在地 山梨県早川町〜南アルプス市

 “最終章”をはじめよう


2017/4/14 14:41

現時刻を以て、観音経より起点側の探索を終えた。
本日の日没予想時刻は18:22頃なので、あと3時間40分ある。

昭和18年から20年まで早川林鉄の終点が置かれていた深沢尾根は、ここから南アルプス林道を約5km進んだ先にある……とされる。
自転車のない徒歩探索の5kmは、どう考えても短い距離ではないが、基本的にこの区間の軌道跡は鋪装された林道になっている部分が大半とのことで、いままでの区間のように、時間切れで進退に窮する危機はないはずだ。

とはいえ、深沢尾根に寝床が用意されているわけではないから、今日これから歩くべきは5kmではなく往復で10km……だけではなく、ここから夜叉神峠東口の駐車場(車をそこに停めてある)までの2.5kmも加えた12.5kmを歩かねばならない。(もちろん、深沢尾根に行くまでの途中で引き返せば、もっと短くて済むが)

12.5kmを3時間40分で歩くのは、今の私の足の状態や探索すべき遺構のことを考えたら明らかに無理だと思うが、もう帰り道については暗くなっても良いことにしよう。最悪、深沢尾根で日が落ちるのを許容しようと思う。
時間についてはそれで良いとして、いまの足であと12.5kmも歩いたら、これはもう究極的に足がふにゃふにゃになっちまうだろうが、足ふにゃふにゃで直ちに死ぬことはなかろう。

……以上のような諸々の考えから、私はここまで困難すぎる探索を成し遂げてきた良き日、良き流れに乗じて、残り時間と残り体力への不安を抱えつつも、そのまま“最終区間5km”の探索へと突入することにしたのであった。
読者諸兄におかれましても、もう少しだけ、お付き合いいただきたい。



(最終到達目標)
深沢尾根 軌道終点 まで (推定).0km



再び『トワイラ〜』に掲載されている地図を引用させていただいて、なかなかに複雑な現在地、観音経周辺の状況を整理しよう。
まず、この周辺には全部で計4本の軌道由来である廃隧道が確認されている。
これらを区別するために、隧道A〜Dの仮称を与えることにする。

隧道A〜Cはアザミ沢の左岸にあり、現在地から近い側からAは探索済み、Bは目視できるが接近不可能、Cは私は目視もできていないが、平成17(2005)年に秦野氏が西口まで到達している。
これから行うのは右岸の探索で、こちらにはもう1本の隧道Dがある。
この隧道Dについては、『トワイラ〜』の本文に言及があるものの、紙幅の都合上か、写真や詳細な状況(貫通の有無)については記述されていなかったものである。



これはアザミ沢に架かる林道のアザミ沢橋の上で撮影した全天球写真である。
『トワイラ〜』によると、軌道は画像上に黄線で示したルートであったとのことで、確かに現地の地形を見てもその通りだと思うのだが、アザミ沢を渡る橋は跡形もない。
この場所では現在まで繰り返し林道や砂防の工事が行われているので、そのために地形が弄られているところもあって、痕跡を見出しがたい。

なお、写真を撮り忘れたが、橋のすぐ下にも相当深い直瀑があり、アザミ沢は上流へも下流へも行くことができない、散策という意味で全く望みのない地形である。



同じ橋の上から下流方向を撮影した。

激しい逆光のため、両岸の地形が黒つぶれして見えづらいが、そのシルエットだけでも険しさが分かる。というか、険しいこと以外は何も分からないというべきか。
左岸は観音経渓谷の核心部と言うべき大絶壁で、立ち入ろうとした際に漏れなく拒絶される険しさは前回紹介した通りであるし、これからまた対岸から観察する機会がある。
一方、これから向かう右岸については、少しマシだがやはり険しく、道なくしてはどうやっても進めない地形であり、隧道が必須なのも変わらない。



同地点から視線を右にずらすと、林道がトンネルで通過している岩場の崖壁をへつり越えようとする軌道跡を見ることができる。
黒い影になっているところには短い“隧道D”があるのだが、暗くて見えづらい。

このように、林道がトンネルで通過している部分の崖壁に軌道跡が残っているというのが、この先の遺構の基本パターンである。
終点まで繰り返しこういう場面が現われるらしいので、楽しみだ。



14:42

おお! 軌道跡の奥に“隧道D”が見通せる!

軌道の路盤は、林道の路面よりもほんの少しだけ高く、かつ林道トンネル(正式名は「2号隧道」だが、この先の林道のトンネルはどれも名称を知る手掛りが現地にはない)の坑門に邪魔をされて、微妙に林道とは地続きでなくなっている。



ん? んんん?!

微妙に怖いなここ(苦笑)。

いや、「苦笑」なんておちゃらけた感じで書いてるけど、バランスを崩したら普通に確死だよこの高さ……。

手前の低いところから奥の路盤へ登る際、狭い縁のどこかに体重を掛けねばならないのだが、いかにも脆そうであり、突然崩れたりしないかという怖さがあった。



ここは時間や体力を消耗する様な場面ではなく、単に、やるかやらないかだったが、やったので、軌道跡へ到達。 ……怖かった。

辿り着くと、いよいよ正面間近に隧道があり、洞内の様子もつぶさに分かった。

辛うじて貫通はしているが、出口側の崩壊が進んでおり、殆ど閉塞状態のようだった。

とはいえ、通り抜け自体は出来そうだと思ったのだが……



甘くねぇ(涙)!

いやぁ〜、こんな小さな亀裂同然の“断絶”で私を引き返させるの、カンベンしてくれませんかねぇ……。

軌道由来のものなのか、林道工事中とかに架け替えられたものなのか定かでないが、いちおう木橋の残骸らしきものが架かっているような、いないような……。
あるいは橋なんて頼らなくても、うまく助走を付けて跳べば辿り着けそうな距離だったが、崩土によって両岸とも複雑な起伏が付いているので、助走が難しい。仮にそうでなくても、踏みきりの瞬間に蔦に足が引っ掛かるんじゃないかとか考えちゃうと、もう無理でした。

素直に迂回しますね……。隣の林道トンネルを使えばいいだけだから…。



14:43

隣にある林道のトンネル(2号隧道)を潜る。
長さ50mほどの短いトンネルである。

出口に近づくと、入口では感じられなかった光の眩しさと、開放感が、待ち受けていた。
そして、出口のシルエットの真ん中には、良い形をした立派な石碑が固定されていた。
とても存在感のある碑である。



トンネルを出るとそこは広場になっており、野呂川の谷に開けた正面に白峰三山の白い頂を眺望する理想的な展望地となっていた。
この場所は、昭和32(1957)年7月8日に天皇皇后両陛下が訪れた記念地であり、石碑はその翌年に建立された「御野立記念碑」である。(『トワイラ〜』は「 林道開通記念碑」としているが誤り)



14:46

しかし私には、この映える景色を堪能するよりも先にやらなければならない宿題がある。
「隧道D」の背撃作戦である。
坑口を振り返ると、坑口右の斜面伝いに締まった崖錐斜面が細長く延びているのが見えた。
とても道の跡と断定できるような姿ではなかったが、立地的にそこしか考えられないので、直ちに道を外れて取付いた。

チェンジ後の画像が、かつては軌道跡であった、いまは斜面の様子だ。
本来の路盤の高さよりも2〜3m高い位置を歩いているはずだ。それだけ堆積が進んでいる。



14:47 《現在地》

地形に沿って行けるところまで行くと、最後は谷へ突き出す鋭い岩の壁に阻まれた。
あるはずの隧道が、相当近づいても現われず、【さっき見た光】はなんだったのかと疑心暗鬼に駆られかけたが、近づくだけでは駄目で、最後に体の向きを変えて探すと、ようやくわずかな開口部を発見した。
これが、“隧道D”の終点側坑口のギリギリの姿である。

いちおう、人間も細まれば入れる隙間があるが、その前にアザミ沢の対岸へ目を向けると……。



先ほど途中で引き返した“隧道A”と“隧道B”を繋ぐ片洞門回廊が、樹木の邪魔を受けながらも、結構綺麗に見渡せた。
“×印”の辺りで私は引き返している。
少し見下ろすような感じに見えるのは、彼我の間にある路盤の高低差よりも、足元の坑口を殆ど埋めてしまうほどの堆積が主な原因である。



14:48

開口部から這い入って、“隧道D”内部へ。

この写真、下半身から入っていって、上半身も洞内に収まったタイミングですぐ撮影したものだが、このように極めて短い隧道である。
全長は目測4m程度しかなく、これまで早川林鉄で出会った隧道の中でも最短に属すると思われる。照明不要な短さだった。
また、全体的に崩壊が進んでおり、そのせいで本来の洞床は全く確認できなかった。

先は分かるが、いちおう通り抜ける。



外へ出ても、そこには振り返って坑口を見るだけの余地もなかった。
直ちに、すり鉢状に落ち窪んだ崩壊地があり、その向こう側は数分前に私が引き返した末端だ。
こちら側から見ると、私がここをジャンプで越えようという気持ちにならなかったのが分かると思う。
右の暗いところは数十メートルの絶壁で、アザミ沢の滝壺に落ち込んでいる。

満足して、引き返す。



14:49

御野立所が見える位置まで戻ってきた。
軌道の現役時代には、林道も御野立所ももちろんなかったから、ここにも恐ろしく狭い崖の1本道が続いているばかりだったろうし、よもや十数年後に天皇陛下が訪れようなどとは誰も考えなかったに違いない。
ただ一つ、この場所から見える山々の大展望は、その頃から変わっていないはず。


次回は御野立所から至宝の山岳大展望…… よりも私たちが見たいものを、たっぷり見ます! 見せます!




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