廃線レポート 小坪井林用軌道(田代線)ヅウタ隧道 中編

公開日 2023.10.20
探索日 2018.03.07
所在地 千葉県君津市


これからチャレンジするのは、ヅウタ隧道(仮称)の北口だ。

(←)
南口は前編で紹介したとおり発見済なので、そこから隧道の進行方向へまっすぐ山を乗り越えれば、最短距離で出口(北口)へ辿り着ける計算だが、あいにく南口がある田代川の岸は超がつくほど急峻な地形であるため、そのようなルートは実行できなかった。

(→)
そのため2013年1月の第一次探索では、笹川湖畔を辿って北側擬定地へ近づこうとしたが、湖岸に道はなく地形も切り立っており、そのうえ複雑に入り組んでいるため距離も長く、辿り着けずに撤退している。

そして2014年12月の第二次探索においても、湖の対岸から擬定地付近を湖面越しに遠望しようとしたが、さすがに遠く、そもそも水面上に出ているかも分からぬ坑口の発見には至らなかった。

だが、2017年2月の第三次探索後の2018年3月、地元在住のやセイジン氏より衝撃的な情報が寄せられた。
独自の捜索で北口とみられる穴を発見したというのである。
彼からのメールに記されていた“行き方”は、以下の通りである。


また、北口をめざして、湖面沿いはレポートで行けないことがわかっていたので、山から行ってみました。
(1)笹川湖畔公園(笹衛士)から表示されている登山口を登っていくと分岐にでます。
(2)そこを展望台方面と反対の方向へ進んでいきます。この道は整備しようとして挫折してしまったハイキングコースです。
(3)ずっと進んで、衛星管制センターのフェンスがなくなって最初のピークを越えて下っていくとすぐに木が切られたところがあります。
(4)そこからではなく、2つめの木が切られているところから北方向に降りていきました。
(5)最初は尾根沿いを行けるところまで降りていって、その後左側の沢に降りて下っていきました。
(6)そうしたら、上だけ20cmくらい開いている北口坑口と思われる穴を見つけました。
ちょうど私が降りていった沢と隣の沢の間に位置しており、隧道を掘るならここだなと思わせる場所です。
やセイジン氏から2018/3/5に戴いたメールから抜粋

このルートを、大まかに立体地図上に表現したのが、右図である。

私はそれまで知らなかったのであるが、隧道が潜っている尾根上にはハイキングコース(か、それを整備しようとして挫折した道)があるとのこと。
それを上手く利用しながら隧道の直上付近へ移動し、そこから北口擬定地へ向けて尾根や谷を下って湖畔へ至るルートである。

これは2013年の探索挫折後、一度は自身でも検討したルートに近いが、当時は尾根にハイキングコースがある事を知らなかったので、高低差100mを優に超える片道1km以上の尾根歩きにビビり、そのうえ探すべき北口擬定地となり得る谷が複数あったことや、水位が低くなければ発見は期しがたいといった様々な悪条件から、二の足を踏んでいたのである。

だが今回、やセイジン氏の活躍によって、北口坑口と思われる穴が発見されたとのことである。至急、水位などの条件が変わってしまう前に自身の目で確かめることにしたのである。

果たして、発見された穴の正体は、林鉄の遺構であろうか。
あの不気味な南口から、闇の底へと吸い込まれていった水の行方に、私は辿り着けるか。




 ヅウタ隧道北口への山越えアプローチ


(1)笹川湖畔公園(笹衛士)から表示されている登山口を登っていくと分岐にでます。

2018/3/7 14:32 《現在地》

スタートは、「笹川湖畔公園(笹衛士)」という看板がある公共駐車場だ。
ここは田代川方面へ行くため、何度も行き来した市道の路上だが、車を駐めたのは今回が初めてだった。

なるほど、情報にあった通り、駐車場の向かい側には、「笹川湖ふれあいコース」というネーミングがなされたハイキングコースの入口があった。
「ヤマビルにご注意ください」の看板に少しばかり意気を削がれたが、見た目も空気も寒々しい3月の森を信じて入山する。
なお、今回は自転車は役立ちそうにないので、最初から歩きだ。



道は黒いフェンスに沿って、緩やかに尾根を目指して登っていく。
フェンスも道もまだ新しそうだ。駐車場に停まっている車も私の他になかった。

この先、再び軌道跡の擬定地へ辿り着くまでは、基本的に林鉄の遺構が出現する可能性がないので、テンポ良く進む。




出発から5分ほどで稜線上に達し、進行方向が東へ向いた。

ここの路傍の岩の窪みに、まるで隠しキャラのように目立たないアシュラマンが収まっていた。
取って付けた感じがないので、どうやらここまでの道はハイキングコースとして整備される遙か以前から、手軽な峠越えとして利用されていたようである。



(2)そこ(分岐)を展望台方面と反対の方向へ進んでいきます。この道は整備しようとして挫折してしまったハイキングコースです。

14:38 《現在地》

稜線に出るとまもなく十字路型の分岐があり、左折は展望広場へ、直進は登ってきたのとは反対に稜線を下ってヅウタ親水公園へ抜ける。
入口からここまで約300mで、標高は40〜50m登った。
進むべきは右折だ。とにかくフェンスに沿って尾根から下らずに行けば間違いない。

なお、私が進もうとしている道に対しては、右写真のような注意書きがフェンスに取り付けられていた。

200m先で行き止まりであるという。そのうえ、道幅が狭く、急傾斜で、ヤマビルにご注意とまで言われたら、ハイキング目的の人はここで引き返しそうである。

情報提供者曰く、「整備しようとして挫折してしまったハイキングコース」とのこと。未成遊歩道というわけか、面白い。



スタートからここまで、片時も離れず歩道の右に黒いフェンスが続いている。
これは、衛星管制センターの敷地を取り囲むものだ。
様々な施設がある中心エリアから300mほど離れた外周にこの道があり、フェンスの向こうを覗いてもただの山や谷にしか見えないが、チェンジ後の画像のような謎のホースが空中に伸びていたりして、さすがは宇宙関連施設だ。得体が知れない“エリア51”風味がある。




道は尾根を行く。
右側はフェンスに塞がれているが、左側は解放的だ。
樹木越しではあるが見晴らしもあり、眼下の笹川ダム湖から、ダムを越えて遠くの房総丘陵の起伏まで見渡せる。
このダム湖には、今回探索している隧道の他にも林鉄の隧道が沈んでいることが判明している。(過去の回で取り上げている)



おひょー!

ハイキングコースにしては少しばかり骨の折れる起伏が、この稜線にはある。
木の階段が付けられているが、さすがに急すぎると思ったのか、鎖が補助として垂れていた。
いっぱしの鎖場である。登り切った先は、げんこつのような露岩が天を突いている。



てっぺんの岩場は右のフェンス沿いを巻いて越えるのだが、ここはなんというか雑だ。
フェンスと岩場の隙間をすり抜ける感じで歩くよりなく、全く路面がないので、
予告された200mを待たずに道が消失したのかと思ったくらいだ。



だが、岩の小ピークを巻くと、再び道は忽然と現れた。しかも、また登る。
フェンスに沿って、グネグネと、向こうのてっぺんまで、木の階段が続いている。
この忙しい尾根から離れない階段は、まるで万里の長城のミニチュアみたいだった。



ここはちゃんと作られているが、どうせ行き止まりなんだと思うと、虚しい気がする階段だ。
遊歩道の未成道とか、これまであまり意識したことがないが、実際は日本中にあるんだろうなぁ。
皆さんが知っているそんな道があったら、どんな小さな道でも良いので、ぜひ教えて欲しい。



14:50 《現在地》

出発地点から約500m(分岐から200m)で、ピークらしいピークに達した。
地形図から読み取れる海抜220m(スタート地点より80m高い)のピークだろう。
今回歩く一連の尾根越えアプローチルート上の(おそらく)最高地点である。

ピークには、国有林の林班界を示す「山」の文字が入った境界杭と、
片倉ダムと書かれた三級水準点の標石が埋め込まれていた。

(3)ずっと進んで、衛星管制センターのフェンスがなくなって最初のピークを越えて下っていくとすぐに木が切られたところがあります。

今はまだ(↑)この行程の途中にいる。最初はトントン拍子だったが、この行程が長い。
とりあえずは、「フェンスがなくなる」までは、迷わず進み続けて良いようだ。
実際、GPSで確認しても、まだまだヅウタ隧道より西側にいる。



ピークを越えて、さらに稜線伝いに東進する。
初っ端、登ってきたのと同じくらいの急な木製階段で、眼下の鞍部へ落ちていく。
傍らの立ち木に、「立入禁止 三井物産」と書かれた目立つ看板が掲げられていたが、これは道に対してなのか、道の左側のダム湖側山林に対してなのか、分からない。

いずれにしても、【予告された】200mを越えてもまだ、遊歩道らしき整備を受けた道が続いていた。




一度下ったが、すぐさま次の登りが始まった。
馬の背のような細い尾根に、その幅いっぱいの木の階段があるのは、なんだかシュールだ。登山道向きの斜面に、無理矢理ハイキングの階段を移植したような違和感がある。
そして、歩幅を自分で調整できない階段のせいで、なかなか足にクル道である。既に今日はいろいろと探索して疲れた足だったので、キツかった。

……この後、湖畔までおそらく道なき道を下って、終わってからまた来た道を全て戻るというのは、避けがたいこととはいえ、結構ハードだぞこれ…。




14:59 《現在地》

入口から約700m、2つ目のピークに立った。海抜は約210mだ。

分岐から400mのこの場所で、ついに、

整備された歩道が途絶えた。

これより先、未整備につき 立入禁止 君津市

この看板で締め括られた唐突な終わり方は、確かに未成道っぽい。
終点のピークに東屋の一つでもあれば見栄えを繕えたかも知れないが、
それどころかベンチの一つも、案内板さえなく、歩道は消えてしまった。

だが、私の目的地は、まだ先だ。



おおっ! フェンスが切れた!!

(3)ずっと進んで、衛星管制センターのフェンスがなくなって最初のピークを越えて下っていくとすぐに木が切られたところがあります。

写真は振り返って撮影した。
右奥に、前記した「立入禁止」の看板の青い裏面が見えている。
この感じだと、フェンスとセットで遊歩道をここまで整備したが、どういうわけか道が力尽きて、フェンスもそれ以上は(人が通らないなら必要がないと)作らなかったのかも知れない。

なお、ちょうどこの辺りが、隧道南口の真上だ。
そこと結ばれる北口の位置はまだ分からないものの、概ね足元の80m下の地中に、水を呑み続けるあの穴がアップアップしていると考えられる。
想像するだけで、ゾクゾクするぜぇ……。



道もなく、フェンスもなく、ここからは天然度100%の尾根歩きだ。
とはいえ、房総の山らしく下草が皆無なので、見通しが良く歩きやすい。
ところどころ、侵食に強く抵抗する基盤岩が露出した岩尾根になっているのも、変化があって楽しい。

尾根は下り基調であり、小まめにGPSで現在地を確かめることで、枝尾根へ誤って入らないよう気をつけた。
情報によれば、この次のピークを越えるとすぐに木を伐られたところがあるそうだが…。




うん、ここは微妙にピークっぽいか。
地形図だとはっきり判別出来ない程度の起伏だが、岩尾根の一画が前後よりは少し高くなっている。

チェンジ後の画像は、北側の谷底を覗いている。
こちら側も、湖面まで80mほどの落差があり、南斜面ほどではないが急傾斜であることが見て取れる。
入り組んだ谷筋に湖面も入り込んでいるはずだが、樹木に隠され全く見えない。(遠くに白く見える一画は湖面ではなく、2013年の探索時に未成のゴルフ場建設予定地があった荒野に、その後開設されたソーラーパネル群だ)

情報提供者が坑口らしき穴を発見した場所も、この足元の谷のどこかである。
ただ、闇雲に谷へ下ってしまうと、せっかくの助けを無駄にしかねないので、ここは慎重に、教えられたとおりの道を辿りたい。



おおおっ! ピークの直後、少し木が伐られている!!
尾根の南側が人工林になっているせいだ。
遊歩道は絶えても、この尾根には人が通った気配が濃厚である。

(3)ずっと進んで、衛星管制センターのフェンスがなくなって最初のピークを越えて下っていくとすぐに木が切られたところがあります。
(4)そこからではなく、2つめの木が切られているところから北方向に降りていきました。

……ということらしいので、この尾根をさらに東進するぞ……。

なんか、マジで宝の地図を読みながら進んでいるみたいで楽しいなこれ。情報をいただいた時は、単純に「ココ」って地図上で指定してくれたら楽なのになんて身勝手に思ったんだけど、ゴメンナサイだ。とても楽しい、この先行者のトレース。



15:12 《現在地》

おおおーーー!!! あった!
“2つめの木が伐られているところ”!

お椀を伏せたようなピークはスギの林に囲まれていて、てっぺんの部分だけ綺麗に伐採されていた。
地形図でも分かる通り、ここからは北に枝の尾根が出ていて、いわゆるジャンクションピークとなっている。

地形図を見ると、この一つ先のピークも同じように北へ枝尾根を出しているが、ここは情報提供者と私のシンクロを信じて、このピークから北の尾根を下降しようと思う。

情報提供メールを読んだ時点では、北口の所在地にはいくつもの候補地があったが、ここまで来て、いよいよ北口の在処は、たった一つの狭い谷に絞られることになった。

……もちろん、私の解釈が正しければだが……。

これより下降し、確かめるぞ!




 続・ヅウタ隧道北口への山越えアプローチ


(4)2つめの木が切られているところから北方向に降りていきました。

15:14 《現在地》

ジャンクションピークを左折して、湖畔へ下降する北陵へ入った。
こちらもかなりの痩せ尾根であり、突兀とした岩場が狭い尾根を占拠している部分では右側を巻いた。
最初のうちは樹木が少ないために、ここまででは最良のビューポイントといえた。

チェンジ後の画像は、尾根の上から見渡した、ここまで歩き通してきた主稜線だ。
いくつかのピークが見えるが、遊歩道は手前の最も高く見えるピークまでで終わっていた。本来は、湖の南側を取り巻くようにぐるっと「星の広場」まで作る計画だったらしい。低山らしからぬ変化に富んだ稜線歩きで楽しかったが、貫通できなかったのは、やはり予算の問題だろうか。



少し進むと、尾根は堰を切ったように下り始めた。

それは“坂道”というような勾配ではなく、半分崖みたいな斜度の部分を交えながら、
もの凄い勢いで高度を下げていった。しかし、険しい地形にも拘わらず、尾根の周囲は
大部分がスギの植林地になっている。どのように伐出する計画なのか興味深い。

チェンジ後の画像は、降りてきた尾根を振り返って撮影。
下るのもしんどいが、戻ることを考えると、……きっつい…。



(5)最初は尾根沿いを行けるところまで降りていって、その後左側の沢に降りて下っていきました。

本格的に下り始めて5分ほど経った。慎重に地形を見ながら、まだ尾根を下り続けている。
情報提供者のいう「尾根沿いを行けるところまで降りていって」というのは、
どの状況を“限界”とすべきか分からないので、私が行けないと思うまで行こうと思う。

掴める立ち木が沢山あるので、転落の恐怖はさほどでもないが、
降りようとしても、足が着かない高さの段差(崖)が至るところにあるので、
慎重に地形を見定めて降りる必要があった。その意味では登る方が楽だと思う。



15:20 《現在地》

「やセイジン氏は、本当にこんなところを下ったのだろうか。」

そんな不安な気持ちに圧迫されながらも、勘を信じて下ることさらに少し、

湖面が直接目視できる地形の凸部に出た。

標高はジャンクションピークから50m下がった。湖面までは残り落差30m弱か。
ここの立ち木の根元に1本の木杭が刺さっており、なんとなく道を間違えていない気がして安堵する。
そして、このまま尾根を直進するか悩んだが、行きすぎると本格的に窮しそうな地形と感じ、
情報の通り、ここで左折して左の谷を目指す決断をした。



左の谷へ降りていく。
上の方より谷を囲む傾斜は緩やかで、植林されているところもある。
このまま谷底へ降りられそうだ。行くぞ。



15:25 《現在地》

谷底だ!

今は水が流れていないようだが、岩場に深く切り込まれた谷である。
間伐材か分からないが、伐採されたスギが沢山落ち込んでいて、歩きづらそう。
でも、両岸は巻いて歩けるような緩傾斜ではないので、潔く谷底へ入った。

チェンジ後の画像は、谷底から見上げた尾根方向の眺め。
ここへ来るルートは他にもあるだろうが、通れる場所はかなり限られている印象だ。

(5)最初は尾根沿いを行けるところまで降りていって、その後左側の沢に降りて下っていきました。

さあ、反転してここから谷沿いを下るぞ!



―― 2分後 ――



15:27

ゾワーッ! 怖えェー…!

メッチャ両岸切り立ってる谷の奥は、
そのまま湖面で、ジ・エンドだ。

久々に? 心底 ゾクーッ っと来る風景だと思った。

下を湖で塞がれた時点で、この谷は死んだのだ。
いま、その眠れる墓所を、人の道に反して暴こうとしている。
ここに来たという自らの行いに不安を感じるほどの、
逼塞感が半端ない、行き止まりの景色だった。



… … … …

… … しかしこれ、

「怖い」とは別に、探索の先行き自体が心配だ。

思っていたよりも、湖面がずっと手前まで入り込んでいる印象だ。
もはや歩いて行ける陸地の谷底が、50mから100mほどの奥行きしかない。
標高は実感としてよく分からないが、半ば水没していた南口にある水面と同じ高さまで降りてきたことになるのだ。

私は、出来るだけ情報提供者が見つけたままの状況を自分でも体験すべく、情報提供メールの着信から僅か2日後にこの探索を実施したが、実際のところ、情報提供者が探索を行った日から何日経過してるは不明だった。
あまり考えたくないが、その間にダム湖の水位が上昇してしまった可能性もある……。

その場合、一番肝心の最後の行程――

(6)そうしたら、上だけ20cmくらい開いている北口坑口と思われる穴を見つけました。
ちょうど私が降りていった沢と隣の沢の間に位置しており、隧道を掘るならここだなと思わせる場所です。

――という部分が、水面下である畏れも…………。

… … … … 

まあ、今から出来ることは、この目で結果を見届けるだけだが。

下降、継続!




いかにも清澄山地の谷らしい、極度に深く浸食されたV字谷を慎重に下降する。
これは降りてきた谷を振り返って撮影した。谷底は岩屑や倒木が多く歩きづらかったが、
他に選択肢はないし、なるほど確かに尾根通しでは下まで降りられない地形だった。

そして、こんな人跡と無縁そうな荒れた谷底であったが、

私はここにも確かなる人の“踏み跡”を発見する!



(↑)これ、谷底の岩場を削って作ったステップだ!

この谷もまた、通路としてかつて利用されていたのだ。
濡れた岩場を踏み外さぬよう、ノミで親切なステップを刻んでくれたのは、いつの時代だろう。
ここはおそらく林鉄の隧道が越えていた峠であり、その工事と関係した通路だった可能性もある。

なお、同じような谷底の岩場のステップは、清澄山地での様々な探索中に目にしている。
もしかしたら紹介したのはこれが初めてかも知れないが、ノミ一つで道を作れることは、
何も隧道掘りに限った話ではなく、房総における土木の共通認識だったかも知れない。


さらに、意表を突く発見も!



不思議な模様をした石が谷底に転がっていた。

最近たまたま落ちてきた岩が割れて、中の模様が露出したような印象だ。

この模様は、もしかしたら化石だったりするのだろうか。そのまま放置してきたが。



湖面まで、あと30m。

最後まで全く緩まぬ緊縛の谷が続いている。

果たして本当ここが情報提供者の指し示した谷底なのか。

そして、今日の水位は大丈夫なのか。




15:29

湖面降着。



(↑)地形図だと。この位置だ。

まさに湖岸に到達したように見えるが、実はこの地形図には私が手を加えている。
チェンジ後の画像が、もとの地形図の湖岸の描画だ。なぜか実際の水位より低い汀線を描いている。
(これは笹川湖全体における地形図の誤謬で、以前の回で紹介した66小林班支線の探索でも大きな障害となった)

あまり水位が大きく変動していないとみられる笹川湖であり、
私が描いた汀線より下は、ほぼ完全にブラックボックスの中である。



とにもかくにも、

私が探せる空間は、ここにあるだけだ。

この谷奥の小さな小さな渚で、私が降りてきた谷と、別の谷がぶつかっていた。

それゆえ、ほんの少しだけ、空間の広がりがあった。


さて、探そう。

泣いても笑っても、今日はここだけだから。