2009/1/24 7:35
国道473号の佐久間発電所入口交差点。
JR飯田線佐久間駅に近いこの場所から「道路レポ」を始めよう。
これからまず向かうべき場所は佐久間ダムだ。
そこが今回の本題「県道288号」の終点なのだ(終点→起点方向の探索)。
現在地からダムまでの距離は約4.2km、高低差プラス120mほどであるが、敢えて省略はせずレポートしたい。
交差点を西に進むと、まだ新しい国道473号の標識と共に金網に囲まれた一角が現れる。
そこは飯田線旧線の佐久間隧道が眠る、「電源開発株式会社 佐久間発電所」の敷地だ。
金網から下を覗くと、思いを残す塞がれた坑門が間近に見えた。
そして現れる、2車線を収容するには以下にも窮屈そうな隧道。
直前に立つ標識は、S字カーブにトンネルの記号を組み合わせたような特注品だ。
「トンネル内狭く カーブ 注意」らしい。
全く殺風景な坑門には扁額など自己主張するものが何もなく、現地では名前を知る事が出来なかったが、『隧道データベース』によれば「佐久間隧道」というらしい。
昭和29年竣功、全長196m、幅4.6m、高さ5.2mというのがその緒元で、確かに年代を感じさせる狭隘な隧道だ。
そしてこの隧道の最大の特色は、表の標識にもあったとおり、内部に急カーブがある点だ。
それはS字カーブというよりも、“コ”の字型のカーブである。
まるで地上にあるものを避けようと無理矢理山に潜り込んだような線形なのだが、それもそのはずで、この隧道と地上との隙間を2本の太い発電用落水路が通されている。
つまり、この隧道は佐久間ダムがなければ生まれる事はなかったわけで、ダム工事が始まる以前には斜面沿いの地上に狭い道が通じていたそうだ。
隧道を抜けると間もなく、発電所と国道を結ぶ今は使われていない桟橋が合流してきた。
佐久間隧道は一般道路用に造られたものだが、その完成を待ってから発電所を造ったのでは工期に間に合わないので、多重投資になることを承知で造った発電所専用の工事用道路である。
アスファルトの色褪せぶりなどを見る限り、もう相当に長い間使われていない感じだ。
佐久間にある“ダムの置きみやげ”はそれだけではない。
少し遠くで天竜川を跨ぐ、赤い大きな2連のアーチ橋。
いまは県道291号「中部天竜停車場線」が「中部大橋」として使っているが、もともとはダム工事のために中部天竜駅から引き込まれた「資材運搬専用側線」の鉄道橋だった。
ダム工事終了後には車道転用出来るような荷重設計をあらかじめしていたそうだ。
地元ではそのシルエットから“B型橋梁”の愛称がある。
これまで幾つかの例を挙げたように、佐久間の街中というか生活に密着した部分には、50年前の佐久間ダム工事によって生まれたものが沢山ある。
右の画像にカーソルをあわせてみて欲しい。
現在の地図に重ねて、ダム工事に関わって造られた諸施設を表示する。
このうち2.4.5.6番の各施設は工事完了と同時に役目を終え、5の場所には「電源開発株式会社の周波数変換所」が建ち、6は県道として転用されている。
2や3に向かう工事用道路などは半ば廃道のようになっている部分があったりもする(探索済みなのでいずれ紹介出来ると思う)。
そして、ダムへと向かう現在の県道1号も、元は工事用道路として無から生み出された道である。
7:29 《現在地》
「ほき洞門」という変わった名前の洞門を抜けると「中部交差点」に着く。
(余談だが、大字名としての「中部」の読みは「なかべ」だが、駅名「中部天竜」の「中部」は「ちゅうぶ」と呼ぶ。元々の地名は「なかっぺ」という珍しいもので「中部」の字をあてていたのだが、駅名は昭和18年に現在の読み方に変更され、字名もいつの間にか「なかべ」と変わっている。やはり、「いなかっぺ」などと揶揄されたのだろうか…)
この交差点を左折すると中部大橋を渡って中部天竜駅に行き、直進は設楽・豊川方面に行き、右折は飯田まで80km近い長い道のりの始まりなのであるが、青看の行き先表示には「豊根」「佐久間ダム」と書かれている。
知っている人も多いと思うが、この県道1号もまた結構な「険道」として知られている道だ。
特に佐久間ダムから先の大嵐付近までは、2車線無い区間が大半だと聞く。
右折する。
とりあえず平凡な2車線の舗装路として現れた県道1号。
急な坂道を登っていくと、平沢の住宅地が道の両側に広がった。
ここはダム工事に際して多数の飯場が建てられた事で開拓を受けた土地で(述べ350万人がダム工事に携わった)、古くからある佐久間の街を見下ろす景色の良いところだ。
背景は、ダム水を堰き止める鋸歯のような山並みだ。
今日の空色は良い感じがする。
終日の好天が期待できそうだ。
平沢の集落内で道は二手に分かれるが、右へ行くのがダムへ向かう県道だ。
そして最後の民家を過ぎて間もなく…
なんか、ゴッツイのが出てきた!
ありがちな“難所前”の緊張感を漂わせている…。
まず目に付いたのは、上部に取り付けられたヘキサと下の標識に書かれた「愛知」の文字。
非常に私的な感傷なのは重々承知しているが、いやはや…遂に来たか…、愛知県にまで。
愛知については中学生レベルの知識しかない私だが、やはり愛知と言えば名古屋なわけで、名古屋と言えば日本第3の都市というわけで、東京を拠点に活動する者として語弊を恐れずに言えば、「敵陣の奥深くまで潜入」したような気持ちがするわけで…。(敵というのは、私の接近を容易に許さない遠くの道の事だよ)
それにしても、静岡って広い(特に東西に)と思う。
だって、都民としては足柄山越えるくらいワケないと思うけど、その反対の端っこは愛知県だもんね…。
相当下らない話だね、これ(笑)。
でも、なんか嬉しいな。
愛知県で最初に見たヘキサが「1番」だなんて、V.I.Pじゃね?!
まあ、実を言うとこのゴツイのはあくまで「予告標識」で、まだここは静岡県だったんだが。
それに…、
私はこの日結局、愛知県に足を踏み入れることなく旅を終えることになる。
1.7車線くらいの微妙な道幅になった県道1号。
気付けば意外に登ってきており、木々の切れ間から見下ろす佐久間の街は小さかった。
その中でひとり“B型橋梁”だけが、内陸の川橋らしからぬ大きさを見せつけていた。
! 出たな。
さっきの「佐久間隧道」と同じような無表情隧道。
工事用道路由来だと言われればなるほど納得の仏頂面だ。
地図を見るとダムまでには4本の隧道があるらしいが、これがその一本目。
一見無表情な隧道だけれど、ダム傍の隧道は油断ならない。
内部に特徴的な“ある構造”を隠し持っている事がままあるからだ。
逆にこの4本が全く平凡ならば、敢えてこんな場所で「回を分かち」はしない。
いずれにしても、次回はようやくダムに着く。
そして早くも、
廃県道288号 誕生の秘密 が明かされる?!
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